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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・あすかのマンダラ池奮戦記・10『マンダラ池への帰還』

2016-10-28 06:28:55 | 小説5
あすかのマンダラ池奮戦記・10
『マンダラ池への帰還』
        


 あすかは、懸命に戦った。十七年の人生で、ここまで真剣になったことは初めてだ。

 側で、イケスミ、フチスミの神さまも戦っているんだろうけど、意識にはなかった。必死でトドロキの攻撃をかわし、わずかな隙を見つけては攻勢に転ずる。いつしか満身創痍になり、しだいに意識が遠くなっていった……。
 やがて、ダンプや工事の機械の音で目が覚める。傷みは傷と共に無くなっていた……そして、そこは、振り出しのマンダラ池であった……。

「……ん……マンダラ池……埋立て工事が始まってる……夢おち?(桔梗に気づく)フチスミさん!? フチスミさん、しっかりしてフチスミさん!」
「ん……あすかさん……ここは?」
「マンダラ池、正式名称万代池、イケスミさんが住んでいたところ。大丈夫? 大丈夫だよね、神さまなんだからフチスミさんは」
「わたし、桔梗だよ」
「桔梗さん? どうして?」

 ガードマンのオバサンの姿をしたイケスミがホイッスルをふきながらやってくる。

「ダンプは北から、そう、むこうね! ユンボこっち。土ゆるいからそこで停めといて。(二人に)そこあぶないから、こっちの方で話してくれる。ごめんなさいね。今日から工事始まっちゃうから……」
「すみません」
「ども……」

 ガードマンのイケスミと二人、交差するが、二人はイケスミに気づかない。

「オオガミさまももどられたし、フチスミさん、あそこを離れられないと思うの……」
「そうか。ミズホノサトは廃村というか……沈んだまんまだし。桔梗さん、あそこに住むわけにもいかないんだ」
「万代池も、ひどいことになってしまってるのね……」
「時代の流れというのかね。あたしも長年……と言っても十数年だけど、万代池だなんて由来知らなかったからさ、マンダラ池だと思って、昨日なんか、ウンコふんづけちゃって、靴洗ってたりしてたんだ」
「靴洗っちゃたの、神さまの池で!?」
「知らなかったんだもん……でも、それでひらき直っちゃいけないんだよね。ごめんなさいって気持ち……持ってたんだけどね、ちゃんと謝ったんだよ……言っちゃあなんだけど、やっぱイケスミさんて、すねた神さまだったよね、それで、あたしをひっかけて依代にしちゃうんだから……今ごろはオオガミさまのスネしゃぶりつくしてんだろうね。ま、いいか、頭もよくしてもらったことだし……」
「どっちもどっち、二人ともたくましい都会の神さまと人間」
「桔梗さん。しばらくあたしの家にいなよ。三LDKだけど、三人家族だからもぐりこめるよ」
「そんなの悪いよ。わたしも子供じゃないんだから……」
「そうしなって、ここへそろって送ってこられたのも、そういうおぼしめしだと思うの」
「だって……」
「だってもあさってもなーい!」
「え……!?」

