大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『ジャパンドール・1』

2016-10-13 06:21:25 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
『ジャパンドール・1』
        


 その子は、降りる駅を、全く意識しないで勉強していた……。

「あなた、次ぎ終点だけど、降りないの?」
「え、あ、あたし……ああ、また一往復しちゃったんだ……」
「ひょっとして、勉強するために電車に乗ってるの?」
「う、うん。家でやったら誘惑多いし、集中できないから。いま中間テストの真っ最中」
 そう言って、その子は、小型のトランクの上に広げていた勉強道具を、手際よく片づけ始めた。

――次は、終点XXです。この電車は回送になります。どなたさまも、お忘れ物のないようにご用意下さい。本日は○○鉄道ご利用、まことにありがとうございました――

 車内放送がして、まばらな乗客は降りる準備を始めた。

 この子とは始発駅からいっしょだったけど、二往復目だとは気づかなかった。
 大きな港湾都市である○○から各駅停車で終点のXXまで行く人間は少ない。この車両ではわたしと、この子だけだった。
「名前、よかったら教えてくれる。せっかくの縁だから」
「須藤結衣。この近所のU学園の二年」
「U学園……そう。わたし峰子・シドニー。よろしく」
「シドニー……ああ、日系の人?」
 で、結衣は三番線に目をやった。
「ええ、アメリカのね。ああ、あなたは南○○線に乗り換えるんだ」
「うん、家がTKやから、ここからは準急。まあ、明日のテストは、これでなんとか。じゃ、わたし地下鉄だから、ここで」
「うん。さよなら」
 結衣は軽やかな足どりで三番線に向かった。

――そうか、U学園も男女共学になったんだ。でもあんな女生徒がいるんだ。番外だけど安心一号かな――

 峰子は、地下鉄に乗って、A町に向かった。A町は峰子の生まれた古里だ。

 八十五年ぶりの里帰り。

 地上に出て、びっくりした。予想はしていたけど、生まれたころと、まるで町の様子が違う。せめて道路ぐらいはもとのままかと思ったけど、昔のままの道は本町筋だけ、
「よかった、本町筋だけは昔のままだ……あの角の大城人形店で、わたしは生まれたんだ。四番目の娘として」
 もう、実家の大城人形店は無くなっていたけど、そこには市が作った女性や子どもの人権を取り扱う、ボーンセンターが出来ていた。一階が劇場スペースになっていて、見るとR高校の自主公演で『ジャパンドール』という芝居がかかっていた、最終日の千秋楽。なにかの縁だろうと峰子は観ることにした。

 小屋は、高校生の観客が多く、少し親近感。でも舞台の芝居は、前衛というのかアヴァンギャルドというのか、ジャパンドールとはなんの関係もなかった。峰子は芝居はわからないけど、これでは多くの人に共感してもらうのは無理だろう。まして、これから峰子に与えられた任務を果たす手がかりにはならないだろう。
 ま、初手から『ジャパンドール』のタイトルの芝居。そう上手くいくはずはない。まあ、最初に深呼吸をしたつもりぐらいに思っておこう。

 小屋を出ると、そこに結衣がいた。

「峰子ちゃん、あなたひょっとして、答礼人形でアメリカに行ったお人形……?」
「結衣ちゃん、あなたは……?」
 峰子は、少し身構えた。探している対象は多く、中には、怨念のあまり鬼になっているかもしれないからだ。
「わたし、マーガレット。カンサスから来たの。今は結衣の中に住まわせてもらって、なんとかやってるわ。アメリカから代表がくるらしいっていうんで、あの電車に乗っていたの。ほんとに会えるとは思ってもいなかたわ」
「わたしもよ、マーガレット。最初にあなたみたいな子に会えてラッキーだった」
「本気で仲間たちに会おうと思っているの?」
「できたら……」
「気をつけて。焼かれた仲間は12500ほども居るわ。中には……」
「分かってる。無理はしないわ。でも、最善は尽くす。だって、お互い元は『友情の人形』だったんだから」
「分かった、お手伝いはできないけど、祈ってるわ……あなたの成功を」
 そういうと、結衣は頬笑みながら消えてしまった。

 峰子は、結衣が最後に見せた頬笑みに、12500体の人形がたどった苦しさ。歴史の重さを知ったような気がした。

 背後では『ジャパンドール』を見終わり、駅に向かう人たちのさんざめきがしていた……。


 百年近い昔、中国進出をうかがっていたアメリカ合衆国と日本のあいだで政治的緊張が高まっていた。
 また、1924年に成立した「排日移民法」も両国民の対立を高めつつあった。そんななか、1927年(昭和2年)3月、日米の対立を心配し、その緊張を文化的にやわらげようと、アメリカ人宣教師のシドニー・ギューリック博士が提唱して親善活動がおこなわれた。その一環として、米国から日本の子供に12,739体の「青い目の人形」が贈られた。「青い目の人形」は全国各地の幼稚園・小学校に配られ、ずいぶん歓迎された。

