サッカー日誌 / 2009年12月30日


天皇杯全日本選手権(1)


仙台・関口訓充の技能と資質に注目!
準決勝 ガンバ大阪 2対1 ベガルタ仙台
12月29日(火) 国立競技場 

★後半の同点ゴールをアシスト
 天皇杯準決勝、東京・国立競技場で行われた試合で、ベガルタ仙台の関口訓充(せきぐち・くにみつ)のプレーに感心した。後半13分、1対1の同点に追いついたときのアシストである。
 後方の田村直也が右コーナー近くのスペースに長いパスを出した。そこへ関口が走りこんだ。ガンバの主将、山口智がマークして並走した。
 関口はボールをぴたりと止めると、くるりと反転して山口を置き去りにし、ペナルティエリアのなかに、すばやいドリブルで入り込んだ。そして絶妙のタイミングでゴール前に低いパスを通した。走りこんだ中原貴之がしっかり合わせて叩き込んだ。
 関口が一瞬のうちにマークの山口をかわしたのに、びっくりした。しかし、記者席からは、いちばん遠いコーナーだったので、よくは見えなかった。

★周りを見てのトリッキーなプレー
 録画しておいたテレビの映像を、帰宅してから、その部分だけ繰り返し見た。
 関口は右コーナー付近のスペースに走りこみながら、並走している内側の山口を、ちらっ、ちらっと見ている。また、外側(後方)からカバーに戻ってきている相手も、ちらっと見ている。
 そして、ボールを止めた瞬間に、右足のかかと近くでボールを引き、立ち足の左足の後ろを通して反転している。山口は一瞬の意外なプレーに反応できなかった。
 高速で走りながら、周囲を観察してトリッキーなプレーを選択した。その個人戦術の能力とテクニックに感心した。
 反転したあと、とまどう相手の守りの網の隙を縫うようにして、ペナルティエリアのなかに入り込んだ。その判断の速さもドリブルもすばらしい。
 
★日本代表で使いこなせないか?
 ガンバの先取点は前半3分、ルーカスのオーバーヘッド・キックだった。ゴールキーパーのパンチをゴール前の混戦のなかで拾って曲芸キックを決めた。個人技のゴールだが、立ち上がりに激しく動いて相手を押し込もうとしたガンバの狙いが実ったともいえる。
 そのあとは、仙台の逆襲速攻が出るようになり互角に近い展開だった。しかし、同点の7分後の後半20分に、ガンバのパスの組み立てが、仙台の守りに隙を作り、ルーカスが2点目を決めて勝ち越した。
 仙台はJ2で51試合のリーグ戦をこなして優勝したあと、天皇杯では、大宮、FC東京、川崎とJ1勢を連破して準決勝に進出してきた。関口のような技能と資質のあるプレーヤーを生かして使ってきたのが成功したのだろうと思った。24歳、まだ若い。欠点もあるのだろうが、日本代表でも使いこなせないものだろうか?

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サッカー日誌 / 2009年12月23日


映画「マラドーナ」


映画「マラドーナ」 MARADONA PAR KUSTURICA 
(スペイン、フランス合作 2008年)
12月12日(土)~東京の「シアターN 渋谷で上映、各地で順次上映予定

★5人抜きを生んだ頭脳
 「クストリッツア監督によるマラドーナ」というのが、このセミ・ドキュメンタリー映画の原題である。実物の2人が出演し、過去の記録映像がふんだんに使われている。
 1986年メキシコ・ワールドカップのアルゼンチン対イングランド戦で演じた「5人抜きゴール」の映像が繰り返し出てくる。
 この「世界最高のゴール」を、ぼくはアステカ・スタジアムの現場で見た。そのときは、マラドーナのテクニックとスピードに驚嘆したが、この映画でそのシーンを繰り返し見て、イングランドの守りを次つぎに抜く、その瞬間、その瞬間のマラドーナの頭脳の「ひらめき」こそが、あのゴールを生んだことに気がついた。
 高速でドリブルしながら周りを見て、相手の出方を瞬時に判断し、次のプレーを選択している。あのゴールは、スピードとテクニックと頭脳の所産である。 

