大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・5『一家三人水入らず』

2019-01-11 06:58:40 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・5
『一家三人水入らず』



 職場の事を会社と呼ぶ、普通なら当たり前だ。

 親父が言うと違和感がある。
 親父の仕事は県警捜査一課の刑事だ。警察の隠語で警察の事を会社と呼ぶ。
 親父が言うと、なぜ違和感なのか。親父は、職場の事なんか話す人間じゃなかった。こうやって家族そろって外食することもなかった。
「会社の方はいかがですか?」円卓上の中華風刺身を取り分けながらオフクロが聞く。
「この刺身って、鯛なんだよね?」
「ああ、普通の刺身よりも味付けは濃くなるけど、鯛そのものの味はしっかりしている。プロの仕事だな」
「そうだね……うん、美味いよ、いけるなあ!」
 中華料理は好きだけど、刺身は、やっぱり普通のがいい。でも、こういう場では「美味しい」と言っておく。家族でも、それが礼儀だと思うから。
「こんどのお取引の目途はついたんですか?」
「うん、営業の若いのに送り状を書かせてる」
 取引とは事件の事で、送り状とは検察に送付する書類の事だ。刑事の仕事はドラマでやってるほどの派手さはない、ほとんどが調書なんかのデスクワーク。今までの親父との会話で、その程度の知識はある。むろんデスクワークの中心はパソコンで、エクセルにしろパワーポイントにしろ、親父は、オレの何倍も早くて上手だ。
「送り状は、いつも、お父さんが書いていたんじゃないの?」
 鶏肉の胡麻味噌かけを取り分けながらオフクロ。目の前には、もうショウロンポウが鎮座している。オフクロは手際がいい……というか、クリニックでときめいた桜子の顎から喉にかけての線が蘇る。――100キロ以下になれ、友だちぐらいには戻ってやる――のメールが目の前を右から左に流れていく。まるでニコ動のコメントみたいに。
「若い者にも慣れてもらわなきゃなあ、むろん後で点検はするけどな」
「たいへんなんだ」オレの合いの手は、バラエティーのオーディエンスみたいにシラこい。
「お父さんの会社は……」

 気が付いた。親父が会社会社というのは、オフクロが聞くからだ。親父は丁寧に説明するんで、つい親父が言ったと勘違いしているんだ。それほど、親子三人揃うのは稀であり、揃った時は肩がこるほど密度が濃い。

「あ、そうそう。桃斗ったら、制服三着目なんですよ」
 お袋はバランスをとっている。今度はオレの話題だ。
「ハハハ、また太ったか。この一年九カ月で……48キロか」
「もう、高校生で成人病なんて、やですよ」
「成人病なんてならないよ」
 そう言いながら、エビチリを平らげる。
「……ま、そういう時期もあるさ。いずれ落ち着くだろ」
 親父の本音は、そうじゃない。以前、部下の刑事が5キロ増えた時には真剣に叱っていた。今だって、反応が遅れている。

「ももとさま……」

 フカヒレスープが出てきたところで声が掛かった。
「「はい」」親父とオレが同時に返事する。
「西野様からお電話です」蝶ネクタイのフロアマネージャが親父の耳元で囁く。
「どうも」
 親父は事務所に向かった。
「……うちの家庭に不満はないけど、苗字と名前が同じ音というのは慣れないなあ」
「そう、一度聞いたら忘れないからいいんじゃない」
 オフクロは、リバーシブルのブルゾンが便利だというような気楽さで聞き流す。

 オレとオフクロの苗字は「百戸」ではなかった。オレが、まだ赤ん坊のころ、オフクロは離婚して、今の親父と再婚した。
 で、親父の苗字が「百戸」だったので、おれは百戸桃斗という冗談みたいな姓名になってしまった。もう慣れているんだけど、この程度の不満は言っておいたほうがいい、オフクロが、オレの三着目の制服に文句を言うくらいには。

「すまん、お得意さんの用事だ。勘定は済ませておくから、これでな」

 事務所から戻った親父は、そう言うと会計を済ませ、足早に店を出て行った。
 自動ドアが開いた時、思いのほか冷たい風が吹き込んで、小さく身震いした。オフクロは我関せずと、スープを啜っている。  


🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・堕天使マヤ 第二章・クオバディス ドミネ・4『沖縄戦終結とマヤ①』

2019-01-11 06:44:04 | ノベル

堕天使マヤ 第二章・クオバディス ドミネ・4
『沖縄戦終結とマヤ①』
        


「ちょっと大きめと普通の紙飛行機を十機折ってくれる」

 女学生たちは、慣れた手つきでそれを折ると、マヤの指示で滑走路に並べた。マヤが十字をきって右手を大きく回すと、紙飛行機たちは、たちまち十機のゼロ戦と一機の一式陸攻に変わった。

 大和を旗艦とする第二艦隊は、敵の攻撃をうけることなく沖縄北海上に進出した。

「長官、敵は輸送船などの非戦闘艦艇ばかりです。これはいったい……」
 その時、電測室から十機あまりの編隊が接近しつつありとの報告が入った。同時に伝声管に対空見張り員からの声。
「北北東の方角に十機あまりの編隊接近、我に近づきつつあり!」
「北北東……味方か?」

 機影はみるみる接近し、十機のゼロ戦と一式陸攻であることが分かった。

 そして、一本の電信が大和に届いたあと、信じられないことに一式陸攻が空中で大和の速度といっしょになったかと思うと大和の乾舷と同じ高度になり、横滑りするように後部の飛行デッキに着艦した。

「軍令部から派遣されました、マヤ中佐です。及川軍令部長の添え状です」
 一式陸攻の魔法のような動きには驚いたが、マヤの姿には驚かなかった。当たり前の海軍中佐のナリをした男で、伊藤長官も有賀艦長も見覚えがある……ようにマヤは、二人の記憶に刷り込んだ。

「君たちが、陸上攻撃の支援をしてくれるんだね」
「はい、十機のゼロ戦で敵の状況を探りながらの砲撃になります」
「それは、効果的な砲撃ができます」
 砲術長が喜んだ。

 第二艦隊は、大和と雪風の二隻と、矢矧以下の六隻に分かれ、沖縄本島を東西から挟み込むようにしながら南下し、ゼロ戦からの索敵報告を受けながら、アメリカ上陸軍を効果的に砲撃した。五時間後、沖縄の南海上に達した時には、米軍は五万人の死傷者を出し、弾薬、大型火器のほとんどを失ってしまっていた。

「米軍のスプールアンス長官から、伊藤長官宛てに電文が届きました」
「スプル-アンス? 長官はニミッツじゃなかったのか」
「ニミッツは、我々が来る前の特攻で戦死したようです」

 マヤは、施錠鞄を開け、一通の封緘命令書を伊藤に渡した。

「米軍と停戦交渉に入るべしか……スプルーアンスの電文は?」
「は、停戦交渉の申し入れであります」

 千五百隻の戦闘艦艇と、陸海合わせて十五万以上の戦死傷者を出し、米軍は実質的な戦力と交戦意欲を失った。

――主よ、ここまで殺戮しなければ、目的は果たせないのですか――

 マヤは、そう思ったが、主からの答えはなかった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする