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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真凡プレジデント・36《琢磨の膝カックン》

2021-03-29 06:17:47 | 小説3

レジデント・36

《琢磨の膝カックン》      

 

 

 俺は世間の高校三年生よりはできる男だと思う。

 勉強はもちろん、身体的能力も、物事への洞察力も忍耐力もリーダーシップも表現力も、他にいろんなこともな。

 でも、スターになったり、将来政界に打って出て総理大臣を目指したり、そんなことは考えていない。

 さしあたり、平穏な高校生活を全うし、とりあえず大学に入れればいいと思っている。

 ちょっと前、テレビ局の企画に乗って司法試験の過去問をやった。

 ひょんなことで、ネット上、現役の国会議員にして弁護士で国務大臣経験者の某氏と論戦になり、絡んできたテレビ局の陰謀に乗ってしまったからだ。

 

 結果的に、俺は合格、某氏は落第の点数だった。

 

 高校生に負ける弁護士ってどうなんだ!

 野党が勢いづいて、あちこちで某氏を揶揄し、嘲笑った。

「今度は、ぜひ、野党の○○さんとやりたいですね」

 学校までやってきた記者に言ってやった。

 もと検事の女性議員の名を上げておいたが、野党を貶めることはご法度のようで、みごとに無視された。

 

 まあ、それもいい。政治には興味ないし、俺は、俺の周囲が平穏で、程よく活気づいていれば、それでいいんだ。

 

 今回は二年前の入試に不手際があり、本来合格していたはずの女の子が落とされたという事実が発覚した。

 その子は、入試の開示請求をおこない、採点ミスで落とされたことを知ったのだ。

 それ自体は去年の話なんだけど、学校も教育委員会も初期対応をあやまり、その子はへそを曲げてしまった。

 その子なりに調べてネットでも評判になりかけたころ、その子とは逆に、落ちていたはずの子が受かっていることに気が付いた。

 それが、橘なつきだ。

 生徒会会計にして我が天敵北白川綾乃のクラスメート。生徒会選挙に絡んだ一連の事件で俺の意識圏の中に入ってきた田中真凡の親友でもある。

 ここまでの展開が気になったら、ちょっと手間だが読み返してほしい。一つ一つは平凡な日常だが、とっても非日常的な、世界がひっくり返りそうな出来事が起こりそうな予感がすると思うぜ。『ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こす』的な展開がな。まだまだ萌芽と言っていい段階だが……まあ、あまり煽るような言動は慎もう。

 ともかく、なつきに罪は無いし、その子もなつきを貶めるつもりはない。

 ただ、面白いから世間もテレビ局も騒いだ。俺が予感しているようなことではなく、単に視聴率が稼げそうな面白さ。そいつのために連日学校を取り巻いては、あることないこと取材していく。

 もちろん学校名は伏せているが、そんなものは建前だけで、登下校の生徒にインタビューを求めたり、コメンテーターに好き放題なことを言わせては視聴率を稼いでいる。

「今日も○○高校前に来ております。二度目の取材を申し入れてありますが、断られてしまいましたので、やむなく学校の裏手の一般道からお送りいたしています。視聴者の皆さまからは学校名の公表など望む声が上がっておりますが、わたしたちは一般生徒の皆さんの平穏を侵したくはありませんので、このような隔靴搔痒のような取材方法をとっております」

 わざとらしく電柱の所番地表記にモザイクを掛けて収録の真っ最中。

 

 カックン

 

 正義の味方ヅラの放送記者に膝カックンを食らわせるところから始めてみた。

「わ、わ、なにを!?」

 オタオタする放送記者は、間抜けた阿呆面で俺を確認すると、媚びた顔で迫って来た。

「あ、キミは列車事故を未然に防いだ柳沢琢磨くん!」

 先月までは付けていたサイコパスの称号を外して、友だちのような笑顔を振りまいてきやがった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問
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真凡プレジデント・35《ペス》

2021-03-28 04:54:31 | 小説3

レジデント・35

《ペス》        

 

 

 呼び出されたのは中町公園。

 なつきの部屋で当てのない啖呵を切ってしまったところでスマホに電話がかかってきて、中町公園に呼び出されているのよ。

 

 噴水そばのベンチに座っていると、見覚えのあるわんこが、ダラダラとリードを引きずりながらやってきた。

「あ、キミは……」

『おう、おいらペスだぜ』

「え!?」

 わんこが喋った!?

『んなわけないだろ、俺だよ俺』

 落ち着いて聞くと柳沢琢磨の声だ。

 でもってよーく見ると、ペスの首輪に小さなスピーカーが付いていて、声はそこから聞こえてくる。

「なんで、こんな……本体はどこにいるんですか?」

『探すんじゃない。俺からは見えてるから安心してくれ』

 そっちは安心でも、こっちは面白くないよ。呼び出されたと思ったら、こっちからは姿が見えないで、そっちからだけ見えてるなんて気持ちが悪い。

『先日の鉄道事件で面が割れてるからな、下手に会ってるところを見られたら真凡も迷惑するだろ……ほら、西側の道路に車が停まってるの見えるだろ、あれ、毎朝テレビの覆面だ。俺が現れたら密かにカメラを回すつもりだ。向かいの喫茶店には週刊文潮の記者がいる。だから、ペスと遊んでる感じで話してくれ』

 目の端っこで確認すると、なるほど言われた通り状況だ。

「それで、どうするんですか?」

『学校にも、落とされた子にも問題はあると思うんだけど、細かいことはいい。バカ騒ぎにして俺の平安な環境をかき乱すマスコミが許せない。一週間でカタをつけるから、その間、俺を信用して待っていてくれないか。なつきの問題も本編を解決すれば自然に収まるよ、早まって退学届けなんか出さないように見てやってほしい』

