サッカー日誌 / 2013年10月20日


ザック・ジャパンの現在地(上)


東欧遠征の狙いと結果
セルビア  2対0 日本(10月11日 ノビサド)
ベラルーシ 1対0 日本(10月15日 ジョジナ)

★この時期の戦い方
 ザッケローニ監督の率いる日本代表チームが10月に東ヨーロッパに遠征して2試合をした。ワールドカップ・ブラジル大会をめざす強化のための国際親善試合である。
 2戦とも無得点の完敗だったので、ザッケローニ監督に対する厳しい批判が出ている。
 ザッケローニ監督のために弁護するわけではないが、この時期の強化試合の戦い方は難しい。
 ワールドカップの本番まであと7ヵ月である。メンバーを固定してチーム作りをするには早すぎる。新戦力をテストしてみたいところだが、そう簡単ではない事情がある。
 欧州に遠征するのは日本代表の主力の多くが欧州のクラブでプレーしているからである。欧州組が揃う貴重な機会を利用してチームプレーに磨きをかけたい。
 それに日本へのテレビ中継がある。むやみにスター選手をはずして、若手テストの場にするわけにはいかない。

★新戦力テストは不発
 東欧での2試合でザッケローニ監督はトップの柿谷曜一朗のほかは、これまでに使い慣れたメンバーを先発させた。
 マスコミが伝えたザッケローニ監督の談話によると、先発メンバーで60分間戦い、そのあと新戦力を加えていくプランだったらしい。欧州組が主で新戦力は従である。
 現時点でのベストメンバーでチーム力を磨きながら、新戦力を少しでも代表になじませようという狙いだろう。
 ただし、選手交代は試合の展開しだいだからプラン通りにできるとは限らない。
 東欧では2試合とも相手に先制されたので打つ手は限られた。交代で出た新戦力も、のびのびとプレーすることはできなかった。
 ザッケローニ監督にとって新戦力テストは東欧遠征の主な狙いではなかっただろうが、従の狙いとしても、うまく機能しなかった。

★新しい攻めと緩急が欲しい
 テレビの画面では、日本は優勢ではるが、パスが単調なうえ攻め急ぎ過ぎているように見えた。
 短いパスをすばやくつなぎ、左サイドの香川真司、長友佑都からの崩しを狙う。あるいは本田圭佑が相手の裏側へのスルーパスを出す。
 そういう得意な形は、なんどもあった。
 しかし、テンポは速いがリズムが単調で、下がって守る相手を崩しきれない。日本の攻めの特徴は相手に知られていて香川、長友の左サイドも、トップ下の本田もしっかりマークされている。
 状況に応じ相手に応じた攻めの新しい形と緩急の変化が欲しいと思った。
 そういう打開策を強化試合を重ねるなかで選手たちが自分たちで見出すように仕向ける。
 それが、この時期の親善試合の戦い方かもしれない。

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サッカー日誌 / 2013年10月18日


東京五輪の問題点(8)


施設についての二つの提言
国民と都民とスポーツのために

★計画変更をためらうな
 2020年東京オリンピックの開催計画には、施設についてだけでもさまざまな問題がある。手放しで開催を喜んでいるわけにはいかない。問題点は手直ししなければならない。
 開催計画は1月に東京都の招致委員会がIOC(国際オリンピック委員会)に提出したファイルに掲載されている。いわばIOCに対する東京の約束である。
 「約束を変更することはできない」と東京都側はいうかもしれない。
 しかし、日本にとって、東京都民にとって、あるいはスポーツにとって不都合があれば、ためらわずにIOCと交渉して変更すべきである。
 橋の下でデートする約束をしたからといって、暴風雨の中で橋の下で待つことはない。増水のために溺れ死んだといいう中国の故事のようなことになる。

