サッカー日誌 / 2012年12月31日


古代日本の「蹴鞠」を考える(追加)


万葉集にでてくる古代球戯「打毬」
(万葉集、巻六、948、949)

★貴族の子弟が楽しむ
 日本サッカー狂会の会報「FOOTBALL」152号に出ていた記事を読んで思い出したことがある。
 この記事は、日本書紀に出ている中大兄皇子と中臣鎌足の逸話に関するものである。二人が知り合うきっかけになった古代の球戯は、どんな競技だったかがテーマになっている。
 一般には「蹴鞠」の逸話として知られているが、日本書紀の原文では「打毱」となっている。「打毱」と「打毬」では「まり」の字体が違うが同じ意味らしい。
 足でボールを蹴るフットボール系だったのだろうか? 杖でボールを叩くポロあるいはホッケー系だったのだろうか?
 万葉集巻六にも「打毬」が出てくる。
 朝廷警護の役割を担っていた皇族、貴族の子弟が、天気がいいので、春日野に「打毬」に出かけた。ところが、その間に、にわかに雷雨が轟いた。

★フットボール系の競技かも
 古代、雷は天の警告として恐れられていた。そのときに皇子、貴族の若者たちは、宮廷警護の役割を放棄していた。そのため罰として監禁を命ぜられた。
 こんな麗らかな季節に寮に閉じ込められて遊びに出られないのは悲しい。そういう歌(長歌と短歌1首および説明)が万葉集に収められている。
 兵庫大学の教員だったときに、国文学専門の先生から、このことを教えられた。「古代に、こういう球戯の話がありますよ」と、万葉集のその部分をコピーしてくれた。
 「打毬」がフットボール系の競技かどうかは分らない。長歌のなかに「馬なめて」という言葉があるので、馬に乗って行うポロのような競技ではないかと、ぼくは想像した。
 国文学の先生は「打毬」に「蹴鞠」の意味があるので「サッカーに似ているのかも」と教えてくれたらしい。

★足でボールを扱う球戯
 歴史上、ボールを足で扱う競技は、いろいろあるようだ。
 バレーボールのように、二手に分かれて応酬する競技もある。古代中国に、そういう競技の記録がある。日本でも古代の蹴鞠はそうだったとして、奈良で復元しているのを見に行ったことがある。
 相手側の門(ゴール)にボールを入れることを競う競技がある。中国、欧州に記録がある。現在のサッカーのルーツでる。日本でも長崎県の五島列島で近年まで行われていたという報告を体育学会で聞いたことがある。
 ゴールが一つのものもある。アステカ(いまのメキシコ)の競技はそうである。これは宗教行事として行われたものらしい。
 足でボールを扱う球戯のルーツを、もう少し知りたいと思って近くの図書館に行ったら年末年始は休館だった。「年明けに」と思っているが「新年の決意」に終わるかもしれない。


「蹴鞠」の図 「年中行事絵巻」から

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サッカー日誌 / 2012年12月31日


古代日本の「蹴鞠」を考える


大化改新のきっかけは?
(日本サッカー狂会会報「FOOTBALL」152号)

★「蹴鞠」と「打毬」
 日本サッカー狂会の会報「FOOTBALL」には、毎号、ユニークな、おもしろい記事が載っている。
 2012年12月発行のNo.152では、峩岑斉住人の「大化改新のきっかけはサッカー? ホッケー?」と題する記事が、面白かった。
 古代日本(飛鳥時代)の朝廷クーデター「大化改新」(たいかのかいしん)を起こした中大兄皇子と中臣鎌足の出会いのきっかけになったのは「蹴鞠」だったという逸話がある。日本書紀巻二十四、皇極天皇三年正月の項に載っている。
 実は書紀には「蹴鞠」とは書いてない。「打毱」とある。
 この「打毱」が足でボールを蹴る「蹴鞠」であるのか、杖でボールを打つホッケー、あるいは馬に乗ってボールを打つポロのような競技であったのか? 学問の世界でも議論のあるところらしい。