「そ、そうなんだ」

 ちょっと悔しいけど、柳沢ならやり遂げるような気がする。

『おう、真凡も、ちょっと安心した顔になったな』

「ま、まあ……て、見えてるんですか?」

『ああ、スピーカーの他にカメラも付いてるんでな』

「え!?」

 わたしは慌てた。

 だって、お座りしたペスの位置からだとスカートの中が丸見えなのだ。

『ああ、だいじょうぶ。ライトまでは付いてないから、陰になってるところは見えてない。納得がいったら、ペスを連れて公園を出てくれ、角を曲がったところで元の飼い主が待っている。うん、あの小学生。あいつが家まで連れてきてくれることになってるから。じゃあな』

 わたしは、ごく自然な感じでリードを持って公園を出て行ったのだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

 

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真凡プレジデント・34《胸を叩いた》

2021-03-27 06:22:29 | 小説3

レジデント・34

《胸を叩いた》  

 

 どう書いていいかも分かんなかった……

 

 ベッドの上、接する壁に同化するように膝を抱えるなつきが顔も上げずに、やっとそれだけ言った。

 階下ではアイドルタイムが終わって賑わい始めたお店の気配。

 お好み焼き屋たちばなは流行っている店だけど、それに甘えて休むわけにはいかない。おばさんもなつきのことが気にならないはずはないんだけど、定休日以外に休んでしまうと、とたんに客足に影響する。

 それに、ホームドラマじゃあるまいし、母親がちょこっと声をかけて解決するような問題でもないことも分かっている。

 中坊のときグレかかったときも「まあ、麻疹みたいなもんだから」と気楽に構えていたおばさんだけど、ほんとはどうしてやりようもなかったんだ。せめて普通に店を開けて元気にお客さんの相手をして見せることで娘を支えているんだ。

 いつもなら年中出しっぱなしのコタツに収まる。

 なつきはベッドとコタツの谷間、わたしは壁側というのが定位置。

 でも、なつきが定位置に収まらず、ベッドの上でクマのぬいぐるみといっしょに膝を抱えていては、入り口近くに腰を下ろすのがやっとだ。ドアの向こう、あと二段上ったら廊下というところで健二が心配そうにしているのも気になるしね。

「なつきは、悪いことなにもしてないよ。がんばって進級もしたし、だれにひけ目を感じることもないんだよ」

「でも、ほんとに合格していたのはあの子で、わたしは届かない成績だったんだから。あの子が怒るのも無理ないよ、怒って当然だよ。真凡に支えてもらってやっと借り進級だよ、ほんとなら二年生にもなれない成績で、真凡が居なかったら、この三月でやめてるところだったよ……」

「そんなことない、いくらわたしが居ても、なつきが、その気になってなきゃ進級なんてできてなかったよ」

「わたしバカだけど、分かってるよ自分がバカだってことは」

「とにかく早まらないで、なつきが学校辞める理由なんてどこにも無いんだから!」

「学校辞める時は一筆書かなきゃならない、でもって、いざ書くとなると『たい学とどけ』だったか『じひょう』だったかも分かんない。いろいろ書いて調べて、やっと分かった。退学届だって、送り仮名はいらないんだよね、『退学届け』って書いたらダメなんだよ。良く読んだら『退学』に『届け!』って間抜けの願望みたいで笑っちゃう……ほんで自分で書いてもダメで、学校の指定の用紙で書かなきゃならないって、でも、学校に行く勇気出なくて……」

「なつき……」

 ちょっと言葉が続かない。

「だって、スマホにもネットにも『おまえがヤメロ!』って書き込みが一杯で、もう、とってもやってけないよ」

 それはその通り、心無い書き込みは、学校のホームページだけでなく、普通の生徒たちにも中町高校というだけで書きこまれている。生徒全員じゃないだろうけど、マスコミとかネットで叩かれまくって、そのいら立ちをなつきに向けてくる奴もいる。

「そんなの、わたしが許さない! そんなやつら、わたしがやっつけてやる、わたしは中町高校のプレジデントなんだから! なつきは会計だろ、会計は会長の部下なんだよ、部下が困ってる時に助けるのは会長の役目なんだからね! 任せとけ!」

 啖呵は切ったが当てがあるわけじゃない。

 でも、親友だったら、当てがあろうがなかろうが、ドンと胸を叩いておくのが当たり前だと思った。

 これでも、江戸の昔から数えて十三代目の江戸っ子なんだから!

 

 胸を叩いたところで、スマホが鳴った。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
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真凡プレジデント・33《若い男が待っていた》

2021-03-26 05:43:37 | 小説3

レジデント・33

《若い男が待っていた》  

 

 

 校門を出ると若い男が待っていた。

 

「話があるんだ」

 そいつは、一言言うと、とっとと前を歩き出した。

 これを目撃した下校途中の生徒たちが注目……することは無かった。

 声を掛けられたのが、人柄はいいが、どうにも色恋沙汰には縁のなさそうな生徒会長のわたし(田中真凡)であることと、男がいささか若すぎるからだ。

 

「なによ、健二」

 

 やっと声をかけたのは中町公園の前だ。

 公園に入るのかと思ったら、健二は自販機で缶コーヒーを二つ買った。

「話を聞いてもらうんだから、これでも飲みながら……」

 小学生に気を遣われては収まりが悪いのだけど、その思い詰めた表情から、おそらくは姉のなつきのことだろうと見当が付くので、あえて何も言わなかったのだ。

 ただ、健二の不器用な気遣いから、容易なことではないと、つい、つっけんどんな「なによ、健二」になってしまう。

「小学生が高校生に気を……」

 言いかけて停まってしまった。

 健二が差し出した数枚のA4用紙には「怠学届」「退学届け」「辞表」などの意味は一発で分かるが、全部間違った言葉が書かれていたからだ。

「姉ちゃんバカだから、書き損じばかりして寝ちまったから持ってきたんだ、相談するのは真凡ねえちゃんしか思いつかなかったから」

「バカが早まって……」

「まだお母さんには言ってないんだ。お母さん何も知らないし、心配かけるの嫌なのは、俺も姉ちゃんもいっしょだから」

 健気な奴だと思った。なつき同様スカタンなところはあるが、心配するポイントは外していない。

 

「分かった、すぐに会いに行く!」

 