★新国立競技場計画は白紙に
 第一の問題は新国立競技場である。壮大なドームの計画は白紙に戻してもらいたい。
 神宮外苑の景観を破壊すること、巨額の建設費がかかることは、すでに多くの人が批判している。
 それに加えて、オリンピックのあと、スポーツのために有効に利用できそうにないことが問題である。
 東京オリンピックのあとで、陸上競技、サッカー、ラグビーなどのスポーツ施設として使いやすいスタジアムとして改めて計画して欲しい。
 フィールドを覆う開閉式の屋根は必要ない。
 天の恵みの太陽と雨が天然芝の緑に降り注ぐ開放的な設計にしてもらいたい。
 やり直しは可能なはずである。
 オリンピック担当の下村文部科学相は、10月10日付け掲載の読売新聞のインタビューで「縮小も含めて柔軟に対応していく必要がある」と述べている。

★専用競技場を残せ
 第二の問題は、いわゆるマイナースポーツのために専用競技場を残すことである。
 普及度の低いマイナースポーツにとってこそ、国際レベルの専用競技場が必要である。
 メジャーなスポーツの競技場は全国にいくつもある。
 だが、マイナースポーツの国際大会を開催できる競技場も全国に少なくとも一つか二つは必要である。
 マイナースポーツの国際レベルの競技場を建設する機会はオリンピックしかない。
 だから東京のベイエリアに計画されているホッケー場やアーチェリーなどの会場は、オリンピックが終わったあとも、そのスポーツの迎賓館として残すことができるように方策を講じるべきである。
 これは、東京都が所管するベイエリアの施設をどう活用するかの問題である。


東京湾岸のオリンピック施設建設予定地。

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サッカー日誌 / 2013年10月17日


東京五輪の問題点(7)


ベイエリア施設のあと利用
スポーツ団体の夢はかなうか?

★専用の競技場が欲しい
 スポーツ団体がオリンピック開催を熱望する理由の一つは新しい競技場ができることである。
 とくに、いわゆるマイナー・スポーツ、つまり競技人口の比較的少ないスポーツは専用の新競技場が欲しい。
 陸上競技は全国に十分過ぎるほどの競技場がある。国民体育大会のおかげである。
 サッカー場は十分とは言えないにしても、Jリーグの発足と2002年ワールドカップのあと、各地に整備されるようになった。
 マイナースポーツは、そうではない。
 たとえば、ホッケーである。
 毎年の国体のたびにホッケー会場ができる。しかし国体が終わったあとはサッカーに利用される例が多い。
 ホッケー専用スタジアムは日本ホッケー界の夢である。

★大井のホッケー会場
 2020年東京オリンピック開催計画ではベイエリアの大井にホッケー会場ができる。フィールド2面である。
 この施設がオリンピックのあと、ホッケー専用スタジアムとして維持できるのであれば、ホッケー協会としては万々歳である。
 しかし、そうは問屋が卸すかどうか?
 ベイエリアにできるオリンピック施設は、ほとんどが東京都の所有である。オリンピック後の維持運営は東京都の仕事になる。
 そうなると同じ東京都の所有である味の素スタジアムが思い出される。
 味の素スタジアムは東京都が維持運営を負いかねるとして第三セクターの株式会社に運営を委託している。
 委託された「株式会社東京スタジアム」はネーミングライツを売り、使用料を高額にして独立採算を図っている。それでも年に6億円くらいの赤字である。

★小石川サッカー場の前例
 大井のホッケー場は、オリンピック後には使用料が高すぎてホッケー協会やホッケーチームでは借りることができなくなる可能性がある。
 あるいは、ホッケー場としては維持できないので、大会後はスタンドが取り壊され、草野球のグラウンドになることも考えられる。
 小石川サッカー場の前例がある。
 1958年第3回アジア競技大会のとき、飯田橋近くの草野球場だった敷地に小さなスタジアムが作られた。
 「待望のサッカー専用競技場だ」と、ぼくたちは小躍りしたものである。
 しかし、アジア大会のあと、小石川サッカー場はレクリエーション・スポーツの場として都民に開放され、やがてスタンドは取り壊されて草野球場に戻った。
 同じことが大井ホッケー競技場いついても起きるのではないかと心配している。


