とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

37 姫神の森

2015-07-17 00:48:04 | 日記





 はははっ。姫神様はまた笑いました。私が姫神さまの過去世を知りたくなって、ある日尋ねたときです。私の過去世 ? 聞きたい ? そう仰言いました。

 「それは、あなたとよく似ています。・・・光の柱たちから弾き出されました。そして、ここへ来ました。気がついたら、森のようなところでした。私は、森のてっぺんまで飛ばされました」

 「弾き飛ばされた・・・。ということは、過去世に於いていろいろと・・・」

 「光の柱に加われなかった理由はありすぎるほどありました」

 「えっ !! ・・・そのことを尋ねてはいけませんか ?」

 「かまわないけれど、・・・ははっ、貴方と似たようなものです。いや、もっとひどいかも・・・」

 私は、驚きました。私と似ている ? この森の崇高なる姫神さまが、私と似た過去世を・・・。私は、何かしら親近感を感じました。

 「私は、弾き飛ばされて、樹木として転生しました。次第に、この森の樹木はすべて過去世に於いて人間だったことを知りました。私は、その呻き声のような凄まじい声を聞いて暮らしていました。先ほどのキャシーとアンナも初めは泣き叫んでいるだけでした。私は、その夥しい声を聞いて暮らすことを少しも苦痛に思っていませんでした。しかし、数年経ってから、・・・ここでの数年は過去世のスパンとは違いますが・・・、大きな出来事が起こりました」

 「大きな出来事 ?」

 「そうです。森が火の海になりました」

 「えっ、・・・ということは、山火事 ?」

 「そうです。落雷が原因で炎がたちまちに森中に広がっていきました。益々叫びだす樹木たち。私のところへも炎が回ってきて、私も燃え上がりました。ああ、ここでも私は苦しむのか、因縁とはこういうものだ、と思っていました」

 「火炎地獄ですね」

 「ははっ。そうだったかも知れません。私も一緒に焼けただれて死んでいく。因縁だ。この森のものたちは過去世に於いてそれにふさわしいことをして来たのだから・・・。そんなことを考えていました。が、ふと何かに気づいたのです。根元が冷たい。そうです。確かに水がある気配でした。私は、辺りを見透かしました。私の後ろ、山のてっぺんには大きな池があったのです。燃え盛る樹々、大量の水。・・・今考えると不思議な思念ですが、私は咄嗟に、私に大きな雷が落ちることをイメージしました。すると、もしかして、私が粉々になる代わりに池の堤が砕けるかもしれない。そう思いました」

 「ええ、ええ、そうです、そうです。で、そうなると森に大量の水か流れ出す・・・」

 「はははっ、察しがいいですね。・・・私のその思いは次第に強くなり、体を包んでいる炎が天上に吹き上がりました。遥か彼方に炎が昇っていきました。そのとき、森中を揺るがす雷鳴が轟きわたり、私はたちまちに火の粉となって飛び散りました。同時に私の魂は地面が動き出すのを感じました。そして、亀裂が出来て、池の水がどっと溢れ出しました。そして、次の瞬間、森の中に大量の水か流れ下りました」

 「よかったです。それで森の樹木はほとんど火難から免れた・・・」

 「私は今でも不思議に思っています。私の炎が天上に吹き上がるなんて・・・」

 「天が貴女に与えた役割、というか、天の配剤ですか・・・」

 「そうだったかも知れません」

 「天は貴女を選んだ。そのことによって姫神様の資質が与えられた・・・」

 「そうだったかも知れません。私の過去世の極悪な魂の最後の叫びが天に通じたのだと思います。・・・森は、それから徐々に広がっていきました」

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