 勝算も見通しも何もないけど、とりあえずなつきを一人にしてはいけないと思った。

 そう言ってやると、やっぱり小学生、目から大粒の涙がこぼれ、それをグシグシ拭きながら付いてくる。わたしを待ち伏せて助けを乞うところまでがやっとだったのだろう。

 公園を出たところで一台の自転車が追い越したと思ったら、急停車して二人の前に立ちふさがった。

 

「あ……柳沢!?…………さん」

「坊主、おまえ付けられてる。付けてるやつを撒くから後ろに乗れ、真凡、電話するから、聞いたら指示に従ってくれ」

 そう言うと顎をしゃくって健二を後ろに載せると横っちょの路地に入ってしまう。

 さて、どこで電話を待とうかと考えて……なんで柳沢が? ちょっと遅れて腹が立ってきた。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
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真凡プレジデント・32《うちの学校の一大事・2》

2021-03-25 06:32:34 | 小説3

レジデント・32

《うちの学校の一大事・2》  

 

 

 

 いろんなことが重なった。

 

 その子は、入試が終わって、あそこどうだった? そこはどう? と入試の手ごたえを友だちと話し合った。

 その手応えで合格間違いなし! そう思ったら落ちてしまった。

 それで、答案の開示を学校に求めたところ採点ミスが一か所あった。ただ、そこを正解にして加点しても、その子は合格圏に入ることは無かった。

 それで一度は納得しかけたんだけど、国語の問題で正解と思って書いた答えが間違いにされていた。

「え……うそ?」

 おかしいと思って、その子は塾の先生に問題を見てもらったところ「君の答えでも正解だよ」との返事を得た。

 学校は教育委員会が制作した問題で、採点も教育委員会の模範解答と採点の方針に従っていて、その点で間違いはない。

 

「全員の答案を見直してください!」

 

 その子の申し入れがあって、学校は時間をかけて全員の答案を見直しにかかった。

 塾の先生は、広く塾の連盟や大学の教授などにも問題の鑑定を依頼して、その子の解答が間違いでない確証を得た。

 だけど、一度出てしまった結果を覆すのは時間がかかる。

 一年以上たった先月。学校と教育委員会は間違いを認めて謝罪したらしい。

「ひどいよね、これ!」

 なつきが机を叩いて会計のプレートがでんぐり返りそうになる。

「お茶淹れるとこだから、あまり興奮しないでね(^0^;)」

「ポテチが出てきちゃう(^_^;)」

 書記の綾乃が置きかけた急須を胸の高さまで上げて、みずきがポテチをかき集める。

「この子、うちの学校に入れるべきだよ!」

 自分もギリギリの成績で入っているので、なつきは義憤を感じているんだ。

「まあ、それは、この子の気持ち次第だろうね」

「そうね、もう一年もたっちゃってるから、その子も、今の学校に馴染んでるだろうし……もう、お茶淹れていいかなあ?」

「あ、ごめんごめん」

「じゃ、学校訪問の総括を……」

 わたしは、議案の話題に舵を切りなおした。

 学校にとっては不名誉なことだけども、それは、先生や教育委員会の問題で、生徒会にとっては休憩時間の茶飲み話にすぎないからね。

 

 でも、その後の展開で、とんだ副産物が出てきた。

 

 なんと、合格した生徒の中で、その子の代わりに不合格になってしまう者が出てきてしまったのだ!

 もう、一年以上も中町高校の生徒としてやってきているので、今さら「君は不合格なんだ」とは言えずうやむやにしてきたのが、ネット社会の恐ろしさ、外部に漏れてしまった。

  そして、その本来なら不合格になっていた生徒が……義憤を感じて机を叩いた橘なつき自身だったのだ。

「わたし……やっぱバカだから」

 見る影もなくなつきは落ち込んでしまい、わたしは親友としてもプレジデントとしても放っておけなくなった……。

 

☆ 主な登場人物

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真凡プレジデント・31《うちの学校の一大事・1》

2021-03-24 06:40:17 | 小説3

レジデント・31

《うちの学校の一大事・1》  

 

 

 大阪の高校でイジメがあった。

 

 SNSを使った執拗で陰湿なものだったらしい。

 被害者の生徒は不登校になるが、学校は認識が甘かったのか、マスコミが取り上げる事件になってしまった。

 学校名は伏せられているので、ひょっとしたら、その学校の関係者でも知らない人が居るのかもしれない。

「初期対応のまずさだろうね……そのうち、みんな知るところになって……見えるようね、こじれるのが」

 朝ごはん食べながらのお姉ちゃんの感想。

 この三月まで女子アナだったお姉ちゃんは、ニュースなんかで日常茶飯にこういうニュースに接して来ているので、こういう事件の行方は予想が付くようなのだ。

「ニュースになるまでは何か月もほったらかしといたんだろうね……」

 後の言葉は呑み込んで、チャンネルを変える。どこだかの知事がセクハラをやって進退窮まる……米軍の戦闘機が不時着……アイドルが二十歳のお誕生日……パリで万博のプレゼンテーション行われる……この夏のファッション……。

 くるくる切り替わっているうちに、わたしはタイムリミット。鏡でササッと髪とリボンを整えて、行ってきまーす!

 さっきのニュースの切れ切れ、夏のファッションが気になってスマホで確認しようと思ったのは、うまく空いたシートに座れたからなのかもしれない。

 

 え…………ネットニュースが飛び込んできた。

 

――昨春の入試でミス、本当は合格していた――

 そんなニュースで手が停まってしまった。

 だって、出てきた学校名は、なにを隠そう、わが都立中町高校なのだ。

 こんな噂は聞いたことが無い、中町高校入試ミスで検索してみる。

 次の駅で下りなければならないところで概要が分かった。

 

 昨春と言えば、わたしたちが受けた入試だ。

 それだけでも気持ちが悪いのに、入試ミスで落ちた本人は、こう言っている。

――本当は、わたしが合格していた。ずっと言ってきたのに学校も教育委員会もなしのつぶて。だから訴えることにしました――

 これは、大阪のイジメ問題と同じ……それ以上にこじれた問題になるかもしれない。

 