 驚く二人。イケスミは、ユルユルとヘルメットを脱ぐ。

「まだ気がつかない?」
「……?」
「あ・た・し」
「イケスミさん!」
「どうかしたんですか!?」
「てっきりスネかじってると思ってたのに……その姿?」
「神さま廃業ですか?」
「だったらお父さんに頼んでもっと時給のいいパート紹介してもらったのに」
「おいたわしい……」
「勝手にしゃべるな!」
「だって……」
「その姿……」
「これは、池の最後を見届けるための方便だよ」
「ホーベン?」
「ということは、まだ神さまでいらっしゃるんですね」
「あれから、オオガミさまに叱られてな」
「キャッチセールスみたいなことするからだろ?」
「それもあるけど、ここを見捨てたことな……あすかも言ってただろ?」
「あれ、売り言葉に買い言葉。気にしないでくれる?」
「池があろうとなかろうと、そこに人が住んでいるかぎり逃げてきちゃいけないって」
「でも、人がいたって信者がいなきゃ」
「いるよ。あすかが信者一号、桔梗が信者二号だ、よろしくな」
「アハハ……でもフチスミさんは……」
「あたしが兼任、元をたどればオオガミさまにたどりつくんだから、どっちの信者になっても同じさ。フチスミさんは、しばらくはオオガミさまと地元の復興……それから、あんたたちも、たどっていけば同じ一族なんだよ」
「え、親類!? あたしたちが!?」
「あすかの元宮というのは、元宮司って意味で、天児一族の分家、三百年前にあたしといっしょにやってきた家系さ」
「でも、一族とは思いませんでした」
「さすがの桔梗にもわからなかったか?」
「でも、親類だと思うとなんか嬉しいね」
「はい……でもお世話になるのは……」
「硬いこと言うなよ」
「あんたたちは双子の姉妹、二卵性の。そういうことにしといた」
「ええ!?」
「役所の書類もそうしといたし、親も友だちも、みんなそういうふうに思ってる」
「ええ、そんな……」
「ミズホノサトは必ず人がもどってくる。水も少しずつひいて、もとの生活がね……でも、それには何十年もかかるだろう。それまで桔梗を天涯孤独の身の上にしておくのはかわいそうだ……これはオオガミさまのおぼしめしでもある……それとも、桔梗が姉妹じゃ、何か不足でもあるのかい?」
「ないない。ねえ?」
「え、ええ」
「そうと決まれば、やることは一つだけ」
「え、なんかすんの?」
「双子でも、姉と妹の区別がいる」
「そりゃ、誕生日の早いほうが……」
「バカ、双子の誕生日はいっしょにきまってるじゃないか」
「何をするんですか?」
「ここから、自分の家まで、ヨーイドンで走る。先についた方がお姉さんだ。いいね」
「ようし、足には自信が……」
「わたしだって!」
「それじゃ……(競技用のピストルを出す)ヨーイ……」
「っと、その前に一つ聞いていい?」
「なんだい、ずっこけちまうじゃないか!」
「オオガミさまたちの出雲会議がさ……あんなに長引いた理由ってのは? よっぽど大事な議題なんでしょ?」
「ああ、人と自然の将来に関わる大切な話をされていたのさ、ずいぶんもめたみたいだけどね」
「で、結論は?」
「結論は……?」
「こうして、あんたたちとわたしがいる。それが結論……と、いうことで納得しろ」
「こうして、あたしたちがいることが……」
「それじゃいくよ、ヨーイ……っとその前に」
「なによ、ずっこけてしまうじゃないよ!?」
「アハハハ……」
「なによ!?」
「実は、あのオール五の成績票ね」
「そうそう、ごほうびの……(ポケットに手をやる)ない……ポケットのどこにもない!?」
「戦いの最中に、おっことしたんだよ」

「え?」

「フチスミさんが拾ってくれた。そうだよね?」
「え、ええ」
「それをあずかったのがこれ……」
「ありが……とうに破れてるじゃん!?」
「戦いの最中だもん……」
「じゃ、もとのあたしにもどったってわけ!? せっかく真田コーチと同じ学校いけると思ったのに……」
「いいじゃない、受験までにはまだ間がある。今度は自分の力で。わたしも応援するから」
「じゃ、今度こそいくぞ。待ったなし……ヨーイ……ドン」

 家までの道をを本気で駆ける二人、見送るイケスミ。

「……どっちが勝つにしろ、着いたころには、本当の姉妹と思い込んでいるはず、そういう魔法がかけてあるんだから……さあ、おまたせ、埋め立てるよ、ユンボはむこうから、ブルドーザーこっち、ダンプも前に進んで……」

 イケスミ、まるで現場監督のようにホイッスルを吹き、埋め立ての指揮をとる。かくしてマンダラ池の奮戦は幕を閉じていった……。

 
 あすかのマンダラ池奮戦記  完

※このお話は、もともと戯曲です。実演の動画は下記のURLをコピーして貼り付けてユーチューブでご覧ください。

 http://youtu.be/b7_aVzYIZ7I

※戯曲は、下記のアドレスで、どうぞ。

 前半: blog.goo.ne.jp/ryonryon_001/.../2bd8f1bd52aa0113d74dd35562492d7d‎

 後半: blog.goo.ne.jp/ryonryon_001/e/5229ae2fb5774ee8842297c52079c1dd‎
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・76『先週末日本公開ランキング』

2016-10-28 06:10:32 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・76
『先週末日本公開ランキング』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画ランキングですが、もったいないので転載しました


