大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト・[お姉ちゃんは未来人・1]

2016-10-05 06:29:13 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
[お姉ちゃんは未来人・1]


 文化祭も五回目になると飽きる。

 と言って、あたしは落第を重ねた高校五年生というわけではない。
 中学から数えて五回目。面白かったのは中一の時と高一の時。初めてだったから新鮮だった。厳密に言うと高一の時は昼で飽きた。中学校は、学年で合唱とお芝居だけ。そのどっちか。どっちも学芸会のレベルでつまらない。
 高校は、もっといろんなことがあるんだろうな! と期待した。

 クラブとかの出し物や模擬店は新鮮で、それなりのレベルはあるんだけど、軽音にしろダンス部にしろ、身内だけで盛り上がって、あたしら外野はなんだか馴染めない。ネットで面白い文化祭を観すぎたせいかもしれない。
 クラスの取り組みは、占いとうどん屋さんのセット。うどんは100円でミニカップ一個。原価はカップ込みで30円のボッタクリ。占いはタロットと手相の二つで、どっちも100円。担当は、この春に廃部になった演劇部のマコとヨッコ。一週間のアンチョコで、ハウツー本を読んだだけのインチキ。だいたいテストに実験台にされたとき、こんなことを言う。
「う~ん、あなたは珍しい!」
「どんなふうに?」
「生命線がない!」
「え……?」
「本当は、生まれてすぐに亡くなる運命……」
「違うよ、生まれてこない運勢」
「だったっけ……あら、ほんと」
「で、どーなのよ?」
「なにか、特別な使命を帯びてこの世に生まれた。その兆候は十六歳で開花する」
「あの……あたし、まだ何にも開花してないんだけど」
「え、そう?」
「芸能プロにスカウトされたとか、宝くじにあたったとか?」
「あたし、もう十七歳なんだけど……」

 ま、こんな調子。

 言っとくけど、あたしには生命線はあった……うっすらだけど。それが去年の冬ぐらいから消えてきた。ちょっと気になったので、ウェブで調べた。すると、二つのことが分かった。

①:生命線が無い、または薄い者はいる。だが他の線により補完されていて、特に問題は無い。
②:手相は、年齢や体調によって変化する。

 で、マコとヨッコが使っているハウツー本は全然違うことが書いてある。ようはいい加減ということだ。僅かに褒められるのは、元演劇部らしく小道具としての本には凝っていてわざわざ神田の古本屋まで行って買ってきた、古色蒼然とした本だったこと。しかし、奥付の発行年を見ると昭和21年発行の雑誌の付録になっていた。終戦直後の何を出しても売れる時代の粗悪品。先生は「カストリものだな」と言っていた。ちなみにカストリとは三合(三号にかけてる)で潰れる粗悪な酒という意味。

 ま、適当に当番の時間をお勤めして、あとはテキトーに時間を潰して、終礼が終わったらさっさと帰った。まあどこにでもいるややしらけ気味の高校二年生。あ、名前は蟹江竹子……ちょっと古風。亡くなったひい祖母ちゃんが竹のようにスクスクと育つようにと付けてくれた。愛称はタケとかタケちゃん。ま、普通。

「I,m home!」

 ちょっと気取って玄関を開ける。
「ああ、腹減った!」
 言いながらパンかごから、クロワッサンリッチを出してぱくつく。
「もう、行儀の悪い!」
 お母さんがいつものように小言。
「はーい」と返事して、食べてから手を洗う。クロワッサンの油やパンくずが手について気持ち悪いから。

「ただいまー!」

 お姉ちゃんが元気に帰ってきた。「お帰り」と、あたしの時とは違う優しい声でお母さん。お姉ちゃんは優等の高校三年生だ。もう一時間もすればお父さんが帰ってきて、ごく普通の親子の夕食になる。

 ただ普通でないのは、お姉ちゃんは未来人で、本来はうちの子ではないこと。そして、そのことは、あたししか知らないこと。 

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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・53『バレット/リアル』

2016-10-05 05:58:56 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・53
『バレット/リアル』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです


☆バレット
 
 ウォルター・ヒル監督 シルベスター・スタローン主演、ジョエル・シルバー製作……と来て 男臭く無いはずがない!

