大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・112『選と学校に行く』

2024-07-17 12:12:47 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
112『選と学校に行く』   




 ちょっとぉ、あり得ないんですけど……。


 思っていても口には出さない、言っても無駄なの分かってるからね。

 
 今日の登校にはお祖母ちゃんが付いて来ている。

 それも、どう見たって二十代前半という若作り。

「母親の設定でも無理があると思うんですけど」

「あら、姉の選(すぐり)という設定なんだけど」

「選?」

「うん、旋(まわり)が妊娠した時にね、生まれる子の名前を選と決めたんだ」

「それって、わたしのことでしょ?」

 お母さんは、後にも先にもわたし一人しか生んでないし。

「そうよ、それで選って名前に決めたんだけどね、旋が嫌がってお蔵入りになった名前」

「ウウ……」

 このテスト休みに、なんで学校に行くのかというと、図書室で借りた本を忘れていて、返却期限が今日だから……これは、わたしの事情。

 お祖母ちゃんはPTA新聞の集まりが学校であるから。

 どういう細工をしたのか、お祖母ちゃんはお母さんの名前で役員を引き受け、実務はお姉ちゃんの選という設定にして、面白がっている。年金暮らしの引退魔法少女というのは始末が悪い。

 フワフワのフォークロアワンピにストローハットを阿弥陀に被って、トンボのサングラス。70年代のファッションらしいけど恥ずかしい。

 むろん、わたしは夏の制服。

 そのコントラストが面白いのか、三軒隣りの早乙女のお婆ちゃんは「あらまあ(^〇^)」と喜んでくれる。また昭和まで付いてこられては困るので「お早うございます(^▭^)」とお愛想の挨拶してお仕舞にしておく。

 
 ミーーンミンミン ミーーンミンミン ミーーンミンミン


「おお、昭和の蝉は元気がいいねえ」

 いつの間にか戻り橋を渡って蝉しぐれに感動するクソババア。

「あのぅ、学校着くまで、あまり喋らないでほしんだけど(-_-;)」

「え、なんで?」

「だって、目立つしぃ」

「え、そう? 思い切り70年代に合わせてきたんだけど」

「70年代の人間は『昭和の蝉』とか言わないし」

「アハハ、そだね(ノ≧ڡ≦)」

「テヘペロなんかかまさないで(-_-;)」

 途中、写真館の直美さんにも出くわして「妹がいつもお世話になってます」って要らん挨拶をする。
 直美さんも好奇心の強い方だから、バイトに来た時に質問とかされたら、メチャ困る。

 写真を撮りたそうに目が輝いたから、さっさと学校に向かう。


 あれ?


 校門を潜ると、ちょうど10円男がお父さんらしきガッチリしたおじさんと校舎に入っていくのが見えた。

「お、未来の旦那」

「あ、ちょ!」

「なんか、刑事に連行される過激派みたいだねぇ」

 なんで、この試験休みに父親同伴で……?

「じゃ、お姉ちゃんは会議に行ってるから。帰り間に合ったらお昼ぐらい食べさせてあげるから。図書室にいるんでしょ?」

「あ、うん」

「じゃね」

 
 図書室に向かうと鍵がかかっている。ドアの上の窓は薄暗いまま……まだ司書の先生は来ていない感じ。

 遅れて横に並んだ一年生が――なんだぁ――とあきらめ顔。

「あ、わたし鍵借りてくるから」

「え、いいんですか?」

「うん、司書の先生育休明けだからね、保育所とかで遅れる時があるから」

 二年にもなると、この辺の事情やら要領のかまし方にソツは無い。

 図書室の鍵は事務室。公の鍵で生徒は使えないので親しい先生に頼んで開けてもらう。

 親しい先生と言えば担任の花園先生。

 
 失礼しま~す。


 しおらしくドアを開けて職員室。

 え、先生たち、いっぱい来てる。

 テスト休みの職員室は閑散としている。出勤してる先生たちも他の準備室とかに居て、こんなに来ていることはないんだけどね。

 花園先生……あ、10円男とガッチリおじさんを前にお話し中。

 仕方が無いので、ザっと見渡して――お、めずらしい!――現国の杉野先生が目について島二つ向こうの杉野先生に頼むことにする。

「すみません、図書室開けて欲しいんですけど、お願いできませんか?」

「え、ああ……」

 あ、断る理由を探してる……と思ったけど意外に「ちょっと待ってね」と教務黒板のところへ。
 そうか司書の先生が欠勤でないかどうかを確かめてるんだ。欠勤だったら施錠までやらなきゃならないもんね。ものぐさの杉野先生は施錠まで付き合ってくれるはずはない。

「よし、いっしょにおいで」

 隣りの事務室で鍵をもらって図書室へ。

「今日は、先生方みんな来られてるんですね」

 図書室まで距離があるんで世間話的に聞く。

「ああ、今日は給料日だからねえ」

「え、ああ……」

 そうか、この時代は振込とかないんだ。

 写真館のバイト料も現金だし、ちょっと親近感。

 図書室の前に着くと、他にも四人の生徒が待っていて、最初の一年生はペコリと頭を下げてくれるし、少し気持ちいい。


「すごい美人といっしょだったじゃない!」


 用件を済ませて校舎を出ると、ウォータークーラーで水を飲んでいた佳奈子が顎を拭いながら寄って来る。女バレで毎日来てる佳奈子とはよく出会う。

「え、あ、ああ……お姉ちゃん(^_^;)」

「あ、去年文化祭に来てた!?」

「あ、ああ、まあね」

「ひょっとして懇談?」

「ううん、PTA新聞の係りやってるから、その会議だって」

「そうか、そうだよね。グッチは成績そこそことってるもんね」

「え、懇談て、成績不振者の?」

「うん、欠点四つも五つも取ってると呼び出されるみたい」

「ええ……10円、加藤君来てたよ(一緒に居たのは、たぶんお父さんだ!)」

「うん、二回目の留年はシャレにならないからねぇ……」

 10円男もいちおう仲間だから心配にはなる。

 センパーイ!