★政治やFIFAへの批判も
 マラドーナのスピードは両親から受け継いだ遺伝子の「おかげ」である。テクニックは貧しい家の狭い裏庭での遊びで身につけたものである。サッカーのプレーについての頭脳は裏町のストリート・フットボールや町の小さなクラブの試合の積み重ねのなかで養われたものである。
 教育によって英才を育てることができ、組織プレーだけによってワールドカップで勝てると信じている人びとに、この映画を見てもらいたいと思う。
 この映画のなかで、マラドーナは英国を批判し、米国を批判し、FIFAを批判する。話しぶりは激情的すぎるかもしれないが、反逆児の鋭い直感が核心をついている。
 マラドーナを「天才だがサッカーばか」と思いこんでいた人たちは、政治や経済について発言する「サッカーばか」に目をみはるだろう。
 
★「知的好奇心」を刺激する映画
 この映画を理解するには、いろいろな知識が必要である。
 サッカーと映画について、マラドーナとクストリッツア監督について、マルビナス(フォークランド)紛争とセルビア動乱について、北米とラテン・アメリカについて、新自由経済と地域貿易協定について、音楽のタンゴとロックについて、麻薬と心について、などなど。
 こういう問題のすべてを知っている人は、ほとんどいないだろう。だから、この映画を見た人の多くは、マラドーナを知るために、いろいろな問題を、もっと知りたいと思うだろう。そういうわけで、これは「知的好奇心」を刺激する映画である。
 サッカーについても、まだまだ知らないことが、たくさんあることに気がついた。
 また「人間」つまり「ヒトと社会」について、さらに考えなければならないと思った。
 
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サッカー日誌 / 2009年12月20日


村田忠男さんの思い出


元日本サッカー協会副会長 
12月11日(金)死去、77歳。 

★サッカーの功績をしのぶ告別式
 村田忠男さんが亡くなった。つい1年ぐらい前に、サッカー協会のパーティーで、お目にかかったときに「知能障害者のサッカーの面倒をみているので応援してくれ」と元気に話していたのに、肺がんに侵されていたらしい。
 14日(月)の正午からご自宅近くの川崎市宮前区で告別式があった。宗教色がなく、音楽とお花をささげる簡素な「お別れ」だった。日本サッカー協会名誉副会長の釜本邦茂さんと、関学と三菱の両方で後輩にあたる清水泰男さんが弔辞をささげた。
 お二人の弔辞でも、新聞などの追悼記事でも、主として村田さんが協会役員として、Jリーグ発足や2002年ワールドカップ招致に果たした役割が紹介されていた。しかし、遺影を見上げながら、ぼくの脳裏に浮かんだのは、それよりも、ずっと以前、半世紀近く前に新三菱重工の選手兼監督をしていたころの面影だった。
 
★「実業団時代を語る」座談会
 1961年7月に新潟で全日本実業団選手権大会が開かれたとき、ベスト4に残ったチームの監督を集めて「実業団時代を語る」という座談会をしたことがある。そのころ、協会の雑誌編集をボランティアで手伝っていた朝日新聞記者の中条一雄さんと読売新聞記者の牛木が企画したものである。協会の雑誌「サッカー」の第12号に掲載されている。
 1950年代まで、日本のサッカーは大学リーグが中心だったが、このころから実業団(会社)チームが力をつけ始めてきた。3年後の東京オリンピックを見通して、今後は実業団が中心になるだろう。そういう考えで企画した座談会である。
 準決勝が終わった夜に宿舎の旅館で開いた。翌日に3位決定戦と決勝戦があるから、4強の監督さんは必ず残っている。それで出席者と期日と場所を選んだ。そのとき、ぼくが想定していた4強は古河電工、日立本社、八幡製鉄、東洋工業だった。

★Jリーグ時代への基礎作り
 ところが座談会前日の準々決勝で新三菱重工が、東洋工業を破って進出した。その新三菱の監督兼選手が村田さんである。村田さんは、ぼくの想定外で座談会に参加した。
 この座談会の「隠れたテーマ」は、当時の協会幹部と全日本(代表)強化への批判だった。村田さんは「全日本の合宿に行ってヘタになるってわけじゃないけど……チームのために直接役に立たないことをやる場合がある」と遠慮がちに述べている。その後、実業団による「日本リーグ」をへて、プロ・クラブによる「Jリーグ」の時代が来た。会社チームで苦労した村田さんたちの基礎作りが実ったのである。
座談会出席者は村田さんのほか、長沼健(古河)、鈴木徳衛(日立)、寺西忠成(八幡)だった。とうとう、4人とも、この世の人ではなくなった。この人たちに育てられて、その後の協会の幹部になった後輩たちは、先輩の労苦をきちんと評価しているのだろうか?

