とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

絵画が取り結ぶ縁

2012-04-08 23:07:36 | 日記
絵画が取り結ぶ縁





 この絵はやはり山本芳翆の作品である。タイトルは「浦島」。あの人口に膾炙した寓話は、芳翆の手にかかるとかくもすばらしく壮大なドラマとなる。日本の昔話の世界に西洋画の要素を取り入れようとした工夫の所産である。鬼才、奇才・・・。こういう言葉をいくら当てはめても表現しつくせない世界を描出している。


 
 島根に帰ってから間もなく、長洲画伯から電話がありました。


 古賀さんから伺いました。大島画伯の回顧展に出かていただいたたそうで・・・。

 ええ、もう何にも言えなくなりました。

 私も少しお手伝いをさせていただきましたので、冴子さんから聞いて喜びました。

 冴子さん?

 ええ、大島画伯のお孫さんです。私は大島画伯の指導を受けました。

 えっ、そうですか。

 いろいろとお世話になっているそうで・・・。

 えっ、何のことですか?

 実は全部知っています。古賀さん、冴子さん、・・・詳しく話していただきました。

 ということは、独立展のことも・・・。

 そうです。京子さんの才能は学生時代からよく知っていました。ぜひ表舞台に出してあげたいと思って・・・。

 芸大の担当教授は私の教え子です。

 ということは、佐山さんのこと・・・。

 もちろん知っています。二人が一緒になるのではと期待していました。

 何という・・・。

 そうです。ご縁です。すべてどこかで繋がっています。

 すると、冴子さん、・・・冴子さんとお呼びするのは何だかしっくりしませんが、・・・冴子さんのこともすべてご存知で・・・。

 すべて知っています。後妻として嫁がれたことも。

 私、私ごとき他人がよそ様の家の事情に深く関わっていくのが怖くなりました。大島画伯のすばらしい絵を見ていて、急に・・・。

 そうですか。でも、貴方がいらっしゃったから随分ほぐれていきました。

 私には分からないことがまだまだあります。いや、またこんな立ち入ったことを・・・。

 いや、仰ってください。

 怖いです。

 遠慮はいりません。

 あのー、二人はどういう縁で結婚された・・・。

 ああ、そのことですか。・・・京子さんのお父さんはあの画廊の常連のお客さんでした。絵が好きということもありますが、ご自分で絵を描いておられたんです。

 絵を描いておられた・・・。

 そうです。まあ、画家を志してというよりご趣味でと言った方がいいでしょうか。・・・あの店は冴子さんと深い繋がりがありまして、たまたま店で出会われて、意気投合したということだと思います。

 しかし、奥さんもおられたし、子どももいる所へどうして・・・。

 いや、最初は、島根の家にときどき行って絵の話をしたりするという状態だったと思います。

 でも、それは勇気のいることじゃないかと・・・。

 そうです。そうです。・・・奥さん、子どもさんのお気持ちはよく分かります。・・・私も何度か注意しました。

 ・・・。

 絵が取り結ぶ縁だと思います。・・・私にはそうとしか言えません。

 ・・・。

 過去のことはもうよしましょう。・・・二人展については冴子さんも私もできる限りのことはします。

 そう仰っていただくと私も嬉しいです。

 冴子さんはもう家には帰らないと思います。家を出ていった本当の理由は分かりません。ただ、佐山さんのごたごたを知っていて、力になれなかったことを悔やんでいました。それに、旦那さんを連れ出したことも相当後悔していました。眼が不自由になられたので一層・・・。

 京子さんは大島画伯を乗り越えることができるでしょうか。

 畝本さん、そこまで考えておられたのですか。・・・ありがたいです。・・・乗り越えます、きっと。佐山さんも・・・。もう、見守るしかありません。



 長洲画伯の声が心なし潤んでいるように聞こえました。

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