いつもとちがう……
列車に圧倒されて恵美が呟くように言った。
十二両連結のそれは、濃紺の車体もさることながら、並の列車よりも背が高くて、ホームに入ってきた時の威圧感はベルリンの壁の前に立ったようだった。
どうやら寝台車だ。
鉄道博物館の展示車両のように静かだ……微かにコンプレッサーやベントの開閉音はするのだけども、とても小さい音だ。
夕暮れ間近とはいえ、乗客みんなが就寝するには早すぎる。
――ご乗車ありがとうございます、この列車は18:15分発車の○○行き寝台車でございます。お手元の寝台特急券で座席番号をご確認のうえお席におつきくださいませ。なお、お休みになられているお客様がいらっしゃいますので車内放送はこれにて終了させていただきます。ご用の方は十三両目の車掌室までお越し願います――
車内放送は、息をひそめるくらいに小さな声だった。
ま、しかし、車内放送というのは定型文なので、乗った列車がなんなのかが分かっていれば聞かなくても分かる。
「特急寝台券て……」
心細そうに恵美が振り返る。
「ポケットを探ってみ」
……あった。
ガックン
唐突に列車が動き出した。勢いで恵美が倒れ込んでくる。
抱きかかえるようにして支えてやる。当たり前だが、服を通して恵美の温もりが伝わってくる。
わたしに百合の趣味は無いが、いつになく、この温もりが愛おしい。
十数秒、そのままでいると、わたしの方が恥ずかしくなってきて、恵美を引き剥がす。
「さ、席に着こう」
寝台特急券には四号車堕天使・1、恵美のは堕天使・2とある。
「わたし、堕天使なの?」
「わたしの相棒だからだろう」
「ふふ、相棒なんだ(n*´ω`*n)」
「喜ぶところじゃない、チケットの便宜上の表現だ」
「わたしって、寝台車初めてなの、すごいね、通路が端っこに寄ってるんだ!」
「これが普通だ」
「マヤさんには普通なんだろうけど、わたし的には新鮮なんだよ~🎵」
「あんまり喋るな」
「ハ、ハイ!」
「声大きい!」
お静かに願います
四号車めざしてデッキに出たところで声を掛けられた。
白衣の老医者が怖い顔で睨んでいった。
「なんだ、あいつ……」
「お客さん? ま、静かにと言う注意はあってるんだから、静かにいこ」
四号車はコンパートメント(個室)になっていた。
「カッコいい、これならゆっくり休めるよ~🎵」
堕天使と書かれたコンパートメントに入る。
「わ~~~~~!」
凄かった。
乗ったことは無いけど、オリエント急行というのはこういう感じなんじゃないかと思うくらいにシックで豪華だ。
カチャリ
背後で音がしたかと思うと、コンパートメントの外から鍵を掛けられてしまった!