とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

里見オーナーの決断

2013-09-29 15:16:20 | 日記
里見オーナーの決断




フォルリ「リュートを弾く天使」

 フレスコ画の傑作だと自分では思っている作品である。翼を持つ古典的な天使像に強い関心を持っている私だから自然にそういう気持ちになるのである。


 彩湖の会の活動と劇団湖笛の活動がクロスするようになってから地元の演劇に対する関心が深まりました。彩湖の会には演劇志望の若者がたくさん入会しました。そういう状況を反映して、演劇の活動についての議論が随所で繰り広げられるようになりました。
 中でも代表的な議論は笙子さんの守旧派と凰佐久良さんの改革派の議論でした。笙子さんは子どもが大きくなるにつれときどき鼓笛の稽古に顔を出すようになりました。最初はごく自然に佐久良さんと稽古をしていましたが、松江さんの「二人の阿国」原案のストーリーの展開について松江さんに意見を言う機会が増えました。静御前の踊りが全体の中に馴染んでいないというのでした。もとよりこれは笙子さんが静御前の踊りと阿国踊りの共通点を主張して取り入れた経緯があったので、強い思い入れからの発言でした。
 一方佐久良さんはストーリーに思い切った手法、例えば舞台空間を飛び回る場面がなどを取り入れることを主張しました。彼女は翼をかなり意識していました。人物に翼が生える場面を目玉にしたいと主張しました。この二人の意見にそれぞれ支持者がついて、劇団が二分化しました。特に舞台監督の松江さんは二つの派閥に挟まれて苦しみました。このことは新阿国座にも伝わり、喜多川さんも頭を痛めていました。応援に駆け付ける予定だった華龍や麗華も動きがとれない状況のようでした。新阿国座の公演は好評のうちに終わりほっとしていた矢先の出来事でした。・・・このことは事務局長の三朗からの連絡で私は知りました。すぐに古賀所長にも知らせて相談しましたが、なかなかいいアイディアが出てきませんでした。治子からも電話があってこれからどうなるのかひどく心配しているようでした。


 お義父さん、いい打開策が出てきました。・・・三朗が電話してきました。

 そりゃよかった。で、どういう・・・。

 里見オーナーが喜多川さんや劇団の幹部たちと相談して出した案ですけれど、鼓笛を含めたご縁市場全体を新阿国座が買収・・・と言っては言葉が悪いですが、要するにひっくるめて経営をするというものです。早速ご縁市場関係者や市の関係者との交渉に入りました。土地建物も含めての話ですけれど・・・。そうすれば新阿国座として動く訳ですからすべて統制がとれた経営が出来ます。

 いい話だが、簡単ではないなあ。

 そうだと思います。数年かかるかも知れません。

 話がこじれると厄介だなあ。・・・地元の商工会も加わっているし、農産物販売、食堂経営もあるし・・・。

 お義父さん、やってみなければ分かりません。成功すれば全国で初めてのケースになります。

 彩湖の会はどうなるんだ。

 それもひっくるめての話です。

 もともと地域興しの活動だったんだが・・・、全国的な劇団の経営ということになると随分意味合いが違ってくる。

 お義父さん、地域興しを劇団が手伝ってはまずい訳ですか。

 それは何とも言えない。

 オーナーは出雲は聖地だと仰っています。

 聖地。

 そうです。聖地だからあらゆる活動が矛盾することなく一体化できると仰っています。
商売ではありません。聖なる活動です。

 聖なる活動。

 そうです。私も精一杯努力します。いずれ出雲に出かけます。

 (大変なことになった)私は歓喜と恐怖の入り混じった感情が体中に満ちてくるのを感じました。

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