サッカー日誌 / 2015年06月28日


日本サッカー・リーグ50年(2)


日本のビジネスマンの力

JSL50年記念パーティー
(6月9日、品川プリンスホテル)

★椿山荘提言の実行
 日本サッカー・リーグ(JSL)の創立50年記念パーティーの席で、創立に参画した人たちの表彰があった。
 日本リーグ初代の総務主事になった西村章一さん(古河電工)、2代目の総務主事となった重松良典さん(東洋工業)、運営委員だった耳野篤広さん(日立本社)、本間良定さん(三菱重工)、西本八寿雄さん(古河電工)などである.
 日本リーグは、1964年10月25日の「クラマー椿山荘提言」から生まれたものである。
 「椿山荘提言」の多くは、そのころの日本のサッカーの状況からみれば、実現できそうにないことだった。
 そのため日本サッカー協会のなかでは「クラマー提言」を受けて、すぐに改革に乗りだす動きは見られなかった
 ところが「リーグ制」については、即座に実行への動きが始まり、早くも翌年の1965年にスタートした。
 それを推進したのが、今回、表彰された人びとだった。

★「丸の内ご三家」の功績
 原動力となったのは、当時「丸の内ご三家」といわれた大企業のサッカー部である。
 50周年のパーティーで表彰された顔触れに、それが表れている。古河電工、日立本社、三菱重工である。
 重松さんは広島の東洋工業だが、当時は東京勤務だった。
 表彰された顔触れをみて「日本サッカー・リーグが、すばやく実現したのは、すぐれたビジネスマンのおかげだった」といまさらながら気が付いた。
 大企業のエリート社員たちの実行力である。
 1960年代以降、日本経済の大躍進を推進したのは、こういう大企業のエリート社員だった。
 その人たちのなかに、大学でサッカーをしていた人たちがいた。
 そのエリート・ビジネスマンが「クラマー提言」に、敏感に反応したのである.

★サッカー改革を推進
 「丸の内ご三家」などの大企業に優秀なビジネスマンが集まっていた。
 その人たちが、1960年代の日本経済発展を推進した。
 同じ力が、サッカー改革も推進した。
 それが「日本リーグ創設」の原点だったと思う。
 そのころ、サッカー協会を運営していたのは、大学サッカーOBの長老たちだった。
 リーグ創設を推進した「丸の内ご三家」のビジネスマンも同じ大学のOBである。
 しかし、戦前と戦後の大学のあり方は、まったく違う。
 「丸の内ビジネスマン」の若い世代は、時代の流れを読む視野の広さと、過去にとらわれない「柔軟な考え方」を身につけていた。
 その違いが「クラマー提言」を受け入れる「敏感さ」に出たのではないか?



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サッカー日誌 / 2015年06月27日


日本サッカー・リーグ50年(1)


クラマー提言がはじまり

JSL50周年記念パーティー
(6月9日、品川プリンスホテル)

★椿山荘でのスピーチ
 日本サッカー・リーグ(JSL)の創立50周年記念パーティーが東京の一流ホテルで開かれた。
 会費5000円で700人が参加した。
 招待状を送ったのは、約3000人だという。
 めったにない大パーティーだった。
 日本サッカー・リーグは、いまのJリーグの前身である。
 プロ野球以外では、日本で初めての「全国リーグ」だった。
 日本サッカー・リーグが結成されたのは、デットマール・クラマーさんの提言によるものである。 
 クラマーさんは、1964年東京オリンピックの日本代表を指導するために、当時の西ドイツから招いたコーチである。
 東京オリンピックの閉会式の翌日、10月25日にクラマーさんの送別会が目白の椿山荘で開かれた。
 その席のスピーチで、クラマーさんは、日本のサッカーの将来のために5つの提言をした。

★リーグ制のメリット
 その提言のうちの一つが「リーグ制」の採用である。
 そのころ、日本のサッカーのトップレベルは、全国に散らばっている実業団(企業)チームだった。
 そのチームが、お互いに試合をする機会は、年に1度の全日本選手権と実業団選手権くらいだった。
 こういう全国大会は、1ヵ所で、1週間くらいの間に集中的に行われる「勝ち抜きトーナメント」だった。
 この方式では、1回戦で敗れたチームは、1度しか高いレベルのチームとの対戦を経験できない。
 その機会も、年に1、2度である。
 クラマーさんは「こういう勝ち抜きトーナメントでは、日本のサッカーの発展は望めない。強いチーム同士の試合を、日常的に多く行わなければならない。そのために、同じレベルのチームによるリーグが必要だ」と繰り返し、強く主張していた。