 後輩から声がかかってグラウンドに戻っていく佳奈子。

 さて、選さんの会議はもう少しかかるだろうなあ……思っているとスマホが震える。

 カバンで隠しながらスマホを見る。

――ごめん、会議長引くみたい。どうする?――

――今日はもう帰る――

――そうか、じゃあ、またこんどね(^▽^)/――

 スマホを仕舞おうとしたら、ちょっと不思議そうな顔をして二年の生徒が通り過ぎて行った。

 ヤバイヤバイ、昭和でスマホは禁止! 選さんにも言っておかなくっちゃ!

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)092・キャシーへの手紙・4『スクールポリス』

2024-07-17 06:36:48 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
092・キャシーへの手紙・4『スクールポリス』 





 今は解消されているけど、大阪とサンフランシスコが姉妹都市だったのは知ってるよね。


 エレメンタリースクールの時にシティーホールで親善行事に参加したの覚えてる?

 初めて日本の寿司を食べてさ、ワサビペーストで死にかけた、あの時のキャシーは忘れないよ。『ワサビテロ!』って、涙目で叫んでたよね。
 
 負けず嫌いのきみは『ワサビテロ』の対処法を編み出したんだ。

 ワサビは揮発性だから、テロに遭ったと思ったら、大口開けて上を向けばいいって。

 あの研究発表は忘れられないよ。ノドチンコ見た先生が「ちょっと肥大ぎみね、いちどドクターに診てもらったほうがいい」って言ったんだよね。ケンイチがヒソヒソ声で日本語のノドチンコの意味を言いふらしたもんだから、教室中笑っちゃって授業にならなかった。

 あ、そうそう姉妹都市。解消された理由を知って、ちょっとビックリしてる。

 キャシーも知ってると思うんだけど、シスコに『従軍慰安婦の少女像』が建てられたんだよね。

 私有地なんだけど、シスコに寄付されてパブリックなものになるって話。

 大阪市の市長が抗議して、撤回されないんで姉妹都市を解消。
 
 日本に来るまでは、あまり関心は無かったよ。

 だって、ドイツのナチと日本のミリタリズムは同じことでさ。虐殺とか性奴隷なんか平気でやってたと思ったよ。

 でも、今は、ちょっと違うんだ。

 何度か惣堀高校とか日本の学校の事を書いてきたけど、いろいろあり過ぎて予告編だけで終わってたことがあるんだ。

 スクールポリス!

 アメリカじゃ当たり前で、生徒だってワルサしたら逮捕とかされてたよね。

 学校はいちばん秩序が保たれなきゃいけないところだもんね。
 
 ところが日本の学校にはスクールポリスが無いんだよ!

 最初は惣堀高校だけかと思ったら、そんなもの日本のどこの学校にも無いんだって! 信じられる!?

 以前、日本のスクールポリスをググったらさ、ちゃんとスクールポリスのドラマがあったから当然スクールポリスはあるんだと思ってたよ。

 惣堀高校に来て一か月以上になるけど、暴力事件も泥棒沙汰も性的なバイオレンスも無いんだ。
 ぼくが知らないだけと言うかもしれないけど、ぼくがホームステイしているのは生徒会副会長のミハルの家なんだ。ミハルはなんでも教えてくれるから、彼女が「無い」と言えば本当に無いんだと思うよ。

 これだけ平和なのは、きっとどこかで取り締まってるんだ、そう思うよね。

 ところが、無いんだ! 

 たまにケンカとか喫煙とか授業妨害(空堀では、まず無いらしい)とかあるらしんだけど、それはセイカツシドウの先生が取り締まったり処理したりするらしい。

 信じられるかい? 先生が学校の治安維持に取り組んでるなんて!

 それも丸腰なんだぜ!

 スタンガンくらい持ってるだろう? ひょっとして柔道や空手の有段者?

 いやいや、ごく普通の先生たちさ。

 信じられないけど、先生たちの会議で選挙で選ばれるんだって!

 それで、もっと信じられないのは、セイカツシドウやっても給料にはいっさい割り増しがないってこと。

 だって、教師とポリスの仕事してるんだぜ。アメリカなら、教師のユニオンが黙ってないね、全米一斉の先生のストライキが始まるね。

 とにかく日本人は善良だよ。人に迷惑かけないことを信条としていて、地震とかのクライシスが起こっても、ちゃんと列を作って並んでるし、略奪事件もあり得ない。

 YouTubeで、昔の日本の動画をせっせと見たんだ。イザベラ・バードとかジョン・レノンとかドナルド・キーンとか。むろん国連本部で演説できるほどの量ではないけどね。

 服装とか建物とかの街の様子は違うけど、受ける印象は現代の日本と変わりがない。

 だから、シスコに少女像を建てるような理由が本当にあったのかと思うよ。


 もう一つ信じられないだろうけど、演劇部に入ったんだ!


 でも、それについては、長くなるから、次にでもね。


 
 親愛なるキャシーへ      新しい部室にて ミッキー



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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