大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・262『取り返す』

2022-03-07 14:24:46 | 小説

魔法少女マヂカ・262

『取り返す語り手:マヂカ  

 

 

 千年も魔法少女をやっていると、いろんなことに慣れてくる。

 妖や魔法使いや魔法少女に対してもそうだが、人間のやる事なら、たいていのことは見通せる。

 むろん泥棒やかっぱらいに対してもね。

 

 四百年前、調子に乗った石川五右衛門を捕まえたのも、雲霧仁左衛門に引導を渡したのも、わたしだし。義賊に徹することを条件に見逃してやったのも、魔法少女の片手間に女義賊弁天のマヂカとふたつ名持った、このわたしだ。

 だから、震災直後の銀座とはいえ、盗られ

 三越の屋上で周囲を観察して、あたりを付け、霧子たち三人に休憩を命じて八丁目に飛んだ。

 一筋曲がれば新橋と汐留の分岐というところで、そいつを見つけた。

「おじさん、そのステッキ返してくれないかなあ」

 声を掛けると、尻っ端折りに鳥打帽というオッサンがギクリと立ち止まったが、振り返った顔は緩んでいる。

 こいつ、声で女だと舐めたな。まあいい、軽快な再生服とは言えスカートだ、走って追いかけるのは面倒だしね。

「言いがかりはやめてもらおうぜ、これは、親父の形見の……」

「ほう、そいつが仕込み銃と知ってのハッタリかい?」

「仕込み銃だと!?」

「悪いことは言わない、お巡りさんに見咎められたら御用になるよ。どうせ前があるんだろうし、今度捕まったら二三年は物相飯(もっそうめし)喰うことになるぞ」

「女のくせに伝法な口ききやがって、てめえ……」

「四の五のいってないで……ほれ!」

 ポコン

「い、痛てえ!」

「いい音だ。頭丸めて寺に行きゃあ木魚の代わりに雇ってもらえるよ。じゃ、返してもらうよ」

 ステッキを取り上げると、鳥打帽は這う這うの体で逃げて行った。

 大事にならなくてよかったな……

 仕込み銃は、ステッキとしても樫材に金細工の獅子頭、目には小粒のダイヤが嵌められていて、かなりの高級品。置き引きが目を付けるのも無理はない。

 四丁目目指して歩いて帰る。

 十七歳の女学生らしく、いかにもお爺ちゃんの忘れ物という風に胸に引き付けて持つ。

 その健気な姿に、自分で可笑しく笑いそうになる。これで四丁目まで戻るのは骨だなあ……そう思って五丁目まで戻ると、向こうの歩道から三人が手を振ってやってくる。

 オーーイ

「心配なんで、きちゃった!」

 JS西郷が二人のおねえちゃんを従えた小学生のように駆けてくる。

「ありがとう、取り返してくれたんだね!」

「ああ、今度はしっかり持っているんだぞ」

「ハーイ!」

 二人にも「しっかりね!」と言われて、テヘペロのJS西郷。

 

 一瞬の気配。

 

 アッと息をのんだ時には、黒い鳥がステッキのヘッドを加えて空高く舞い上がった。

「くそ、トンビか!?」

「今度はあたしも!」

 二度も取られて、JS西郷も子どもとは思えない顔つきになって力こぶを見せる。

「待ってろ!」

「待ってられっか!」

 ピョン ピョン ピョーン!

「「西郷ちゃーん!」」

 JS西郷は、驚く霧子とノンコを尻目に、街灯や電柱を猿のように跳び上がり、飛び移り、ビルの屋根や店の庇をジャンプしながら付いてくる。

「見えた!」

 さすがに仕込み銃のステッキは重量があって、トンビは高く飛べないでいる。

 パシ!

 スピードも落ちてきたところを、JS西郷は、いつの間にか取り出したパチンコでトンビを撃った。

 キエー!

 背中に当ったトンビは悲鳴を上げてステッキを放す!

「返してもらうぞ!」

 ジャンプして受け取って、JS西郷に渡してやる。

「ごめん、また、面倒かけちゃったね(;'∀')」

 さすがに、申し訳なさそうに頬を染めている。

「帰るまで持っていてやろうか?」

「え……あ、そうだね……いや……」

 手渡そうとした瞬間にJS西郷がためらってしまった。

 ズドン!!

「「ウワ!!」」

 二人とも手が滑って、ステッキが暴発してしまった。

 銃弾を発射したステッキは、反動で三メートルほども飛び上がって……また、持っていかれた!