★アマチュアの「全国リーグ」
 当時の日本のトップレベルは、東京の古河電工、日立本社、三菱重工の本社チームと、広島の東洋工業、九州の八幡製鉄(のちの新日鉄)だった。
 そのほかでは、関東と関西の大学チームのいくつかが、トップレベルだった。
 実業団と大学が対戦する機会も少なかった。
 クラマーさんのアイデアは、実業団と大学のトップチームを含めて「全国リーグ」を結成することだった。
 これは実現困難な考えだった。
 当時の日本のサッカーは、すべて「アマチュア」だった。
 会社に勤めながら、あるいは大学に通いながら、毎週のように全国各地に遠征するのは難しい。
 その困難に思えるクラマー提案を実現したのが「日本サッカー・リーグ」である。


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サッカー日誌 / 2015年06月24日


FIFAの不祥事を考える(9)


再発を防ぐには?
W杯開催国決定の方法

★総会で決めるべきか?
 FIFAスキャンダルの中心だったテーマは「ワールドカップ開催国の決定」に関する贈収賄である。
 ワールドカップは開催国に大きな財政的利益をもたらす。
 そのため、複数の国が立候補して、激しい誘致合戦を、くりひろげる。
 そこで、開催国決定の投票権を持つFIFAの理事に対する贈収賄が起きる。FIFA理事は、20数名だから数人の理事の買収で結果を左右できる。
 そのため「ワールドカップ開催国は、理事会でなく総会で決定すべきだ」という改革案が出ている。
 総会は、200以上の加盟国・地域のサッカー協会の投票である。
 そうなると、加盟協会の多いアフリカなどの地域連盟が決定権を握ることになりかねない。
 これも問題である。
 これこそ、今後の課題だろう。

★「地域回り持ち」の得失
 ブラッター会長は「ワールドカップ開催国の地域持ち回り」を提唱していた。
 2002年日韓(アジア)、2006年ドイツ(欧州)、2010年南アフリカ(アフリカ)、2014年ブラジル(南米)、2018年ロシア(欧州)、2022年カタール(アジア)と、このところ、ほぼ「地域持ち回り」で進んでいる。
 ところが「地域持ち回り」に反対の声が出た。
 欧州は国の数が多く、ほとんどの国に開催能力がある。しかし「持ち回り」にすると、なかなか順番が回ってこない。
 アフリカは国の数は多いが、開催能力のある国は少ない。
 アジアは地域が広すぎる。
 中東も東南アジアも東アジアも「同じ地域」だということになると、これも、なかなか順番が回ってこない地方が出てくる。
 というわけで反対が多く、ブラッター会長は「地域持ち回り」の方針を撤回していた。

★「持ち回り開催」の復活を
 その矢先に、今回のFIFAスキャンダルが起きた。
 この機会に「地域持ち回り」のブラッター構想を復活させるべきだと思う。
 「地域持ち回り」の場合は、開催国は、その地域の連盟のなかで決めて、FIFAは総会で事後承認すればいい。
 地域によっては、開催能力のある国が限られていると心配する人がいるかもしれない。
 しかし、世界中のほとんどの国で、サッカーはもっとも重要なスポーツなので、スタジアムや観客動員や運営については、どこの地域の国でも、ほとんど不安はない。
 財政面では、収入の大半はテレビ放映権料である。
 テレビの電波は宇宙衛星に打ち上げて、地球上のどこへでも配られる。試合の開催地がどこであっても関係はない。
 「お金」にまつわる不祥事を完全に防ぐのは難しいにしても「持ち回り開催」は、一つの方法であると思う。
(この項、おわり)


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サッカー日誌 / 2015年06月23日


FIFAの不祥事を考える(8)


日本にまつわる疑惑

150万ドルを南米連盟へ?
(6月19日付、スペイン紙報道)

★「ありえない」巨額
 FIFAスキャンダルが、日本にも飛び火してきた。
 スペインのスポーツ紙「アス」が報じたもので、日本の新聞では、6月20日付けの朝刊あるは夕刊に転電された。
 2002年のワールドカップの開催招致に関して、日本サッカー協会の長沼健・名誉会長(当時)から南米サッカー連盟に対して150万ドル(約1億8500万円)が送られた、という内容である。
 日本サッカー協会の小倉純二名誉会長は「ありえない」と全面的に否定し、大仁邦弥会長も当時の帳簿を調べて「送金の記録はない」と22日に発表した。
 「ありえない」と、ぼく(牛木)も思う。
 公益法人として会計監査を受けている日本サッカー協会が、2億円近い[裏金]を作ることは不可能である。
 また、日本のサッカー関係者で、巨額の「お金」を個人のポケットから出せる人はいない。