★漢和辞典では「蹴鞠」
 この逸話を知ってはいたが、どんな競技であったのかを考えたとはことはなかった。 
 「FOOTBALL」の記事を見て、はじめて関心を持って、とりあえず手元の漢和辞典「漢語林」を引いてみた。
 「打」という字のところに「たたく、またける」とある。
 「打つ」に「蹴る」という意味があるとは知らなかった。
 さらに「打毬」の項には「けまり、蹴鞠シュウキク」とある。「鞠」「毱」「毬」と字体の違いはあるが、いずれもボールのことである。
 岩波文庫版「日本書紀」(四)の217ページに注がある。そこには「打毬」には、2つの意味があるが「ここでは蹴鞠のこと」ある。その根拠も示してある。
 足で蹴る競技(フットボール系)だったという説が、杖で打つ競技(ポロあるいはホッケー系)だったという説よりも有力なようである。

★玉木正之さんへの批判
 いずれにせよ「打」とあるから「杖でボールを打つホッケーのようなもの」と早とちりしてはいけないことを知った。
 ところが、スポーツライター玉木正之さんは、専門の研究者ではないにもかかわらず、著書の中で繰り返しホッケー説を主張している。
 そこでサッカー狂会会員の峩岑斉住人が「玉木さんの主張の根拠はなんですか?」と問い合わせのメールを送った。それに対して玉木さんは、まともに答えないで、筋の通らない弁解をネット上で繰り返した。
 そのやり取りを紹介したのが「FOOTBALL」152号に掲載されている記事である。「玉木正之氏の知的誠実さを問う」と副題がついている。
 古代日本の蹴鞠と現代のサッカーとのつながりはない。
 しかし、ボールを足で打つ競技のルーツの一つとして、もう少し勉強してみたいと思った。


(写真)FOOTBALLの誌面から

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サッカー日誌 / 2012年12月29日


西堂就先生の思い出


高校サッカー指導の長老
(12月14日ご逝去、17日葬儀)

★習志野のスピード優勝記録 
 高校サッカー指導者の長老、西堂就(にしどう・たかし)先生が亡くなられた。92歳だった。
 12月20日に耀子夫人から手紙をいただいて、ご逝去を知った。10月31日に体調を崩して入院され、一時、回復のきざしが見えたが、12月14日の夜に亡くなられたという。葬儀は17日に親族のみで行ったとのことだった。
 西堂先生は、1962年に千葉県の市立習志野高校の監督になり、その年度に全国高校選手権の出場権を得た。当時は地区予選があり、東関東代表としての全国大会進出だった。それまで大会40年の歴史の中で、千葉県のチームが全国大会に進出したことは1度もなかった。就任早々の快挙だった。
 1966年に3度目の全国大会出場で初優勝した。「高校サッカー90年史」((2012年7月、講談社発行)掲載のインタビューのなかで、西堂先生は「私は赴任してから3年半で全国大会優勝したスピードが売りだ」と自慢している。
 
★絵巻物を自費出版
 この初優勝のときは1回戦から5連戦。決勝は大阪の明星との対戦で延長、再延長を120分間、戦ったのち、0対0の引き分けで「両校優勝」だった。
 習志野は、この6年後、1972年に2度目の優勝をした。このときは準決勝で帝京を、決勝で壬生川工を破っての堂々の単独優勝だった。
 しかし、西堂監督にとっては「両校優勝」のときのほうが思い出深かったようだ。
 絵を描くのが好きだった西堂さんは、この初優勝を中心にした絵巻物を描いた。「無名弱小のチームが三年半で日本一まで辿りついた記録」というタイトルだった。
 巻物を切り貼りして本の形にしたが、経費がかかりすぎるので出版は断念したということだった。
 見せていただくと無類に面白い。そこで、ぼくが無理にお勧めし、教え子たちの協力も得て自費出版していただいた。

★広く深い業績
 この絵物語は作りが風変わりなだけでなく、内容も非常に面白い。いろいろなことを知ることができる。
 西堂さんは埼玉県の浦和師範附属小学校を出て東京の豊島師範に入学、4年生(現在の高校1年生相当)のとき全国中等学校大会(現在の高校選手権)に出場し準決勝に進む。戦前には選手として、戦後には監督として全国大会に出場したわけである。その当時の模様を絵物語によって知ることができる。こういう記事は日本のサッカーの歴史を知るうえで貴重な資料である。
 習志野初優勝のとき、チームをまとめるために苦労したエピソードが絵物語のメーンテーマである。高校サッカーのチーム作りの一端を知ることができる。
 ほかにも思い出はたくさんある。功績はもっと広く深い。
 「西堂就先生を偲ぶ会」を開いて、その業績を語ってもらって記録に留めるべきだと考えた。