☆ 主な登場人物

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  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
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真凡プレジデント・30《帰りの地下鉄 なつきのヨダレ》

2021-03-23 06:11:15 | 小説3

レジデント・30

《帰りの地下鉄 なつきのヨダレ》  

 

 ちょっと考えている。

 だって、部長会議が行われた社会科教室を出て校舎の一階まで下りると、伊達さん、あ、二の丸の生徒会長は伊達さんと言う。

 最初に挨拶した時に言ってくれていたんだけど、わたしもなつきも飛んでしまっていた。「あ、どうも、わたし生徒会長の田中真凡です。こちらは会計の橘なつきです……」と、挨拶はしたんだけど、初めての学校訪問、すっかり抜けていた。

 一階まで下りた時に、集まっていた部活の代表さんたちが――伊達さん――と呼んでいたので再認識。

 で、考えたというのは、みなさんの反応。

 

 みなさん、カックンにならなかった。

 

 前にも言ったけど、わたしの印象の薄さというのは、ちょっと筆舌に尽くしがたい。

 暗闇を下校中、後ろから変質者が付いて来て、これは襲われる!

 そう感じた瞬間振り返ったら、変質者は、とっても落胆した顔になって、そのまま通り過ぎて行ってしまった。

 部活に入りたいんで入部願いに担任のハンコをもらいに行ったら「それは担任に貰いに行きなさい」と言われ、「えと、先生が担任なんですけど……」。そうしたら、たいてい「あ、そうだった、ごめんごめん」なるじゃない。それが――こんなやついたかなあ?――という顔になる。

 それぐらい、印象が薄くて残念な人なんだ、わたしは。

 それが、二の丸の人たちは明るい笑顔で出迎えてくれて、そのまま中庭の藤棚の下で交流会になった。

「とっても、楽しかったねえ(^▽^)/」

 帰り道、地下鉄に乗ってもなつきは「楽しかったね!」を繰り返している。

 なつきも、いろいろ質問をされたりしたり、好意的な雰囲気にニコニコしている。中学のころのなつきはワルグループに入っていたので、肯定的な雰囲気の中で話ができたことが嬉しいんだ。

 わたしは思った。

 これは、伊達さんが、事前に友好的な情報をみんなに流して、あえて顔の見えない写真でみんなの興味をマックスまで高めてくれていたことにあると思う。プレジデントとしての有りようが違うんだとしみじみ思った。

 なつきは次の駅に着くころには、わたしの肩にもたれて居ねむりし始めた。

 その油断しきって口から涎を垂らしながらの寝息が嬉しい。友だちなんだなあ、生徒会に引き込んだことも間違ってなかったんだ……しみじみ嬉しくなる。

 でも、制服に涎を垂らされてはかなわないので次の駅では腋の下をくすぐって起こしてやる。

「ウキャ! ウキャキャキャ!」

 猿みたいな声を上げて目をパチクリ。

 最初の学校訪問は楽しく有意義に、かつ無事に終わった。

 

 だけど、そのあくる日、なつきに関するとんでもない問題が持ち上がってしまうことには思い至らなかった。

 

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真凡プレジデント・29《都立二の丸高校訪問・2》

2021-03-22 06:10:51 | 小説3

レジデント・29

《都立二の丸高校訪問・2》  

 

 

 

 二の丸高校の凄いところは設備だけじゃなかった。

 

 民放のアナウンサーのようにイカシた生徒会長は、各種生徒会の会議が行われる部屋を案内してくれる。

 ハードというか施設は単純に目に飛び込んでくるので「ウワーー」とか「スゴイ!」とかダイレクトに感動できるんだけど、組織の運営や風通しの良さなどは部屋を見ただけでは分からない。

「こんな具合です」

 なんと、会長がスマホを操作すると、モニターやら電子黒板に会議の様子が出てくる。それも二分程度に編集されていて、とても分かりやすい。

 

「え、もう卒業式のことやってるんですか?」

 

 化学実験室を会議場にしているのは三年生の学年会議だ。

 理由は三年生の教室から一番近い特別教室で、集まりやすいから。それに、会議に寄って部屋を固定しておくと――今日の会議はどこだっけ?――ということが起こらない。

「間際になって決めるといい結論が出ません。三年生は秋以降は忙しいですからね、むろん決定はもっと後なんですけど、今は、いろんな学校の卒業式を見て研究というところです」

「やっぱ、薬品とか使って?」

 なつきがスカタンを言う。

「ハハ、映像が薬品と言えないこともないかなあ、とにかく、いろんなのを見てもらって化学変化させるというか、雰囲気づくりですね。映像は二三分で、あとは十分ほどフリートーキングです。繰り返しているうちになんとはなしの空気ができます。昼休み放課後に関わらず、会議はニ十分以内を目標にやってます」

「よっぽど議長さんとかが、しっかりしているんですね」

「う~ん、普通の生徒だと思いますよ。事前の問題整理と資料作りがしっかりしていれば、案外スムースにいくもんです。くたびれそうになったらトピックというか、関係ない話を投げ込むんです」

「関係ない話?」

「たとえば、化学教室の椅子にはなんで背もたれがないか……とか」

 