★「ありえない」根拠に疑問?
 しかし、新聞に出ていた「ありえない」という根拠のなかには「もっともだ」とはいえないものもある。
 たとえば「送金が行われたという2000年は日韓共催がすでに決まったあとだ」という説明である。
 事前に約束しておいて、決まったあとに「謝礼」を送金するケースも考えられる。
 現に、米司法当局によって摘発された南アフリカの場合も送金は開催地決定後である。
 また、日本サッカー協会の会計記録にないからといって、贈収賄がなかったとはいえない。
 贈賄の「お金」を表向きの帳簿に記録するはずはない。
 なんらかの形で「裏金」を作り、いろいろな経路を通して送金が分らないようにする。南アフリカ大会の場合も、そういうマネー・ロンダリング(資金洗浄)が行われていた。

★南米会長とのつながり
 日本からの送金の大部分を受け取ったと言われているのは当時の南米サッカー連盟の会長、ニコラス・レオス氏ある。
 南米サッカー連盟の会長を27年間つとめた「大ボス」で日本にも、つながりのあった人は多い。
 サッカー協会と直接ではなくても、広告エージェントなどを通して、あるいは南米でエージェントをしている人物を通して「取り引き」が行われた可能性はある。
 日本サッカー協会とブラジルのサッカー界との間を取り持とうとして、日本サッカー協会から排除された人の話をきいたことがある。
 「日本サッカー協会の人たちは、現地の人たちの望みを理解しようとしない」というのが、その人の経験談だった。
 日本のサッカーには、組織としても個人としても、巨額の「お金」を動かせる力はない。
 また、外国の事情を理解しようとはしない。
 だから、スペインのスポーツ紙の報道は、間違いだろうと、ぼくは思っている。


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サッカー日誌 / 2015年06月22日


FIFAの不祥事を考える(7)


テレビ放映権との関係は?

NHK会長の定例記者会見
(6月4日、東京渋谷)

★W杯に直接の関係はない
 FIFAのスキャンダルをめぐって、誤解を招きそうな報道もあったように思う。
 その一つは、ワールドカップの放映権を、どこに与えるかについて、FIFA幹部の贈収賄があったような印象を与えたことである。
 米司法当局の発表をみた限りでは、そうではない。
 テレビ放映権をめぐって問題になったのは「北中米カリブ海の大会」の放映権に関する疑惑である。
 これは、北中米カリブ海サッカー連盟内の問題で、FIFAにも、ワールドカップにも、直接の関係はない。
 ワールドカップそのもののテレビ放映権は、FIFAの代理店を通じて、世界の各地域、各国に売られている。
 それが高額であることは確かだが、オリンピックや米国の大リーグに比べて、高過ぎるということはない。
 世界的な視聴率を考えれば妥当だと思う。

★ブラッター会長の功罪
 ワールドカップの放映権料はオリンピックに比べて安すぎた。それを「市場価格」にしてFIFAの収入を増やした。
 これは、ブラッター会長のした仕事である。
 その収入を、発展途上国のサッカーへの援助にあてた。
 これも悪くない。IOC(国際オリンピック委員会)も同じように途上国援助をしている。
 そういうように考えれば、ブラッター会長の業績は評価していいのではないか?
 問題はそういう「お金」が動くときに、一部のFIFA役員が私腹を肥やすのを防ぐことができなかったことである。
 その点は、明らかなブラッター会長の責任である。辞任は当然だと思う。
 しかし、テレビ放映権料そのものが「悪」であるとか「巨額すぎる」という意見には、簡単には同意できない。
 「木を見て森を見ず」ということになりかねない。

★籾井会長発言の意図は?
 このスキャンダルをめぐって、NHKの籾井勝人会長の談話が新聞に載っているのをみた。
 「放送権料が賄賂に回ったとは思いたくないが、スポーツのためにあって欲しくないことだ」
 当たり障りのない、ほとんど意味のない発言である。
 「放映権料が巨額すぎるために贈収賄が起こった」というのが、籾井会長の発言の趣旨だろうか?
 自由主義経済のもとでは、自由競争によって、ものの値段がきまる。
 世界では放映権料も例外ではない。
 ところが日本では、NHKを中心とする放送業界の「結束」が固く、スポーツの放映権料が低く抑えられている。
 「放映権料を安くすべきだ」というのが籾井発言の真意なのだろうか?
 そうだとすれば、そのほうが、問題である。