冊子のフロントページ

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サッカー日誌 / 2012年12月26日


トヨタ・クラブW杯観戦記(7)


コリンチャンスの底力

決勝戦
コリンチャンス 1-0 チェルシー
(12月16日 横浜国際総合競技場)

★ブラジルがチーム力で勝利
 クラブ・ワールドカップ2012の決勝戦は、欧州対南米の対決というより、国際スター・チームに対するブラジル・クラブ・サッカーの挑戦だった。
 チェルシーはイングランドの「クラブ」とはいえない。世界各国のスターを集めた国際チームである。
 一方のコリンチャンスはブラジル人による典型的なブラジルのクラブだ。
 結果はブラジル・クラブ・チームの快勝だった。南米代表が欧州代表を破ってタイトルを取ったのは6年ぶりである。
 コリンチャンスの勝因は、ブラジル伝統の個人技にこだわらず、労働量と組織プレーの欧州式のサッカーに変えたからだという見方が出ている。
 コリンチャンスのチチ監督も試合後の記者会見で「チームの力は個人のテクニックに優るんだ」と、チームワークの勝利を強調した。

★守りの組織が勝因
 決勝戦の内容を見ても、たしかにコリンチャンスの組織的プレーの勝利ということができる。特に組織的な守りの勝利だった。
 ボール支配率は、チェルシーが54%で優っていた。
 シュート数も14対9でチェルシーが多かった。
 コリンチャンスが劣勢を守りきったことを示している。
 後半25分にシュートからのこぼれ球を押し込んでゴール。この1点を守った。
 相手がボールを持ったとき、2人がかりで寄せ、3人目がカバーしてボールを奪う。そういう守りの連係がよかった。
 それでも、チェルシーの14本のシュートのうち6本がゴール枠内を襲った。しかしゴールキーパーのカッシオが再三のファインプレーで阻んだ。カッシオがMVPに選ばれたのは納得できる。

★ブラジル・サッカーの伝統
 コリンチャンスのチームワークが勝因だったことは否定できない。
 しかし、それでもなお、コリンチャンス勝利の背景にブラジル・サッカーの伝統があることを評価したい。
 一つは、プレーヤーの層の厚さである。
 組織プレーが重要であっても組織の単位は個人である。個人技なくして組織プレーはできない。
 ブラジルのトップクラスの選手は200人以上が海外に出ているといわれる。その残り、あるいは海外から戻ったプレーヤーで世界一のチームを構成できることに注目した。
 もう一つは「勝負強さ」である。
 「南米のチームは決勝になると目が覚めるんだ」と敗れたチェルシーのベニテス監督が話した。世界一への執念が、決勝戦でコリンチャンスを燃え立たせていた。

  
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サッカー日誌 / 2012年12月20日


トヨタ・クラブW杯観戦記(6)


中米とアフリカのレベル差

3位決定戦
モンテレイ 2-0 アルアハリ
(12月16日 横浜国際総合競技場=第1試合)

★地域別のレベル
 クラブ・ワールドカップ3位にタイトルとしての意味は少ない。この大会の3位というだけのことで世界3位の力を示すわけではない。欧州や南米には、もっとレベルの高いクラブチームがいくつもある。
 しかし、世界各地域のクラブのサッカーの様子を示す材料にはなるだろう。
 モンテレイ(メキシコ)のブセテク監督は、3位決定戦でアルアハリ(エジプト)に勝ったあと「われわれはアジア代表(蔚山現代)に勝ち、アフリカ代表(アルアハリ)も破った。この結果は各地域の順位を順当に示している」と語った。
 北中米を代表するメキシコのレベルがアジアやアフリカより上、欧州、南米についで世界で3番目だという主張である。
 もちろん、北中米カリブ海地域の他のクラブチームがモンテレイに近いレベルにあるとはいえない。地域の比較は、おおまかに考えてのことである。

