サッカー日誌 / 2014年03月28日


続・新国立競技場の問題点(下)


「味スタ」をメーン・スタジアムに

第71回日本サッカー史研究会
(3月17日 JFAハウス会議室)

★反対するには代案が必要
 神宮外苑の新国立競技場建設に反対の催しが、あちこちで行われている。しかし、問題を指摘するだけ、反対するだけでは説得力がいま一歩だ。代わりの案を示す必要がある。
 「日本サッカー史研究会」の3月例会で後藤健生さんから「国立競技場100年」の話をきいたとき、ぼくが考えている代案を示した。
 その後、少し修正した牛木案には三つのポイントがある。
1.神宮外苑の整備計画は白紙にする。
2.東京五輪の主競技場は「味の素スタジアム」とする。
3.ラグビーW杯メーン会場を大阪の花園に建設する。
 神宮外苑の再整備は非常に重要な問題を抱えているので現在の競技場の保存も新競技場建設も含めて、すべてを白紙とし都民の生活全体を考えて都市計画から練り直すのがいい。スポーツの立場だけで考えるのはやめにしたい。

★味スタを陸上競技センターに
 2020年東京オリンピックの開閉会式と陸上競技のためには現在の味の素スタジアムを改修する。周辺の敷地が十分あるので仮設を含めて8万人収容のスタンドを設けるのは困難ではない。もともと東京都のものだから土地買収の手続きや経費は必要ない。
 補助競技場(サブトラック)があるのでオリンピックのあとも陸上競技場として使える。オリンピック後に陸上競技のセンターとして活用できるような施設にするといい。
 多くの五輪施設が集まる東京湾岸から離れているので、招致のときに掲げた「コンパクトな五輪」というコンセプトには反するが、会場を分散することには混雑を緩和できるなどの利点もある。
 必要なら選手村の分村を作り、将来は陸上競技センターの合宿所にしてはどうか。

★W杯ラグビーは花園で
 新国立競技場は、2019年のラグビー・ワールドカップのメーン会場にも予定されている。こちらの代案も用意しなければならない。
 現在の国立競技場の跡地にラグビーとサッカー専用の国立フットボール場を建設する案もあるが、外苑の環境整備を白紙から考える立場から、これは将来の問題にしておきたい。
 味の素スタジアムでラグビーのワ-ルドカップを行うことも考えられるが、味スタを陸上競技センターにする構想だからフットボールとの兼用は避けたい。フットボールは専用スタジアムで行われるようになってきているのが、世界の傾向である。
 そこで花園ラグビー場を大改装して、国際的にもトップクラスのラグビー・スタジアムにするのはどうだろうか?
 所有者の近鉄が東大阪市に寄贈を申し出ていると伝えられている。東大阪市もW杯会場に名乗りをあげるという。
 なんでも東京中心という考えから抜け出して、地方のスポーツ振興に役立てたいと思う。

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サッカー日誌 / 2014年03月27日


続・新国立競技場の問題点(中)


五輪の暴力が都市計画を破壊

「神宮外苑と国立競技場を未来へ手渡す会」
第4回勉強会(3月24日 神宮前・建築家会館ホール)

★「このままで、ほんとにいいの」
 新国立競技場反対の第4回公開勉強会は「このままで、ほんとにいいの」というタイトルだった。主宰の森まゆみさんが女性の作家なので、こういう優しい表現になったのだろうが、議論の中身は司会の森さんの笑顔が不謹慎に思われるほど深刻だった。
 勉強会で聞いたところでは、新国立競技場を強行突破で建設することが与える害悪は、神宮外苑の景観を多少傷つける程度の生易しいものではないようだ。
 都市計画を破壊して都民の生活空間を無茶苦茶にし、日本の政策決定機能を横車で押し倒して行政を機能不全に陥れる暴挙である。
 勉強会の講師は建築と都市計画の専門家だった。そのなかで、柳沢厚さん(C-まち計画室代表、日本都市計画家協会理事)が、新競技場計画と風致地区、都市公園などによる規制との関係について解説した。

