大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・058『シュール天の川』

2024-07-13 16:08:55 | カントリーロード
くもやかし物語 2
058『シュール天の川』 




 天の川の川岸では二群れの人だかりがにらみ合っていた。


 川を渡ろうとする旅人や村人たち、それと、それを拒む役人の人たち。

「ああ、なんかヤバイ感じ……」

「そう見えるだろ」

 頭の上でネルが反対を言う。

「え、ちがうの?」

「ああ、額田王が言っていた。本気で川を渡りたい者は数えるほどしかいないって」

「え、そうなの!?」

「ああ、額田の姐さんに言われなきゃ、あたしでも気が付かないとこだけど。あらかじめ知っていたら、そうなんだって気がする」

「そうなの?」

「旅人たちのリュックやポーチ、大きさの割には重そうに見えないだろ」

「え……ああ」

「フフ、わたしは聞いていないけども、わかったわよ」

「え、御息所も?」

「地元の者には困惑が無いし、旅人たちの目には覚悟の光が無い」

「旅をするのに覚悟がいるの?」

「要るわよ、娘が斎宮になって伊勢に付いて行くとき、どれだけの覚悟が要ったことか」

 わたしは、ギュっと胸に抱えた花かごを抱きしめたよ。

 額田王は――花かごを見せれば渡れるから――と言っていたんだけど、この河原の雰囲気には、ちょっと腰が引けてしまうよ。

 河を渡す渡さないで揉めているんだったら、ま、それはそれで怖いけど、水戸黄門の印籠みたいに花かごを見せてサッサと渡る。

 みんなが渡れないでイジイジ焦れてるとこをサッサと渡っちゃうのは気が引けるけど、こっちにも奪われたキーストーンを取り返すと言う崇高で恥じることのない理由があるんだからね。渡ってしまえば、きっと平気になれる。

 それどころか、川の向こうにお役所があるなら「他の渡りたい人たちも通してあげるべきですよ!」くらいは苦情を言ってあげる。

「出先機関の我々に言われても困る!」とか言い訳言ったら「じゃあ、帰りにもう一度ここに寄って上の方に掛け合ってあげる!」くらいは言う。

 でもね、村人や旅人には――どうしても渡りたい!――って気迫を感じないし、お役人たちにも――どうしても渡さない!――って職業的な義務感を感じない。

 両方とも――あ、昔からこうやってるからやってますから――みたいな感じ。あるいは、この川岸では『渡りたい旅人たちと村人たちVS渡さない役人たち』っていうシーンを撮っている最中。ここにいるみんながエキストラだから、本当に渡っちゃう人間が出てきたら何もかもぶち壊しで、どこかでこのシーンを撮っている監督が「カットおおおお!」なんて怒るような気がしてる。

「グズグズしてたら、そのうち、やくもにも子供や孫ができて――なんで川を渡ろうとしてるんだ――って、ううん――なんで不思議がってるんだって佇むことになるかもしれないわよ」

 御息所がシュールなことを言う。

 ペシペシ

「さっさと渡ろう!」

 ネルがホッペを叩いて宣言する。

「すみません、この花を向こう岸の織姫さんに届けに行きますから渡してください」

「え、なんだって……?」

 役人の代表が間抜けな驚き方をする。旅人や村人もザワザワしだすし。

「額田王のお許しも得ておるぞ」

「これが、そのお花だ」

 御息所とネルが押してくれて、役人は後ずさった。

「分かってもらえたかしら?」

「いや、確かに分かった。渡ってもらってもいいが、どうやって渡るつもりだ?」

 え(゚д゚)?

 天の川に橋も渡し舟も無いことに初めて気づいた……。

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)088・ジャングルジムのてっぺん

2024-07-13 06:54:42 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
088・ジャングルジムのてっぺん 




 ペダルが軽い。


 パンクの修理だけやなくて、あちこち油をさしてくれたようや。

 やっぱり、基本的にミッキーはええやつなんや。

 あ、以下の会話はミッキー相手なんで英語で喋ってる、念のため。

「どうもありがとう、すごく快調になった!」

「いや、ついでだよ、ついで。ヨイショ」

 そう言うとミッキーはジャングルジムに上っていく。

 つけあがらせることなく寄り添いながら話そうと思ってたら、さっさと公園で一番高いところに上っていく。しゃあないから、あたしも着いて上っていく。

 女の子にもよるけど、ジャングルジムのテッペンなんてところで男の子と並んだら少しドキドキする。

 二階ほどの高さもないんやけど、お尻の下がスケルトンやさかいにムズムズドキドキ。

 この状況で恋を語られたら、自分の胸の高鳴りを誤解してしまいそう。

 もっとも、ミッキーはそんな『吊り橋効果』的なことを企んで上ったわけではないやろ。

 単にこういう場所が好きなだけなんやろ。サンフランシスコで美晴に迫ったんも金門橋を見下ろす丘の上やったて、美晴言うてたし。

 自転車の修理といいジャングルジムといい、ハックルベリーのようなところがあるみたい。

 ハックルベリーには直球がええ。

「ミッキー、美晴のこと誤解してんのよ」

「なにを(◎▭◎)!?」

 直球過ぎて目を剥いてきよる。

「I can cook pretty って言ったのよね」

「そうだよ。グループで自己紹介しあってるときに、美晴のことをみんながprettyだとかcuteだとか騒いでる時に、彼女言ったんだ」

「though I can only cook……pretty でしょ」

「うん『お料理が上手いだけ……けっこうね』だよ。日本人て変な謙遜ばっかりするけど、あの言い回しは上手いと思ったよ、控えめに自分の長所をアピールしてるしね」

「美晴はハンパに英語出来るから、とっさに言い間違えたのよ」

「言い間違い?」

「ほんとは、こう言いたかったのよ。though I can only cook……little. ユーアンダスタン?」

「……though I can only cook……little?」

「そ、prettyって単語が出たんで、うまいこと返そうと思って、とっさに間違えたのよね。でも、みんなが感心してくれるし、旅先だし『ま、いっか』にしちゃったわけ。まさか、あんたが日本に来て自分の家にホームステイするなんて思いもしないもんね」

「……そっか」

「だから、あの料理は、あたしのレクチャーと演劇部のアシストでやったってわけなのよ」

 ここまで言うと、ミッキーは黙り込んだ。

 やっぱ直球はまずかった……フォローしようと思ったら、いきなりジャングルジムを飛び降りた。

 スタ!

 体操選手みたいに着地すると、クルッと振り返った。

「かわいいじゃないか! なんだかアニメの萌えキャラだ! ちょっとツンデレだけど! ツンデレ好きだ!」

 いや、ツンはあるけど、デレは無いから……。

 こいつを野放しにしたらアカン! そう思って、わたしも飛び降りた!

 スタ!

「ミッキー、あんた演劇部に入んなさい!」

「演劇部?」

「そう、そして……」

「ミリー、ちょっと目が怖いよ……」

「い、いま、足を……く、くじいたの(>_<;)……家まで送ってちょーーー」


 ちょーー痛いいいいいいいいいいいいっ!!
 
 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


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