大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・237『テムジン・1』

2024-07-31 11:25:30 | 小説4
・237

『テムジン・1』孫大人 




 北京秋天を思うと、それよりも壮絶な、いわば北京蒼天とでも言うべき壮絶な青空が見えてきたアル。

 北京の半分、奉天の四半分ほどしか水蒸気を感じさせない空は、まるで仰ぎ見る者を染めてしまいそうなほどに蒼いアル。

 緩い坂道を上っているので、このまま筋斗雲を進めていくと、そのまま空に上ってしまいそうな気持するアル。

「いっそ、空を飛ぶ? 短時間ならステルスレベルマックスにできるけど」

 気持ちを察した春鈴が気を効かすアル。

「このままがいいアル、飛んだら空に呑み込まれそうアル」

「惜しいわねぇ、小さな雲が一つだけ残ってる」

「惜しいか……かえって空の蒼さを荘厳(しょうごん)してる思うアルよ」

「荘厳ねえ……なんだか、そのまま解脱とかして新興宗教でも開きそうね」

 宗教開いて世界が救われるなら、それもアリ思うアルよ。

 しかし、この蒼天の下では間もなく満州戦争並みの戦闘が行われるアル。

 ここいらは昔からの変わらぬ遊牧やってるアル。今ごろは羊たちも避難させ、人間もゲルを畳んで避難準備の真っ最中思たアル。

 
 峠を越えると、蒼天のぼっち雲を映したように白いゲルが残ってるアル。ゲルの傍らにはポールが立っていてデザインされた狼の旗。

 
 テムジン!?


 児玉元帥以上に古い友人の名前思い出したアル!

「ちょ、なにすんのよ!」

 手を伸ばして筋斗雲の緊急停止を押したアル。

「テムジンは、こういうの嫌うアル。ここからは歩くアル」

「テムジン……知り合いなの? まだ一キロはありそうだけど?」

「ああ、老婆婆(ラオパアパア)の髪がまだ真っ黒だったころからの付き合いアル」

「あたしは?」

「ああ……ついて来てくれ。どのみち紹介しなくちゃならない、いっぺんに済ますいいアル」

「テムジンて本名? 古い鍛冶屋でなければモンゴルの古い英雄の名前だと思うんだけど」

「世襲名アル、父親死ぬとテムジンの名を受け継ぐアル」

「ちょっとぉ……すごい殺気なんだけどぉ」

「だいじょうぶ、ほんとうに殺そう思う、殺気ないアル」

「そう……言われてなきゃ、ソッコー首の骨へし折りに行ってるところよ」

「春鈴、物騒アル」

「え……向こうの方から近づいてきた」

「どうやら敵ではないと認識したアル」

 ゴヘーーイ!

 テムジーン!

 儂もテムジンも同時に駆けだして草原の真ん中で、ガシっとぶつかるようにしてハグし合った。

 同時に、どこでどう隠れていたのか、50騎余りの騎兵が湧いて出て、儂とテムジンを取り巻いたアル。

 春鈴も10騎ほどに取り巻かれている。そいつらはみんな弓に矢をつがえて春鈴に狙いを定めていたアルよ(^_^;)。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)106・再びの真田山高校

2024-07-31 07:29:46 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
106・再びの真田山高校  






 今日は『夕鶴』の稽古が無い。


 明後日から始まる第六地区のコンクール予選、その打ち合わせがあるので、部員全員で会場の真田山高校に向かう。

 地区総会に来たのは暑い盛りの七月だった。

 車いすというのは姿勢が低い。

 座っているんだから当たり前なんだけど、頭の位置は地上から一メートルも無くて、幼稚園児が歩いている頭の高さぐらいしかない。

 わずか四五十センチの違いなんだけど、アスファルトの照り返しが尋常じゃなく、健常者よりもうんと暑い。

 背もたれやシートが邪魔で、すっごい熱がこもるんだよ。背中もお尻も汗びちゃになった。


 それが懐かしく思えるくらいに、今日は寒い!


 健常者は歩いているから、ホコホコと温かい。

 でも、わたしって座りっぱなしだから歩行によって温まるということが無いので本当に寒い!