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サッカー日誌 / 2015年06月18日


FIFAの不祥事を考える(6)


テレビ・マネーによる途上国援助

ミャンマーの実例の報告
(サロン2002例会 6月13日)

★スキャンダルの「もと」
 FIFAのスキャンダルのもとは、主としてテレビ・マネーである。
 4年に1度のワールドカップをテレビで放送する権利を、FIFAが世界に売りつける。
 代理店を通じて、世界各国のテレビ局が買う。
 その金額が1年当たり、1千億円以上になる。
 その収入の中からFIFAは、アジア・アフリカなどの発展途上国のサッカー振興に助成してきた。
 途上国援助は悪いことではないが「お金」が動くところに利権が生まれる。
 それが、スキャンダルの「もと」である。
 そうであっても、テレビ・マネーは発展途上国のスポーツ振興におおいに役立っている。
 その実例を、たまたま知る機会があった。

★春日大樹さんの報告
 「サロン2002」という会がある。
 サッカーを中心にスポーツ文化を考える「勉強会」である。
 その6月例会で、ミャンマー(ビルマ)のサッカーを見てきた人の報告があった。筑波大学・大学院人文科学研究科院生の春日大樹さんである。
 ミャンマーへ研究調査のため旅行した。
 その旅行記をパソコンで映像を見せながら紹介した。
 そのなかにヤンゴン(ラングーン)のトレーニング・センターを訪ねた場面があった。
 その施設の標識にFIFAという文字があった。
 また、FIFAと表示された掲示板が映し出された。
 FIFAの援助によって建設された施設であることは明らかだった。
 FIFAのテレビ・マネーの多くは、このように使われている。

★有効に使われている援助
 FIFAの不祥事を弁護するつもりは、まったくない。
 しかし、テレビ・マネーを悪用したのは一部の役員である。
 その一部の役員の悪事のために「テレビ・マネーはよくない」とか、「発展途上国への援助は弊害が多い」というような議論をするのは間違っている。
 多くは、ミャンマーの実例にみるように有効に使われているだろう。
 それを明らかにするために、援助によって作られた施設にFIFAの証明標識が掲示されていることを、ミャンマーの施設の映像から知ることができた。
 子どもたちがサッカー・スクールで元気に試合をしている場面もあった。真新しいボールがたくさん並んでいた。
 ミャンマーの社会は、まだまだ貧しい。サッカーの用具を準備するのも容易ではないらしい。
 真新しいボールも援助のおかげだろうと思った。


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サッカー日誌 / 2015年06月14日


FIFAの不祥事を考える(5)


次の会長は誰か?

プラティニ、鄭夢準会談(6月9日、ベルリン)
ジーコ記者会見(6月10日、リオデジャネイロ)
 
★欧州か、南米か
 FIFA会長の後任は誰になるだろうか?
 ブラッター会長が辞意を表明すると、すぐに名乗り出た人たちの名前が伝えられた。
 第一は、欧州サッカー連盟会長のプラティニ(フランス)である。
 ブラッター会長はスイス出身ではあるが、欧州連盟の代表ではなかった。
 もともと、欧州連盟の代表と争って会長になったいきさつがある。それも前任者のアベランジェ会長(ブラジル)のサポートを受けてのことだった。
 欧州連盟としては、FIFA会長の座を取り戻したいところである。
 南米からは、ジーコ(ブラジル)が名乗りを上げた。
 ブラジルのスポーツ大臣を務めたことがあるから、政治的野心があっても、おかしくはない。

★韓国の鄭夢準も
 アジアからは、韓国のチョン・モンジュン(鄭夢準)の名前が出ている。
 アジア連盟を代表してFIFAの副会長を務めている。国際サッカー界での経歴は十分である。
 現代財閥の一族で資金力がある。FIFAに公金流用のスキャンダルがあるなかで、自分の「お金」で活動できる人物である。「お金」についての疑惑を受けないで済む。
 欧州連盟のプラティニと会談したというニュースが伝えられた。自身が会長にならなくても、キャスティング・ボートを握って影響力を伸ばすことは考えられる。
 今回のFIFA総会の会長選に立候補したヨルダンのフセイン王子が、また立候補する可能性もある。
 王子だから「お金」については、心配のない人物である。しかし、欧州、南米、アジアから、何人もの立候補者がでてくると票を伸ばすのは難しいだろう。