 言われて、化学教室の椅子を見渡す。

 当たり前すぎて疑問にも思わなかったけど、言われてみればそうだ。

「なんでだろう……あ、そうだ。背もたれのない椅子だったら、寝かせて集めれば小テーブルになりますよね。文化祭の時なんかに重宝する!」

 なつきのスカタンも、会長はにこやかに受け止める。

「それ、いいかもしれませんね! 椅子は椅子って固定観念でないところがいいですよ、メモっておこう……」

「正解ですか?」

「ハハ、正解は、実験に失敗して火が出たり爆発が起こっても、すぐに逃げられるように背もたれが無いんです」

「え、そなの?」

 好奇心旺盛ななつきは、さっそく試してみる。

「なるほど、コンマ何秒か速くなるかも!」

 生徒会長は、飽きさせないことがコンセプトのようだ。

「今日は、こんな話題を投げかけてみたんです」

 そう言ったのは、その日の昼休みにクラブ部長会議が行われた社会科教室だ。

「これです」

「「あ!?」」

 なんとモニターにはわたしの写真が……どういうシャッターチャンスなんだろう、フイと振り返ったところで顔が見えない。

「そちらの学校は伝統的な制服だし、その、こんなにステキな会長さんだから、ちょっとネタに使わせてもらいました。事後承認みたいで申し訳ないです(^_^;)」

「で、どんなクイズにしたんですか!?」

「いや、ただ、視察に来られるってことだけを伝えただけです。毎日、同じ制服と顔だけですから、みんな喜ぶんですよ」

 むつかしく言うと肖像権とかの問題なのかもしれないけど、ほとんど後姿。ま、いっか。

「それで、何人かの生徒が一目お目にかかりたいって、階段降りたところで待ってるんですけど、よろしいですか?」

「え、えーーーー」

 

 プロポーションとかは、お姉ちゃんといっしょだから……でも、ルックスは振り返っただけで変質者もトーンダウンしてしまうくらいのご面相なんだ。気が引ける、顔が赤くなってくる~!

「決めてかかるのは良くないよ」

 なつきにズンズン押されて、指定の階段下へ……。

 

 二の丸の皆さんの反応は……次回に(;^_^)

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問
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真凡プレジデント・28《都立二の丸高校訪問・1》

2021-03-21 06:39:17 | 小説3

レジデント・28

《都立二の丸高校訪問・1》  

 

 

 

  エーーーーーッ!! これが都立!?

 

 なつきが遠慮のない声を上げる。

 

 なつきは、こういうところが子どもで、見た目で感動したことがダイレクトに出てしまう。

 でもね、恥ずかしいから写真撮るのやめてくれないかなあ(^_^;)。

 パシャパシャ パシャパシャ パシャパシャパシャ

 注意してもいいんだけど、逆効果になることが往々にしてあるので、少し離れるだけでやり過ごそうとするわたし。

 まあ、校内に入ってからは、そうそう馬鹿な真似もしないだろうから、ここは辛抱。

 

 たしかに、二の丸高校は凄い!

 

 鉄筋七階建てで、ファサード(建物の正面)は三階までの吹き抜けでガラス張り。

 屋根や庇には中国の紫禁城を思わせる朱瓦で装飾されていて、このままリゾート地にあって三ツ星ホテルだと言われても信じてしまう。

 下校してくる二の丸の生徒たちが奇異な目で見始め、さすがに一言と……思った時に、なつきも気が付いたようで、真っ赤になる。

 

「いやあ、バブルのころの創立なんで、ハードは贅沢なんですよ」

 

 通された生徒会室で、そのまま議員秘書が務まりそうな会長さんが頭を掻く。

「もっとも、バブル期の中でも、うちは特別で、噂によるとグリンピアに建てるはずのものを流用したという噂もありますよ。あ、これが学校案内と、三十周年の記念誌です」

「ウワー、頂いていいんですかあ!?」

「はい、どうぞ。これもPRの一環ですから」

「あ、なんか付録が付いてる!♡!」

 なつきはアニメ雑誌と間違えているような喜びようだ。

「学校案内のDVDですよ。施設とか一年間のタイムテーブルとかは上手く編集してあるので、僕の説明よりも退屈しません」

「あ、これって、ペーパークラフト?」

 ページがパラリと飛んだかと思うと、三枚つづりのクラフト紙のページが出てきた。

「情報科の授業で作ったのをそのまま綴じただけです。見てくれがゴージャスだし、楽しみながら読んで頂ければと……本館校舎だけですけど、DVDの中のをダウンロードしていただいたら、校舎全部と敷地の分も作れますよ」

「これは、弟が喜びます!」

「それは何よりです。じゃ、校内を見て回りますか」

 わたしとなつきは、議員秘書に国会議事堂を案内されるお上り支援者のように校内見学に回った。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

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真凡プレジデント・27《とりあえず》

2021-03-20 06:05:30 | 小説3

レジデント・27

《とりあえず》   

 

 

 

 生徒会役員と言うのは、意外に露出は少ない。

 

 選挙の立会演説は年に二回。だだっ広い体育館でやるってこともあるんだけど、ステージは遠いし照明が点いてるわけじゃないから顔なんか分かりづらい。

 本気で立会演説やるなら、ステージのスクリーンに候補者のバストアップのライブ映像映すぐらいの事やらなきゃね。アメリカの大統領選挙とかでやってるやつ。

 卒業式や入学式、同じく体育館。だだっ広い上に生徒会役員なんて、完全にエキストラ。その他大勢、NPC、モブにすぎない。

 体育祭の挨拶。体育館以上にだだっ広いグラウンド、それも、校長先生はじめPTA会長、実行委員長、体育科からの諸注意なんかに埋もれてしまって、生徒会役員なんか意識の外。

 まして、うちの学校は迅速な行事運営を目指しているので、行事の実質的な運営は実行委員会に任されて、執行部の出る幕はほとんどない。

 前にも言ったけど、役員は会長、副会長、書記、会計だけで、各種委員会の委員長職がない。

 保健とか風紀とか文化部とか体育部とかの長が無いんだ。

 立候補者を募るのが難しい、分かるでしょ、今回も藤田先生が――候補者がいない――と、中庭で頭抱えていたでしょ。

 で、行事の度毎に実行委員会を作った方が小回りが利く上に短期集中できる。

 そういうことで、二十一世紀に入ったころから今の四役体制になっている。

 

 まあ、部活に等しいくらいの規模と質になっている。

 

 でも、そういうもんだから、プレジデントという響きに立候補を決心したんだし、なつきたちも役員が足りないよ~と言ったら、気楽になってくれたりもした。

 わたしは現実主義なので、そういう生徒会を、いますぐどうこうしようとは思っていない。

 でも、このままでいいとも思っていない。

 

「ほんとうに周るのか?」

 