★アルアハリが攻勢
 クラブ・ワールドカップの過去の成績を見れば、必ずしも北中米代表が3番手であるとはいえない。しかし、今回のモンテレイは、かなり気合を入れて準備してきたようで、アジア、アフリカ勢に勝ったのは順当だった。
 とはいえ、3位決定戦はモンテレイにとって楽な試合ではなかった。
 開始3分の先取点は、相手のディフェンダーとゴールキーパーがぶつかったミスから生まれたものだった。
 そのあとはアルアハリが攻勢だった。
 シュート数はアルアハリ17(うち枠内9)、モンテレイは6(3)。ボール支配率はアルアハリ54%。数字はモンテレイの劣勢を示している。
 しかし、後半21分に逆襲から追加点。これはアルゼンチン出身のコンビによる速攻だった。

★試合経験の差
 勝敗を分けたのは「試合経験の差」だったように思う。
 エジプトでは、国内の騒乱のためリーグの試合が中止されている。アルアハリは、この1年間、国内ではときどき練習試合をする程度だったという。選手たちは、控えの1人を除いて、みなエジプト人である。
 一方のメキシコは、国内にしっかりしたリーグがある。海外のクラブでの経験を持つ選手もいる。モンテレイには、アルゼンチンから来た選手が3人いて要所を固めている。いろいろな形のサッカーを経験してきている。
 それが試合運びに表れた。先取点はラッキーなものだったが、それを巧みな試合運びで守った。相手の出方を読んだコンビネーションの守りが良かった。
 アルアハリの攻めには工夫が足りなかった。枠内に飛んだシュートもゴールキーパーに読まれて、その好守を誘う結果になった。

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サッカー日誌 / 2012年12月18日


トヨタ・クラブW杯観戦記(5)


多彩なタレント集団チェルシー

準決勝-2
チェルシー 3-1 モンテレイ
(12月13日 横浜国際総合競技場)

★最高の部品による精密機械
 欧州代表のチェルシーは、イングランドのチームだが、この日の先発にイングランド出身のプレーヤーは2人だけ。ほかはスペイン3、ブラジル2、ベルギー、セルビア、チェコ、ナイジェリア各1だった。世界選抜のタレント集団である。
 だから「お国ぶり」を感じさせるような親しみやすいスタイルはない。最高級の部品を集めて組み立てた高性能の機械のようなチームである。
 北中米代表のモンテレイは、南米アルゼンチンのプレーヤー3人を要所に配しているが、メキシコのクラブらしい雰囲気を保っている。それが、このチームの楽しいところではあるが、プレーヤーの質は飛び切り上等とはいえない。
 最初のうち、モンテレイが守備的になったのは、やむをえないところだろう。まともに取り組んでは、ずたずたにされるおそれがある。
 
★スピードと意外性
 引き気味になって守るモンテレイを、チェルシーは速さと技術とアイデアで攻め崩した。
 チームとしては、機械のような無機質な感じだが、個々の部品は、それぞれが高級なコンピューターを備えていて、状況を判断して対応し、それを組み合わせてグループの戦術を組み立てる。そういうように連想した。
 前半17分に先取点。パスを受けたオスカルが、ヒールキックでコールとワンツー。そのクロスをマタが決めた。
 ブラジル-イングランド-スペインの組み合わせである。違う性質の部品を組み合わせ、一つの性能を発揮できるようにする。チェルシーのようなチームの監督は、そこに苦心するのではないか。そういうふうにも想像した。
 得点を決めたマタに対するマークが、ゴール前で甘くなっているように見えたが、これはモンテレイの守備がオスカルとコールのスピードと意外性に振り回された結果である。

