とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

51 微粉霊

2015-10-09 03:46:58 | 日記


 新樹さん、次の大修行だ・・・、いや、私を手伝ってくれ。私は御霊屋の仕事の帰りに荒神様のところへ行くのが日課となっていましたが、何が課されるかいつもいつもびくびくしていました。今度はお手伝いですか ? 今度の仕事は私にとっても畢生の大事業。今まで準備を重ねてきたが、いよいよ実行に移す。よく見てくれ、私の前の山茶花の老樹。この樹は直根なので根が地中深く伸びている。だからお願いしてたくさんの地中の霊に信号を送っていただいた。そう、勿論根からだ。根から地中に信号を送り、さ迷える霊たちを目覚めさせた。今、根の周りに微細な、というか、粉々になった霊の大群が集まっている。すべて罪びとだ。人間になることを諦め、さ迷っているうちに粉々になって地中深く沈んでしまった。・・・ははっ、それをお迎えしなければならない。
 そんな遣り取りを私としていると、山茶花さんが私を呼びました。

 「私の話を聞いてください。私は悪いことは何一つしていません。しかし、男の人が私に近づいてくると、みんな心根が卑しくなりました。私をしつこく追いかけたり、迫ったりしました。振り切っていつも逃げていました。それが罪でしょうか ? 男たちを近づけなかったことが罪でしょうか ?」

 いきなりそんな話を始めますので、私はどぎまぎしました。美しい霊体でした。

 「罪。・・・貴女が美しすぎるからだと思います」

 「私はそうは思いませんが・・・。ただ、私に近づいてきた男たちが、私が寄せ付けなかったために不幸な結果になりました。でも、それは・・・、それは私の責任でしょうか ?」

 「おいおい、山茶花さん、この新樹さんに身の上話をしても分かって貰えない。これからの大仕事を完成させればすべて解決する」

 荒神様がそう話しかけると、山茶花さんは涙を流し始めました。私は、また急に過去世のことを思い出して頭の芯が痺れてきました。ああ、これだ。この霊体は大変な吸引力の持ち主だ。そう感じました。

 「新樹 !! ここでふらふらしていては仕事にならぬ。お前にはここでは女になって貰う。いいか。お前の性根のまま仕事をすれば途中で挫けてしまう。お前の仕事は山茶花さんの根元に入り込んで深い地中の微粉霊たちの核になってまとめることだ。これから霊分身の術をかける。いいいか、男のお前は一旦これから死ぬ」

 「ええっ !! 死ぬって、もう地中から帰られないということに・・・」

 「はははっ、心配するな。事成れば無事男として返す。ははっ、それからお前の新樹が大樹に生長する。私が約束する。信じなさい。・・・無数の核を得た微粉霊たちは樹木としてこの森に帰ってくる。すると、もう一つの森が隣に出来上がる。いいか、たくさんの新たな樹霊がここに蘇る。その使命をお前は背負っている。いいか、覚悟は出来たか」

 「は、はい」



 荒神様が「おーー !!」と唱えると、私の体は山茶花の幹の根のところに滑っていきました。そして、暗がりの中を光りながら落ちていきました。私は、かっと目を見開いてことの成り行きを見ていました。体が無数に分かれ、それぞれに青白い霊がまとわりつきました。そして次第に地上めがけて上昇し始めました。私は怖さを忘れて荘厳な雰囲気を感じていました。

 「地下の死せる微粉霊が蘇っていく。地上に昇れ。昇れ」

 地上を見上げると、光りの柱が見えました。それと同時にどーっという音がして、光りを遮るような大木の群が聳えたつのを見ることができました。壮観だ !! 荒神様、姫神様、マーガレット様、どうか、どうかよろしくお願いいたします。

 

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