堕天使マヤ 第一章・遍歴・7
《試行錯誤➄犯人の処置だ!》
増田は、出来上がったばかりの店内を見渡した。
「おれのコンビニだ……」
増田は、感無量の面持ちで独り言ちた。
増田は、亡くなった父親の土地を担保にコンビニを作った。
東京郊外の私鉄沿線で、持ち主が亡くなり小さな農地は遺族によってコインパーキングや、この増田のようにコンビニ空白区を狙って出店する者が多かった。増田の土地の近辺は前世期の宅地開発が二巡目に入り、新しい戸建てやマンションが出そろい、歯科医、ホームセンター、美容院、老人介護施設は出来上がったが、駅からの北への流れの道のコンビニは八百メートル行かなければ無かった。絶好のコンビニ空白区であった。
学生時代からコンビニでバイト。エリアマネージャーにまでなった増田にとっては、父の突然の死は暁光であった。
明日からの開店を前に、今日はバイトやパートのオバチャンを集めて説明会と実習訓練をやる。まだ一時間以上時間があったが、居ても立ってもいられなくて、カウンターの中でしみじみと店内を見渡していた。
ガタン。
バックヤードで、かすかな音がした。商品の積み方が悪かったのかと、増田は、バックヤードに向かった。
バックヤードはきれいに整頓されている。
「ハ、なんだ気のせいか……おれも自分の店だと思うと緊張してんだな」
苦笑しながら売り場に戻った。するとラックの方を向いて背中だけ見せている若い女性が目に入った。
「申し訳ありません、当店の開店は明日になっておりますので……」
てっきり、気の早い近所の客かと思った。
「この服に、見覚え有りません……?」
チュニックにヒールのあるサンダルを履いた女が言う。
「あの……」
「あたしが、最後……あの時に身に付けていたものよ」
女は、振り返ると、じっと増田を見つめた。
「……お、お前は!?」
増田が、女の正体に気づくと同時に、外が夕立直前のように暗くなり、店の照明は半分がところ落ちてしまった。
「そう、あなたが殺した……名前も知らない女よ。今日は、その清算に来たの」
「あ、あれは、おれ一人じゃ……」
「そう、仲間はみんな待っているわ。あなたもいらっしゃい……」
女が指を鳴らすと、あたりは真っ暗になり、ふたたび明るくなると、薄暗い靄の中にいるようだった。
「増田、おまえもか……」
増田が振り返ると、あの時の仲間、大竹、北野が立っていた。
増田は近寄ろうとしたが足が貼りついたように動かない。
パチンと指の鳴る音がして、三人は自分の意志ではなく横一列に並んだ。そして八年前の自分たちがワンボックスカーに乗っているのが、目の前に現れた、ゆっくりと車を流している前に、チュニックにヒールのサンダルを履いた若い女が浮かび上がった。
「やめろ!」
「やめておけ!」
三人の男は口々に叫んだが、八年前の自分たちはゆっくり車を寄せると、ドアを開け女の口を塞ぎ、二人で車に担ぎ込んだ。
運よく対向車も通行人もいなかった。女には猿ぐつわをかませ、手足を結束バンドで縛り上げた。
そして、産業道路に出ると、奥多摩まで車を走らせ、三人で女を回し、あらかじめ決めていたように絞め殺したあと、林の中に穴を掘って埋めた。
「分かったわね。今日は、この清算をするために来てもらったの」
映像が終わると、あの女が現れて宣告した。
「あの土地は酸性土壌だから、もう骨も残っていないわ。あなたたちにもあの穴に入ってもらいたいんだけど。あたしは悪魔じゃない。瞬間で分子に分解してあげる。瞬間で苦も無く存在が無くなるわ。そう、死ぬんじゃなくて、存在そのものが無くなるの……その前に、あたしの名前を胸に刻んで。あたしは輝美。輝くに美しいと書くの。あなたたちも一瞬輝いて消えておしまいなさい」
三人の男はうめき声をもらしたが、一瞬輝いたかと思うと、細かい霧のようになって消えてしまった。
「……しまった。ま……いいか」
後先を考えない自分に少し呆れ、それでもなんとかなると思って輝美姿のマヤは家に戻った……。