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サッカー日誌 / 2009年12月12日


ワールドカップ2010抽選会(下)


アフリカ開催の意義と理念
12月4日(金)南アフリカ・ケープタウン

★マンデラ元大統領のメッセージ
 ワールドカップ組み合わせ抽選会では華やかなエキジビションとお偉方のスピーチがある。南アフリカ大会の抽選会でも、その一部が日本へのテレビ中継で伝えられた。
 そのなかで、最初に出てきたネルソン・マンデラ元大統領のメッセージが印象的だった。かつて白人支配の国だった南アフリカで、人種隔離政策に抵抗して長年の獄中生活を送り、黒人が権利を回復したあと大統領になった。ノーベル平和賞を贈られ、その名前と業績は世界に広く知られている。
 マンデラ元大統領のメッセージは、会場に設けられた巨大なスクリーンにビデオで映し出された。大会開催の理念と意義を世界に伝えるために、もっともいい機会であり、もっともいい人選だった。短いメッセージのなかに、アフリカでワールドカップを開催することの意義と理念が、理路整然と簡潔に表現されていた。

★外へ向けて発信し、内の大衆に遺産を
 マンデラ元大統領のメッセージはまず、スポーツは人々を励まし、団結させるものだと述べた。次にサッカーは、世界の人びとの心を動かすスポーツだと述べた。
 そのサッカーの世界最高の大会が、アフリカ大陸で初めて開催されるのは、非常に意味のあることであり、南アフリカが開催国に選ばれたのは光栄であると述べた。
 そのうえで、ワールドカップの開催は、南アフリカ共和国の将来に「遺産」を残さなければならないと締めくくった。
 ワールドカップ2010は、世界の人々にアフリカの社会と文化を伝え、偏見をただすことになるだろう。地球社会の中でアフリカの地位を向上させる機会になるだろう。
 しかし、南アフリカ共和国が単に舞台を提供するだけであってはならない。大会開催は、南アフリカ共和国の大衆の役に立つものを残さなければならない。
 
★新しい国の姿と文化を伝える
 ワールドカップでも、オリンピックでも、開催する意義や理念がある。それを分かりやすく人びとに伝えて理解してもらわなければならない。
 前回のドイツワールドカップは、東西が統一されたドイツの姿を世界に見せる機会になった。また成熟したサッカーの先進国として「友好」をスローガンに掲げ、子どもも大人も家族ぐるみで楽しめることを大会のマークにも表現していた。
 1964年の東京オリンピックは、敗戦の痛手から復興しつつある日本の姿を伝え、日本の国民に自信と勇気を与えるものとなった。世界に対しては平和を訴え、国民に対しては国の誇りを強調し、大会のマークは五輪と日の丸だった。
 南アフリカ大会抽選会のエキジビションでは、独特のリズムのダンスが披露されていた。ダンサーの多くは黒人だが、白人も混じって新しい国の文化を伝えていた。

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サッカー日誌 / 2009年12月07日


ワールドカップ2010抽選会(中)


グループリーグを、どう戦うか?
12月4日(金) 南アフリカ・ケープタウン

★バランスのとれた組分けに
 ワールドカップのグループ分け抽選は、バランスのとれた結果になった。
 抽選の前に32チームを8つずつ、4つに分類しておく。これをポット(壺)と呼ぶ。同じ壺に入った国は、グループリーグの同じ組には入らないような仕組みで抽選する。
 第1ポットには優勝候補になるような強豪国が入っている。したがって強豪国同士がグループリーグで激突することはない。逆に言えば他の国は必ず強豪国の一つと当たることになる。ただし一つだけ例外があって、南アフリカは強豪国ではないが第1ポットに入っている。つまり、南アフリカだけは、第1シードの強豪国とは当たらないわけである。
 ところが、抽選の結果、フランスが、南アフリカと同じA組に入った。フランスは本来なら第1ポットに入っていてもいい力と実績のある国だ。結果的に、すべてのグループに強豪国が配分されることになり、地元も特に有利にはならなかった。

