トモコパラドクス・93
『すみれの花さくころ・2』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかし反対勢力により義体として一命を取り留めた。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 久々に女子高生として、マッタリ過ごすはず……いよいよ演劇部のコンクールの中央大会だ!
たとえ短い文章であっても手紙はメールの何倍も暖かい。
はるかとまどかの手紙はまさにそうだった。
『東京に居ながらロケで観にいけませんでした。予選最優秀のお知らせありがとう。そしておめでとう! 中央大会は必ず観にいきます。がんばってください。 坂東はるか 仲まどか』
そして、中にはすみれの押し花が入っていた。ありがたい先輩たちだと感激した。
秋晴れの空の下。ドーンと花火は上がらなかったが、フェリペ学院の講堂と言うよりは、多目的ホールで東京高校演劇の中央大会が開かれた。
乃木坂学院の出番は、大ラスだった。
乃木坂学院は、少人数だけども、演劇部では伝統校、キャパ600あまりの会場は満席だった。
「はるかさんとまどかさん、調光室から観ていてくれてる!」
「二人ともアイドル女優だもんね。あそこまで届く芝居にしよう!」
そして、観客席には、友子の弟で父ということになっている一郎と妻の春奈。豆柴のハナは人間の女の子に擬態させて連れてきている。早いもので十歳くらいのお下げの女の子。もう生後七ヶ月だから、擬態させると、これくらいになる。
ハナの横には十五歳くらいの少年がいた。一瞬だれかと思った。
――ポチの擬態だよ――
滝川の思念が飛び込んできた。
で、とうの滝川は、あろうことか女子高生に擬態していた。
――そーいう、趣味だったんですか?――
と聞くと、
――これが一番目立たないから――
なるほど、観客の七割以上は、女子高生だ。でも、中には家族なんだろう、幼児を連れた人や、赤ちゃんをあやしながら観ているOGらしき人。お年寄りもチラホラ。別に女子高生しなくてもと思っていたら、開演のブザーが鳴った。
友子演ずるすみれが、図書館帰り、新川の土手を歩いていると、浮遊霊のかおると出くわす。
かおるは、東京大空襲で亡くなって以来、ずっとここいらあたりを浮遊している。
かおるは、霊波動の適うすみれにずっと声を掛けてきたが、すみれには聞こえないし、見えもしなかった。
だが、今日は図書館で借りた本が触媒になって、初めてすみれは、かおるが見える。
かおるは、宝塚歌劇団を受けたく、その宝塚の楽譜を取りに戻って死んでしまったほどの宝塚ファンである。
で、かおるは、すみれに頼み込む。
「お願い、あなたに取り憑かせて。そしたら、すみれちゃんを宝塚のスターにしてあげる!」
でも、進路を決めかねているすみれには、もう一つピンと来ない。
けっきょく、かおるは無理強いしてもだめだと悟り、二人で新川の土手に紙ヒコーキを飛ばしにいく。
そこで、かおるに運命の瞬間。体が消え始める。
幽霊は、人に取り憑くか、生まれ変わるかしないと、やがては消え去っていく。まさに、その瞬間がやってきた。
「かおるちゃん、わたしに取り憑いて、わたし宝塚受けるから!」
「だめよ、本心から願っているわけじゃないのに、そんなこと……」
そこで、奇跡がおきた。
川の中で消えようとしているすみれの幽霊ケータイが鳴り、ゴーストジャンボ宝くじに当選し、人間に生まれ変われることになる。
観客は、ここまで、新旧二人の女学生の友情と別れに涙するが、かおるの生まれ変わりと、二人の友情にカタルシスを覚える。
そして、ラストのどんでん返しで、会場は暖かい空気に包まれ、バックコーラスにダンスも入って……中央大会に向けて、ダンス部とコラボして加わってもらった。
そして、満場の拍手の中、幕が下りた。
「やったー!」
「思い残すこと無い。やるだけやった!」
お手伝いのクラスのメンバーも加わり、大感激!
楽屋前に戻ると、はるか、まどかの両先輩も待ってくれていた。
「おめでとう、最高の出来だったわ!」
「わたし、自分が演ったときのこと思い出しちゃった!」
「ありがとうございます、先輩!」
「ここじゃ、目につくわ。楽屋に入りましょう」
ノッキーこと、柚木先生が、楽屋の教室の鍵を出した。
「あら、開いてる……」
「あ、すみません。最後にメイクの崩れ直しに入って、閉め忘れました!」
妙子が、赤い顔をして叫んだ。
「もう、気をつけてよ……」
ノッキー先生がドアを開けると、楽屋の真ん中に、赤ん坊が寝かされていた……。
※『すみれの花さくころ』のラストシーンはYou tubeでごらんになれます。