大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・11『沙紀のデブ考察』

2019-01-17 07:12:44 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

11『沙紀のデブ考察』  


「太っ……!」

 野呂と沙紀が情報教室にしようと言った訳が分かった。思わず声が出てしまうのだ。
 パソコンの画面には、沙紀たちが集めた映像資料が映っている。
 何気ない登校風景や校内風景、駅や街角の風景もある。お喋りしている三人の女生徒、ツインテールにポニーテールにボブ。見た感じは、どこにでもいる女生徒だ。なにか面白いことがあったのか、弾けたように笑い出す。ツインテールは手を叩きながらお腹を抱えている。ポニーテールはエビのように体を折り曲げて。ボブはしゃがみ込んで痙攣するように笑っている。
 微笑ましい高校生のスナップ動画、と思いきや、カメラは俯いて、三人の下半身を映し出す。

 で、思わず「太っ……!」と口走ってしまう。

 我を忘れて笑っているので、スカートがヒラヒラして太ももがチラチラする。そのたくましさが可憐な上半身とそぐわない。
 やがて、カメラに気づいて、三人は凍ったようにカメラを睨む。
「見たなあ~」
 なんだか天使が悪魔になったような衝撃だ。
 他の映像も、男女を問わず太ももやお腹、頷いた時の首など、こんなところに部分的デブが! というような映像だ。

「こういう隠れデブを含めると、高校生の半分近くがデブなんです。事態は深刻です」

 沙紀は、ため息をつきながらパソコンからUSBを引き抜いた。
「デブはものを考えません。進んで行動しようともしません。これを見てください」
 ディスプレーに二つの脳みそが現れた。
「小さい方が8歳、大きい方が16歳です。違いが分かりますか?」
「……うん、8歳の方が赤くなっている領域が広い。活発に働いているんだなあ」
「そうです。他のサンプルも見てください……」
 コマ落としのように、何百という脳みそが映し出される。ほとんど小さい方が活発だ。
「大きいのは、みんなデブ?」
「はい、因果関係は分からないけど、現実です」
「……このデータはどうしたの?」
「父が、大学の先生で、こういうことを研究してるんです」
「そうなんだ」
「ずっと他人事だと思ってました……でも、野呂君があんなだから……」
 沙紀の目に光るものがあった。デブだけど、沙紀は野呂のことが好きなんだと感じた。
「で、オレにどうしろと?」
「先輩は、そのままでいいんです」
「ん……?」
「デブの希望の星で居続けてください」
「オレは、そんなに偉くないよ」
「そんなことありません。先輩は捻挫した外村桜子さんを、そして持久走では三好紀香さんを救けました」
「それは偶然だよ。だれでも、あの状況なら……それに純粋でもない。三好を救けたのは持久走をサボりたかったからだし」
「最初から狙ったわけじゃないでしょ? たとえサボりたかったとしてもいいんです、結果的には救けたんですから。100パーセントの善意なんて神さまでもなければ、ありえません。それに、人を救けたのは三回ですよ」
「え……?」
「昨日、野呂君を……で、こうしてあたしの話を真剣に聞いてくれています」
「あ、そうなのか……」
「そういう無意識なところが素敵だと思います! ごめんなさい、長い時間。じゃ、これからもよろしくお願いします!」

 情報教室のある特別棟を出ると厳しい北風だった。

「キャ!」
 風にあおられて、沙紀のスカートが翻って、瞬間、太ももが露わになった。女と言うのは、こういう瞬間の男の視線に敏感だ。
「あ、見えちゃいましたね」
「あ、いや……」
「……あたしも隠れデブでしょ?」
「見えてないから分からない」
「先輩、優しい」
 沙紀は隠れデブではなかった。桜子はどうなんだろう……こんな妄想をうかべるデブいいのかい?