大井ホッケー競技場のイメージ図。招致委員会の資料から。

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サッカー日誌 / 2013年10月14日


東京五輪の問題点(6)


「遺産」にならない水泳センター
IOCの過大な要求にスタンドを仮設

★ベイエリア施設の主役だが・・・
 東京オリンピック2020の施設の大半は、東京湾埋立地のベイエリアに集中している。
 その施設群の主役は水泳会場の「オリンピック・アクアティックスセンター」だろう。
 水泳会場は辰巳の森海浜公園に建設される。
 競泳、飛び込み、シンクロナイズド・スイミング用のプールに2万人収容の観客席を用意する。施設工事費は321億円と計上されている。
 水球は隣設する「ウォーターポロ・アリーナ」で行う。
 しかし、この壮大な水泳センターは、そのまま「オリンピックの遺産」になるわけではない。
 メーンセンターの2万人の観客席のうち、1万5千席は仮設で大会が終わった後、取り壊される。
 水球のアリーナは全体を大会後には取り壊す。

★大会後に大部分を撤去
 現在、この場所には東京辰巳国際水泳場がある。
 観客3000人収容で水泳競技会の会場としては手ごろな規模である。北島康介選手が200メートル平泳ぎで世界記録を作ったプールである。
 それを取り壊して2万人収容の水泳センターを建設し、オリンピックが終わったら仮設のスタンド部分を取り壊して5千人収容に縮小する。
 手の込んだムダである。
 辰巳水泳場に仮設スタンドを増設してオリンピック会場にしたほうが経済的ではないかと思う。
 しかし、そうはいかないらしい。
 というのは、IOC(国際オリンピック委員会)が水泳会場に1万2000人以上収容を要求しているからである。
 そのうえ、VIPやメディアのための新しい施設を用意することも求められている。

★IOCの要求の矛盾
 現在の辰巳水泳場の改装でIOCの要求を満たすことは技術的に難しい。そこで辰巳水泳場をとり壊し新しい施設を作ることにした。
 しかし、ⅠOCの要求する1万2000人収容は大会後の利用を考えると必要ない。というわけで大部分は仮設スタンドにして、IOCの基準を上回る2万人収容にした。
 しかし、大会後に「遺産」として加わるのはプラス2000席のスタンドだけである。
 開催計画書に掲載されている水泳センターの完成想像図を見ると仮設部分もすこぶる立派である。だが、大会後にはその部分はなくなる。
 大会後に残るヘリテージ(遺産)を掲げながら、大会後に必要のない過大な施設基準を定めている。
 IOCの要求は矛盾している。
 

水泳競技場のイメージ図。上が仮設部分を含む全景。下が大会後の縮小施設。IOCに提出した開催計画書から。


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サッカー日誌 / 2013年10月12日


東京五輪の問題点(5)


新国立競技場の使い道
維持運営をどうするか?

★使用料が高額に
 東京オリンピック2020の計画では、11の新しいスポーツ施設が誕生する。スポーツ団体はそれを待望している。
 しかし、新しいスタジアムができても、オリンピックが終わったあと、それを利用できるかどうかは別の問題である。
 神宮外苑の新国立競技場の場合、建設費の償却(再建設のための費用)を考えれば年間の経費が50億円ほどになる。1週間あたり約1億円、1日あたり1300万円以上である。
 これは、かなり控えめな数字である。実際には、この2倍、3倍になるだろうと思う。
 いずれにせよ、この金額を陸上競技、サッカー、ラグビーなどの競技会使用料だけで賄うことは不可能である。
 ポップ・コンサートなどへの貸出し、ネーミングライツなどいろいろな方法を講じることになるだろう。
 スポーツ競技会の使用料は割安に設定するにしても、相当な高額になると予想できる。