★格下にも慎重な対応
 モンテレイは、リードされてから攻めに出るようになり、形勢としては互角になった。
 しかし、チェルシーの守りは堅固で、なかなかペナルティエリアに入りこめない。サイドから高いクロスをあげても、ゴールキーパーにとられる。前半にシュートは4本あったが枠に飛んだのは0である。
 チェルシーは、後半の立ち上がりに2点をもぎとって勝利を決定付けた。
 後半1分の2点目のアシストはベルギーの若手、21歳のアザール、決めたのはスペインのベテラン、28歳のフェルナンド・トーレス。国籍も年齢もチェルシーは多彩である。
 モンテレイが1点を返したのは後半の追加時間(2分)に入ってからだった。
 格下とも思える相手に対しても、チェルシーのベニテス監督は、慎重に対策を立てたらしい。本来はディフェンダーのダビド・ルイスを中盤に使った理由を、試合後の記者会見で丁寧に説明していた。

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サッカー日誌 / 2012年12月16日


トヨタ・クラブW杯観戦記(4)


世界一へのプレッシャー

準決勝-1
コリンチャンス 1-0 アルアハリ
(12月12日 豊田スタジアム=第2試合)

★アラブの南米への挑戦
 クラブ・ワールドカップの優勝争いは、事実上、欧州代表対南米代表である。この2チームは準決勝から出場する。
 準決勝は欧州代表と南米代表に対する他地域の代表の挑戦になる。
 南米代表のコリンチャンス(ブラジル)への挑戦者はアフリカ代表のアルアハリ(エジプト)だった。
 アルアハリについては、二つの点を気に留めて見た。
 第一は全員がエジプト人であることである。
 ほかの地域の代表は、多かれ少なかれ、他の国出身のプレーヤーを含んでいる。アルアハリは、1人だけモーリタニア出身がいるが、出場したのは全員、エジプト国籍である。
 第二はアラブのチームだということである。
 アフリカ大陸は広い。地域によって人種や宗教の構成が違う。エジプトは北部のアラブ人の国である。アフリカといっても、どちらかといえば、欧州系の組織的サッカーに近い。

★自国出身で固めた両チーム
 南米代表のコリンチャンスは先発に1人、ペルー出身がいるが、ほかの出場選手は全員ブラジル人である。Jリーグでプレーしたこともあるエメルソンはカタール国籍となっているが、もともとはブラジルだ。
 両チームとも自国出身のプレーヤーで固めているので、それぞれの国の文化を反映したスタイルのサッカーの対決が見られるだろうと期待した。
 前半はコリンチャンスが一方的に優勢だった。ボール支配率は60%だった。
 30分に先制点。この調子なら、後半にも追加点をあげて、コリンチャンスが余裕をもって勝つだろうと思った。
 ところが、アルアハリがリードされてから反撃に出た。
 ボール支配率でも盛り返し、後半のシュート数は5対3と上回った。ただし枠に飛んだシュートは0だった。

★緊張していたコリンチャンス
 前半、優勢だったコリンチャンスが、先取点を挙げたあとトーンダウンしたのは、なぜだろうか?
 ブラジルのチームはリードすると手を緩めることが、よくある。ブラジル・サッカーの一つの特徴である。
 コリンチャンスも、それかなと思った。
 ところが試合後の記者会見でチチ監督は「(世界一にならなければならないという)プレッシャーでミスが多かった」と語った。本国から1万人も来ているというコリンチャンスのサポーターがゴール裏のスタンドを埋めていた。その熱狂的な応援も逆に負担になって硬くなった結果だという。
 トーンダウンは余裕の体力温存ではなく、逆にプレッシャーで精神的マイナスになっていたためらしい。
 クラブ世界一を、もっとも熱望しているのは、コリンチャンスであり、もっとも期待しているのはブラジル国民である。それが決勝戦ではプラスに働いてほしいと思った。

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サッカー日誌 / 2012年12月15日


トヨタ・クラブW杯観戦記(3)


森保サンフレッチェのスタイル

5~6位決定戦
サンフレッチェ広島 3-2 蔚山現代
(12月12日 豊田スタジアム=第1試合)

