オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
大お祖母ちゃんは十二年のブランクを感じさせない元気さだ。
こんな夜中に帰ってくるのだから、こなした仕事は片手では足りないかもしれない。
「両手の指ほど難儀な人たちに会ってきたよ……」
見透かしたように大お祖母ちゃん、きちんと挨拶しようと思っていた美晴は吸った息を言葉に出来ずに呼吸が止まってしまった。
「どうも、顔が怖いままのようだね。でも美晴も子供じゃない、深呼吸してごらん」
素直に深呼吸一つ。
ゆっくり息を吐きだすと、大お祖母ちゃんも微かに笑顔になった。
「制服でやって来たということは、美晴なりに気持ちがあってのことなんだね……校章の横にバッジが付いていた痕があるけど、なんのバッジを付けていたの?」
「先月まで生徒会の副会長をやっていました。丸二年もやっていたので痕が残って……」
そこまで言ってハッとした。
風呂上がりに、瀬奈さんが新品の制服を出してくれて着替えたはずだ。バッジの痕が残っているはずがない……しかし、手を伸ばしてみると、いつものようにバッジを付けた痕が感じられる。
思い違いかと混乱したが、制服の生地の感触は新品のそれだ。
「自分には、まだまだ役割があるという意味ね」
「私服で来るのは、なんだか憚られてしまったんです」
もっと積極的な意味が制服にはあるのだが、大お祖母ちゃんを前にすると言えなかった。
大お祖母ちゃんの前では、そんな制服一つのツッパリなど、ひどく子どもじみた意地にしか感じられないのだ。
有り体に言えば、美晴は位負けをしている。それほど大お祖母ちゃんから受ける人格圧は凄かった。血のつながりを自覚していなければ逃げ出しているかもしれない……。
大広間でもない大お祖母ちゃんの部屋が学校の体育館ほどの広さに感じる美晴だった。