 体育祭業務の報告に職員室を訪れると藤田先生が、ちょっと真顔で聞いてきた。

「はい、他校の様子ってネットなんかの情報だけじゃ分かりませんから。ま、行ったからって、すぐうちの学校に取り入れられるというものじゃないでしょうけど、来年以降の生徒会が考える資料になればと思ってます」

「そうか、実は四校ほどOKの返事をもらってるんだけど、行ってみるかい?」

「はい、ぜひ!」

「そうか、決まったら報告してくれ。あ、それと、これは俺からの慰労だ」

「あ、ありがとうございます」

 食堂と購買共通のチケットをいただいた。チケットだけど、けっこうな金額がある感じ。

「あ、気にしないでくれ、体育祭で使おうと思って使い残したものだから」

「はい、遠慮なくいただきます」

 

 フェリペ女学院(私学)  修学院高校(私学)  二の丸高校(都立)  神楽坂高校(都立)

 チケットは綴りのまま三千円分あった。

 

「週末に一校ずつ……う~ん、期末テストになっちゃうわね」

 聡明な副会長福島みずきが腕を組んだ。

「これからも、周れる学校増えそうだしね……」

「とりあえず、二人一組で周る体制にしようか」

 綾乃が指針を示す。いい呼吸だ。

「じゃ、とりあえずフェリペと二の丸だね」

「えと、交通費とか、どうなるのかな? これからも周るとしたら、ちょっと負担かも」

 なつきが心配する。心配は真面目に考えている証拠だ。

「それは、先生に掛け合ってくる、じゃ、この週末からやるってことでいいよね?」

「うん、じゃ、フェリペはわたしと綾乃で」

「地味な取り組みだけど、ま、よろしくお願いします」

「じゃ、質問やら観察のポイントを確認しよっか」

「そいじゃ、ジュースとおつまみ買ってくるじょー!」

「なつき、これ、藤田先生からもらったチケット」

「おう、ちょっと贅沢できるかも~(*´∀`*)」

 かわいいスキップが遠のいていった。

 

「しかし、真凡も考えるようになったんだ」

 食卓を挟んでお姉ちゃん。

「え、なにが?」

「自分の露出を意識するなんてさ」

「え、ああ……」

 沢庵を咀嚼しながら考える……お茶を飲むときには結論が出ている。

「わたしは、どうやったってダメだろうけど、生徒会役員という記号は見えてなきゃダメなんだよ。例えていうと交差点の信号機」

「信号機?」

「うん、信号機は目立つようにしとかなきゃ意味ないでしょ、赤・青・黄色のシグナルはさ。でも、信号機がどんなだったかは覚えてないでしょ、電球だったかLEDだったか、ボディーは黒だったか白だったかシロと緑のゼブラだったかとかさ」

「面白いね、真凡は(^▽^)」

 それだけ言うと、お姉ちゃんは、わたしよりも陽気な音を立てて沢庵を咀嚼した。

 間違ったこと……言ってないよね?

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
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真凡プレジデント・26《正体は学校の七不思議に》

2021-03-19 06:31:25 | 小説3

レジデント・26

《正体は学校の七不思議に》   

 

 

 駅前交差点で実況をやっていたのは体育祭の訓練だというのは言ったわよね。

 最初、お姉ちゃんに頼んだんだけど「プロがやったら違和感ありすぎ!」と断られ、じゃ、自分でやるからコーチしてよ!

 それで、練習のために引っ張り出されたわけ。

 出来心とはいえ生徒会長を引き受けたことで、わたしの錆びついたスイッチが入ったみたい。

 というか、そんな『やる気スイッチ』めいたものが自分にもあったんだと驚いているんだけど、ゆっくり驚いている場合ではない。

 体育祭と言うのは、刻々と変化する競技の行方をリアルタイムで喋らなければならない。

 やってみて分かったんだけど、実況中継って、自転車に似ている。自転車はペダルをこぐのを止めると停まってしまう。停まってしまうとネギの幅ほどのタイヤで支えられている自転車は、すぐに転倒してしまう。

 実況中継のアナウンスも、ずっと喋っていなければすぐに『こける』ものなんだ。だから、一度喋り出したら、とことん喋っていなければならない。

 交差点の様子を観察する自分と喋る自分と、二人の自分を鍛えなければならない。

「そう、自転車といっしょなのよ!」

「やっぱり」

 姉の言葉で、子どものころ自転車の乗り方を教えてもらったことを思いだす。ちょっと懐かしい。

「『観察』と『喋り』って、二つのタイヤがあって、初めて実況中継って自転車は前に進むのよ。よし、今度は駅の向こうの交差点!」

「お、おお(^_^;)!」

 でも、さすがに二カ所続けてというのはきびしい、合計で三十分を超えたところで目眩がしてきた。

「真凡、なかなかスジいいわよ」

 お姉ちゃんは――グッジョブ!――と親指を立ててくれたけど、自分がやりたくないという気持ちが半分なので額面通りには受け止められない。

 落ち着いてから分かったんだけど、お姉ちゃんは母校であるうちの高校には来たくないという気持ちがあるらしい。

 いずれ聞き質したいけど、今は、体育祭なんだ!

 

 梅雨の晴れ間と言うには憎たらしいほどの晴天になった。

 正直ね、生まれて初めて雨が降ればいいと思った。

 お姉ちゃんの特訓でマシになったとは言え、初めてやることは魂が痛むほどに緊張する。

 わたしは、子どものころから――さっさとやっちまおう!――という性格なので、こんなことは初めて。

 でも、テルテル坊主を逆さに吊るほどのヒトデナシでもない。

 

「「じゃ、よろしくお願いします」」

 

 たった二人の放送部員が頭を下げる。

 わたしが買って出たので、放送部は機材の設営だけの仕事でアナウンスからは解放された。

 アナウンスを嫌がる放送部ってどうなんだろって気持ちはあるけど、文化部の多くは、こういう状態なんだ。

 部活の沈滞って問題なんだろうけど、それも生徒会で取り上げるべき問題なんだろうけど、ま、ペンディング。

 取りあえずは体育祭の活性化だ!