★アジア・チャンピオンへの挑戦
 クラブ・ワールドカップでは、準々決勝敗退チーム同士で5~6位決定戦が行われる。
 ベスト4を逃して落ち込んでいるチームにとって意欲のわきにくい試合だろう。5位争いに大きな意味があるとは思えない。
 しかし、今回はサンフレッチェ広島には、意味のあるカードになった。アジア・チャンピオンへの挑戦になったからである。
 サンフレッチェは、来年(2013年)はアジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)に出場する。ACL優勝チームとの対戦は、かっこうの腕試しである。
 森保一(もりやす・はじめ)監督は「サンフレッチェは、一つのスタイルを持つチームになったと思っています」と自分のチームの戦い方に自信を深めている。
 そのスタイルが、アジアのトップクラスに対して通用するかどうかをテストする機会である。

★森保監督の戦い方
 韓国のサッカーは、走り回り、激しく当たり、大きく蹴りこんで攻める。それが伝統的スタイルである。蔚山現代も、かつてのチームほどではないにしても、その伝統を受け継いでいる。
 そういう韓国スタイルに対して、パスをつないでキープするサンフレッチェのスタイルで対抗できるかどうか? それが一つの見どころだった。
 この試合に関する限り、サンフレッチェのサッカーは韓国相手に通用した。
 ボールポゼッションは、広島が54%と上回った。
 シュート数は蔚山が19本と多かったが、そのうちゴールの枠に飛んだのは7本。37%弱である。広島は11本のシュートのうち6本が枠内。半分以上が正確にゴールを狙っている。
 この数字は、攻め急がないで確実にチャンスをうかがう戦い方の成功を示している。

★佐藤寿人が2得点
 サンフレッチェは前半17分にオウンゴールで失点した。ディフェンダーとゴールキーパーの連携ミスによるもので、いわば偶発事故である。
 しかし、リードされても、自分たちのスタイルでプレーを続け、前半のうちにフリーキックを生かして同点にし、後半に佐藤寿人が2ゴールを追加した。佐藤をトップに張り付かせている戦い方が実を結んだ。
 このまま3対1で終われば良かったのだが、試合終了の直前に蔚山に1点を許して1点差になった。
 このときの森保監督の用兵は解せなかった。
 追加時間4分が終わろうとしているタイミングで選手交代をした。2点差だから「時間稼ぎ」を狙ったとは思えない。
 その直後に蔚山がフリーキックからの放り込みでゴールをあげた。選手交代のために守りの集中力が途切れたのではないかと思った。

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サッカー日誌 / 2012年12月14日


トヨタ・クラブW杯観戦記(2)


アジアのレベルが試された

準々決勝
モンテレイ 3-1 蔚山現代
アルアハリ 2-1 サンフレッチェ広島
(12月9日 豊田スタジアム)

★手の内を読まれた蔚山(韓国)
 トヨタ・クラブ・ワールドカップの準々決勝は、豊田スタジアムのダブルヘッダーで行われた。準々決勝はふつう4試合だが、この大会では、欧州と南米の代表が準決勝から出場するので、準々決勝は2試合だけである。2試合ともアジアのチームが他地域の代表と対戦した。つまりアジアのレベルが世界で試される試合になった。
 第一試合で、韓国の蔚山現代は中米代表のモンテレイ(メキシコ)に完敗した。蔚山は1点を報いたが、これは、3-0とリードされたあと、それもゴールキーパーのミスだった。
 モンテレイは前年の大会では、1回戦で柏レイソルと引き分け、PK戦で退いている。
 「昨年は2~3日前になってから相手を研究した。今回は1ヵ月以上かけて蔚山を分析して準備した」とブセティク監督は話した。つまり、前年の柏レイソルとの引き分けは、アジアのチームを軽く見て油断した結果だというわけである。

★広島はアフリカ代表に惜敗
 準々決勝の第二試合では、サンフレッチェ広島が、アフリカ代表のアルアハリ(エジプト)に敗れた
 これは互角の接戦だった。ボール支配率は広島が52%とやや上回り、シュート数も11対8で広島が多かった。いい形の攻めが何度もあった。
 しかし、結果としてはアルアハリの作戦成功だった。
 立ち上がりから積極的に攻勢に出て前半15分に先取点。その後、やや守りに入った形になり、32分に追いつかれたが、後半のはじめから再び攻勢をかけて後半12分に決勝点を挙げた。
 サンフレッチェは、相手の守備ラインを押し込んでおいて中盤で余裕を持ってパスをまわす。ボールをキープする時間帯を長くして有利に試合を進めようとする。そういう試合運びを、アルハアリは、うまく崩した。