★計画の順序が逆立ち
 新国立競技場は、もともとの東京の都市計画による神宮外苑の規制では不可能なプランである。たとえば、建物の高さは20メートル以下でなければならないのに、新国立競技場のための外苑整備計画では70メートルのビルを建てることになっている。この制約をどうクリアしようとしているのかを柳沢さんが説明した。
 専門的で入り組んでいる問題を正確に要約するのは難しいが、理解した範囲で要点を紹介すると、新国立競技場のデザインが先にあり、それに合わせて、あとから東京都の都市計画を変更して、つじつまを合せたのである。
 本来なら都市計画によって外苑の在り方が決まり、そのなかで競技場をどうするかを考えなければならないのだが、順序が逆立ちしている。

◆社会と行政の根幹を揺るがす
 手続きの順序が逆立ちしていることについては、ぼくは2013年10月5日掲載のこのブログで指摘している。今回、専門家の話を聞いて、規制が緩和されたのだから、将来、70メートルのビルが、どんどん建てられる恐れがあると心配になった。
 二つのことを考えた。
 一つはオリンピックを「錦の御旗」に都民の生活空間を破壊しかねない計画が強行されようとしていることである。これは五輪の暴力である。間違った「五輪至上主義」が、日本の社会を脅かしている。
 もう一つは、既成事実を作っておいて、あとから規制を緩和したり、特例に当てはめたりして法律を骨抜きにするようなことが平然と行われていることである。これは日本の行政の土台を揺るがしかねない大きな問題である。
 新国立競技場建設は直ちに取りやめ、神宮外苑再整備計画は白紙の状態からやり直すべきである。

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サッカー日誌 / 2014年03月26日


続・新国立競技場の問題点(上)


スポーツ界から火の手を

「神宮外苑と国立競技場を未来へ手渡す会」
第3回勉強会(2月18日 神宮前・建築家会館ホール)

★五輪後には使えない
 明治神宮外苑の国立競技場を取り壊し、新国立競技場を建設するプロジェクトが始まっている。この計画にはいろいろ問題があり、反対運動も広がっている。
 反対運動の一つである「神宮外苑と国立競技場を未来へ手渡す会」主催の公開勉強会へ行ってみた。2月の第3回は「スポーツ施設としての国立競技場を考える」というタイトルだった。
 新国立競技場への反対は、主として神宮外苑の景観破壊の点から論じられているが、差し迫っているのは「スポーツにとって役立たない」ものが、スポーツの名において、莫大なお金を使って建設されようとしていることである。
 新国立競技場は、2020年の東京オリンピックのメーン・スタジアムとして使われたあとは、スポーツのためには使えなくなる。その危険にスポーツ界が気付いていない。これが大きな問題である。

★維持運営に税金は使えない
 「未来へ手渡す会」の第3回勉強会では鈴木知幸さんがパネリストとして、この問題を解説した。
 鈴木さんは、元東京都職員で2016年東京オリンピック招致課長だった。現在は順天堂大学スポーツ健康科学部客員教授である。ぼくの参加しているスポーツ政策研究会のメンバーでもある。
 新国立競技場がオリンピック後にスポーツで利用できなくなる最大の理由は、維持管理などの経費が掛かりすぎて使用料が高額になることである。公共施設の維持運営に税金を使えなくなっている実情を鈴木さんが説明した。
 また、陸上競技の補助競技場(サブトラック)がオリンピックのときは仮設で大会後は撤去される。したがって、その後は陸上競技場としては使えない。
 サッカーとラグビーにとっては、大屋根のドームだから芝生の育成がむずかしいという問題もある。

★なぜ沈黙しているのか?
 長い歴史を持つスタジアムが壊され、代わりにできる施設はスポーツに使えない。そういう危険が迫っているのにスポーツ界はなぜ沈黙しているのか?
 そういう「緊急メッセージ」を鈴木さんが発表した。
 日本体育協会と日本オリンピック委員会は、このメッセージにこたえて2020年以後の日本のスポーツの未来像を示す必要がある。そのなかで神宮外苑の施設をどうするかを考えなければならない。現在の計画が不都合なのであれば、ためらわずに変更を求めるべきである。「まず、スポーツ界から火の手を」である。
 ぼくは、この問題は早くからこのブログで取上げている。
 2013年4月~5月と10月の2度にわたって「東京五輪の問題点」を連載し、12月17日には「新国立競技場の問題点」を書いた。
 鈴木さんの緊急メッセージにこたえて、もう一度、新国立競技場反対論を蒸し返すことにする。


