大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい 番外・002『相野先輩と海老のシッポ』

2024-07-29 10:54:41 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
番外
002『相野先輩と海老のシッポ』さくら 




 秋アニメのアフレコの後、ラジオの生放送まで時間があったんで放送局の社食で早めの晩ご飯(遅めの昼ご飯とも言える(^_^;))をいただく。

 ちかごろは、テレビもラジオも斜陽産業やけども、放送局の食堂はけっこう繁盛してる。ぜんぶで100人は入れるというフロアーは八分の入り。
 教室が八分の入りやったら「今日は欠席が多いなあ」やけども、食堂は四人掛けに二人とか三人とかで座って、入り口には順番待ちの人らも並んでて、満席の印象。

「やっぱ……不景気なんだねえ」

 ご一緒してくれてはる相野千春さんが声を潜めて言う。相野さんは去年の春アニメ『やくも あやかし物語』でブレイクしたベテラン声優さん。なんでか気が合って、仕事の合間なんかにご飯とかごいっしょしてくれはる。

「そうですかぁ、けっこう入ってるように思いますけど」

「景気がよかったら外に食べに行ってるわよ……って、わたしたちも社食だけどね」

「う~ん、東京の人てぇ……雰囲気大事にしはりますよね」

「うん、見栄っ張り。ここの社食だってけっこう美味しいのにねえ」

 そう言いながらエビフライのシッポを口に放り込む相野さん。口の中でポリポリっと小気味のええ音がする。ウチも海老のシッポをポリポリ。

 相野さんと仲良くなったのは、声優仲間でご飯食べに行って、二人とも海老のシッポを食べるのが分かった時やしねえ。

「やっぱり、開会式の噂してる人が多いねえ……」

「あ、ああ……」

 ちょっと恥ずかしい……開会式をライブで観てて、ウチは感心ばっかりしてた。オリンピック旗が逆さに掲揚されたのはさすがに笑ったけど、ウチ的には「ポカやりよった!」と笑っておしまい。

 合間のパフォーマンスもお祖父ちゃんが言うてたアバンギャルドとかいう前衛芸術やと思て感心してた。

 真ん中にデブのネエチャンが居って、その両側に変なコスとメイクの人らが並んでフニャフニャしてるのは、わけも分からんとアバンギャルドォ!と感心してた。
 せやけど、あれはキリスト教の『最後の晩餐』をパロったものやと聞いてびっくりした。

 うちの家業的に言うと『阿弥陀来迎図』を茶化すようなもんで「そらアカンやろ!」という性格のもんや。

「国の名前を間違ってアナウンスしちゃうし、ほら、あのセーヌ川を馬に乗ってぇ……」

「ああ、ジャンヌダルクかFateのセイバーかっちゅう」

「あれは、オリンピックの旗を持ってなきゃ黒死病を運んでくる悪魔の姿」

「え、そうなんですか!?」

「うん、モノクロ的な演出だったし、フードで頭を隠してたでしょ。あれで大きな鎌とか持ってたら、そのものなんじゃないかなあ、ゴヤの黒い絵とか思い出す」

「は、はあ(^_^;)」

「トドメはマリーアントワネットの生首ね」

「え?」

「え、観てたんでしょ? 」

「アハハハハ(^_^;)」

「あそこさコンシエルジュリー って云って、リアルにマリー・アントワネットが幽閉されてた館だしね、ちょっとシャレにならないよ」

 ああ、たしかに見たけど、あそこは留美ちゃんといっしょにおばちゃんのパンの仕込手伝いながらやったから、なんやヘビメタがすごいなあて思ってた。坊主三人は喜んでたしぃ……。

「こんどのハローウィンじゃ真似するのが出てくるだろうねえ」

 あの晩、夢にマリーアントワネットが現われてダミアを連れて行った。

 そもそも、五年前子猫のダミアを拾った時にパリオリンピックの年に迎えに来ると夢の中で言うてたし……マリーアントワネットには分かってたんかも。

「せやけど、相野さん、よう知ってはりますねえ」

「アハハ、さくらがオムツしてたころから声優やってるからね」

 やっぱりこの業界を生き抜いてる人はちゃうと感心した。


 仕事を終えて家に帰ると、阿弥陀さんの前に新しい小さな骨壺。

 ウチのすぐ後に帰ってきた留美ちゃんといっしょに静かに手を合わせた。

 
 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)  相野千春(声優の先輩)
 

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)104・八重桜の教育的手腕・2

2024-07-29 06:52:44 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
104・八重桜の教育的手腕・2 




 アイデアはよかった。

 ミリー先輩とミッキーが舞台に立って、三輪車の須磨先輩と啓介先輩と助っ人の美晴先輩が二人の周囲をグルグル周る。ちょっと工夫して三輪車のハンドルの前に子どもの上半身のイラストを付けてある。それを大の高校生がチマチマチョコチョコと漕ぐものだから、ちょっと可愛い(^_^;)

 うん、ちゃんと子どもに見えてる!

