真凡プレジデント・36
俺は世間の高校三年生よりはできる男だと思う。
勉強はもちろん、身体的能力も、物事への洞察力も忍耐力もリーダーシップも表現力も、他にいろんなこともな。
でも、スターになったり、将来政界に打って出て総理大臣を目指したり、そんなことは考えていない。
さしあたり、平穏な高校生活を全うし、とりあえず大学に入れればいいと思っている。
ちょっと前、テレビ局の企画に乗って司法試験の過去問をやった。
ひょんなことで、ネット上、現役の国会議員にして弁護士で国務大臣経験者の某氏と論戦になり、絡んできたテレビ局の陰謀に乗ってしまったからだ。
結果的に、俺は合格、某氏は落第の点数だった。
高校生に負ける弁護士ってどうなんだ!
野党が勢いづいて、あちこちで某氏を揶揄し、嘲笑った。
「今度は、ぜひ、野党の○○さんとやりたいですね」
学校までやってきた記者に言ってやった。
もと検事の女性議員の名を上げておいたが、野党を貶めることはご法度のようで、みごとに無視された。
まあ、それもいい。政治には興味ないし、俺は、俺の周囲が平穏で、程よく活気づいていれば、それでいいんだ。
今回は二年前の入試に不手際があり、本来合格していたはずの女の子が落とされたという事実が発覚した。
その子は、入試の開示請求をおこない、採点ミスで落とされたことを知ったのだ。
それ自体は去年の話なんだけど、学校も教育委員会も初期対応をあやまり、その子はへそを曲げてしまった。
その子なりに調べてネットでも評判になりかけたころ、その子とは逆に、落ちていたはずの子が受かっていることに気が付いた。
それが、橘なつきだ。
生徒会会計にして我が天敵北白川綾乃のクラスメート。生徒会選挙に絡んだ一連の事件で俺の意識圏の中に入ってきた田中真凡の親友でもある。
ここまでの展開が気になったら、ちょっと手間だが読み返してほしい。一つ一つは平凡な日常だが、とっても非日常的な、世界がひっくり返りそうな出来事が起こりそうな予感がすると思うぜ。『ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こす』的な展開がな。まだまだ萌芽と言っていい段階だが……まあ、あまり煽るような言動は慎もう。
ともかく、なつきに罪は無いし、その子もなつきを貶めるつもりはない。
ただ、面白いから世間もテレビ局も騒いだ。俺が予感しているようなことではなく、単に視聴率が稼げそうな面白さ。そいつのために連日学校を取り巻いては、あることないこと取材していく。
もちろん学校名は伏せているが、そんなものは建前だけで、登下校の生徒にインタビューを求めたり、コメンテーターに好き放題なことを言わせては視聴率を稼いでいる。
「今日も○○高校前に来ております。二度目の取材を申し入れてありますが、断られてしまいましたので、やむなく学校の裏手の一般道からお送りいたしています。視聴者の皆さまからは学校名の公表など望む声が上がっておりますが、わたしたちは一般生徒の皆さんの平穏を侵したくはありませんので、このような隔靴搔痒のような取材方法をとっております」
わざとらしく電柱の所番地表記にモザイクを掛けて収録の真っ最中。
カックン
正義の味方ヅラの放送記者に膝カックンを食らわせるところから始めてみた。
「わ、わ、なにを!?」
オタオタする放送記者は、間抜けた阿呆面で俺を確認すると、媚びた顔で迫って来た。
「あ、キミは列車事故を未然に防いだ柳沢琢磨くん!」
先月までは付けていたサイコパスの称号を外して、友だちのような笑顔を振りまいてきやがった。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡(生徒会長) ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 福島 みずき(副会長) 真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
- 橘 なつき(会計) 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 北白川 綾乃(書記) モテカワ美少女の同級生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問