大橋むつおのブログ

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真凡プレジデント・38《琢磨の本気の本気》

2021-03-31 06:33:18 | 小説3

レジデント・38

《琢磨の本気の本気》      

 

 

 ここだけの話だが、俺はハッカーだった。

 

 小六の時にアメリカの国防総省や中国国務院や日本の防衛省のCPに侵入した。

 侵入するだけで、特段の悪さはしない。

 ただ一度だけ、主民党政府の震災や原発への対応のまずさ、一ドル八十円の円高、この円高で親父の仕事はかなりきつかった。その他いろいろ子ども心にも許せなくて霞が関一体のPCを混乱させたことがある。

 詳しくは言えないが、俺の介入が無ければ、主民党の政権は、もう半年は続いていたと思う。

 しかし、他にいろんなことに興味のあった俺は、子どもらしいミスを犯してしまった。

 霞が関の公的機関すべてをマヒに追い込んだんだけど、うっかり霞ケ浦管理事務所のPCをダウンさせてしまって、霞ケ浦の水利・水質管理に多大な支障をきたしてしまった。

 以来、ハッカー活動は止めていたんだけど、今度の件では、いささか頭に来てやってしまった。

 

 取材中の記者とディレクターの過去を洗い出すのは簡単だった。

 

 人の不正行為にはトコトン厳しいが、自分には甘いのがマスメディアだ。

 記者は酒を飲ませたあげくに女性に乱暴を働いていたこと、ディレクターはタレントの薬物使用をスクープするために、血のにじむ思いで薬物から遠のいていたタレントに大麻を吸引させた。その二件を調べ上げて事に及んだ。

 中継の現場で逮捕されてしまったので、テレビ局としても庇いようがなく、二人は即刻クビになった。

 しかし、学校への取材そのものは止まなかった。

 入試の採点ミスで不合格になった女子が訴えてきたことが発端であるが、マスメディアは、この子を焚きつけた。

――法的には、原状回復を訴えるのがスジだよ――

――え、原状回復って?――

――キミの合格と入学を認めさせることだよ――

――そんなことできるの?――

――できるよ、というか、そうしないと『遺憾の意』を表されておしまいになるよ――

――イカンノイ?――

――『ごめんなさい』と発表して、あとは何も変わらない。世間は三日で忘れるよ――

――それはヤダ――

――だからね、合格と入学を認めさせることだよ。そうしないと学校も教育委員会も懲りない――

――う、うん、分かった――

 そう誘導したのだが、調子に乗る奴は、いつでもどこにでもいるもので、こういう奴が出てきた。

――だったら、間違って合格したやつを辞めさせるべきだ――

――そいつの合格を取り消せ!――

 

 先日までは、それは可哀そうだというのが多数だったが、テレビ局の巻き返しの中で息を吹き返してきた。

 真凡たちの努力で、間違って入学したそいつ……橘なつきへの風当たりは再び強くなってきた。

 なつきが、もうちょっと勉強できたらなあ……。

 偶然を装ってコンビニで出会ったなつきに、そう思ったが、なつきには、それを補って余りある善良さがある。

 この梅雨時にフードをスッポリかぶってスナック菓子を買いに来たなつきに声をかけるのもはばかられ、俺は次のステップを踏むことを決意したのだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 


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