★カギを握るアフリカ
 次のFIFA会長の大きな課題は「テレビ・マネー」の配分である。
 サッカー・ワールドカップのテレビ放映権料の総額は、オリンピックのテレビ放映権料の総額を上回る。
 アベランジェ前会長の時代は、テレビによるサッカーの普及を重視して、テレビ放映権料の要求を抑えていた。しかし、オリンピックを下回るテレビ・マネーに不満が出ていた。
 ブラッターは、高額のテレビ・マネーを獲得して、アジア・アフリカなどのサッカーを援助することを掲げて、会長に選ばれた。
 アジア・アフリカの多くの国は、次の会長が援助を続けてくれることを望むだろう。しかし、それはスキャンダルの原因となったテレビ・マネーの問題を解決する妨げになる。
 アフリカの加盟国は多い。FIFA会長の選挙のカギを握っている。そこが問題である。


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サッカー日誌 / 2015年06月12日


FIFAの不祥事を考える(4)


贈収賄のお金の流れ
資金洗浄の一例

★南アからCONCACAFへ
 FIFAの贈収賄スキャンダルのなかで、お金の流れが,かなり明らかになったのは、2010年南アフリカ・ワールドカップ開催決定をめぐる動きである。
 最終的には、南アフリカから北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)代表のFIFA理事に賄賂が渡った。
 一般論として整理してみよう。
 FIFAからW杯開催国に援助金が出る。
 その一部が、直接、開催国には送られずに、開催国が指定した他地域の連盟の口座に振り込まれる。そして、その地域連盟代表のFIFA役員の懐に入る。
 開催国の組織委員会にとっては、FIFAから受け取るべき資金の一部を掠め取られたことになる。
 しかし、かりに、その金額を開催国の政府が地元大会組織委員会への助成に上乗せしてくれれば、地元の組織員委員会の損失は帳消しになる。
 結果的には、開催国政府が他地域連盟の役員に「お金」を渡したのと同じことになる。

★マネー・ロンダリング
 送金は、ワールドカップ開催国が決まったあとになる。
 地域連盟代表のFIFA理事は、開催地決定の投票の前に賄賂を要求し、開催地が決まったあとに送金を受ける。
 お金は開催国から直接、役員個人に渡るわけではない。
 FIFAと地域連盟の口座を経由する。
 その間の送金には、それぞれ、合法的な名目がある。
 しかも、送金は開催地決定後である。
 というわけで、贈収賄の動機も受け渡しの経路も、分かりにくくなる。
 これは「マネー・ロンダリング」(資金洗浄)の一つの例である。
  2010年大会については、立候補していたモロッコも賄賂を要求されたと報道されている。

★モロッコからも申し出
 モロッコは100万ドル(約1.2億円)の提供を申し出た。
 一方、南アフリカは1000万ドル(約12億円)だった。
 そういう捜査結果が報道されている。
 その金額の差が決め手になったのかもしれない。
 モロッコは落選したので、賄賂を支払わなくても済んだのだろう。
 そうだとすれば、これも巧妙な手口である。
 選ばれれば「お礼の賄賂」を払うが、そのお金はFIFAからの開催助成金で埋めることができる。
 収賄側は多くの金額を提示したほうに協力するだろうが、どちらに転んでもお金は入ってくる。
 いずれにせよ、賄賂のお金の「出どころ」はFIFAである。
 そのFIFAの資金の「出どころ」は、ワールドカップのテレビ放映権料である。


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サッカー日誌 / 2015年06月10日


FIFAの不祥事を考える(3)


ブラッター会長の辞意表明

南アW杯誘致への関与?
(緊急記者会見・6月2日、チューリッヒ)

★5選から4日後に
 FIFA(国際サッカー連盟)のブラッター会長が、5選からされてから4日後に、チューリッヒのFIFA本部で緊急記者会見をして辞意を表明した。
 突然だったので、集まった記者は15人だけだったという。
 わずか10分の会見で、質問も受け付けなかったから「辞意表明」の理由が何であったのかは明確でない。
 「サッカー界全体から支持されていると感じられない」という本人の説明には、まったく説得力がない。
 FIFAにまつわる贈収賄疑惑の追及が、自分自身に及ぶことを知ったためだろう、と推測するほかはない。
 メディアは「贈収賄疑惑に会長が関与していたことについて、米国の司法当局が捜査している」と報じていた。
 辞意表明によって、少しでも風当たりを弱くしようとしたのかもしれない。