★「死の組」と「激戦グループ」
 フランスが第1ポットの強豪国にシードされなかったのは、欧州から13カ国も出場しているので、第1の壺に入りきれなかったからである。はみ出した欧州の国は第4ポットに入れられたが、その中にはフランスのほかにも、第1ポットに入っておかしくない強豪国があった。ポルトガルである。
 そういうわけで、ポルトガルが入った組は強豪国が2つになる。ポルトガルは、ブラジル、コートジボワール、北朝鮮のG組に入った。2チームがベスト16に進出できるのだから2つの強豪国にとっては問題ではないが、他の2チームにとっては「不運な組み合わせ」である。コートジボワールが相当な力を持っているのであれば、三つ巴のいわゆる「死の組」になる。強豪国以外の3チームの力が接近しているグループは、2枚目の切符をめぐる「激戦グループ」になる。  
 
★挑戦者として「1戦必勝」で
 多くのグループには、強豪1カ国とややレベルの低い1カ国があって、残り2国のベスト16争いというところだろう。とはいえサッカーのことだ。どんな波乱も起こりうる。
 E組はどうか。オランダ、デンマークの欧州2チームが格上であれば、日本とカメルーンにとっては「不運」ということになる。日本はカメルーンとの勝負に全力を尽くしたうえで、格上2チームに挑戦者としてぶつかり、波乱を狙わなくてはならない。
 オランダが一つ抜けていて、残り3カ国の力が接近しているのであれば「激戦グループ」である。こういう想定だと「戦い方」は難しい。第1戦のカメルーンには勝たなければならないが、デンマークとの勝負の前に格上のオランダとの対戦があるからだ。オランダ戦に死力を尽くして敗れ、最後のデンマーク戦に余力がないようなら勝ち目はない。ぼくなら挑戦者として「1戦必勝」で戦うことを選ぶが、岡田監督はどう考えるだろうか?

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サッカー日誌 / 2009年12月06日


ワールドカップ2010抽選会(上)


第1戦、対カメルーンが「勝負」
12月4日(金) 南アフリカ・ケープタウン

★一般紙が夕刊一面トップ
 ワールドカップ2010南アフリカ大会の組み合わせ抽選会が、12月4日夜にケープタウンで行われた。日本時間では5日の午前2時過ぎからだったから、東京の一般紙の朝刊最終版締め切りには間に合わず、夕刊回しになったが。それでも、ほとんどの新聞が一面トップで大々的に扱ったのに驚いた。39年前、ぼくが初めて読売新聞から1970年メキシコ大会取材に行ったころは、大会本番の記事でも、スポーツ面の片隅に、やっと載せてもらえたものだった。「隔世の感」とは、このことだ。
 多くの読者の関心事は、グループ分けが日本に有利かどうかだっただろう。しかし、実は組分けによる有利不利は、あまりない。なぜなら、1次リーグでは同じアジアの国とは同じ組に入らないような抽選の仕組みになっており、どのような組み合わせでも、まず他の3チームは日本よりレベルの高い国になるからである。

★評価がいちばん低いのは日本
 日本はE組でオランダ、カメルーン、デンマークと対戦することになった。岡田監督は、抽選会後のテレビ・インタビューで「ベスト4をめざす目標に変わりはない」と言っていたが、世界各国のサッカーに詳しい人々に意見を求めたら、誰でも「この組で決勝トーナメントに進出する可能性が、もっとも低いのは日本」というだろう。それが現実である。
 日本の第1戦の相手は、アフリカのカメルーンになった。この1戦は、どちらが、まず脱落するかを決める試合になる。勝ったほうは残り2試合で展開に恵まれれば、グループ2位以内に入って決勝トーナメントに進出できる可能性がある。 
岡田監督が高い目標を掲げるのは勝手だが、4強に進出するには、まず1次リーグを突破しなければならない。1次リーグを突破するには、まず、第1戦に勝たなくてはならない。カメルーン戦が「勝負」である。

★まず、アフリカを上回ること
 組分け抽選の結果で重要なのは「どの国と同じ組になるか」ではない。日本にとっては、どの国も強敵である。問題は「どういう順番で」「どの会場」で当たるかである。
 世界のサッカーの地域的なレベル分けでは、アジアが一番低く、アフリカあるいは北中米が次に低い。
 日本はアジアの中ではトップクラスである。次の目標は「アフリカを上回ること」でなければならない。そのアフリカを代表するチームと最初に当たることになったのは、大いに意味がある。
 第1戦の場合は、早めに現地に乗り込むこともできるし、相手を想定して練習する時間も十分ある。チームの調子を第1戦に照準を合わせピークに持っていくことも、第2戦以降よりやりやすい。初戦でアフリカに勝つことに全力を挙げるべきである。

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