大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:192『的にも運にも』

2023-08-18 06:07:15 | 時かける少女

RE・

192『的にも運にも』テル 

 

 


 与一に会ってみたいぞ!

 

 ツボにはまったヒルデが虫を起こす。

「時間は大丈夫でしょうか?」

 あるじの我がままに、タングニョーストが気を遣う。

「大丈夫ですよ(⌒∇⌒)」

 イザナギは穏やかに応える。

 一刻も早く黄泉の国に向かって、イザナミを取り返したいはずなのに。

 日本人というのは、もう、神代の昔から、こうなんだ。

「では、さっそく!」

「わたしから連絡しましょうか?」

 ペギーがスマホをヒラヒラさせる。

「スマホ、使えるの?」

「アハハ、業務用ですから」

 どうやら、源氏の陣地にスタッフを派遣しているようで、すぐに話がついた。

 


「こんなに端っこなのか?」

 


 与一の陣屋は源氏の陣地の端の端。学校で言えば校舎裏、ゴミの集積場か学級菜園でもありそうなところだ。

「わざわざ来てくださってありがとうございます。幔幕だけの狭い陣屋ですが、どうぞ奥に……」

 ツギハギだらけの幔幕は、わたしが見てもみすぼらしいんだけど、ヒルデは感心している。

「うん、パッチワークのようで、なんだかオシャレだ!」

 シャイな与一はお茶の用意をしながら微笑むばかりだ。

 なんだか、潰れる寸前の喫茶店の気弱なマスターという感じで、とても華々しく扇の的を射落とした英雄には見えない。

「あれは、狙ってやったことなのか?」

 ヒルデがドストレートな質問をする。

「狙わなきゃ当たらないよ」

 なにをバカな質問という感じで、ケイトが茶々を入れる。

「ハハ、ほぐしてくれてありがとう。慣れないことをやって、ちょっと緊張していましたから」

 アハハハ

 与一の正直で穏やかな態度に、微笑みが湧いてくる。

「地元での呼ばれ方は『与太郎なのです』」

「ヨタロウ?」

 日本語の機微が分からないヒルデは、自然な疑問を呈する。

「ゲゲゲの与太郎!」

 ケイトのスカタンが続く。

「日本では、長男を『太郎』と呼びます」

「そうね、次男は『二郎』で三男は『三郎』という感じね」

 わたしが続ける。

「そうか、義経の九郎義経っていうのは九男という意味になるんだ」

「まあ、そんな感じですね」

「与一の与は?」

「はい、十番目以下という意味です。十一郎というのは語呂が悪いですから」

「上に、十人も兄が居るのか?」

「はい、家を絶やさないために、どこの武士も大勢子供を作ります。でも、普通は五六人。八人も居れば多い方で、十人以上というのは珍しいですね」

「与というのは『余りもの』という響きがありますね」

「はい、だから、普通は与太郎という呼び方が多いようです」

「与一と与太郎、どう違う?」

「それは……」

 答えにくそうに俯くので、わたしが後を続ける。

「与太郎と云うのは落語なんかに出てくる、憎めないが、どこか抜けている三枚目に付ける名前だよ」

「お恥ずかしい(^_^;)、まあ、それで戦に出る時などは『与一』と、ちょっとオシャレな名乗りにしております」

「そうか……しかし、あれは見事だった。単に命中させただけではなく、殺伐とした戦場を戦士の美学で飾った。奇襲に負けた平家にも一掬の華が残った。ブァルキリアの戦士としても、教えられるところが多かったよ」

「は、恐縮です」

「どのくらいの自信があったのですか?」

 タングニョーストが身を乗り出した。

「半々というところです。元来が与太郎ですから、外したら笑われておしまいです。もう、これ以上落ちることもありますまいから」

 なんか自虐的だ。

「わたしは十一男ですし、母は、兄たちの母と違って低い身分の出なので、父の遺産の相続は見込めません。行く末は、兄たちの郎党になって戦働きをするするか、百姓をするしかありませんが、母が病弱なもので……」

「……そうか、名を上げて収入を増やすしかないのだな」

「はい、実は、今度の事で兄たちとは別に領地がいただけそうで、ちょっと嬉しいんです」

「そうか、それは何よりだったな」

「与一どの、あなたの弓を見せていただけませんか」

 タングニョーストが戦士らしい申し出をする。

「あ、はい。遠目には綺麗な弓に見えていますが……」

 与一が差し出した弓は、あちこち塗が剝げているが、手入れはきちんとされていて好感が持てるものだ。

「これは……なかなかの強弓ですね」

「はい、五人張りです」

「五人針?」

 ケイトがスカタンな質問。

「弦を張るのに五人の力が要るという意味です」

「す、すごいんだ!」

「強い弓でないと、的にも運にも届きませんから」

「的にも運にもなぁ……」

 ヒルデが、しみじみと嚙み締めた。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


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