大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・129『御息所のひろ~い館』

2022-03-17 13:20:25 | ライトノベルセレクト

やく物語・129

『御息所のひろ~い館』 

 

 

 わたしの家は一丁目にある。

 

 一丁目を西に突き当たると左に道が曲がって二丁目。

 曲がったところからは坂道で、100メートルほど下って折り返して、さらに100メートルほどの下り坂。

 下りきって西に折れて、二丁目を通った先の三丁目に学校がある。

 学校から帰って来る時は、遠目に坂の上の一丁目が見える。

 その坂の上の一丁目は比較的大きな家が多くて、我が家は、その中でも一回り大きい。

 漠然と二百坪くらいかと思っていたら「う~ん……四百坪くらいかなあ」と、お爺ちゃんはこともなげに言う。

「敷坪四百、建坪二百ってとこかなあ……」

「よんひゃくに、にひゃく!?」

「古いだけさ」

 そう言うと、そのまま膝の上の新聞を広げて自分の世界に潜っていくお爺ちゃん。

 新聞ばかり読んでると情弱のバカになってしまうと思うんだけど、まあ、新聞読んでるときとお風呂に入ってるときが一番リラックスできると言うんだから仕方がない。

 子どものころ、お母さんが教えてくれた。

「一坪って言うのは畳二枚分。だから、六畳は三坪。覚えやすいでしょ」

「うん……じゃあ、百坪は?」

 百と言うのは、大きくてお目出度い数字って感じがする。子どもの基準って、テストの点みたく百点でしょ。

 だから、百坪って聞いてみたのよ。

「うん、プールの水面くらいかなあ」

「おおー!」

 ほとんどカナヅチだったわたしにとって、学校のプールの水面は湘南海岸から見渡す太平洋と変わりが無かったから、とてつもない広さに感じた。

 それが四つ分と言うのだから、ほんとうにぶっ飛んだ広さ。

 

 その我が家が小さく見えるくらいだから、よっぽどのよっぽどよ。

 

「おお、よう参ったのう」

 御息所が門の前で、エッヘン顔して立っている。

「すごいねえ……!」

 建物の周囲は京都御所みたいな塀が取り巻いているんだけど、両端は絵巻物の雲みたいなのに隠れていて見渡すこともできない。

「チカコはいっしょではないのか?」

「どうせ寝殿造りでしょって」

「チカコめぇ……」

「あははは(^_^;)」

 どうも、チカコと御息所は、仲がいいのか悪いのか。

 今日はね、御息所がメイデン勲章のおまけにもらった館を見せたいというので来てみたわけなの。

 アキバのメイド王がくれたものだから、VRとかのバーチャルじゃないかと思ったんだけどね。

 それがどうして、京都御所も真っ青ってぐらいに立派な寝殿造り。

 むろん、電車や車で来たわけじゃないのよ。

 メイデン勲章の真ん中を見つめながら――御息所の館――と念ずると、ここに来れるわけ。

「まあ、ゆるりと過ごすがよいぞ」

 御息所が鷹揚に指し示すと、メイドさんや執事さんがズラリと現れて、館の中に招いてくれる。

「最初は平安風俗でないのが、ちと不満であったが、いやはや、やくもの家の生活が慣れたせいであろうな。なかなかのものであると満足いたしたぞ」

 なるほど、階(きざはし)を上がると、廊下には緋色の絨毯が敷かれていて、わたしの歩く前をお掃除ロボットが恭しく埃を払ってくれる。照明だってLEDの間接照明だったりする。

「この渡殿(わたどの)を過ぎると寝殿じゃ。ここからの庭の眺めは格別じゃぞ」

「おお!」

 右近の橘左近の……なんだったけ?

 とにかく、国語便覧とかで見た寝殿造りの姿が、何倍かの規模で広がってる。

 白砂の庭の向こうは……池?

「池のはずなのじゃが果てが見えん。ひょっとしたら海なのかもしれんなあ……ほれ、あの渡殿の先が釣殿になっておるじゃろ。あそこから釣竿をさせば、クジラが釣れそうじゃ」

 おほほほほ

 控えているメイドさんたちが手の甲を口にもってきて上品に笑う。

 メイドさんというのは、主人やお客さんの前では喜怒哀楽を見せないものかと思っていたけど、これも御息所の趣味なんだろうねえ。

「さあ、ここが、わらわの常の間である寝殿じゃ。今日は風もなく良い日よりじゃ、エアカーテンはオフにしてよいぞ」

「はい、ご主人さま」

「ご主人ではない。わらわのことは御息所と呼べと申したであろう」

「しつれいいたしました、御息所さま」

 少し頬を染めて一礼すると、担当のメイドさんはポケットからリモコンを取り出してエアカーテンのスイッチを切った。

「こだわるんだね(^_^;)」

「ここの主は東宮さま。ここは、その東宮さまの休憩所。一息つかれる憩いの場所なのじゃ、それゆえ、わらわの名乗りは『御息所』なのじゃぞえ」

「そうなんだ……そんなところに、わたしが呼ばれてよかったのかなあ?」

「目的を持った場所というのは、使ってみないと善し悪しが分からぬものじゃによって……むろん、やくもへの感謝もあるしのう。さ、そちらのカウチでくつろぐがよいぞ」

「うん、ありがとう」

「本来ならば、三日はかけて歓迎の宴を開きたいところじゃが、晩御飯は家族と食べるのがやくものコンセプト。軽く天ソバなどを作らせておるゆえ、しばらく待て」

「あ、おかまいなく(^_^;)」

「いや、構うぞ、そうじゃそうじゃ、とりあえずはお茶にしよう……」

 担当のメイドに命じようと御息所が、わたしは恐縮して振り向くと、そこに立っていたのは将門さんちのアカ・アオメイドだった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