 校庭の向こう、ゆっくりと冬の太陽が沈みはじめた。


🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

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高校ライトノベル・堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・5『「お」の道駅に降りる』

2019-01-17 06:57:29 | ノベル

堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・5
『「お」の道駅に降りる』
      


「スマホが無い!」

「え」の電が支線を二度目に折り返したところで恵美がうろたえはじめ、電車が揺れ始めた。
 網棚やシートの下を探したが見当たらない。
「向こうの車両かな……」
「恵美、向こうの車両には行ってないでしょ」
「うん、でも……」
 恵美は、そう言いながら向こうの車両まで探しに行こうとした。揺れが激しくなってきた。
「次元のポケットに落ちたのかもしれないわよ」
 手すりにつかまりながらマヤは指摘した。
「次元のポケット?」
「うん、遍路道ではよくあること。支線を抜けて本線に入ろう、きっととんでもないところに落ちている」
「……本線には行きたくない」
「あたしが付いているから、このままじゃスマホどころか、脱線転覆しちゃうよ!」
「だって!」
「ア、アア……」
「キャー!」
 車両の連結が外れ、後ろの車両は脱線して線路を塞いでしまった。
「もう、ここには戻れない。本線に入るよ!」
 恵美はマヤにしがみついたままコックリした。

「今だ!」
 一両だけになった電車は転覆寸前のところで本線に入った……。

 電車は「お」の道駅で停まった。

「お」の道は海に面した坂の多い町だ。起伏に富んでいるわりに風も日差しも穏やかで、アイドル映画の三本ぐらいは、すぐに撮れそうだ。
「あ、あたしのカバン!」
 駅を出てすぐのバス停のベンチで恵美の通学カバンが見つかった。
「ね、次元のポケットに落ちたんだよ」
「やだ、カバン空っぽ……」
「あそこに何かあるよ」
 マヤが指差した。駅前のロータリーに停まっているバスの前に教科書が落ちている。道をまたいで教科書を拾おうとしたら、バスが動き出した。
「あ……」
「ああ……」
 バスは教科書を轢いて行ってしまった。でも、タイヤの跡は付いたけど教科書は無事だった。
「スマホでなくて良かった……」
「向こうに」
 町中に入る狭い登り道の手前にノートが落ちていた。カバンの中身は二人を誘導するように道の曲がり角や神社の鳥居の下、ポストの上などにあった。一つ一つ拾ってカバンがいっぱいになったころ、道は行き止まりになった。
 ただ、この行き止まりは腰の高さに柵があるだけで、町と、その向こうの海に島々、青い空と白い雲が一望だった。
「風が爽やか……嫌なもの全部……」
「その先言っちゃだめ!」
 マヤの忠告は遅かった。恵美は小さな声で「飛んでけ」とやってしまった。カバンがその中身をまき散らしながら風にさらわれ、着ていたセーラー服も糸が抜けてバラバラになって風に持っていかれてしまった。二人は一瞬裸になった。
「仕方ないなあ……」
 マヤが指をクルリと回すと、風が反対方向から布きれを運んできた。そして二人の体を取り巻いたかと思うと、体にまといつき、あっという間に二人を今風なブレザーの制服姿にした。

「すごい……でも、やっぱ制服?」
「お遍路だもの」
「……ま、セーラーよりましか」
 恵美が第一ボタンを外して、リボンを緩めると後ろから声がかかった。
「きみたち、スマホを探してるんじゃないのか」
 振り返ると中年の映画監督のようなオジサンが立っていた。
「はい、スマホ探してます。あたしのです」
「初々しいもぎたてイチゴみたいな赤色のスマホだね?」
「はい、そうです!」
「それなら、若い男が持って、すぐ下の道に下りていったよ。ミスマッチなんで変だと思ったんだ」
「ほんとですか!?」
「ああ、たった今だよ」
 二人はすぐ下の道に下りてみた、確かにたった今まで人がいたような気配がした。
「こっちだ、マヤさん!」
「待って、この道……」
「どうした、早くしないと逃げられるぞ!」
 上の行き止まりの柵からオジサンが身を乗り出して叫んだ。
「この道怪しい……」
 マヤは、すぐに道路標識に気づいた。

「お」の道、至……至の下はスプレーで消されていた。

「風よ、この下の文字を見せて!」
 マヤがそう言うと、風が生乾きのペンキを吹き飛ばした。

――至 おわり経由地獄――

「オッサン!」
 マヤが振り返ると、オッサンは足音だけを残して消えていた。
「くそ!」
「だめ、追いかけちゃ。この町の道はラビリンスよ、戻れなくなる!」

 二人はなんとか記憶を頼りに駅まで戻り、次の電車を待った。
 

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