 

――心配された空模様も、我が校、第七十回体育祭を寿ぐような快晴となりました。いよいよ入場行進であります、行進曲は伝統の定番『双頭の鷲の旗のもとに』。演奏は本校吹奏楽部2011年度演奏のもので、たったいま、入場門を校旗を先頭に入場行進が始まりました、旗手は生徒会副会長の福島みずき、続いて一年生より入場、一年一組。旗手は安藤忠信くん。クラス旗は、クラス担任の藤本先生の似顔絵。続いて二組……――

 滑り出しは快調! 駅前特訓の成果アリ!

――……第四走者にバトンが渡り、五クラスそろって最終走者、アンカーになりました! 先頭三組は、早くも第二コーナーを回りました! しかし四組のアンカーは陸上部の佐々木君、ラストスパートには目を見張るものが、あ、三組を抜いて四組に……並んで第三コーナーに迫る、迫る! 三組の石田君と並ぶ、並ぶ、並んでええええゴールイン! さあ、優勝は……どうやらビデオ判定に……――

 あらかじめ書記の綾乃が作ってくれた資料(クラスの旗から、走者のプロフまで入っている)にも助けられ、我ながら生き生きした実況が出来た。

 クラス対抗リレー予選ではPTAの方々が、昼休みには、学年を超えて用事もない男子が放送席のあたりをウロウロ。

「え、どの子?」「あの子?」「違うみたい」「影武者?」「生徒会長だって」「どの子が?」「あれ、違うかなあ?」「え、え、ほんとかよ!?」「声と違いすぎ」「で、どの子?」「あの子……違ったっけ?」「イメージ……」「うう、分からん」

 あまりに声も実況も素敵なので、みんなが見に来る。

 でも、あまりに声とイメージが違うので半信半疑、中には替え玉・影武者などと思う人も居て、アナウンスの正体はわが校七不思議に一つになってしまった。

 

 ま、どーーでもいいんだけどね!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
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真凡プレジデント・25《ここは駅前交差点》

2021-03-18 05:55:52 | 小説3

レジデント・25

《ここは駅前交差点》   

 

 

 わたしは、ままり物怖じしない子だ。

 特別にブスと言うわけでもなく、とりたてていい女と言うわけでもない。

 シルエットはお姉ちゃんに似ていて、ま、プロポーションはまあまあ。

 下校中に、怪しげな足音が付いてきたことがある。

 寂し気な通りに入ったとたんに足音は急接近、これはヤバイ!

 無分別な痴漢や変質者だったら、ここで後ろから抱き付くとか押し倒すとかしてくる。

 痛い目や怖い目に合うのは、わたしだってごめんだ。

 だから、クルリと振り返る――あ、忘れ物思い出した!――みたいな感じでね。

 どうせ襲われるんだったら、正面から向き合って爪の一つも立ててやって、犯人の顔ぐらい憶えてやろうと思った。

 そういう土壇場には、思わぬ勇気が出てくると言うか、変な選択をしてしまう。こんど、生徒会選挙に出て会長に当選してしまったような。

 クルリ!

 するとね、風船に穴が開いたみたいに、そいつのやる気はしぼんでしまう。

 プシュウ……てな効果音が、これほど似つかわしい場面は無いと思った。

 わたしは、そういう気持ちを萎えさせてしまうほどの雰囲気を身にまとっているらしい。

 

 そして、その変質者と数日後に出くわしたと考えてみて。

 

 あの期待を裏切った女だと思ったら、なにがしかリアクションあるでしょ。あ、こいつか……というような。

 それが、まるで無関心。歩行者が速度制限の標識なんか気にしないように、ただのオブジェクトくらいにしか受け止めていない。

 そういう目に遭った時に、お姉ちゃんの妹への関心にブーストがかかるのは、これまでのことでも分かってもらえると思う。

 小学校でも中学校でも、担任の先生は夏休み前までわたしの顔を覚えられなかった。

 中一のとき、部活に入ろうと入部届を持って職員室に行った時のこと。

「すみません、入部届にハンコが欲しいんですけど」

「あ、担任の先生に押してもらって……」

「あの、わたし、先生のクラスの田中真凡……」

「え……?」

 この程度の事は日常茶飯事で、日常茶飯事なんだけど、姉はいちいち笑ってくれる。

 たいてい笑っておしまいなんだけど、ときどき、遠慮なく介入してくる。

 変質者の時は、放送局まで呼び出され、ディレクターと放送作家に引き合わされて「もっかい、みんなに話してちょうだい(^▽^)/」ということになった。

 むろん、きっぱり断ったけどね。

 今度の生徒会や学校の事は、その時と同じくらいに関心を持ってしまっている。

 絶賛失業中で、他にやることもないので、ちょっとしつこい。

 

「たった今、東西方向の信号が青になって、歩行者の人たちが渡りはじめました。こうやって見ておりましても。下校時間のピークだと思うのですが、ご覧ください、交差点を渡る人たちの半分以上が定年は超えたであろうと思われる方々ばかりです。昭和の高度経済成長を支えてこられたみなさんの足どりはしっかりしています。おそらくはまだ現職であったり定年後もお仕事を続けておられるのでしょう、高齢化社会は、まだまだ盤石であるように思われます。下校途中の高校生や学生さんたちは、こころなしか登校時よりもイキイキしているように思えますが、ご年配の方々のオーラは、その高校生学生さんのそれを凌いでいるのかもしれません。見上げる空は梅雨に入ってドンヨリと……」

 四時から、もう三十分も駅前交差点に立って、マイク片手に交差点の実況をやっている。

 少し離れたところにキャップにグラサンのお姉ちゃんがニヤニヤ。

 

 これ、体育祭のアナウンスの練習なんだって!

 

 でもって、いつの間にか、交差点の向こうには、なつきを始め生徒会の面々が。

 ニヤニヤしないでよね!

