goo blog サービス終了のお知らせ 

大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・14『「さ」すけ村・3』

2019-01-27 16:46:50 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・14
『「さ」すけ村・3』
        

 

 

 見破ってしまったんだ……

 

 目が合ったそいつは、少し照れたように鼻の頭を掻いた。

 ポリポリと擬音を入れたくなるような愛嬌がある、それでいて、すごい敏捷さを秘めたような油断のならない若者だった。

 で、真っ黒な忍者衣装に身を固めている。

「さすけ村の観光課の人ね?」

「ええ、まあ……正確には総務課観光係です。観光だけで課を構成できるほどの村じゃないもんで」

 そう言うと、懐からIDを出して首からぶら下げた。

「らしく見える」

「アハハ、これ掛けてないと、ただのコスプレだから(*ノωノ)」

 

 IDには『さすけ村 総務課観光係 主査 猿飛佐助』とあった。

 

「へえ、猿飛佐助さんなんだ!」

 恵美が単純に喜んだ。

「ハハ、本名じゃないわよ、でしょ?」

「かなわないなあ、 こうするとね……」

 指でひと撫ですると西村慎吾という名前に変わった。

「そういうところで雰囲気を出しているのね」

「はい、名前を変えても費用は掛かりませんからね」

「でも、えらいわね。お若いのに主査なんだ。ふつう、その年なら主事くらいでしょ」

「え、どう違うの主査と主事?」

「係長と平社員くらい」

「いや、お恥ずかしい。観光係にまわされた時に主査になったんです」

「そうなんだ」

 役職を一つ上げても大した出費にはならない。でも、本人のやる気とかモチベーションは上がるだろうから、うまいやり方だと思うマヤだ。

 

 もう、こんなところに!

 

 声がしたかと思うと、赤い忍者衣装の女の子が現れた。

「あ、すみれさん」

 西村君が頭を掻く。

「どうも起こしなさいませ、わたし下忍の猿飛すみれと申します。だめじゃない、IDの肩書は忍者でなくちゃ」

 ヒョイと西村君のIDを掴むと、ひと撫でする。肩書が中忍と変わった。

「SASUKEを突破した人がいると言うので駆けつけてきたんです。女子高生さんなのでビックリしました!」

「まぐれです、ね、恵美ちゃん」

「え、あ、ですよね」

「本格的なバーチャル体験型の忍者村を目指して整備中なんです。ほとんど出来あがってるんですけど総務省とか県の観光局とかの手続きがありましてね。でも、こうやって突破されたんですから特別に体験していただきます。佐助さん、それを……」

「はい、どうぞ、このゴーグルを掛けてください」

 それはVRのヘッドマウントディスプレーのようなものだ。なるほど体験型というのはVRだったんだと納得する二人。

「セットアップされるまでは砂時計が表示されます、それが終わったらVR表示になりますので、お掛けになってお待ちください」

 言われた通りゴーグルを着けると砂時計が現れる、十数秒たったであろうか、3DのVR映像が現れた。

「……なんだか駅のホームみたい。すごいね、めちゃくちゃリアル!」

「あ……しまった」

 そう言うと、マヤはゴーグルを外した。恵美の肩を叩いて――外してみ――と促す。

「え、あ……どういうこと?」

 ゴーグルを外しても、そこは駅だった。表示は『さすけ村』となっており、その横に時刻表。

「もうすぐ列車が来る!」

「ち、今日の最終列車ってか」

「乗る以外にないね……」

 気が付くと、さすけ村に入って憶えているのは西村君の佐助と猿飛すみれだけだった。他の風景だとかは夢の中のそれのようにおぼろになって思い出せない。汽笛が鳴って列車が入ってきたときには、それさえ忘れてしまった二人だった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・21『最新の鞄やろー!・5』

2019-01-27 06:07:37 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

21『最新の鞄やろー!・5』  


 作品に血が通っていない、思考回路、行動原理が、高校生のそれではない。

 死亡宣告のような一文がパソコンの画面に浮かんでいた。
「これは……?」
「なんなのよ?」
 オレと桜子の言葉が重なった。

「これが『最新の鞄やろー!』に繋がるんだけど、まずは、話を聞け」

 気だるそうに脚を組み直して八瀬が言う。どうやら体調が悪いのは本当のようだ。
「妻鹿悦子の『最新の鞄やろー!』は、県大会じゃ最優秀だったが、その上の地方大会じゃ選外になってる。で、作品に血が通っていない以下が、その時の審査評だ」
「え、ちょっとひどいんじゃ……ウ!」
 桜子は、紅茶を口に含んで固まってしまった。
「ちょっと渋すぎるんじゃ……」
「そうか?」
 八瀬は平気なようだ。で、オレが飲むと……やっぱり渋い。
「すまん、熱のせいで味覚が変になっている。入れ直してくる。地方大会の映像があるから観ていてくれ」
 八瀬がキッチンに立っている間に画像を観た。実上演では40分ほどあるようだが、10分ほどのダイジェストに編集されていた。
「……わ、すごい!」
 桜子もオレも身を乗り出した。悦子演ずる大山満代は下着姿で喚いている。高校生のそれはもちろん、それ以外の芝居も観たことないが、大人の芝居でも、こんな大胆なことはしないだろうと思った。悦子は下着姿であるばかりではなく、110キロのオレが親近感を覚えるほどのデブだった。
「でも、グロテスクじゃないわね……なんとも健康的で、素敵に傍若無人」
 観客は恥ずかしさと面白さが入り混じった笑い声をあげている。

 そして、次のシーンが衝撃的! なんと満代は素っ裸!!! 桜子は思わず両手で顔を覆った。

「よく見ろよ、ちゃんと肉襦袢を着てる」
 紅茶の代わりにお汁粉を持って八瀬が、静止画のアップにした……なるほど、首のところにウッスラとラインが出ている。
「照明と道具で大事なところは見えないように工夫している……観客のどよめきは本物だ」
 満代の行動は突拍子も無いが、青春そのものが、本人は真剣でも、他人には突拍子の無いもので、時に反感や顰蹙を買う。
 でも、妻鹿悦子というおデブには、そういう青春が、とても愛おしいものだというメッセージがしっかりとある。
 顔を伏せていた桜子も、最後には涙をにじませながら笑っている。

「これが、ただセンセーショナルなウケ狙いで『作品に血が通っていない、思考回路、行動原理が、高校生のそれではない』になるらしい」

 お汁粉を啜りながら、八瀬が締めくくった。
「で、最新の鞄やろー!は、どうなるんだ?」
「ああ、ここ」
 八瀬がジャンプさせた映像は審査発表のところで、審査員が国富高校の評を言い終わったところで声が入っていた。

――最新の鞄やろー!――

「これを平がなにし、順序を変える……」
 八瀬は、一枚に一文字ずつ書いたメモ用紙の順番を入れ替えた。

 さ・い・し・ん・の・か・ば・ん・や・ろ・ー・!

 し・ん・さ・い・ん・の・ば・か・や・ろ・ー・!

 審査員のバカヤロー!

「「なるほどー!」」

 オレと桜子の声が揃った……が、八瀬は深呼吸して、話を続けた。


 

🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする