とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

笙子の決意

2013-07-24 22:46:26 | 日記
笙子の決意



伊東深水「鏡獅子」


伊東深水「鏡獅子」

 深水は「鏡獅子」を幾つか描いている。舞いをしている弥生の表情が微妙に違う。

 歌舞伎の「春興鏡獅子」について少し解説したい。・・・この舞いは江戸城内の鏡開きに先立って行われる行事で、技芸を披露する役に選ばれた弥生が、老女と局に連れ出されてくる。最初は恥じらっていたが、観念して美しく可憐に舞う。しだいに舞に没頭していく弥生。祭壇に置いてあった手獅子を取って舞いはじめると、手にした獅子頭は弥生の意志とは関係なく勝手に動き出してしまう。弥生が袖で押さえようとしても止まらなくなる。それどころか、獅子頭は強引に弥生を引きずったまま、いずこかへ消え去ってしまう。そのあとに胡蝶の精があらわれて、牡丹の花と戯れるように舞う。やがて静けさが戻り、張りつめた空気の中に、勇壮な獅子の精が現れる。獅子の精は、長い毛を豪快に振り立て舞い始める。


 日々元気を取り戻す笙子さん。子育てが大変だと思っていましたが、ご主人の協力もあって、稽古が出来るほどになったということを私に電話で知らせてきました。


 そりゃよかったです。でも、無理をして体に障ってはいけません。

 ありがとうございます。大きな歌舞伎の劇団が統合されるし、まして、湖笛の郁子さんの温かいお誘いもあって、私なりに努力しなくてはと思っています。出雲大社には辞表を出しました。これからは育児とお芝居の稽古と画業に没頭したいと思います。主人も両親も理解してくれました。

 妹の倭歌子さんも湖笛の応援にこれから来られるそうで、頼もしい限りですね。

 ええ、私の理想は三人が競演することです。私はその点で一番引けを取っているので、皆さんにご指導していただきながら湖笛に溶け込んでいきたいと思います。

 二人の阿国という案をどう思いますか。

 それはそれで面白いと思います。でも、私は静御前にまだ拘っています。麗華の舞いにはまだまだ届きませんが、私が静を舞って、それがもう一人の阿国と繋っていく。・・・二役です。新歌舞伎ではそれが可能だと思います。・・・いや、私が郁子さんの上に立つということではなく、鏡獅子でもあんな変身劇が出来たんですから、私は、私は、何でも挑戦します。そうです、夕顔にだって変身して見せます。

 えっ、夕顔。

 そうです。新歌舞伎は時空を超えることができます。

 湖笛の松江さんには話しましたか。

 ええ、それらしいことはお話ししました。

 どう仰っていましたか。

 考えてみると仰っていました。

 松江さんが確かにそう言ったんですか。
 
 そうです。

 じゃ、これから、湖笛は、中央の大きな動きに呼応して動き出すのですね。

 ええ、そうです。楽しみです。・・・最後には新阿国座を目指します。

 そうすると、お宮のこととか絵のこととか家庭的なこととかがいろいろいと・・・。

 ええ、いろいろ気がかりなことだらけです。でも、私は乗り越えます、きっと。

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