🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・7
『百戸くんだけ』
「昨日は、どうもありがとう」
ここまではよかった。
「目の前で倒れた人間放っておけないよ、当然のことだから、礼なんていいよ」
オレは、笑顔で返した。デブは、こういう時、貫禄があって格好がつく。
「でも、この次こんなことがあったら、放っといて。一緒に走ってる女子もいるから、百戸くんに救けてもらわなくても……ね」
そう言うと、三好は教室に入って行った。明らかに後の言葉にアクセントがある。
教室に入ると、三好は女子の輪の中に入って、キャピキャピと笑っている。
「お礼言うことなんか……」
「ちがうよ……」
「ハハハ、なるほど……」
「デブって……キモ……」
どうやらオレの事を笑っている。昨日の持久走で三好を救けたことが裏目に出ているようだ。
ま、仕方ない。オレも、持久走抜けられてラッキーと思っていたんだからな。
デブになって後悔していないと言えば嘘になるけど、落ち込むほどじゃない。落ち込んでデブ鬱なんかになると、格好の弄りの対象になる。でも、弄られないために明るくふるまっているわけじゃない。どうも根っからの性格のようだ。
ただ、桜子に見放されてしまったことは堪える。
――100キロ以下になれ、友だちぐらいには戻ってやる――
桜子は、そう言ってくれているけど、100キロを切るのは至難の業だ。それに、100を切っても、ただの友だち、もとのカレとカノジョの関係に戻れるわけじゃない。
A定食ライス大盛りを平らげたところで、お昼の放送が始まった。
――みなさん今日は。ビタースマイルの時間です――
「お、桜子復活してる!」
八瀬が、最後まで残していた唐揚げをつまみながら驚いている。
「桜子……」
桜子とはクラスが違う。気にはなっているので、登校した時、桜子のクラスの前を通る。今朝も桜子は席に居なかった。だから欠席だと思っていた。桜子は遅刻で登校してきたんだろう。
親父さんとのことは解決したんだろうか……プロ級と言っていい桜子のアナウンスからは、気持ちまでは分からない。オレは食器を載せたトレーを持ったままシートに座りなおした。
――お昼の陽だまりに、少し早い春を感じますね。三年生のみなさんは今日でテストも終わりました。一二年のわたしたちも三週間後には学年末テストです。二学期の期末テストからは、そんなにたっていませんが、クリスマスやお正月を挟んでいるので、頭も体も、どこかバケーションモードから抜けていないかもしれません。体に着いた贅肉は直ぐに分かりますが、心に着いた贅肉には気が付かないものですね。え、体の方も気が付かない? そうかもしれませんね。そこのあなた、冬太りにはくれぐれもご用心を、三桁の体重は赤信号! では、今週の曲です……――
「おい、百戸、デザートのラーメンは?」八瀬がラーメン乗っけたトレーを持って聞いてきた。
「え、あ……今日は止めとくわ」
保健室の春奈先生にも言われている。我が国富高校で三桁の体重は「百戸くんだけ」なのだ。
🍑・主な登場人物
百戸 桃斗……体重110キロの高校生
百戸 佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚
百戸 信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い
百戸 桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる
百戸 信子……桃斗の祖母 信二の母
八瀬 竜馬……桃斗の親友
外村 桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した