 寒いとトイレが近くなるので、昼ご飯のあと水分を摂っていない。

 内緒だけど五分丈のスパッツを穿いている。うっかりすると見えてしまうので、今日のわたしは大変お行儀がいい。

「ホットのお茶あるけど、少しだけ飲む?」

 介助をしてくれているミリー先輩が保温水筒を差し出してくれる。

「あ、かわいい」

 水筒はトトロの形をしていて、首を外すとコップになる。

「はい、どうぞ」

 トトロの形をしていなかったら、しなくていい遠慮をしてしまっただろう。

「かわいい」と反応することで先輩は「でしょ」とお茶を注いでくれる。普通の水筒だったら「あ、いいです」と返してしまう。

 元々の性格なのか、小六で車いすになってからかは分からないけど、人が勧めてくれたことには一歩引いてしまう臆病なところがある。

 むろん、こんな体なので、いざという時には見ず知らずの人にもお願いしたり頼りにしたりしなくちゃならないので、差し迫った時でなければ、つい遠慮してしまうのだ。

 ミリー先輩は、ついこないだまでは車いすだった。

 捻挫をこじらせての短期間だったけど、いっしょにゴロゴロと車いすを転がして、ずいぶん距離が縮まった。

 七月は、須磨先輩が解除してくれていたけど、今日の須磨先輩は自然な流れで付き添いの朝倉先生と喋りながら、わたしたちの最後尾を歩いている。その声が聞こえてくるんだけど、なんだか友だち同士みたいなノリだ。噂では、二人は同級生同士だったらしいんだけど、どうなんだろ?


 真田山の会議室。


 みんな「こんにちわ!」と明るく挨拶してくれる。こちらも「こんにちわ!」と返すんだけど、七月の時のようにキャーキャー言われることは無い。

 七月は部室棟のことで演劇部は有名になった。SNSだけじゃなくテレビのニュースなんかにも出たので、なんだかアイドルの握手会みたくなってしまった。

 まあ、一種のノリだったんだろうなと納得。

 でも、ミッキーは新顔のアメリカ人、でもって、演劇部というのはどこの学校も女ばっかなので、チラチラとチラ見されている。

「『日本の学校って、みんなきれいだね……校舎も生徒も』って言ってる」

 ミッキーの独り言をミリー先輩が同時通訳。

「how about SOUHORI?」

 惣堀高校はどうよ? とミリー先輩が聞き返す。この程度の英語は分かる。

「オフコース!」

 分かりやすいカタカナ英語で答えるミッキー。日本語はまだまだだけど、分かりやすい言葉で意思を伝えようとするのはグッドだと思う。

 こないだA新聞の取材で、舞台で稽古の一部を披露するのに舞台に上がるのに間近にいたミッキーがピクリと動いた。
 瞬間で分かったよ、わたしを介助してくれようとしたんだけど――これは啓介先輩の役目――だと思ったんだ。

 啓介先輩だって、成り行きで一回やってくれただけだから、特別な気持ちとかがあってのことじゃないんだよ。あんまり気を回されるのは好きじゃないけど、こういう思いやりは悪くないと思う(^_^;)。


 会議の終わりに受付業務の説明を受ける。


 惣堀は出場はしないけど、受付の仕事をすることになっている。

「これをPRして売って欲しいねん」

 役員校の先生が、ドサリと紙包みを置いた。

 中身は週刊誌大の立派なパンフレットだった。ざっと百部ほど、これを五百円で売る。売り上げはコンクールの運営費用の一部にあてられるそうだ。

 バカにできない売り上げになるそうで、頑張らなくっちゃと思った。

「で、空堀高校の部員は何人?」

「五人です」

「じゃ五冊、どうぞ。代金は今日でなくてもいいけど2500円ね」

 え、わたしたちからも取るの?

「連盟も金ないさかいなあ」

 啓介先輩が忖度すると朝倉先生が茶封筒からお金を出して払う。パンフのことは分かってたんだね。あらかじめ用意していたんだ。

「どうもすみません(^_^;)」

 お礼を言いながら領収書をくれる役員校。

 あとでググってみると、大阪の倍以上の加盟校のある東京以外は苦しいみたい。
 
 会議というか打合せの内容は一年のわたしには難しいのでニコニコ座っているだけ。まあ、空気に馴染んでおくのも大事だからね。

 て……あれ、演劇部は学校辞めるための方便だたんだけどね。

 演劇部に潰れる気配はない。

 え、あ、いやいや、いいんだけどね(#^_^#)。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


 

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