大丸心斎橋店本館(左=北側、右=南西角)。大阪市中央区心斎橋筋1-7。1992(平成4)年8月7日
『近代建築ガイドブック[関西編]』(鹿島出版会発行、昭和59年、2800円)では、「大丸百貨店 設計=ヴォーリズ建築事務所、施行=竹中工務店、建築年=1期:大正11年(1922年)、2期:大正14年(1925年)、3期:昭和8年(1933年)、構造=鉄骨鉄筋コンクリート造6階建、地下3階塔屋付、所在地=南区心斎橋筋1」。1期は東側心斎橋筋側の南半分、2期は東側の北半分、3期は西側御堂筋側。3期も南と北の順に3、4期と分けるのが普通らしい。階数も大正期に完成している東側は鉄筋コンクリート造6階及び地下1階、西側は鉄骨鉄筋コンクリート造8階及び地下3階で北西部に塔屋が付く。
『近代建築ガイドブック』の解説文を引用しておく。
多くのキリスト教建築を手がけてミッショナリー建築家といわれるヴォーリズの作品で、こうした商業建築にも独自の手法を発揮している。
建物は心斎橋筋から御堂筋へのワンブロックを占めているが、一期二期で心斎橋筋側が完成し、地下鉄が梅田-心斎橋間に開通した昭和8年に御堂筋側半分が増築された。御堂筋側のファサードは重厚さと華やかさを合わせもつアメリカンゴシックスタイルの好例である。東西両ファサードの意匠の展開に着目したい。
昭和3年に竣工した京都店もヴォーリズの百貨店建築を代表するもので、昭和38年に大改装されているが、部分的に当時の片鱗を留めている。
日本建築学会による『大丸心斎橋店本館の保存活用に関する要望書』(2014平成26年)では、「建築様式は心斎橋筋側ブロックではネオ・クラシック、御堂筋側ブロックはネオ・ゴシックを基とするが、共に低層部を御影石、最上階及び塔屋をテラコッタ、中間階外壁を茶褐色タイル仕上げとする3層の外観構成でまとまりがあり、ファサード(正面外観)中央に開かれた玄関部及び頂上部など石彫装飾、テラコッタによる華やかな意匠を備えている。その装飾的意匠は館内に展開し、とりわけ 1 階グランドフロアの高い天井周り、エレベーター、階段など、種々の様式的意匠からアール・デコなど注目すべき表現を有している。」としている。
また、「構造設計は当時において耐震設計の第一人者といわれた早大教授の内藤多仲である。本建築の柱間は20尺(中央部のみ24尺)の均等配置で、四方隅に耐震壁をバランスよく配置した耐震構造、耐火耐水計画についてなど、竣工時の建築概要に謳われている。 ……」とある。
つまり「建築意匠・構造・平面計画・設備に関する評価を勘案すると1920年代から1930年代にかけて日本の大都市に出現した百貨店建築として、その典型的存在であり、また、日本の近代建築史上に大きな影響力を持った米国人建築家ヴォーリズの代表作品として位置づけられ、そして、日本を代表する商都大阪のランドマークとなる建物としてきわめて貴重な存在であるといえる。」として建物の保存を望んでいる。
大丸心斎橋店本館は2019(令和元)年9月に建て替えられた。その際、御堂筋側の外壁をそっくり保存して御堂筋からの景観を保存継承した。新本館の高さを11階に抑えたのも景観を考えてのことだろうか。内部は1階フロアを主に、旧部材をできる限り再利用して復元しているようだ。
とにかく御堂筋側の外壁保存は大変な工事であっただろう。そんな苦労をしてまで5フロアの増築では割に合わないように思うが。やはり耐震構造にしないといけなかったのだろうか。