魔法少女マヂカ・262
千年も魔法少女をやっていると、いろんなことに慣れてくる。
妖や魔法使いや魔法少女に対してもそうだが、人間のやる事なら、たいていのことは見通せる。
むろん泥棒やかっぱらいに対してもね。
四百年前、調子に乗った石川五右衛門を捕まえたのも、雲霧仁左衛門に引導を渡したのも、わたしだし。義賊に徹することを条件に見逃してやったのも、魔法少女の片手間に女義賊弁天のマヂカとふたつ名持った、このわたしだ。
だから、震災直後の銀座とはいえ、盗られ
三越の屋上で周囲を観察して、あたりを付け、霧子たち三人に休憩を命じて八丁目に飛んだ。
一筋曲がれば新橋と汐留の分岐というところで、そいつを見つけた。
「おじさん、そのステッキ返してくれないかなあ」
声を掛けると、尻っ端折りに鳥打帽というオッサンがギクリと立ち止まったが、振り返った顔は緩んでいる。
こいつ、声で女だと舐めたな。まあいい、軽快な再生服とは言えスカートだ、走って追いかけるのは面倒だしね。
「言いがかりはやめてもらおうぜ、これは、親父の形見の……」
「ほう、そいつが仕込み銃と知ってのハッタリかい?」
「仕込み銃だと!?」
「悪いことは言わない、お巡りさんに見咎められたら御用になるよ。どうせ前があるんだろうし、今度捕まったら二三年は物相飯(もっそうめし)喰うことになるぞ」
「女のくせに伝法な口ききやがって、てめえ……」
「四の五のいってないで……ほれ!」
ポコン
「い、痛てえ!」
「いい音だ。頭丸めて寺に行きゃあ木魚の代わりに雇ってもらえるよ。じゃ、返してもらうよ」
ステッキを取り上げると、鳥打帽は這う這うの体で逃げて行った。
大事にならなくてよかったな……
仕込み銃は、ステッキとしても樫材に金細工の獅子頭、目には小粒のダイヤが嵌められていて、かなりの高級品。置き引きが目を付けるのも無理はない。
四丁目目指して歩いて帰る。
十七歳の女学生らしく、いかにもお爺ちゃんの忘れ物という風に胸に引き付けて持つ。
その健気な姿に、自分で可笑しく笑いそうになる。これで四丁目まで戻るのは骨だなあ……そう思って五丁目まで戻ると、向こうの歩道から三人が手を振ってやってくる。
オーーイ
「心配なんで、きちゃった!」
JS西郷が二人のおねえちゃんを従えた小学生のように駆けてくる。
「ありがとう、取り返してくれたんだね!」
「ああ、今度はしっかり持っているんだぞ」
「ハーイ!」
二人にも「しっかりね!」と言われて、テヘペロのJS西郷。
一瞬の気配。
アッと息をのんだ時には、黒い鳥がステッキのヘッドを加えて空高く舞い上がった。
「くそ、トンビか!?」
「今度はあたしも!」
二度も取られて、JS西郷も子どもとは思えない顔つきになって力こぶを見せる。
「待ってろ!」
「待ってられっか!」
ピョン ピョン ピョーン!
「「西郷ちゃーん!」」
JS西郷は、驚く霧子とノンコを尻目に、街灯や電柱を猿のように跳び上がり、飛び移り、ビルの屋根や店の庇をジャンプしながら付いてくる。
「見えた!」
さすがに仕込み銃のステッキは重量があって、トンビは高く飛べないでいる。
パシ!
スピードも落ちてきたところを、JS西郷は、いつの間にか取り出したパチンコでトンビを撃った。
キエー!
背中に当ったトンビは悲鳴を上げてステッキを放す!
「返してもらうぞ!」
ジャンプして受け取って、JS西郷に渡してやる。
「ごめん、また、面倒かけちゃったね(;'∀')」
さすがに、申し訳なさそうに頬を染めている。
「帰るまで持っていてやろうか?」
「え……あ、そうだね……いや……」
手渡そうとした瞬間にJS西郷がためらってしまった。
ズドン!!
「「ウワ!!」」
二人とも手が滑って、ステッキが暴発してしまった。
銃弾を発射したステッキは、反動で三メートルほども飛び上がって……また、持っていかれた!
「今度は犬だぞ!」
黒い犬が、器用に咥えてビルの谷間を逃げていく。
「待て! 犬!」
「こんにゃろ!」
同時に駆けだして犬を追う。
瞬間目をやった歩道には、ステッキの仕込み銃とは思えない弾痕が穿たれていた。
まるで重機関銃の弾痕だ。
いや、ゆっくり思い出してなどいられない。
三丁目に向かって追っていくと、いつの間にか、向こうの歩道を霧子とノンコが追いかけているのが視界に入った。
仕方ない。
及ばずとも、みんなで追うしかないか……
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男
- 箕作健人 請願巡査