大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・7『百戸くんだけ』

2019-01-13 06:49:45 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・7
『百戸くんだけ』



「昨日は、どうもありがとう」

 ここまではよかった。


「目の前で倒れた人間放っておけないよ、当然のことだから、礼なんていいよ」
 オレは、笑顔で返した。デブは、こういう時、貫禄があって格好がつく。
「でも、この次こんなことがあったら、放っといて。一緒に走ってる女子もいるから、百戸くんに救けてもらわなくても……ね」

 そう言うと、三好は教室に入って行った。明らかに後の言葉にアクセントがある。
 教室に入ると、三好は女子の輪の中に入って、キャピキャピと笑っている。

「お礼言うことなんか……」
「ちがうよ……」
「ハハハ、なるほど……」
「デブって……キモ……」

 どうやらオレの事を笑っている。昨日の持久走で三好を救けたことが裏目に出ているようだ。
 ま、仕方ない。オレも、持久走抜けられてラッキーと思っていたんだからな。
 デブになって後悔していないと言えば嘘になるけど、落ち込むほどじゃない。落ち込んでデブ鬱なんかになると、格好の弄りの対象になる。でも、弄られないために明るくふるまっているわけじゃない。どうも根っからの性格のようだ。
 ただ、桜子に見放されてしまったことは堪える。

――100キロ以下になれ、友だちぐらいには戻ってやる――

 桜子は、そう言ってくれているけど、100キロを切るのは至難の業だ。それに、100を切っても、ただの友だち、もとのカレとカノジョの関係に戻れるわけじゃない。

 A定食ライス大盛りを平らげたところで、お昼の放送が始まった。
――みなさん今日は。ビタースマイルの時間です――
「お、桜子復活してる!」
 八瀬が、最後まで残していた唐揚げをつまみながら驚いている。
「桜子……」
 桜子とはクラスが違う。気にはなっているので、登校した時、桜子のクラスの前を通る。今朝も桜子は席に居なかった。だから欠席だと思っていた。桜子は遅刻で登校してきたんだろう。
 親父さんとのことは解決したんだろうか……プロ級と言っていい桜子のアナウンスからは、気持ちまでは分からない。オレは食器を載せたトレーを持ったままシートに座りなおした。
――お昼の陽だまりに、少し早い春を感じますね。三年生のみなさんは今日でテストも終わりました。一二年のわたしたちも三週間後には学年末テストです。二学期の期末テストからは、そんなにたっていませんが、クリスマスやお正月を挟んでいるので、頭も体も、どこかバケーションモードから抜けていないかもしれません。体に着いた贅肉は直ぐに分かりますが、心に着いた贅肉には気が付かないものですね。え、体の方も気が付かない? そうかもしれませんね。そこのあなた、冬太りにはくれぐれもご用心を、三桁の体重は赤信号! では、今週の曲です……――
「おい、百戸、デザートのラーメンは?」八瀬がラーメン乗っけたトレーを持って聞いてきた。
「え、あ……今日は止めとくわ」

 保健室の春奈先生にも言われている。我が国富高校で三桁の体重は「百戸くんだけ」なのだ。


🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

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高校ライトノベル・堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・1『「あ」の町から』

2019-01-13 06:36:56 | ノベル

堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・1
『「あ」の町から』



 マヤの乗った電車は特急だった。

 特急だから、いくつも駅を通過すると思ったが、途中通過した駅は無く、二十分ほどで「あ」の町駅についてしまった。
「あ」の町は、とても特急が停まりそうな駅には見えなかった。ホームに接した線路は本線からの待避線になっており、ホーム自体も長さが百メートルほどしか無く。特急列車の後ろ二両はホームからはみ出していた。駅舎も木造の平屋建て、改札は二つしかない。

「やあ、ようこそ」

 どこか見覚えのあるオジサンが気楽に声をかけてきた。
「あのう……」
「あ、君には少し若く見えるかもしれんね」
 そう言うと、オジサンは白髪混じりのウィッグを被り、舌を目いっぱいだして、アッカンベーの顔になった。
「ああ、アインシュタイン博士!?」
「ハハハ、ようこそ「あ」の町へ。君は光速を超えてやってきたんで、まだ街になる前の町にやってきたんだろう。ここへは、どのくらいで着いた?」
「はい、二十分ほどです」
「それはまた急いだもんだ、二十光年ほどはあるよ。途中の駅なんか目に入らなかっただろう」
「え、途中に駅があったんですか?」
「光速を超えたから見えなかったんだよ。まあ、町を一回りしたら、また戻っておいで」
「ハイ」

 ハイもなにも、この「あ」の町を出るには、また駅に出てこざるえをえない。マヤはとりあえず町を歩いてみた。

 お腹が空いたので、この町に一つしかない食堂に入ることにした。
 食堂は和風の造りで『あじさい亭』の看板が出ている。見ると店のエントランスに至る小道には紫陽花が満開になっていた。
「もう紫陽花の盛りは過ぎたはず……あ、光速を超えたんで、季節がもどったんだ……感じのいいお店だな。庭も素敵だし……お店の中も落ち着いてる。美味しいものが食べられそう」
 厨房からのいい匂いにつられ、一番デラックスな「あじさい御膳」を注文した。

 待つこと十分。

「はい、お待ちどおさま」御亭主が自ら御膳を運んできてくれた。
 作務衣に前掛けの良く似合った、いかにも和食の名人という感じの御亭主だった。
「いただきまーす」
 まずは、お汁から頂いた……京風とでもいうのだろうか、淡白な味付け……そう思いながら他のお皿に手を付ける。が、どうにも味気なく、はっきり言ってまずかった。
 町に一つしかない食堂、見かけはとても美味しそうな構えだし、厨房からもいい匂い。
「なんで……」
 そう思って、割りばしの袋をよく見た。あじさい亭ときれいな字で書かれていた。

 あじさい亭……あじさいてい……味最低。

 それでも、なんとか完食して駅前に戻った。
 駅前に戻ると、おおきな釣鐘堂が出来ていた。
「なんですか、こんなところに釣鐘堂?」
「君を待っていた。いま出来たところだよ。釣鐘の真ん中に首をつっこんでごらん」
 アインシュタインは、そう言うと、鐘木をゆっくりと大きく振りかぶった。
「やだ、大きな音がするんじゃないですか?」
「まあ、やってみてのお楽しみだ」

 鐘木が鐘に当たった瞬間マヤは目をつぶってしまった……が、音がまるでしなかった。

「え、ええ……?」
「驚いたかね」
「はい、驚いた鐘です」
「君も、この町になじんできたかな……」
 そう言われて、マヤは自分のダジャレに気が付いた。
「鐘の真ん中じゃ音は聞こえないんだよ。これ、物理的な法則」

 物理的な法則なんだろうけど、マヤには意味深に聞こえる。考えをめぐらしながら次の電車を待つマヤであった。

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