「じゃ、カゴメカゴメやってごらん」

 八重桜先生の指示でミリー先輩を真ん中にカゴメカゴメを始める。

 かーごめかーごめ かーごの中のとーりーは いーついーつ出やーる……(^^


 あ、いい、これいい!


 みんな、そんな感じ。

 面白くなって、鬼を交代してみんなでやり始める。

 最初は、三輪車なんてどうだろう? 『夕鶴』の世界に馴染まないんじゃないだろうかと思った。

 でも、三輪車というアイテムは高校生に子どもの心を思い出させてくれるようで、みんな喜々としてやっている。

「そうよ、ここで大事なのは子供らしいハズミなの。三輪車って、みんな子どものころに乗ったじゃない、背丈も子どもの背丈に戻るじゃない、動きもチマチマしてて、なんの演出もしなくても子どもを演じられるのよ(^▽^)/」

 先生はガキ大将になったような楽しさで解説してくれる。

「じゃ、沢村さん入ってみようか」

「え、わたしですか!?」

「あれなら、混ざれるでしょ」

「あ、え……」

「千歳、やってみようや!」

「キャ!」

 啓介先輩がいきなりお姫様ダッコで舞台に上げてくれる。

「ディズニーアニメ、コンナシーンアッタネ!」

 車いすを舞台に上げながらミッキーが片言の日本語で、そんなつもりはないんだろうけど冷やかして、みんなが笑う(#^_^#)。

 でも、それからは簡単じゃなかった。

 さすがバリアフリーモデル校である空堀高校もステージまではできていない。

 それでカゴメカゴメをやってみる……ちょっと怖い。

 車いすでミリーの周りをまわって、舞台の前に出るともうギリギリ。介添え無しでホームドアの付いていない駅のホームに居るみたい。

 府立高校の舞台というのは、奥行きが3・6メートルしかない。

 それもカタログデータで、実際は幕とかホリゾントライトが置かれるので、実際は3メートル。

 中ほどにミリー先輩が居て、その周りを車いすで回ると……ちょっと狭い。

 舞台の高さは1・3メートルだから、目の高さは2メートルを超える。タイヤと舞台の端っことは30センチほど。

 でも、雰囲気がアゲアゲになっているので怖いとは言えない。

「じゃ、鬼ごっこしてみよっか」

 先生の一言、みんな「おーー!」って感じでノッテいる。

 わたしもおっかなびっくりで参加。でも、ものの数秒でみんなは停まる。

「先生、鬼ごっこは勢い付いて怖いってか、危険です」

 さすが生徒会副会長、美晴先輩が異議申し立て。

「やっぱりね、こうやってやってみると実感するのよね」

 先生は演説を始めた。

「府立高校の舞台は床下にパイプ椅子を収納するために標準より40センチも高いの。それにフロアの床面積とるために奥行きが無くって、じっさいやってみると、もう身の危険を感じるくらい。体育館に講堂の機能を併せ持たせたつもりが、文化施設としての舞台機構の無理解、意識の低さが舞台を高く狭くして、ひどく使いづらいものにしてしまったのよ。ね、これが大阪府、いえ、日本の文教政策の現実! 見た目だけに気を取られて、本当には現実に目が向いてないのよ! この現実に、わたしは断固抗議するものです!」

 パチパチパチパチパチパチ

 思わず拍手してしまった(^_^;)。

 最初に、この演説を聞かされたら、正直腰が引ける。

 でも、じっさいに自分たちがやってみて危険や不便さを感じると肯けるし、正直な拍手になる。

 わたしは八重桜先生をちょっとだけ見直した。


 迎えに来てくれたお姉ちゃんに話すと喜んでくれた。

「そっか、舞台はどうにもならないだろうけど、車いすを小型のに……」

 呟きながら松屋町(まっちゃまち)のおもちゃ屋さんの店先を偵察。

「おもちゃ屋さんに車いすは無いと思うよ、それに、運転中……キャ!」

 急停車したお店には木製の三輪車。

「あれだ!」

「三輪車は乗れないよ」

「コンセプトよコンセプト、この線でググったら…………あった!」

 それはタイヤ以外は全部木製という車いすで、タイヤも二回りも小さい室内用で、これなら狭い舞台でもいけるかもしれない!

 行動派のお姉ちゃんは、五分ほどでレンタルを決めてしまった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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