「今度は犬だぞ!」

 黒い犬が、器用に咥えてビルの谷間を逃げていく。

「待て! 犬!」

「こんにゃろ!」

 同時に駆けだして犬を追う。

 瞬間目をやった歩道には、ステッキの仕込み銃とは思えない弾痕が穿たれていた。

 まるで重機関銃の弾痕だ。

 いや、ゆっくり思い出してなどいられない。

 三丁目に向かって追っていくと、いつの間にか、向こうの歩道を霧子とノンコが追いかけているのが視界に入った。

 仕方ない。

 及ばずとも、みんなで追うしかないか……

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・93〔人生出来たとこ勝負でゆず餅〕

2022-03-07 08:40:40 | 小説6

93〔人生出来たとこ勝負でゆず餅〕 

       

 


「人生って、出来たとこ勝負だと思うんです!」

 なんともヘタクソに大見栄を切ったのは、夕べ。

 AKRのレッスンが終わって、なんと夜中の10時に美枝の家のリビングで中尾一家を前に大演説をぶった!


「それ、出たとこ勝負じゃないの?」

 元凶の兄貴が鼻先で言いう。

「いいえ『出来たとこ』です。お腹の中の赤ちゃんが、まさにそうです!」

「そうか、言葉のあやで、来ようってか」

「美枝に赤ちゃんが出来て、二人で夫婦になる。この大前提は了解してもらえますね?」

「ああ、だから、こんな夜中にみんなに集まってもらってる」

 お父さんが鷹揚なんか嫌味なんか分からん言い方をする。

「それを了解してもらえたら、結論は一つです。美枝を東京に置いて、全うさせるのが正しいんです」

「だけど、美枝は、こう見えてプレッシャーには弱い子なんだ。学校や世間で噂になったら耐えられないよ」


 ムカついた。

 

 耐えられんような現状にしたんはあんただろ! 

 それに、いかにも秘密がバレるのはあたしたちからだろうという上から目線!


「あたしたちがバラさなくても、見学ばっかりの体育とか、体つきの変化なんかで必ず分かってしまいます。確かに、アメリカに行けば一時秘密は隠せます。だけど、お兄さん……ダンナさんには分からないでしょうけど、それは逃げたことと同じです」

「逃げて悪いのかい? 母親の心理はお腹の中の子供にも影響するんだ。プレッシャーの少ない環境で、出産させてやりたいと思うのが配偶者のつとめだろう?」

 どの口が言うとんねん! アメリカ行きの費用持つのはあんたの親だろが!

「逃げたという負い目は一生残ります。それこそ、赤ちゃんに悪い影響……場合によっては、流産、切迫早産の危険もあります」

「そんなことは……」

「あります。これ、厚労省の資料です。『高校生などの若年出産のリスク』という統計資料です。社会的な体面などを考えて妊婦の環境を変えた場合の問題点に、逃避的対応をとった場合の影響に出てます」

 お母さんが、興味を示してスマホの画面を見た。美枝自身は俯いたまんま。

 美枝はもともとは内弁慶な子だ。親しい仲間や地域の中でこそ大きな顔して『進んだ女子高生』ぶってるけど、アメリカみたいに、まるで違う環境に入ってしまったら青菜に塩になるに決まってる。

「無事に出産できたとしても、美枝には逃げ癖がつくと思うんです。なにか困ったことがあったら、親が助けてくれる。逃がしてくれる。その方が本人のためにも生まれてくる子にも、長い目で見ると悪い影響が出ます」

「しかしねえ、鈴木さん」

 お母さんが口を開く。

「無事に出産することが大事だと思うの。万一の事があって、生まれてくる子供や母体に影響が出て……場合に寄っちゃ流産したり、子どもに障害が残ることもあるのよ。そういうリスクを小さくしてやることも親の務めだと思うの」

 親の務め……もうちょっと前に発揮しておくべきだよ。

「美枝を出産するときも、ちょっと大変だったのよ」

「え、美枝の時もですか?」

 ニュアンスで母体の事では無くて、出産する環境の事だと思った。

「え、まあ……」

 言葉を濁すくらいなら言わないでほしい。

「でも、お母さん、美枝は無事に育ってきたじゃありませんか!」

 理屈じゃない、無事健康に育って出産までしようって美枝そのものをタテにする。

 ひょっとして、美枝の体や生まれてくる赤ちゃんの事とではなく、世間の聞こえを意識?

