時かける少女・23
『プリンセス ミナコ・5』
「オネーチャン、大変だよ!」妹の真奈美がドタドタとやってきた。
「なんやのん、ドタバタとお。真奈美が標準語で騒ぐと……」
「ろくでもないんよ! 見てよ、この号外!」
号外を見てミナコはタマゲタ。電車の中でボンヤリ生駒山を見つめている上半身の自分の姿が『ミナコ公国王女確定!』のキャプションとともに写っていた。ただし、目の所は緩いモザイクをかけてあるが、ミナコを知っているものには一目で分かる。
「ええ、これはヤバイやんか!?」
「大阪市在住の未成年の女性……こんなもん、噂たつのん一発やで、トコとかメグとか、放送局やで!」
そこに、スマホがかかってきた。
「ダニエルだ、号外は気にするな。手は打ってある。ちょうどニュースの時間だ、テレビを見てごらん」
あとを聞こうとしたが、ダニエルはすぐに切ってしまった。姉妹は母親と共にテレビに釘付けになった。
「「「え……うそ!?」」」
母子三人は、同時に声をあげた。
テレビのリポーターは興奮した声をあげていた。
「いま、号外通りのワンピースを着て、松下リノが事務所に入って行きました。リノさん、あなたが王女だってもっぱらの噂ですが、本当なんですか? ねえ、リノさん! 一言リノさん!」
それはMNB48の松下リノであった。アイドルにしては地味なセミロング。母親がフランス人なので、同じワンピースを着ると、ミナコと区別がつかない。こんな偶然が……。
そこに再びダニエルからスマホに電話がかかってきた。
「うまくいった。リノはきのう同じ電車に乗っていたんだ。もっとも一本あとの快速だけど……ああ、むろん、あのワンピースは着ていない。暗示をかけて、リノの部屋のクローゼットに同じワンピースをしこんでおいた。で、暗示通りに、あの服を着て、事務所にいかせた……都合が良すぎる? ハハ、これがおれ達の仕事だからさ。いっそミナコに暗示を掛けた方が早いんだが、ボスから硬く禁止されている……ボス? ミナコのパパの母親さ。ま、こんな小細工、いつまでも持たない。早く決心してくれることを望んでいるぜ。それから、しばらくは学校に迎えがくるから、大人しく乗ってくれ」
また切れてしまった。
明くる日、テスト後で、そんなこと忘れてメグやトコといっしょにマクドに行こうと校門を出たところで掴まった。近所の竹内のオッチャンだ。
「お母さんが用事あるて呼んではる。すぐ車に乗って!」
わたしはダニエルは警戒していたが、竹内のオッチャンに警戒心はない。あっさりと乗ってしまった。
四天王寺の東側の、地味な道路で青色ナンバーのリムジンに乗り換えさせられた。案の定ダニエルが乗っている。
「竹内さんは仕事に困ってらっしゃったので、とりあえずミナコ公国の臨時職員になっていただいた。むろん日本の企業名にはなっているがね」
「ほんなら、竹内さんに、そのまま領事館に行ってもらうか、ダニエルが直接迎えにきたらええやんか!」
「毎日、彼の車が領事館に来たら怪しまれる。オレがリムジンで学校に行ったら、もっと目立つ」
「ごめんなさいね。昨日の今日の呼び出しで」
「はい、こんなに早いとは……」
「ヨーロッパの事態は、日本ほど安定していないのよ。あれを見て、ミナコ」
お祖母様が指差した方向にヤジロベエ式の振り子が付いた時計があった。振り子の両側には「ヨー」と「ロッパ」という文字がダイヤで飾られていて、支点は「MINAKO」と小さな文字盤を足もとにはめ込んだ女神像になっている。
「EUが出来たときに、エリザベス女王に頂いたの」
「え……イギリスってEUに加盟してたっけ?」
「してますよ。ただ、ユーロはつかってないけどね。まあ、ミナコの知識は、平均的な日本人のそれでしょう」
「そやけど、この時計の意味は解ります。ミナコ公国がヨーロッパ安定の支点になってることは」
「支点というのは外交辞令。我が国に、それほどの力はありません。ただ指標にはなっています」
「指標?」
「昔、炭坑夫が炭坑に入るとき、必ずカナリアの鳥かごを持っていったの。これぐらいはわかるでしょ?」
「有毒ガスが出たとき、まっさきにカナリアが死ぬから……」
「そう、水準ちょっと上の答えです」
「つまり……ミナコはヨーロッパのカナリアということ?」
「そう、それを美しく表現すると、あの時計になるの。その役割は十分理解しています」
「そやから、お祖母様は1975年のクーデターも、自分でドガチャガにしたんですね」
「ドガチャガ?」
「ああ、大きなとこでがっちり掴んで、物事を上手く処理することです」
「そう、まさにドガチャガだったわ。あれを放置していたらヨーロッパ中に波及したでしょう。ダニエルの本を読んだのね?」
「ええ、感動しました」
「ありがとう。今は、あの時ほどのパワーは無いけどね」
そのとき、ノックしてダニエルと、お医者さんが入ってきた。
「陛下、お注射の時間でございます」
「もう、そんな時間……ほんと、じゃ、お願い」
女王は、慣れた手つきで腕をまくった。注射のあとが点々とついていた。
「お祖母様、どこか悪いのん?」
「大したことは無いの、ちょっとしたガン」
医者とダニエルが慌てた。ミナコも心臓がドキンとした。
「いいの、国家機密だけど、この子には知ってもらっていたほうがいい」
「どこのガンなんですか……?」
「それ以上は言えないわ。ただ見かけより歳をとっているから進行は遅いのよ。気にしないで」
女王が、始めて気弱に笑った。医者もダニエルも俯いて涙を堪えているのがよく分かった。
ミナコは、涙目になって、せき上げる思いを吐き出した。
「わたし、王女になります。お祖母ちゃんみたいに偉いことは、ようせんけど、それでお祖母ちゃんが、ちょっとでも楽になって、ヨーロッパやら世界の人のためになるんやったら……!」
「ミナコ!」
「お祖母ちゃん!」
互いに椅子から立ち上がり、ハッシと抱き合う祖母と孫であった……。
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