★陸上競技会では払えない
 ぼくの推測では、新国立競技場を陸上競技場として利用できるのは2024年までである。オリンピックの後も「世界一の豪華スタジアムを見たい」という人が、陸上競技会に来るかもしれない。2002年のワールドカップのあと、埼玉スタジアムや新潟のビッグスワンで、そういう現象があった。
 しかし、東京五輪効果を利用できるのは4年間である。
 その後は次のオリンピック開催地が建設する、さらに超豪華な施設が「世界一」になり、新国立競技場の魅力は、しだいに少なくなる。
 魅力のあるうちにファンを獲得し、固定できればいい。
 浦和レッズとアルビレックス新潟は、それに成功した。Jリーグという定期的なイベントがあったからである。
 新国立競技場の場合、陸上競技会で同じ現象を期待することは、いまの状況ではできそうにない。そうだとすると国際規格の室内トラックは、まったくムダになる。

★味の素スタジアムの前例
 こういうふうに考えたのは、東京スタジアム(味の素スタジアム)などの前例があるからである。
 東京スタジアムは、国民体育大会開催を視野に陸上競技場として東京都が建設した。しかし維持費の負担に東京都が直接責任を持つことはできないとして、第三セクターの「株式会社東京スタジアム」を設立して運営を委託した。
 株式会社東京スタジアムは、陸上競技トラック部分に覆いをかぶせ、サッカー場として、あるいはロック・コンサートなどの会場として貸し出してきた。使用料が高く、陸上競技に利用してもらえる見込みがなかったからである。
 ことし(2013年)、東京国体の年になって陸上競技用のトラックを作り、はじめて陸上競技が行なわれた。
 国体の陸上競技は入場無料。使用料は事実上、東京都の負担である。次の年から陸上競技が高額の使用料を払って利用できる見通しはない。
 新国立競技場も同じようなことになるのではないか。


国体で陸上競技に使われた味の素スタジアム。

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サッカー日誌 / 2013年10月11日


東京五輪の問題点(4)


新設競技場の大きな借金
償却と維持をどうするのか?

★新しい財産への期待
 東京オリンピック2020のために、新国立競技場を含めて新しく11のスポーツ施設が誕生する。スポーツにとっては、オリンピックの大きな賜物、あるいは遺産である。
 だからスポーツ団体はオリンピックを待望する。
 東京がマドリードとイスタンブールを抑えて開催地に選ばれたのは「ほとんどの施設が、まだできていないからだ」という逆説的な見方を聞いた。
 マドリードは、施設の8割がすでに用意されていることを強調した。しかし、これはスポーツの新しい財産が、あまり増えないことを意味している。
 「スポーツ団体関係のIOC委員は新しい財産が増える都市を選びますよ。これまでも、オリンピックの開催地には施設のないところのほうが選ばれています」
 新聞社のオリンピック担当記者が、そう教えてくれた。

★遺産に伴う借金
 東京は多くの施設が新設で、しかも建設する資金力と技術力がある。これは有利な条件だった。
 これは、ぼくが気づいていなかった視点だった。東京が選ばれた要因の一つだったかもしれない。
 だが、これには大きな問題がある。
 オリンピックのために作った施設は遺産ではあるが、この遺産は借金をともなっていることである。
 新しい競技施設は豪華な外観で最新の設備を備えたものになる。オリンピックのためのものだからスポーツ建築の総力を結集しスポーツ団体の要求を満たそうとする。
 そのために建設費は膨大なものになる。その償却を、どうするのだろうか?
 さらに大会後の維持、運営のために大きな費用がかかる。
 オリンピッ終わったあとに、その費用を誰が負担するのだろうか?