10月に入って大作公開が無くランキングは横ばい傾向が続いています。

①陽だまりの彼女
 2W連続1位、今週3作品が新たにランキング入りしているが、実質ライバルは“そして、父になる”“謝罪の王様”の二本。とはいえジャニーズは強い。

②そして、父になる
 4W 目 ながら恐らく動員数10万人以上、“陽だまり~”が1W目21万人、今週15万人だから、次週上下入れ替わる可能性あり。硬派テーマの本作が ここまで高位を維持しているのは、一人福山の人気だけではない。これは作品の持つ力量が並外れている事の証です。

③謝罪の王様
 これも4W目、宮藤官九郎作品は趣味じゃないけど、阿部サダヲと組むと途端に面白くなる。大人計画からの名コンビ、息はピッタリなんですなぁ。しかし、クドカンの確信犯的露悪趣味とギャグセンスには多少辟易する。おそらく、私が、パンク/メタルに耽溺できないのと同じ根っこがあるんだと思います。同じくメタル的芝居の新感線は大好きなんですが、こっちは半分ハードロックですから。

④人類資金
 初登場 260スクリーン 土日8万人。役者は気になる配役ながら…なんせ福井(亡国のイージス)の原作/脚本、先般も“ハーロック”をボロボロにしてくれたので「意地でも見に行くかい!」と無視……なんですが、意外に入ってませんねぇ。“謝罪の王様”くらいには勝ってると思ったんですが。宣伝不足?

⑤怪盗グルー~
 5W目 強いにゃ強いが、アメリカ程の大ヒットにはならなかったですね。国の持っている事情が違うからですが、スーパーマンの不入りと並んで、日本人の映画に求める物に変化が表れているのと、観客層そのものの変化も感じられます。

⑥ダイアナ
初登場 331スクリーン 4万人 悲劇の英王女ダイアナの映画であります。内容からして上映館数が異様に多いのですが「日本人はダイアナが好きだから」程度の思い入れやったんでしょうね。結果、惨敗です。

⑦ゴーストエージェントRIPD
 初登場 348スクリーン 土日4万人弱…まぁ、こんなもんだっしゃろ。殆ど宣伝もしとりまへん。配給に売る気無し~ 嗚呼

⑧おしん
 先週末初登場5位 6万人、来週はおらんかも……なんで今更“おしん”なんですかねぇ。韓流が未だにマダム達に人気だから“おしん”も当たると勘違いしましたかねぇ。韓流ドラマは日本のドラマの3-40年前をトレースしていると言われますが、確かにそれはあるにしても、古い日本ドラマとは決定的に違う顔も持っている。ここを見落とすと大失敗。例えば今“細腕繁盛記”やら“横堀川”なんかをリメイクしても客は来ないですよね。見たい?

⑨ATARU
 強いなぁ~、なんで? 中居の力? テレビドラマの人気? 6W目ですよ!

⑩風立ちぬ
 驚異の14W目、そろそろ終わりそうではありますが。宮崎監督作品でここまで賛否の割れた映画もありませんでした。ただ、否定的意見が余りにも情けないのが多かった……「主人公がタバコ吸いすぎ」 「武器を作っている事に対する懊悩が無い」 「東北地震があったのに関東大震災の映像を流すのは許せない」etc~ ゴメンね……あんたらアホか? 「物語に起伏がない」だの「主人公の声が気になった」だのは 真っ当な感想に聞こえる。こういうのがホンマに多い、こいつばかりは上から目線で言わしてもらいます「少しは勉強しなはれ」。

※今週消えたのが3作品
“エリジウム”“あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない”“R100”
 エリジウム5W目、R100が3W目に対して“あの日見た~”が8W目!単にアニメ人気とは言えない、本作上映館なんと全国でたったの64館、それでこの成績、これは、ワンピ/ヱヴァとは違う奇跡的ヒットです。
 かっこさて、今週のランキングを見ていて、しみじみ想うのは映像観客層が広くなったなぁと言う事です。改めてトップ10と圏外落ち3本のタイトルを見ると、どれ一つ メイン観客層が被っていない。この事が今後の日本映画界(洋画配給も含めて)にマイナスの影響を与えなければええんですが……アメリカなんかはマーケットリサーチで当たりそうな映画ばっかり作って業界が沈みかけましたからねぇ。杞憂であれかしと願うばかりです。

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