ライトノベルベスト
[お姉ちゃんは未来人・1]
文化祭も五回目になると飽きる。
と言って、あたしは落第を重ねた高校五年生というわけではない。
中学から数えて五回目。面白かったのは中一の時と高一の時。初めてだったから新鮮だった。厳密に言うと高一の時は昼で飽きた。中学校は、学年で合唱とお芝居だけ。そのどっちか。どっちも学芸会のレベルでつまらない。
高校は、もっといろんなことがあるんだろうな! と期待した。
クラブとかの出し物や模擬店は新鮮で、それなりのレベルはあるんだけど、軽音にしろダンス部にしろ、身内だけで盛り上がって、あたしら外野はなんだか馴染めない。ネットで面白い文化祭を観すぎたせいかもしれない。
クラスの取り組みは、占いとうどん屋さんのセット。うどんは100円でミニカップ一個。原価はカップ込みで30円のボッタクリ。占いはタロットと手相の二つで、どっちも100円。担当は、この春に廃部になった演劇部のマコとヨッコ。一週間のアンチョコで、ハウツー本を読んだだけのインチキ。だいたいテストに実験台にされたとき、こんなことを言う。
「う~ん、あなたは珍しい!」
「どんなふうに?」
「生命線がない!」
「え……?」
「本当は、生まれてすぐに亡くなる運命……」
「違うよ、生まれてこない運勢」
「だったっけ……あら、ほんと」
「で、どーなのよ?」
「なにか、特別な使命を帯びてこの世に生まれた。その兆候は十六歳で開花する」
「あの……あたし、まだ何にも開花してないんだけど」
「え、そう?」
「芸能プロにスカウトされたとか、宝くじにあたったとか?」
「あたし、もう十七歳なんだけど……」
ま、こんな調子。
言っとくけど、あたしには生命線はあった……うっすらだけど。それが去年の冬ぐらいから消えてきた。ちょっと気になったので、ウェブで調べた。すると、二つのことが分かった。
①:生命線が無い、または薄い者はいる。だが他の線により補完されていて、特に問題は無い。
②:手相は、年齢や体調によって変化する。
で、マコとヨッコが使っているハウツー本は全然違うことが書いてある。ようはいい加減ということだ。僅かに褒められるのは、元演劇部らしく小道具としての本には凝っていてわざわざ神田の古本屋まで行って買ってきた、古色蒼然とした本だったこと。しかし、奥付の発行年を見ると昭和21年発行の雑誌の付録になっていた。終戦直後の何を出しても売れる時代の粗悪品。先生は「カストリものだな」と言っていた。ちなみにカストリとは三合(三号にかけてる)で潰れる粗悪な酒という意味。
ま、適当に当番の時間をお勤めして、あとはテキトーに時間を潰して、終礼が終わったらさっさと帰った。まあどこにでもいるややしらけ気味の高校二年生。あ、名前は蟹江竹子……ちょっと古風。亡くなったひい祖母ちゃんが竹のようにスクスクと育つようにと付けてくれた。愛称はタケとかタケちゃん。ま、普通。
「I,m home!」
ちょっと気取って玄関を開ける。
「ああ、腹減った!」
言いながらパンかごから、クロワッサンリッチを出してぱくつく。
「もう、行儀の悪い!」
お母さんがいつものように小言。
「はーい」と返事して、食べてから手を洗う。クロワッサンの油やパンくずが手について気持ち悪いから。
「ただいまー!」
お姉ちゃんが元気に帰ってきた。「お帰り」と、あたしの時とは違う優しい声でお母さん。お姉ちゃんは優等の高校三年生だ。もう一時間もすればお父さんが帰ってきて、ごく普通の親子の夕食になる。
ただ普通でないのは、お姉ちゃんは未来人で、本来はうちの子ではないこと。そして、そのことは、あたししか知らないこと。
[お姉ちゃんは未来人・1]
文化祭も五回目になると飽きる。
と言って、あたしは落第を重ねた高校五年生というわけではない。
中学から数えて五回目。面白かったのは中一の時と高一の時。初めてだったから新鮮だった。厳密に言うと高一の時は昼で飽きた。中学校は、学年で合唱とお芝居だけ。そのどっちか。どっちも学芸会のレベルでつまらない。
高校は、もっといろんなことがあるんだろうな! と期待した。
クラブとかの出し物や模擬店は新鮮で、それなりのレベルはあるんだけど、軽音にしろダンス部にしろ、身内だけで盛り上がって、あたしら外野はなんだか馴染めない。ネットで面白い文化祭を観すぎたせいかもしれない。
クラスの取り組みは、占いとうどん屋さんのセット。うどんは100円でミニカップ一個。原価はカップ込みで30円のボッタクリ。占いはタロットと手相の二つで、どっちも100円。担当は、この春に廃部になった演劇部のマコとヨッコ。一週間のアンチョコで、ハウツー本を読んだだけのインチキ。だいたいテストに実験台にされたとき、こんなことを言う。
「う~ん、あなたは珍しい!」
「どんなふうに?」
「生命線がない!」
「え……?」
「本当は、生まれてすぐに亡くなる運命……」
「違うよ、生まれてこない運勢」
「だったっけ……あら、ほんと」
「で、どーなのよ?」
「なにか、特別な使命を帯びてこの世に生まれた。その兆候は十六歳で開花する」
「あの……あたし、まだ何にも開花してないんだけど」
「え、そう?」
「芸能プロにスカウトされたとか、宝くじにあたったとか?」
「あたし、もう十七歳なんだけど……」
ま、こんな調子。
言っとくけど、あたしには生命線はあった……うっすらだけど。それが去年の冬ぐらいから消えてきた。ちょっと気になったので、ウェブで調べた。すると、二つのことが分かった。
①:生命線が無い、または薄い者はいる。だが他の線により補完されていて、特に問題は無い。
②:手相は、年齢や体調によって変化する。
で、マコとヨッコが使っているハウツー本は全然違うことが書いてある。ようはいい加減ということだ。僅かに褒められるのは、元演劇部らしく小道具としての本には凝っていてわざわざ神田の古本屋まで行って買ってきた、古色蒼然とした本だったこと。しかし、奥付の発行年を見ると昭和21年発行の雑誌の付録になっていた。終戦直後の何を出しても売れる時代の粗悪品。先生は「カストリものだな」と言っていた。ちなみにカストリとは三合(三号にかけてる)で潰れる粗悪な酒という意味。
ま、適当に当番の時間をお勤めして、あとはテキトーに時間を潰して、終礼が終わったらさっさと帰った。まあどこにでもいるややしらけ気味の高校二年生。あ、名前は蟹江竹子……ちょっと古風。亡くなったひい祖母ちゃんが竹のようにスクスクと育つようにと付けてくれた。愛称はタケとかタケちゃん。ま、普通。
「I,m home!」
ちょっと気取って玄関を開ける。
「ああ、腹減った!」
言いながらパンかごから、クロワッサンリッチを出してぱくつく。
「もう、行儀の悪い!」
お母さんがいつものように小言。
「はーい」と返事して、食べてから手を洗う。クロワッサンの油やパンくずが手について気持ち悪いから。
「ただいまー!」
お姉ちゃんが元気に帰ってきた。「お帰り」と、あたしの時とは違う優しい声でお母さん。お姉ちゃんは優等の高校三年生だ。もう一時間もすればお父さんが帰ってきて、ごく普通の親子の夕食になる。
ただ普通でないのは、お姉ちゃんは未来人で、本来はうちの子ではないこと。そして、そのことは、あたししか知らないこと。