★新国立競技場の借金
 典型的な例が「新国立競技場」である。工事費だけで1300億円かかると発表されている。そのほかの環境整備費等を含めて実際には、その4倍になるだろうという推計もある。
 かりに新スタジアムの耐用年数が50年として、また工事費が1300億円ですむとして、1年あたりの償却費は金利などを含めない単純計算で26億円になる。
 巨大な開閉式ドームの空間を維持する年間経費は、どのくらいになるのだろうか? 管理するための人件費などは、どのくらい必要なのだろうか?
 そういう維持運営費を20億円と見積ると年間46億円が必要になる。これはかなり控えめな計算である。まともに推計すれば、この2倍以上になるだろうという説も聞いた。
 公共建築には減価償却はないということも聞いた。
 しかし50年後に再建築するときには改めて工事費が必要になる。建築費が実質的には、返還すべき負債であることに変わりはない。


新国立競技場のデザイン図(IOCに提出した報告書から)

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サッカー日誌 / 2013年10月06日


東京五輪の問題点(3)


ベイエリアへの競技施設集中
コンパクトな配置がいいのか?

★交通大混乱の可能性
 2020年東京オリンピックの主要な施設は、東京湾の埋立地に建設される。水泳など21の競技会場、選手村、メディアセンターなどである。
 大部分の施設が有明、お台場、夢の島など東京湾岸を埋め立てた島に集中している。
 多くの島が、それぞれ、四方を水で囲まれている。1本か2本の道路でつながっているだけである。
 東京の主要部からオリンピックを見に行くには橋などで島に渡ることになる。
 招致委員会の推計では、オリンピック期間中の観客とスタッフの数は1010万人で、1日あたり最大92万人ということである。
 いちどきに数十万人が狭い島に集まる。
 アクセスは大丈夫だろうか?
 島のうえは大混雑、大混乱にならないのだろうか?

★新交通路建設は間に合うのか?
 新しい交通路の建設計画はある。
 都心部の虎ノ門から新橋、築地をへて晴海、豊洲、有明を結ぶ環状2号線の区間の工事は十分に間に合う予定だ。
 それだけでは不十分と、東京の北側と臨海部を結ぶ地下鉄8号線整備促進を求める声がある。
 しかし、新しい交通路建設が実現すると仮定しても、なお問題はある。
 東京の主要部と臨海埋め立て地を結ぶ交通路は湾岸埋立地の将来のために計画されているはずである。この地域をふだんの生活の中で利用する人たちのための交通手段である。
 2020年夏の2週間あまりの集中的なイベントのために十分であるとは考えられない。

★地震と津波への対策は?
 地震や津波への対策は大丈夫だろうか?
 大地震が起きれば埋め立て地の地盤が液状化して施設が倒壊するおそれがある。
 海沿いの施設は大津波に襲われればひとたまりもない。
 日本では十数年に1度の割合で大きな地震が起きる。それを恐れていては、どんなイベントも計画できないということはできる。しかし、そうであっても、数十万人が集まる大会を大災害の可能性の大きい場所で行うのは賢明でない。
 しかも、関東大震災並みの地震が近い将来に起きる可能性が高いことは専門家が指摘しているところである。
 大会中に大地震が起きる確率は高くないにしても、起きれば大惨事である。
 こういう問題点は1月に東京の開催計画が公表された時点で、すでに指摘した。しかし東京開催が現実になったいま、改めて取り上げて対策の公表を求めたい。


東京湾のベイエリア施設配置

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サッカー日誌 / 2013年10月05日


東京五輪の問題点(2)


専門家が新国立競技場を批判
(9月23日付 東京新聞)

★世界的建築家が反対
 2020年東京オリンピックの象徴は、神宮外苑の新国立競技場である。
 現在の国立競技場を取り壊し、大規模な屋内陸上競技スタジアムを建設する。そのユニークな外観のデザインが、東京の開催計画の目玉である。
 ところが建築の専門家から異議が出た。9月23日付の東京新聞は一面と社会面のトップで、それを伝えた。
 世界的に有名な建築家で東大教授も務めた槙文彦さんが景観や安全性などの点から反対し,大幅な計画見直しを求める論文を日本建築家協会の機関誌に発表したという。
 翌日付の朝日新聞文化面にも槙さんの意見が紹介された。
 槙さんだけではない。「ほとんどの建築家」が計画の変更を求めている。10月11日に「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」と題したシンポジウムを建築家会館で開く。