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サッカー日誌 / 2014年03月24日


外苑競技場の設計思想


小林政一の先見の明

第71回日本サッカー史研究会
(3月17日 JFAハウス会議室)

★トラックを400メートルに
 陸上競技場のトラックは1周400メートルである。それを当たり前だと思っていたが、最初から400メートルと決まっていたわけではないらしい。
 言われてみると「なるほど」と思う。
 「スタディアム」の語源は「スタディオン」という古代ギリシャの距離の単位だということだが、古代ギリシャがメートル法だったはずはない。
 近代スポーツ発祥の中心だった英国では、ヤード・ポンド法が使用されていた。メートル法の「1周400メートル」が標準だったとは思われない。
 ところが、現在の国立競技場の前身だった明治神宮外苑競技場は、1920年代の設計当初から1周400メートルのトラックだった。
 これは、競技場の実施設計を担当した内務省明治神宮造営極参与の小林政一の「先見の明」によるものだった。

★フットボールの隆盛を予想
 小林は、その当時の各国のスタディアムを研究した結果、1周400メートルのトラックが、もっとも適当であるという結論に達した。そして内側のフィールドには投擲や跳躍の施設を設けないでフットボール(サッカーとラグビー)のフィールドとした。
 「フットボールは、今後、著しき隆盛を見んとする傾向にある」ので、トラックの内側にフットボールのフィールドを取れるようにするのが将来の利用のためにいいという考えだった。内側のフィールドでサッカーやラグビーができるようにトラックの大きさを決めたのである。
 この話は後藤健生著『国立競技場の100年』(ミネルヴァ書房)のなかに書いてある。3月の日本サッカー史研究会で後藤さんに「国立競技場」の歴史について解説してもらったとき、後藤さんは、とくにこの点に力をこめて語った。

★将来を考えない新国立競技場
 外苑競技場を設計した小林政一は陸上競技場とフットボール場が両立しにくいことも見通していた。
 「我国に於いてもフットボール専用競技場の建造せらるるは遠きに非ざるべしと信ず」と書いているという。
 いま、国立競技場を取り壊して、新国立競技場を建設する計画が進んでいる。開閉式の屋根を持つ8万人収容の大屋内スタディアムに9コースの陸上競技トラックを設け、その内側にサッカーとラグビーのためのフィールドをとる壮大な計画である。
 ところが、この大屋内スタディアムは、2020年の東京オリンピックが終わったあとはスポーツでは使えそうにない。建設費と維持費が莫大なので、使用料がスポーツ競技会では手の届かない高額になりそうだからである。
 将来の利用を考えないで壮大なモニュメントを作ろうとしている関係者に、小林政一の爪の垢を煎じて飲ませたい。

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サッカー日誌 / 2014年03月16日


神宮外苑を舞台のスポーツ史


後藤健生『国立競技場の100年』
(ミネルヴァ書房 2013年12月 2,500円+税)

★外苑の施設を縦軸に
 後藤健生さんの『国立競技場の100年』を読んだ。
 単なる「スタジアム物語」ではない。明治神宮外苑のスポーツ施設の成り立ちと移り変わりを縦軸にして、社会情勢や世界情勢を織り込みながら日本のスポーツの発展のあとを辿った通史である。
 日本スポーツの通史は、これまで本になっていないようにい思う。
 陸上競技やサッカーなどスポーツごとの本はあり、日本体育協会史など団体の年史は出ているが、スポーツ全体を日本の社会の発展のなかに位置づけながら見渡した読み物は初めて読んだ。
 明治神宮外苑のスポーツ施設を「語り部」として話を展開した着想もおもしろい。神宮外苑競技場と、その後身である国立競技場は、日本のスポーツを100年にわたって見続けてきた。その物言わぬ国立競技場に語らせた歴史である。

★バランスのとれた内容
 国立競技場に語らせることによって、バランスのとれた内容になっているのもいい。
 過去の著作の中には、戦前のスポーツが軍国主義に利用された面ばかりを強調したものもあった。また体協の出版物はオリンピック中心主義で、アマチュアリズムを絶対視する立場から書かれていた。
 しかし『国立競技場の100年』は、著者がサッカー・ライターであるにも関わらず、サッカーに偏ってはいない。
 また、一つ一つの出来事については知っていても、通史として読めば新たに教えられるところも多い。
 たとえば、明治神宮競技大会の開催をめぐって、1920年代から当時の内務省と文部省が「縄張り争い」をしていたことが書いてある。100年近く後の現在、「スポーツ庁」の新設をめぐって厚生労働省と文部省が綱引きを演じているのは、その続きのようである。

