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なかなか釣りに行けない(goo版)

なかなか実釣出来ず、稀の釣行を夢見て、机上の空論を重ねる備忘録です。

お盆の怪談(20210815)

2021年08月16日 19時08分14秒 | 日記

お盆の怪談(20210815)

線状降水帯の降り続く夜、中3の娘に私の故郷にまつわる怖い話を聞かせた。

1)実録心霊写真1
実家のおじさん(私の弟)が中学の遠足で平泉中尊寺金色堂に参り、そこで記念撮影をしたらおじさんの胸に人骨が映った。
その1ヶ月後、おじさんは事故で胸を骨折した。
2)実録心霊写真2
実家のおじいさん(私の父)の机の中に1枚の家族写真が隠されていた。
その写真は玄関で撮った家族の集合写真だが、この写真に5歳くらいの和服姿の黒髪おかっぱの女の子が逆さまに映り込んでいて、その逆さ吊りの顔が実家のおばあさん(私の母)の顔に重なっていた。

しかし娘は「ふぅーん」と素っ気なく、全く心に響いていない。

ならば3つ目、あのとっておきの怖い話を聞かせてくれようぞ。

3)パパ(私)が予備校生の頃、勉強をサボり渓流釣りに出かけた話
山奥の無人駅から下車して人里離れた渓谷に分け入っていった。
しかしアタリはあるもののヤマメは釣れず、イワナを求めより上流へと山道を登っていった。
右手に険しい崖と深い谷、その角を曲がった左手に熊笹の小さく茂った薮が山道にせり出している。
そのせり出した笹薮にさしかかるとヒトの気配がする。
「ザッ ザッ 」
一定のリズムで笹薮の奥からこちらへまっすぐ向かってくる。
「ザッ ザッ 」
こんな人気のない山奥で出会うのも御縁、折角だから挨拶しようと立ち止まり、その方が笹薮から出て来るのを正面で待った。
「ザッ ザッ 」
ほぼ2−3m先まで来ていて、もう立ち上がってもいい頃。
熊笹の葉の茂みの下は細い茎が立つだけで地面がずっと見渡せるが、この時もそうだった。

「ザッ ザッ 」
私の正面右に直径約30cmほどの毛むくじゃらの太く黒い棒が出た。
「ザッ ザッ 」
今度は私の正面左にやはり同じ様な毛むくじゃらの太く黒い棒が出て、これは右足、するとあれは左足。
その足の主は私の正面もう1.5mまで近付き、しかも四つん這いのまま立ち上がる気配すらない。

 クマだ それもデカい

私の右足と左足がバタバタ浮き足立つ。

 でも待て ここで走ればクマに襲われる ここは静かに歩き あの崖の角を右手に曲がって身を隠そう

瞬間そう思い直し、浮き立つ足を抑え、静かな大股数歩で崖の角を曲がった。
その間1秒か2秒、踵を返した私の背中で熊笹は未だ規則的な音を立てている。
「ザッ ザッ 」
でもその熊笹の音が今まで以上に大きく激しく響き出した。
「ガサガサっガサガサガサガサ」


既に崖の角を曲がり終えていた私は振り向きもせず、そこから全力で走りに走った。
熊笹から遠ざかる初めの数歩こそ早歩きだったが崖の角から5mも離れるともう弾き出されたように全力で走った。
下り坂の細い山道を駆け下り「地獄の賽の河原」のような河川敷にけつまづきながら無人駅へひたすら走り続けた。
背中にもう熊笹は聞こえずクマの気配すらない。
しかし私の耳の中で「森のクマさん」が繰り返し木霊している。
"あるひ もりのなか クマさんにでああった はなさくもりのみち クマさんにでああった"
"クマさんが いうことにゃ(中略)おにげなさい スタコラサッササノサ スタコラサッササノサ"
しかも私の目には明日の朝刊の私の死亡記事が足元の河原越しに見えるのだ。
"予備校生クマに襲われ無念の死"
"若すぎる命 なぜ山に入った"
左側にはさっきまで釣っていた奥新川の南沢が流れているが、この流れにクマが乗り背後から迫り来る映像がやはり河原越しに見える。
"荒れ狂う激流に乗ったクマが咆哮しながら私を追いかけて来る"
これが現実なら私は絶対に助からない。
冷静に考えてもヒトの匂いを嗅ぎ取ったクマが餌として私を追い詰め始めるのに何ら不思議はない。
絶対ここで立ち止まってはいけない、もし立ち止まればそれは私の死だ。

20−30分走ったろうか、ようやく無人駅に辿り着いた。
しかし後ろに残る私の匂いが、あのクマをここに導くだろう。
時刻表から次の列車は1時間後、その1時間を私はクマから逃げ通さねばならない。

見渡すと1箇所だけ「避難所」があり、これが汲み取り式の大便所。
中に入ると足元の木板は朽ち落ち、汚物に満ちた便槽がガランと見えた。
便槽に落ちぬよう朽ちた木板に足を渡し、うす汚れた戸板に背を掛けた。
強烈な便臭、でもこの臭気が私の匂いをかき消しクマから守ってくれる。

依然として私の耳には「森のクマさん」が木霊し、目には「明日の朝刊記事」が浮かび、さらに「強烈な便臭」が口鼻を打つ。
私はそんな中、迎えの列車を震えて待った。

列車の到着で私は朽ちた避難所から脱出し、仙台行きの列車に飛び乗った。
車中では山菜採りのご老人達が静かに腰掛け穏やかに窓を眺めていた。

その車中、私はクマに至近距離で遭遇した事を何度も繰り返し反芻した。
自分はたまたま助かっただけで、あと数秒判断が遅ければあの距離、私は確実にクマに撲殺された。
その数秒が私の生死を分けた。
将来あるはずの予備校生がクマに襲われ野垂れ死ぬ、その一瞬が目の前の熊笹の茂みに見えた。
あの太く黒い2本の足は私への死の使者そのもの、今回はたまたまそれを免れたに過ぎない。

ようやく家に帰り着いた私、しかしその件を誰にも打ち明けず、学業を怠って死にかけた事実を何年も封印した。


そんな私の最大の恐怖体験を短くダイジェストした。
しかしアドベンチャーに無縁の娘には全く響かず、素っ気ないまま。

この話を何度も聞かされている奥が素のまま言う。
「オチがないのオチは」

いやだから、これが私の夏の夜の怖い話。

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