★不必要に巨大な計画
 前にも指摘したところだが、問題はたくさんある。
 神宮の森の環境を破壊する。風致地区の美観をそこねる。オリンピックにとっても不必要に巨大である。大会後に役立つ見通しがない。1300億円以上というスタジアムの工事費を含め神宮外苑全体を作り変える巨額の費用の総額と出所が不透明である。などなど……。
 東京新聞の一面には、現在の神宮外苑を上空から撮影した全景写真に新国立競技場の範囲をかぶせたイメージ図がカラーで掲載されていた。それを見ると新国立競技場計画の無謀さが一目瞭然である。
 新スタジアムは、隣の駐車場から日本青年館、神宮第二球場にまで広がり、都営アパートと神宮球場に迫っている。
 都営アパートは取り壊す予定で住民は立ち退かなければならない。神宮球場は、隣の秩父宮ラグビー場を撤去して、そのあとに移す計画になっている。

★招致のためのデザイン
 東京オリンピックの開催計画書には、壮大で美しい曲線の外観デザインが載っている。完成予想図である。
 しかし、この外観はヘリコプターで上空からでなければ見えない。下からは「八万人の観客席を支えるコンクリートの壁だけ」しか見えない。専門家がそう指摘している。
 なぜ、こういうことになったのか?
 デザインは、IOC(国際オリンピック委員会)に提出する開催計画書に掲載するために決められた。見栄えよくパンフレットに載せることがスタートだった。
 本来であれば、まず東京全体の都市計画があり、そのなかで神宮外苑の位置づけがあり、そのうえでオリンピックに必要な施設をどう作るかを検討しなければならない。
 新国立競技場のデザインの場合は、オリンピックそのものにとって必要であるよりもさらに前に、招致運動のために必要だったのである。順序が逆立ちしている。


9月23日付け、東京新聞一面。

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サッカー日誌 / 2013年10月04日


東京五輪の問題点(1)


興奮を冷まして考えよう
(9月8日 NHK総合テレビ)

★さすが、山本浩アナ!
 2020年の夏季オリンピック開催地が東京に決まったときNHKテレビは日本時間の9月7日深夜から8日の朝まで夜通しで中継していた。
 元NHKのスポーツ・アナウンサーで、現法政大学教授の山本浩さんが徹夜で出演していた。
 午前5時20分に東京開催が発表された。
 IOC(国際オリンピック委員会)総会が開かれていたブエノスアイレスからの中継も、あらかじめ設営されていた駒沢体育館などのパブリック・ビューイングの会場も、NHKのスタジオも、すべて歓喜一色だった。
 興奮と感激の映像が6分間続いたあと、山本浩さんにマイクがふられた。
 「2、3日は、この余韻に浸りましょう。そして3日くらいたってから何をすべきかを考えましょう」
 さすがNHK! いや、さすが山本浩!

★性急な批判を反省
 実は東京開催が決まった瞬間から、ぼくは東京オリンピックの問題点しか考えていなかった。「新国立競技場の建設には大きな問題があるぞ」という原稿を、もう書き始めていた。
 もともとオリンピックそのものに反対である。
 したがって東京オリンピック決定を喜んではいない。
 しかし、日本中が沸き立っているときに、あえて反対意見を述べるのは「おとなげない」ことに気がついた。山本浩アナがいうように、2~3日の冷却期間をおいてから冷静に議論を始めたほうがいい。
 ぼくは、ちょっとばかり反省した。
 しかし「バンザイ」を繰り返すだけでは、マスコミの使命放棄である。
 問題点は、しっかり指摘しておかねばならない。