 全く期待以上の『男気映画』であります。これで、音楽/ライ・クーダーのボトルネックギターならフルセットながら、無い物ねだりしても仕方ない。今回担当しているスティーブ・マッツァは新人だけど、見事に泣くギターとブルースハープで世界を色どっている。
 本作、スタローン『暗殺者』の後日談的ストーリーかと思いきや、もっと泥臭いオッサン殺し屋のお話。さすがにW・ヒル、作風が全くぶれない、まさにR・アルドリッチ/S・ペキンパーの後継者です。人を殺す事の是非などぶっ飛んで『ハートの無い奴に負けるな!』という叫びが大反響している。ラストでボノボがつぶやいている『死んでも誰も悲しまない奴らが死んだだけ』……全くその通り、なんたる血なまぐさいカタルシスであることか。
 これがまた、アメリカでは大して成功していない……なんでなんやろ? アメリカ人が暴力を嫌っている? おいおい、どの口が言うとんねん! タランティーノやロドリゲスのうすら汚い映画はちゃんと当たっとるやないかいな! ぬるい事言うとったらアカンで〓 パンフレットを見て、スタローンのヒルに対するリスペクトが良く解る。フィルモグラフィーが入っているのだが、スタローンのそれではなくヒル監督の映画がずらっと並んでいる。
 このリストからも男臭さが漂ってくる。久々の男の映画! 今時の草食系たらいう連中には薦めません。
 鉄砲フリークとして一言、ボノボの愛銃がクローム仕上げのブローニングハイパワーなのはなんで? なんかこだわりが有るんですかねぇ……これ、欠陥銃なんですけど~…… 途中、このピストルにある仕掛けがされる……これが鉄砲フリークをまた泣かせる、フリーク共必見! 但し、敵がボノボの家を襲う時のウエポンセレクトには目をつぶる事! よろしく(^-^)/


☆リアル~完全なる首長竜の日~

 むちゃくちゃ面白かったです!誰ですか?「インセプション」のパクリやないか? なんぞと疑ってたのは! タハハハハ〓申し訳無い、これ この通り 土下座して お詫び申し上げます~〓
 昨日の「オブリビオン」風に説明するなら……『インセプション』は一本の直線上を180度に向けて角度が開いて行く(開き切れば作戦成功)……所が相手も対策をとっているので、別の直線に移動、更に移動~移るごとに夢の深度は深くなり、相対時間が遅くなる……ラストには全ての階層が一気に解放されるのだが、果たして主人公は現実界に戻ったのだろうか? との謎を残して終わる。C・ノーランならではの多重構造……正直うなった!

 本作は180度を過ぎて順調に359度を目指す、そして残る1度で虚空に落ちる……落ちて行く先はまごう事なき“死”である。ところが本作、ここで素直には終わらない この先にこそ真実のラストがあり、しかも直線ではなく地平線が広がっている。さて最後の角度はどの方向に向かって開いて行くのか……最後まで解らない。う~む~っ お見事であります。

 これも絶対 原作を読まんといけませんが、映画の余韻が多少収まってからの方が良さそうです。映画を先に見た方が絶対よろしい。もう読んじゃった不幸なあなたは、頭を柱に叩きつけてでも記憶を抹消してください。
 と 申しますのも、映画化のために新たな設定が入っていて、それが必ずしも成功しているとは思えないからで、見ていて混乱が有る。初めの180度の着地点は想像が付くのだが、想像通りだとすると納得行かない点がいくつかある。最後まで見れば解る部分もあるが、逆に 最後に「ほんなら始めのあれは何やねん」と思える部分が出てきたりする。
 映像の完成度は、首長竜の造形やら がんばっちゃいるが「インセプション」の足元にもよれない。その分ホラー演出で補ってあるとはいえ「インセプション」の圧倒的映像との差はいかんともし難い。技術と予算の差でもあるんで監督・製作を責めるつもりは全くおまへん。 ようここまで作らはったと感激であります。 「インセプション」でもそうだったけど、本作にも見ていくに際してのお約束が多数存在する。それらはシーンが進むにつれて順次説明されるので、そこであんまり理屈をこねないのが得策であります。素直にご覧下さいませ。
 さて「インセプション」との違いをもう一つ、かの作品は「夢に侵入するプロ達が作戦を建て、設計されたハッキリした世界」が存在する。本作は病人とその恋人の夢をシンクロさせるだけで、考えてみれば恐ろしく不安定な実験である。そこに、日本人的感性やら宗教観やらが絡まって独特の世界を構築している。兎に角、百聞は一見にしかず!見に行きなはれ〓〓〓 ただし、一言お断り申し上げます。ホラー演出がかなり効果的にはさまっていて、私ですら一瞬“ドォキィ!”っとした場面が有りました、怖がりのお方はご用心。彼女が恐がりなら『今夜は一人で寝られへん』なぁんてな展開も……あるわきゃ無いんで 呉々も邪念を抱かず純粋にお楽しみいただきますように……ヘッヘッヘッ!

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