今日、あのね、お父さんを、森の姫神様に、何ていうか、・・・紹介してあげたいと・・・。花りんがある朝方そう言い出しました。
「花りんが、私を・・・? どうして ?」
「いえね。さやかが・・・」
「えっ、どうしてさやかが ?」
「紹介という言葉はよくないんだけど、恩返ししたいんだと思う」
「恩返し ? ・・・いや、意味分からなくもないと思うけど・・・」
「お父さんに助けて貰ったとか言ってて、それで、神様に頼んで、人間に返して貰うとか言ってた」
「電信柱のこの俺、・・・最近木になりつつあるんだけど・・・、この俺の姿を人間に・・・」
「そう言うことだと思う」
「ははっ、さやかの気持ちはありがたいが、結構だね。私は暫くこの姿でいたい。あっ、それから、もし仮に俺が行くと言っても、どうして森まで行くんだ」
「さやかの体の中に霊魂だけ潜んで、付いて行くということらしいけど」
「さやかにそんなことが出来るのか ?」
「出来るか、出来ないか、やってみなくては・・・」
花りんがそう言っていた間に、私は、ふわっと体が浮いていくような感覚を覚えました。そして、動いていく私を感じました。さやかの術にかかったと思いました。お父さん、これからしばらくじっと黙って私に乗っかってついてきてください。と、そういうさやかの声が聞こえてきました。しばらく黙っていると、次第に周りが薄暗くなり、森の中に入っていました。
「お父さん、木は好きですか ?」
さやかはそう尋ねました。平凡な質問だったので、私は即座に頷きました。
「それは嬉しいです。私がお仕えしている姫神様は、樹木をすべての種類育てておられます。その樹木を見て、あらゆる世界を感じられるようです」
「木を見る ? 見てすべてが分かる ?」
「見て、触って、撫でて、匂いを嗅いで、・・・そうです。世界のすべてが分かるようです」
「いや、それで、その姫神様のところに私を連れていって、どうするんだ ?」
「お願いします。父を人間にしてください、と」
「私はそういう願いは持っていない」
「私は、忍びないのです。お父さんがつったっておられるのを見るのが。私は、じっと、小さい頃からお父さんの姿を見続けてきました」
「おい、さやか、私を返してくれ」
「いえ、返しません」
「・・・」
「きっと、お父さんの気を感じて、なにかの方法を授けていただけると思います。でも・・・、最悪の場合、無視されることもあります。ああ、神の森に入りました」
私は、遠くにだれか女性の姿を見つけていました。
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