★あえてもの申す
 4~5日くらいたってから、新聞もテレビも冷静な検討報道をはじめた。
 9月12日付朝日新聞に「東京五輪、あえてもの申す」という記事が掲載されていた。東京への一極集中、福祉や教育の政策が後回しになる可能性などの問題を指摘していた。
 9月14日朝に見た民放テレビの番組では、新国立競技場建設の問題もとり上げていた。
 新国立競技場建設にともなう神宮外苑の整備に伝えられている経費の4倍以上がかかる見込みを紹介していた。
 東京開催決定の2日後に、パーティーの席で山本浩さんに会った。
 「あのコメントはみごとだったね」とよいしょしたら、山本アナは「あの時間までテレビを見てた人がいたんだ」と冗談で答えた。


山本浩さん。パーティーの席で。手前は賀川浩さん。

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サッカー日誌 / 2013年10月02日


テレビ衛星中継の始まりは?


日本サッカー史研究会例会
(9月30日 東中野テラハウス)

★東京‘64ではなかった
 テレビの衛星中継の始まりは1964年の東京オリンピックだと、ぼくはすっかり思い込んでいた。
 1964年東京オリンピックを太平洋を越えて米国に伝えようとNHKなどが努力し、日米間の衛星回線を使って開会式や陸上競技の映像をカラーで米国に送った。それが最初だ。そう記憶していた。
 日本サッカー史研究会の9月例会の席で、ぼくがそう話したら、ゲスト講師の杉山茂さんが訂正してくださった。
 1962年7月に本格的な通信衛星が打ち上げられ、それを使って欧州と米国の間でテレビの衛星中継が可能になった。
 東京オリンピックの年の2月のインスブルック冬季オリンピックでは、開会式とアイスホッケー米国対ソ連の試合を15分間にまとめたものを衛星回線で米国に送っている。生中継ではないが、オリンピック映像初の衛星中継である。
 東京‘64が初めてというのは間違いである。

★杉山茂『テレビスポーツ50年』
 杉山茂&角川インタラクティブ・メディア『テレビスポーツ50年』(2003年、角川書店)に、この経緯はきちんと紹介されている。
 ぼく自身が編集と著作にかかわった『ワールドカップのメディア学』(2003年、大修館書店)の巻末の年表には1964年に「東京五輪を日米欧で衛星中継」と記入してある。日本から米国へ、さらに欧州へ中継されたということである。大西洋を越える衛星中継がすでに行われていたことを知っているわけである。
 この年表を作ったのは、ぼく自身である。しかも参考にした資料のなかに杉山茂『テレビスポーツ50年』もあげている。
 自分が書いたものをすっかり忘れて間違った思いこみのほうを覚えている。われながら、ひどいお粗末である。
 間違った思い込みを、しゃべったり書いたりしてきたように思うので、このさい、お詫びして訂正させていただく。

★五輪衛星中継の意義
 言い訳にはならないが、付け加える。
 ぼくが「東京五輪‘64が初めて」と思い込んでいた原因の一つは、東京オリンピック衛星中継の画期的意義を強調するために、多くの記述がインスブルック冬季オリンピッックの衛星中継映像に触れていないことである。
 杉山さんの『テレビスポーツ50年』には、ちゃんと書いてあるのだが、それでも“世界初の「オリンピック・宇宙中継」(日本―アメリカ間)は可能になった”と表現している。
 気をつけないと「世界初」は、オリンピックの宇宙中継であると受け取れる。実は「世界初」は日本―アメリカ間である。
 サッカー史研究会の9月例会のテーマは「テレビとサッカー史」で、元NHKスポーツ報道センター長の杉山さんの講演が中心だった。非常に有益なお話だった。
 ぼくの「思い込み訂正」は,ほんの付けたりに過ぎない。
 ただ、ぼく個人にとっては重要なポイントだった。


杉山茂さん。サッカー史研究会で。


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