★NYタイムズの特報
 「自分は贈収賄に関係ない」と主張していたブラッター会長が、急に弱気になった。
 その原因は、南アフリカ・ワールドカップの誘致にからむ賄賂の送金にFIFA事務局長が関わっていたという、ニューヨーク・タイムズのスクープではないだろうか?
 今回のFIFAスキャンダルのなかで、南アのW杯誘致にからむ贈収賄は、もっとも重要なケースだった。
 筋道は入り組んでいるが、米司法省の起訴状とニューヨーク・タイムズなどの報道をもとに整理してみよう。
 2010年のワールドカップの開催は、南アフリカ、モロッコ、エジプトが争っていた。
 北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)を代表してFIFA副会長になっていたジャック・ワーナー(トリニダード・トバゴ)が、南アフリカに投票する見返りに、1千万ドル(約12億円)を要求した。

★不正送金にからむ
 南アフリカ側は、南アフリカ政府が北中米カリブ海のサッカー振興を援助する名目で送金することを約束した。
 しかし、南ア政府は資金を出さなかった。明らかな贈賄に公金を出せない。当然だろう。
 そこで別の方法が案出された。
 FIFAはワールドカップ開催国に資金を援助している。
 その開催援助金のうちの1千万ドルを、南アフリカ側の指定で、FIFA口座から米国フロリダ州の北中米カリブ海サッカー連盟の口座に振り込む。
 それが北中米カリブ海サッカー連盟を握っている個人に渡る。
 そういう筋書きである。
 FIFAの口座から北中米カリブ海サッカー連盟の口座に振り込む手続きをしたのは、FIFAのジェローム・バルク事務局長だった。ブラッター会長直属の部下だから、会長の責任も免れない。 
 これが、ブラッター辞意表明の直接の原因ではないか?


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サッカー日誌 / 2015年06月08日


FIFAの不祥事を考える(2)


自主性の見えない日本の対応

ブラッター会長5選
(FIFA総会 5月29日、チューリッヒ)

★会長選挙への影響
 FIFA(国際サッカー連盟)が、チューリッヒで開かれていた総会で会長選挙を行う直前に、副会長など14人が米国の司法当局から起訴される事件が起きた。
 ワールドカップ招致やテレビ放映権をめぐって、贈収賄があったという容疑である。
 この事件がFIFA会長選挙に、どう影響するかが、注目された。
 立候補していたのは、ブラッター会長とヨルダンのフセイン王子だった。
 ブラッター会長には、直接の容疑は掛けられていないにしても、これまで16年間の在任中に起きた不祥事について、会長として管理責任があったことは明らかである。
 しかし、結果はブラッター会長の5選だった。
 アジアとアフリカが支持したからである。
 アジア、アフリカの多くの国は、ブラッター会長のもとにあるFIFAから高額の援助を受けていた。

★日本はブラッター支持
 日本サッカー協会の大仁邦弥会長も、FIFA総会出席のためチューリッヒに行っていた。事件が明るみに出ると、大仁会長はいち早く「ブラッター支持」を明らかにした。
 アジア・サッカー連盟(AFC)で、ブラッター支持を決定していたので「それに従う」という理由だった。
 しかし、アジア・サッカー連盟がブラッター支持を決めたのは不祥事が報道される前である。
 新しい状況に新しい対応を考えるべきではないか?
 欧州サッカー連盟(UEFA)は、チューリッヒで緊急総会を開いて対応を決めている。
 アジア・サッカー連盟も、チューリッヒに集まっている各国代表を集めて緊急総会を開けたはずである。
 日本サッカー協会には、事態の真相を見極める情報収集能力も、アジアの力をまとめるリーダーシップもなかった。
 その結果が「権力盲従」「権力者支持」である。

★口先だけの談話
 大仁会長は、FIFA総会から帰国したとき、空港でマスコミのインタビューに答えて、ブラッター会長の5選について、こう話している。
 「トップだから責任はある」
 「これまでの実績や手腕が評価されたので(5選は)順当だと思う」。
 日本サッカー協会は、ブラッター会長の責任を追及すべきだのに支持した。
 その2日後に、再選されたばかりのブラッター会長は辞意を表明した。次から次へと明るみに出る疑惑に、自らを守りきれないと思ったからだろう。
 日本サッカー協会は、FIFAの不祥事の深刻さを認識していなかった。
 「改革のときだ」「透明性が必要だ」などと口先で言っているだけだった。


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