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明神男坂のぼりたい・102〔The Summer Vacation・9〕

2022-03-17 06:52:53 | 小説6

102〔The Summer Vacation・9〕 

                      

 

 時差ボケしてる間もなかった。

 ハワイのロケから帰ってくると、そのまま毎朝テレビの『ヒルバラ』に出演。選抜6人が前で、あとの6期生は後ろの雛壇。

 当然トークは選抜に集中。

 AKRに入って2か月ちょっとだけど、差が付いたなあ……とは、まだ思わなかった。

 口先女では自信のあたしだけど、8分の間に、MCの質問受けて、プロモの話を面白おかしく話して、22人の子みんなに話振るのはできない相談。

 だいいち進行台本がある。いちど出してもらった関西のテレビは、「ここで突っ込む」とか「ここボケる」ぐらいのラフで、あとは成り行き任せいうとこがあって、ほとんど自分のペースでやらせてもらえた。

 初のメインゲストの『ヒルバラ』は東京の番組、台本から外れることはNG。タイミングになると、必ずADのカンペで指示され、否応なく台本通りに進行させられる。

「もっと面白~くできたのになあ」

 カヨちゃんが楽屋に戻りながらささやきながら、小さくファイティングポーズ。一瞬みんなで真似すると、すれ違う局の人や出演者がクスリと笑う。

 そーだよ、こういう自然なノリだよ……と思っても収録は終わってしまってる。

 楽屋に戻ったら局弁食べながらメールのチェック。ゆかり、美枝、麻友を始めあたしがAKRに入ってからメル友になった子たちに「ただいま。時差ボケの間もなくお仕事。またお話しするね!」と一斉送信。 ファン向けのSNSには「疲れた~」「ガンバ!」なんちゅう短いコメントと写メを付けて、あたりまえだけど一斉送信。

「さあ、あと10分でユニオシのスタジオに戻って夜のステージの準備。いつまで食べてんのよ。チャッチャとやってよチャッチャと!」

 チームリーダーのあたしは、いつのまにか市川ディレクターや、夏木先生の言い方、考え方が移って同じように言うようになった。みんなんも認めてくれてるし、チームもまとまってきたんで、これでいいと思ってた。

 バスでスタジオに戻るわずかの間に3人もバスに酔う子がでてきた。

「ちょっと、席代わってあげて! 舛添さん酔い止め!」

 女同士の気安さで、3人のサマーブラウスやらカットソーの裾から手を入れてブラを緩めてあげる。薬飲ませて、気を逸らせるために喋りまくり。3人もなんとかリバースすることもなくスタジオに着いた。

 でもね、バスの中で酔いが伝染。10人近い子らがグロッキー。

「ちょっと休ませた方がいいよ」

 カヨちゃんの一言で決心。

「三十分ひっくり返ってなさい。しんどい子は、薬もらって少しでも寝とくといい」

「よし、明日香。その間に打ち合わせだ」

 市川ディレクター、舛添チーフADと夏木先生ら大人3人に囲まれて、ハワイでのことを中心に反省会と今後の見通しについて話し合う。

「一番落ち込んでるのは誰だ?」

 市川ディレクターの質問は単刀直入だった。

「和田亜紀と芦原るみです」

「じゃ、カヨといっしょに支えてやってくれ。6期生はスタートが早かった。まだ気持ちがアイドルモードになり切れてないと思う。なんとか取りこぼさずに、VACATIONを乗り切って欲しい」

「分かりました」

 短時間だったけど、有意義だと思った。短い会話の中で、現状の確認と展望、これからの見通し。そして、なによりもこれから6期生全員を引っ張っていかなきゃという責任感と期待が市川さんらと共有できた。

 みんなの様子を控室に見に行って、カヨちゃんたちと相談して、休憩時間をさらに30分延ばした。

「じゃあ、6期。ハワイで一回り大きくなったところを見せるぞ!」

「「「「「「オオ!」」」」」」

 控室で円陣組んで、テンションを上げた。

 休憩時間を30分余計に取った分、レッスンの時間は減ったけど密度は高かった。この時まではいけると思ってた。

 六期は、まだまだ前座だけど、AKR始まって以来の成長株だと言われてる。

 負けられへん!

 30分間、VACATION!、TEACHERS PETなんかのオールディーズのあと21C東京音頭。間を、あたしとカヨちゃんのベシャリで繋いでいく。

 なんとか、アンコール一回やって、失敗もせずに終われた(^_^;)。

 で、楽屋で、仲間美紀が倒れた。全然ノーマークの子だった。

 口数は多くないけど、明るく愛想のいい子で、今まで不平を言うことも疲れた様子を見せることも無く頑張ってきた子だ。

 酸素吸入しても治らないので救急車を呼んだ。

―― あたしは、何を見てたんだろ ――

 ピーポーピーポー ピーポーピーポー

 やっと芽生え始めたリーダーの自信が、遠ざかる救急車のサイレンとともに消えていく……。

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