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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・296『朱元尚マグナムを撃つ』

2025-04-12 10:37:18 | 小説4
・296
『朱元尚マグナムを撃つ』 朱元尚 




 故に兵は拙速を聞く、未だ功の久しきを覩みざるなり!


 少々作戦は拙くとも、軍事行動は早い方がいい……孫氏の兵法だ。

 長らく軍政畑にいたが、これでも士官学校では優秀な成績だったんだ。部隊指揮の要諦は分かっている。

 だが、こいつらの逃げ足の速さはムカつく!

「准将、まだまだ挽回の余地はある、ここで元帥と戦うのはマズイ」

 指揮を任せた予備役中佐は苦り切った顔で、それでも、わたしの目を直視して提言する。

「そうです、動いているのは兵ではありません、金で雇ったゴロツキと扇動された失業者どもです。崩れたらあっと言う間です、 武漢まで後退しましょう」

「え、北京を捨てるのか?」

「いきなり北京というのは無理なんだ。政府の心胆を寒からしめただけで十分だ」

「いや、引くにしても南京や上海だろ」

「そうだ、天津でもいいぞ、不満を持ってるやつはどこにでもいるしな」

「暴れられるならどこでもいいぞ!」

「これは軍事行動だ、民間人は黙ってろ」

「なに言いやがる! 動いてる人数の九割は街の人間だぞ!」

「「「「「そうだそうだ!」」」」」

「なにを、ゴロツキどもめ!」

「なんだとぉ!」

 バーーーン!!


 さすがはマグナム、一発撃っただけで、みんなこっちを向いた。


「半日の猶予をくれ。この朱元尚自らが街の様子、元帥の出方を見極めて決定する。北京を撤退するにも夜中の方がいいだろう……返事をしろ!」

「おお」「了解」「承知」「ま、いいか」「頼んだぜ」「ああ」「よし」「……」

 無言の奴らも含め、積極的な反対もない。分かっている。だれも責任を取りたくないんだ。まあいい、予備役で退役させられたとはいえ、漢明軍准将のポテンシャルはある。この程度の統率の真似事は示さなくてはな。

 見ているか頼香、これが成功すれば、この予備役准将にだって運は向いてくる。

 漢明のあちこちで不満は燻っている。戦前と比べれば、漢明は良くなった。GDPも所得も数倍に伸びて、国民の生活水準も上がった。しかし、あいかわらず富の偏在は大きい。軍閥や資本家、それに結びついている上流階級の蓄財には目に余るものもある。まあ、中産階級も育ってきてはいるが、上がひどすぎるんで、自然と文句も出てくる。

「広報部准将で退役してどうすんのよ!」

 頼香は詰った。

 モンゴル平原でしくじったために退役させられた。退職一時金も軍人年金も無事に給付されたんだから女房ごときに詰られる謂れは無いんだが。頼香は先々代大統領の外孫だ。プライドは貢嘎山(コンカ山)よりも高い。

 ここは乾坤一擲、国内の不満分子を焚きつけて一旗揚げるにしくはない。

 満州戦争から西之島戦争にいたるまで、日本には七分三分、ひいき目に見ても六分四分で後塵を拝している。劉宏大統領は日本と事を構える気はない。ゆっくりと国力を高め民主化を進め、結果として日本を追い抜き合衆国と肩を並べ、世界に覇を唱える国になればいいと思っている。

 奴なら、時間はかかるが成し遂げてしまうだろう。

 しかし、そうやって成し遂げられた国に俺の居場所はない。単なる退役准将ではな……幸い、俺と同様に不満を持っている軍人や高級官僚、地方財閥は多い。そういう奴らを焚きつけるのは難しいことではない。

 なに、軍人としての能力は……それなりだが、こういう方面には自信がある。待っていろ頼香、五年も経てば、この朱元尚、奴に替わって大統領の椅子に座ってやるからな。

 ピピピ ピピピ

 アナライザーが鳴る。また瀛台から走るものがある。

 おそらく軍事用シャトル、一両でも完全武装の一個小隊は載せられる。三両編成なら一個中隊。西北、南東にもシャトルを走らせているから、下手をすれば一個大隊に取り囲まれる恐れもある。

 ポト

 アナライザーを落としてしまう。震えている? この朱元尚が? いやいや、さっきマグナムを撃ったせいだ。単なるハッタリなんだが効果はあった。

 くそ、たかが拳銃を一発撃ったぐらいで……少しは鍛えるか。

 ん……通りの向こうにパルス自転車の人影、小柄な女子、打ちこわしがあったばかりだ、ちょっと危なくはないか……高校生かぁ?

 双眼鏡を覗く……ア( ゚Д゚)!

 劉宏元帥!?

 目が合ってしまった……いや、距離500はあった、あそこから認識できるはずがはい。

 くそ、くそ、なんで震えがくるんだ。

 え、いま俺は元帥と呼んだか? いまの奴は大統領だ……なんで恐れる時は元帥と呼んでしまうんだ。

 落ちつけ朱元尚……そうだ、中佐が言っていた武漢も悪くはないぞ。武漢は、その昔、辛亥革命の火種になった武昌蜂起が起こった地だ。

 そうだ、この手で行けばいい!

「准将、お元気なご様子でなによりです」

 顔を上げると、不気味な笑顔を浮かべた元帥の顔があった……。
 


☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 少将           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

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