★世界のレベルはまだ遠い
 相手が守備的なときは中盤に余裕が出来るからサンフレッチェのキープ策がうまくいく。しかし相手が攻めに出て、逆に押し込まれると、なかなか立て直せない。アルアハリが、前半と後半の立ち上がりに攻勢をかけたのは、サンフレッチェのペースに巻き込まれるのを防ぐために有効だった。
 サンフレッチェは、中盤のパスでゆさぶりながらチャンスをうかがう。攻めを急がないことを心がけている。
 しかし、リードされ、また残り時間が少なくなると、そうはいかなくなる。
 この日、サンフレッチェが、いい形を作りながら攻め切れなかったのは、中2日の連戦の疲れもあるが、攻め急ぎを抑えきれなかったためではないかと思った。
 アルアハリのエルバドリー監督も「サンフレッチェについては十分に調べて対策を立ててきた」と語った。
 相手が真剣に取り組んでくると、アジアのレベルで世界の舞台で活躍するのは、まだ難しいということだろうか?

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サッカー日誌 / 2012年12月12日


トヨタ・クラブW杯観戦記(1)


サンフレッチェを育てたJリーグ

1回戦
サンフレッチェ広島 1-0 オークランドFC
(12月6日 横浜国際総合競技場)

★「遊び心」のパーフォーマンス
 クラブ・ワールドカップの1回戦を見に行った。日本の新聞には「1回戦」と書いてあるが、公式には「準々決勝へのプレーオフ」と呼ぶらしい。いわば「予備戦」である。
 予備戦ではあっても、なかなかの好試合だった。
 まず、サンフレッチェ広島の戦いぶりが良かった。
 Jリーグに初優勝し開催国の特典で出場権を得たチームである。国際的な経験の少ない地方チームである。
 にもかかわらず、のびのびと楽しんで試合をしていた。
 後半21分に得点したとき、全員が集まって「パーフォーマンス」をした。「魚釣りパーフォーマンス」というタイトルで、あらかじめ準備してあったのだという。「2点目、3点目のパーフォーマンスも用意していた」ということだった。
 「そんな遊びをするより2点目を取りにいけ」と大久保彦左的苦言を呈したいところだが、Jリーグ20年の間に、こういう「遊び心」も育ったのだろう。

★余裕のある試合運び
 広島は、引いて守る相手を無理に崩そうとはしないで、中盤でパスをつないで、チャンスをうかがった。
 ボール扱いのテクニックで相手を上回っている。しっかりとボールをキープしていれば、90分のうちには、いつか相手の守りに「ほころび」ができる。そのチャンスを確実に生かせばいい。攻め急いで力ずくの競り合いに持ち込まれ、荒っぽい攻め合いになっては広島の良さを出せない。そういう余裕のある試合運びができる広島の成長に感心した。
 みなボール扱いがうまい。サイドチェンジの長いパスが正確に届き、受けるほうはしっかりと止める。サイドへ出すか、相手の裏を狙うかの判断も、おおむねいい。
 こういう広島の良さを、高いレベルの相手に出せるかどうかが、これからの課題だろうと思った。
 青山敏弘が決勝点。このミドル・シュートはみごとだった。

★アマの多国籍軍団
 オークランド・シティFCも、よくがんばった。ゴールキーパーが何度もピンチを凌いだ。終盤の猛反撃はスリリングだった。
 オークランドは多国籍軍団だ。ニュージーランド人のほかに、スペイン4人、イングランド、ウェールズ、日本、コスタリカ、アルゼンチン各1人が登録されている。監督はスペイン人である。
 それでも選手たちは「アマチュア」だという。「だからプロのJリーグのチームを相手に、まともには戦えない」とトゥリブリエッチ監督は弁解した。
 しかし、サンフレッチェ広島とオークランドとの違いは、プロとアマの差というより強い相手との試合の経験の差ではないかと思う。
 広島はJリーグの試合で、もまれて成長した。だがオークランドは、地域内で同じレベルのライバルがいない。それが、この地域のサッカー向上の障害だろうと思う。

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