大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・106『エピロ-グ』

2020-01-24 06:02:51 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・106   



『エピロ-グ』

「おつかれさま」

 の声が六つした。
 
 そう、たった今ハルサイの新生乃木坂学院高校演劇部の『I WANT YOU』の幕が下りたのだ。
 わたしは初めて孤独を感じることができた。現実では味わったことが無いほどの孤独を。地上げ屋の三太が最後に言う。
「なになんだよ、なぜなんだよ、ここまでの粘りは……もう、もう、知らねえからな!」
 都ばあちゃんが最後まで、土地を売らなかったのは、人とのキズナを信じたから、信じたかったから。キズナがお金で取引されることを善しとしなかったから。そこには人が人であることの尊厳をなし崩しに失わせる抗(あらが)いがたいものへの孤独な戦いがあった。

 これを教えてくれたのは水島さん。
 消えていくことで、その孤独さと崇高さを教えてくれた。
 
 そこへの道を示してくれたのは上野百合へと変身をとげたマリ先生。
 マリ先生は、乃木坂学院高校演劇部が崇高な神殿であることを知っていた。だから責任をとった。一見投げ出したようにして、タヨリナ三人組に任せたんだ。
 そして、その血脈は……たとえて言うなら、あの談話室に人知れず掲げられていた校旗のようなもの。
 だから、わたしは自分を校旗のようなものに置き換え……あの孤高な孤独が表現できたんだ。

 さあ、バラシ! 

 バラす道具はなにもない。照明も地明かりのツケッパ。
 長年のクセで、舞台に集まったけど、何もすることがない。
「乃木坂さん、幕間交流お願いします」
 フェリペの司会の子がせっついている。
 そのとき、初めて気づいた。まるでカーテンコールのような拍手が湧き上がっていることに!

 緞帳の前に六人の部員が並んだ、言わずと知れた潤香先輩(学年はいっしょだけど)里沙、夏鈴、わたし、そして、新入の一年生が二人。

 この男女二人の新入部員が来たときはビックリした。
 男の子は水島クン、女の子は池島さんというのだ。
 むろん下の名前はちがう。ってか、水島さんは下の名前は分からずじまい。
 でも、たった二人の新入部員だけど気だてのいい子たちです。

 観客席の前はオナジミさんでいっぱい。
 はるかちゃんや上野百合さん。陸上自衛隊の人たちまで居たって言えば見当がつくと思います。あ、それから忠クンもコンクールのときとおなじような感動した顔で……後で手間かかりそう。
 そうそう、部室は追い出されておりません。三月三十一日に峰岸先輩が一日だけ部員になってくれましたから。

「それでは、乃木坂学院高校演劇部の上演について幕間交流を始めたいと……」
 思います。を言う前に、競り市のように手が上がった。
 最初は自衛隊の大空さん、続いて十人ほどが手を挙げている。
 もう、みんな誉め言葉ばっか。
――誉めて、誉めて、誉めちぎって、ちぎり倒してちょうだい!
「じゃ、最後お一人様にさせていただきます」
 司会の子に、指されて立ち上がったオジサン……どこかで見たことあるなあ?
 このオジサンだけが、けなしたのよね!
「……というところに、感情のフライングがありました。台詞はちゃんと中味を聞いてリアクション。芝居は演ずるのではなく、いかに受け止めるかです。仲まどかクン」
 このオジサンは、はるかちゃんのクラブの元コーチ。
 そんでもって、あつかましくも、無遠慮にも、無頓着にも、無神経にも、無分別にも、無鉄砲にも、不作法にも、不躾にも、不細工にも、この物語の作者でありました。

 この、クソオヤジ!!

 言い忘れるとこだった。例の宝くじ、潤香先輩が三等賞の百万円!
 で、わたし達は……四等賞の十万円!
 ウフフ、作者のクソオヤジは、わたし達のはハズレにするつもりだったらしい。
 でも物語も、このあたりにくると、作者の意図しないことも起こってしまう。
 わたしたちは、これで火事でオシャカになった照明器具を買った。
 めでたし、めでたし……え、忠クンとはどうなったかって?

 それは……二人だけの、ヒ、ミ、ツ。



  『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』 完

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