宮殿に向かう道には、たくさんの人たちが出迎えに出ていた。いろんな人たちが……。
「半分以上は、観光客の人ね。ミナコ公国は、観光の国だから」
お祖母様が、お天気の様子を窺うように気楽に言った。ミナコは、自分が状況によってお祖母様とお祖母ちゃんを使い分けていることに気づいてはいない。自分で思っているより順応性はありそうだ。
「お姉ちゃん、あのプラカード、『ウェルカム プリンセス』になってるよ。あ、あっちも!」
「お母さま、これは!?」
「ダニエル、朝刊あるかしら?」
「はい、どうぞ陛下」
「おやおや、みな早手回しにプリンセスだわ」
「この子は、まだプリンセスじゃありません。お母さま」
「笑顔でね、奈美子さん。この国は表現の自由は完ぺきに保証されているの。多少のフライングは大目にみてあげて」
「お母さまの、陰謀じゃないんですね?」
奈美子ママは、笑顔でカマした。
「これを見てご覧なさいな。とてもチャーミングなミナコのセーラー服姿。だれが見てもプリンセスだと思いたがるわ」
「あ、あたしも載ってる。まるでAKBのメンバーだって!」
AKBのメンバーの一人と真奈美の写真が並んで載っていた。
「これがミナコが自由の国である証拠。でも、節操はあってよ。真奈美ちゃんのファニーな写真なら、他にいっぱいあるもの」
「あ……ああ、そうね」
真奈美は、日本での悪行の数々を思い出し、冷や汗を流した。
その時、一機の放送局のヘリコプターが、進路を塞ぐように、高度を下げてきた。
「ダニエル、あのヘリコプター……」
ダニエルは、すぐにパソコンを操作し、部下に指令した。
「あのヘリは、登録されていない。注意しろ! MINAKO放送3番機、高度を上げろ!」
ヘリは、事故と故意の中間ぐらいの様子で、前方の道路に落ちた。4メートルほどの高さからだったので、大きくは壊れなかったが、スキッド(ヘリの足)が折れ、右に傾きローターが地面を叩いた。
気づいたときには、ミナコはリムジンを飛び出していた。あらかじめシートベルトを外していたのだ。
ダニエルは一瞬遅れた。部下に指示をしている最中だったからだ。
ミナコには見えていた。ヘリのキャノピーにあの子……ローテ・ド・クレルモンがいるのが。
ミナコは、中学までは、陸上の短距離選手だった。SPが追いつく前に、左側からヘリに近づいた。
「こ、これは……!?」
「危ない、プリンセス!」
ダニエルが、ミナコにタックルし、地面を転がるようにしてヘリから離れた。
ヘリは爆発することはなかったが、エンジンが燃えはじめ、ちょうど前が消防署だったので、あっと言う間に火は消された。
ダニエルは、ミナコをリムジンに戻そうとしたが、テレビ局や群衆に取り巻かれてしまった。
「プリーズ、ドントマインド。アイムファイン。ジャスト、ア、オンリー……オンリー。リトルエクササイズ
……アンド、ソー……アイムホーム!」
割れんばかりの拍手が起こり、全ミナコ公国のほか、全世界に生中継されてしまった。
「ミナコ、アイムホームの意味は、分かって使ったの?」
リムジンの中で、母の奈美子から叱られた。お祖母ちゃんはニコニコしていた。
「『ただいま』って、意味でしょ。ジブリの『耳をすませば』の字幕で覚えたの。ダニエルと一緒だったから、かっこよく決めようって思って……」
「この状況で、あの言葉は、『王女になります』って宣言したようなものなのよ」
「ダニエルも追いかけるとき、『プリンセス!』って、叫んでいたものね」
「どうも、とっさのことで……」
「上出来でした。でも、ミナコ。これからはダニエルにことわってから、行動するようにね」
「はい、お祖母様」
「それから、この事件の調査は……」
「もう、始まっております」
主従の阿吽の呼吸であった……。
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