 そして返礼として、峰子たち「答礼人形」と呼ばれる市松人形58体が同年11月に日本からアメリカ合衆国に贈られた。

 日本に贈られた「青い目の人形」……第二次世界大戦中は反米・反英政策により敵性人形としてその多くが焼却処分された。けれど、これをを忍びなく思った人々は人形を隠し、戦後に学校等で発見された。現存する人形は2010年現在、323体にすぎないが、日米親善と平和を語る資料として大切に保存されている。

 峰子が、今回日本に来た目的は、この焼却処分された人形たちの「今」を確認し、その魂を慰めることだった。
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・61『風立ちぬ/SHORT PEACE』

2016-10-13 05:47:25 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・61
『風立ちぬ/SHORT PEACE』


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


風立ちぬ

 いざ生きめやも……堀辰雄のポール・ウ゛ァレリーの詩の訳と 同名の小説タイトルから邦題とした。

 本作は帝国海軍/九六式艦戦(単座戦闘爆撃機…後のゼロ戦の原型)の開発者・堀口二郎の物語であるが、堀辰雄が合わさっており、さらに堀の「菜穂子」の世界も重なっている。
 本作について、解説などと 無粋は必要ない。見て感じていただければ、後 パンフレット収録の駿さんの企画書を読めば良い。
 
 続いて、立花隆が補足している……ええんですが、立花ってのはジャーナリストっつう前に、どうしようもなく左翼です。立花は この作品世界を「富国強兵国家日本が、富国にも強兵にも失敗し、大破綻をきたした物語」だと……何を言うやら左翼の馬鹿は、戦争に負けたのだから大破綻は当たり前。なら、この時代に「富国強兵」以外に選択肢が有ったのか? 無理にも欧米に追いつかなければ理想郷ができたとでも言いたいのか? 現在の価値観で過去を裁くのは間違っている事に、いつになったら気付くんでしょうねぇ。

 まぁ、こんな奴は放っておいて…本作の中には観客の気持ちを鷲掴みにするセリフが散らばっています。多くは堀口の評伝にある言葉であったり、堀の作品にある言葉だと思う これがなかなかに響く。
 響くと言えばエンディングがユーミンの「飛行機雲」なのだが、この歌 ユーミンの若くして逝った友に捧げられた物、偶然だが それがヒロイン菜穂子の物語に重なる。また、西条八十の「風」も物語世界にとけこんでいる。
 二郎はよく夢を見る。この夢の中に出てくるイタリア人カブローニは飛行機発明の先駆者で、駿さんは二郎にとっての“メフィストテレス”と捉えている。善悪の彼岸を超えた絶妙の存在です。
 本作の効果音は 大部分“口三味線”だそうで、当然加工されているが、よおく耳をすますと そうだと知れる。これが作品に面白い色付けをしている。 音と言えば 二郎の声を“エウ゛ァ”の庵野秀明が勤めている。初め少々引っかかるが 慣れてくるとこれがなかなか良い。「トトロ」の糸井重里以来のヒットだと思う。瀧本美織の菜穂子はドンピシャの起用です。今作の「生きねば」、以前に「生きろ!」ってのも有った。このように見える“キャッチコピー”が無くとも、宮崎駿は一貫して“生きる”事を表現してきた。そこには狭小なイデオロギーなど入り込む余地はない。宮崎はいつも もっと巨大な物語を見つめている。高齢でもあるので後 何本見せてもらえるのか判らないが、このまま永遠に作り続けていただきたいですねぇ。
 最後に、本作は子供向けアニメではありません。あんまり幼い子供には理解不能でしょう。その点、勘違いされたのでしょうか、小さな子供を連れた方が結構おられたのですが、むずがる声も退屈してガサツク雰囲気もありませんでした。ちびチャン達には どのように見えたのでしょうか。


SHORT PEACE

 これも コメントする事が無いんだよなぁ。とにかく見て感じて下さい と言うのみです。5本のショートアニメのオムニバスで、内2本が大友作品。70分弱の作品で、オープニングに現れた少女が白兎に誘われて鳥居をくぐり抜け4つの異世界を巡る。以降 少女は画面に現れず、少女の視線は観客の視線となる。一本一本は独特の世界観であり、どれをとっても見事な仕上がりです。 ただ、「攻殻~」の時も思ったのですが、歩く姿がフワついて見えます。
 ジブリ作品だと絶対そんな事は無いのですが、その他のアニメだと時々引っかかる、セル画枚数の関係なのか CGの隆盛が影響しているのか…ご存知の方がおられるならご教示願いたいのですが……。
 大好きな大友ワールド、作品の原点やこだわり、意味するもの……語りだすとキリがない。だからやめときますが、本作には新旧二つの大友克洋の顔が出てきます。漫画家大友の懐かしい物語とアニメーターとして常に新境地を開いてきた大友の新しい可能性……ファンでなきゃ興味無いですかねぇ。
“クールジャパン”なんぞと海外からの輸入やら官製やら判らんキャッチコピーですが、「ワンピース」や「エウ゛ァ」、ジブリとはまた違った その最先端の一つです。これも あまり幼い子供には理解不能な作品です。しかし、オタッキー向けでもなく、多分にマニアックではありますが、普遍的な価値観に裏打ちされており 殊に 「日本的なる物」“九十九”と“火要鎮”の美しさは特筆です。アニメに興味のないかたにもご覧いただきたい一本です。

コメント
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