★スポーツ関係者必読の書
 「読み物」として書かれているが、厳密な考証や詳細な説明が述べられている。
 大正時代の新聞雑誌から特殊な分野の研究論文まで広く資料を収集している。その努力には敬服のほかはない。
 巻末に参考文献の一覧が掲載されている。資料としても貴重である。スポーツ関係者の「必読の書」だと思う。
 ぼく自身にとっては、とくに興味深かった。1950年代に明治神宮外苑競技場の土を踏んだことがあり、1964年東京オリンピックのために国立競技場に改装された前後からは、スポーツ記者として、ほとんど、その現場に立ちあってきた。
 また、この本に出てくる多くの戦前、戦後のスポーツ界の中心人物に話を聞く機会が何度もあった。
 しかし、資料をもとにまとめられた、この本を読むと、自分の見聞の記憶が、かなり曖昧に思えてきた。
 貴重な取材の機会を何度も持ちながら、それを、しっかりと記録に残してこなかったことを、ジャーナリストとして恥ずかしく思う。



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サッカー日誌 / 2014年03月11日


W杯に備えてブラジル語講座


ブラジル・ポルトガル語入門
(毎週木曜 朝日カルチャー・センター新宿)

★ブラジルでは英語が通じない
 昨年の10月からブラジル・ポルトガル語の入門講座に通っている。毎週木曜、午後7時40分~9時である。
 コンフェデレーションズ・カップ取材に行ったとき、ブラジルでは英語がほとんど通じないのに閉口した。
 空港でも国内線のカウンターには英語を話せる係員がいない。ホテルも中級以下ではいない。
 それでワールドカップのときに、かたことでも話せるようになりたいと思い立ったしだいである。
 半年あまりの勉強で、ものの役に立つようになるとは思わないが、脳に異文化の刺激を与えて少しでも老化を遅らせることを狙っている。
 講師のエドウェーニ・ロウレイロさんはアマゾンのなかの都市マナウスの出身。弁護士で作家ということだが、大阪大学大学院に留学していたときに知り合った女性と結婚して日本に住んで語学教師をしている。

★サッカーファンのエド先生
 教え方がユニークである。入門だからといってABCから始めるわけではない。時どきの話題を拾って、必要な単語や表現を覚えさせる。
 12月にワールドカップの組み合わせが決まると、次の週の教材は国の名前だった。各グループの国の名前をホワイトボードに次つぎに書いて発音させる。
 日本の第1戦の相手はCOSTA DO MARFIMである。
 「どちらが勝つと思うか?」「スコアは?」など、次つぎに質問して答えさせる。先生が先に例を書いてくれて、それに倣って問答を繰り返すのである。
 びっくりしたのは、全部のグループの国の名前を暗記していてメモなしで書いたことだ。抽選の結果を熱心に新聞で読んで予想などを検討した結果に違いない。エド先生はサッカーファンのようだ。
 
★ブラジル・サッカー講座も
 人柄も教え方もおもしろいので続けているが、残念なのは受講者がたった3人しかいないことだ。マンツーマンに近いから勉強するにはいいだろうが、ちょっと寂しい。4月3日から6月5日までのⅢ期の募集をしているから、ブラジルに行く予定の人は、ぜひ加わって欲しい。
 言葉を覚えるのは慣れだから順序よく学ぶ必要はない。途中からの参加でも大丈夫だ。それに教え方が臨機応変だから「ワールドカップ行きに役立つようにして欲しい」と要望すれば、そのようにしてくれるだろう。
 この講座とは別に「サッカー観戦を楽しむブラジル・ポルトガル語講座」も募集中である。5月9日(金)と23日(金)の2回で「ブラジルのサッカー事情について日本語で解説も行います」とある。
 要望があれば、ぼくがボランティアでアシスタント講師をしてもいいと考えている。ワールドカップ取材11回連続の日本記録保持者だから資格は十分だと自信を持っているのだが……。


ユニークなエド先生
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