 でも、それを言ったら、きっとご破算になってしまう。

 最後の最後は美枝自身の気持ちなんだけど、大事なとこで俯いたまんま。

 

 それから、一時間近くも議論した。

 

「もう時間も遅い。日を改めて話そうじゃないか」

「無理言いますけど、結論出しましょう。延ばしたら美枝が苦しむだけです」

「もともとね、こんな平日の夜中に話そうってのが無茶なんだよ。土曜でも日曜日でも……」

「土曜は都合がつかない。そうおっしゃったのはお父さんです。日曜はお兄……ダンナさんが都合が悪いって、伺いました」

「じゃあ、一週間延ばせばよかったじゃん」

「その一週間、美枝は苦しいままなんですよ!」

「でも、こう言うとなんだけど、今日は私は昼からスケジュールが空いていた。こんな時間に設定したのは、鈴木さん、あんたの都合……責めるような言い方で申し訳ないけど。あんたが、そこまで言うんだったら……なあ」

「すみません、それはあたしの都合で……」

 雪隠づめの沈黙になってしまった。

 ヤバイ……。

「明日香は、AKRのレッスンがあるんだよ……」

 美枝が呟くように言う、せめてもの義理立てなんだろうけど、もっと自分のこと言えよなあ。

「AKRって、あのAKR47のことかい?」

「は、はい。なりたての研究生ですけど……」

「「「え!?」」」

「すごいよ、あれ2800人受けて20人ほどしか受からなかったんだろ!?」

 意外なとこで、美枝の家族が感動した。

「さぞかし、ダンスやらボイトレとか、普段から習っていたんだろう!?」

「いいえ、進路選択の一つで体験入学みたいなつもりで受けたら通ったんです。で……出来たとこ勝負でやってます」

 あたしが、その時、初めて見せてしまった弱み……だけど、これが功を奏した。

「AKRに合格するような子なら、こちらも真剣に耳を傾けなきゃ!」

 え、今までは真剣じゃなかったの?

 で、美枝のアメリカ行きは沙汰やみになった。

 

 お疲れさん

 

 美枝の家を出て二十分、クタクタになって家に入ろうと思ったら、男坂の上の方から声がする。

 ……さつき?

 団子屋のお仕着せのままで、オイデオイデする。

 話があるんなら、そっちから来いよ……思いながら石段を上がる。

 すると、さつきもゆっくりと下りてきて、真ん中の踊り場のところで、揃って腰を下ろす。

「うちで話すんっじゃダメだったの?」

「いや、ちょっと、ここで話したい気分でな。今の今まで仕込みの手伝いしてたしな」

 そういえば、さつきから柑橘系のいい匂いがする。

「こんどゆず餅を出すんでな。また食べに来い」

「うん」

「よくやったよ明日香」

「うん、でも、AKRで納得されてもね……」

「けっきょく、親の意地なんだよ。明日香の言うことも美枝の事も分かってるんだけどな、言い出した手前引っ込みつかなかっただけさ」

「そうなの?」

「そうさ、まあ、明日香の熱意に『こういう友だちがいるなら』って、賭けてみようって気になったこともあると思う」

「う、うん……」

「自分たちの都合で再婚した夫婦だから、子どもに負い目がある。それが、ああいう気づかいになった」

「そうなの?」

「ああ、そうだ、人間には、そういうところがある。親も兄貴も問題ありだけどな、美枝が受け入れて愛情を感じてるんだ、明日香には分からない美点もあるんだ」

「うん、それは分かってる」

「だったらいい」

「うん」

「とにかく、よくやったぞ、明日香は」

「……あのさ」

「なんだ?」

「なんで、今夜は優しいの? いつもは、もっとツッケンドンじゃん」

「ああ……たまたまだ」

 さつきが目をそらすと、柑橘系の匂いが強くなってきた。

 

 水天宮さまよ

 

 びっくりして振り仰ぐと、二段ほど後ろに出雲阿国が同じお仕着せで立っている。

「水天宮……ああ、こないだ行った?」

「うん、お団子食べにいらっしゃって『みんな良い子たちですね』って仰ってたわよ」

「……水天宮さまって?」

 お参りには行ったけど、御祭神とかは確認しそこねた。

「ハハハ、『何ごとのおわしますかは知らねども』というやつだな」

「え?」

「水天宮の御祭神は建礼門院さまよ」

「建礼門院……」

「子どもを産んで育てることに、人一倍の想いのあるお方。その水天宮様に来られちゃねえ、さつきさん」

「いや、そういうわけじゃ……」

「ちょうど、ゆず餅あがったから……試供品よ、どうぞ」

「あ、ありがとう」

 竹の皮で包んだゆず餅を受け取ったところで意識が飛んだ。

 

 気が付くと、着替えもしないで自分のベッドで寝ていた。

 いつもより十分早く目覚めた部屋は、ゆずの香りに満ちていた。

 

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