 むっちゃ恥ずかしんだからさ!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
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真凡プレジデント・24《大学芋とアナウンス》

2021-03-17 05:52:41 | 小説3

レジデント・24

大学芋とアナウンス》 

 

 

 待ってるだけじゃつまんないからさ~

 

 姉貴が即興体育会系バラエティーを公園で始めたのは、そういうことらしいが、別に咎めているわけじゃない。

「学校の体育祭に欠けているのは、そういうことだと思うのよ」

「学校って、真凡の?」

「そう、大学芋食べる前に聞いてくれる」

「え、あ、うん、きくきく」

 押しのけた大学芋を目で追いながら、それでも熱は籠ってる。可愛い妹への愛情ではなく五百円で三百グラムの大学芋への愛着からだけど、まあ、いい。

「もちろん体育祭でもアナウンスはあるんだけどね、なんちゅうか、無機的にお品書きみたいなプログラム読み上げたり、召集を掛けたりだけで、熱がこもってないのよね。肝心の競技になったら沈黙するし、さっきのお姉ちゃんみたいにやれば、みんな集中するし盛り上がると思うのよ」

「それはそうだろうね、でもさ、そういう楽しい話は食べながらだったら、もっと充実すると思うんだけど……」

「だからさ」

「ちょ……」

「だーかーらー」

 クッションでオアズケバリアーを展開して、核心部分を言う。

「なんで、オアズケなのよ~(´;ω;`)ウゥゥ」

「お姉ちゃん、体育祭のアナウンスやってよ。お姉ちゃんも、うちの卒業生で気心も知れてるしい、みんなも喜ぶしい」

「そりゃダメだ」

「どうしてよう、放送局も辞めたことだし、こだわることないでしょ!」

「やっぱ、プロのアナウンサーがベシャリやったら異質すぎるって」

「そう?」

「そうだよ、焼き芋の中に大学芋が混じってるよりも異質。2Dのアニメに、そこだけが3Dみたいな。実写の中に、そこだけがアニメみたいな。肉まん食べたら、真ん中がアンコだったみたいな。餃子を食べたら中身がチョコレートだったみたいな。ワサビの代わりにウグイス餡を仕込んだみたいな」

「例えが、食べ物ばっかみたいになってるし」

「いや、だーかーらー、早く食べさせなさいよー!」

「だったらさ、学校に通って放送部のコーチとかやってよ」

「えーーだーるーいーよ、そんなのおおお」

「だったら、お芋はオアズケよ~~~(^^♪」

 思わずメロディーが付いてしまう。わたしって、意外にSなのかも。

「そうだ、真凡がやんなよ! うん、姉妹だから声質にてるしい、ちょっち劣化版的わたしで、いいよいいよ!」

「ちょ、ちょ、迫ってこないでよ。く、来るなあああ!」

 そういういきさつで、わたしはアナウンスの特訓を受けるハメになってしまった。

 

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真凡プレジデント・23《これをやれば体育祭は盛り上がる!》

2021-03-16 06:52:53 | 小説3

レジデント・23

《これをやれば体育祭は盛り上がる!》  

 

 

 

 目立たない格好のつもりらしい。

 

「でしょでしょ(o^-^o)、番組で着てたおシャレなジャージだから、ちょっとだけね、スクールジャージみたく白線とかネームとか入ってないし、狸穴坂46とオソロだし、コンセプトは『書を捨てよ街に出よう』だから、パジャマ、部屋着、ちょっとした外出着にもなってえ、引きこもり応援グッズのベストワンだったしさ、自然に溶け込んで目立たないっしょ」

「喋ったら目立つ!」

 グイグイ引っ張って家に帰る道すがら、姉貴は陽気に言い訳ばかりしている。

 小さいころからのモテカワで、高校と大学のミスコンではずっと一等賞。女子アナになってからは、いっそう磨きがかかり某週刊誌で『恋人にしたい女子アナ!』のナンバーワンになった。いくらジャージ姿でも姉貴は目立つんだ。それに、いくらオシャレでもジャージはジャージ、狸穴坂46だって不振で解散してるし、理由はダサイアイドルだったし、落ちぶれ女子アナ宣伝してるようなもんだし、やっと世間は忘れかけてるっていうのに、ジャージ姿で買い食いなんてあり得ないんだよ!

「ねえ、これだけ買いに行かせてよ~」

 折り込み広告なんかヒラヒラさせんな、ちょ、顔に貼りつけんな!

「……大学芋?」

「そ、コロッケじゃないんだよ! 匂いもしないからさ、これだけ買いに行かせてよ! 行かせてよ真凡ちゃ~ん」

「ウウ……ダメだあ」

「ね、家に帰るまで食べたりしないからさ」

 立ち止まったのが中町公園の前、やっぱ、人がチラチラ見ている。これ以上ことを荒立てたくないわたしは「先に帰ってジッとしとくこと!」チラシをふんだくって商店街に舞い戻る。

 

 で、やっと宿敵の大学芋を買って戻ってみると、公園の一角に人だかり。

 

 買い物帰りのオバサンや、下校途中やらそうでないのやらのガキども、シルバー人材センターご指名の公園整備のお年寄り。

 でもって、その人だかりの真ん中には不肖の姉貴。だれが持ち込んだのかけん玉で賑わっている。

 とても、その輪の中に入っていく気にはなれずに木陰に隠れる。

――やっぱ、腰の入り方! 失敗してもフォームがお見事! 大勢でやると楽しさ倍増! これは延長戦か!? いま、ドキッとした? アハハ、笑顔でやらなくっちゃ何事も~ よーし、じゃ、つぎはみんなで駆けっこだ! 低学年の部と高学年の部と、それ以上に分けまーす!――

 職業柄かよくしゃべる。

 喋るだけじゃなくて、姉貴の喋りは場を盛り上げる。

 

 そーっと木陰から覗いてみると、みんな、姉貴よりもけん玉に夢中になり始めている。

 けん玉くらいで、こんなに人は熱狂はしないだろう。盛り上げたのはジャージの姉貴……。

 

 閃いた! これをやれば体育祭は盛り上がる!

 けん玉大会が終わるのを待って、ジャージ女を引っ張って家に帰る。

「ん? なんか、さっきまでの真凡と違くない?」

 わたしは、なんとか家に帰るまでは耐えるのだった。

 

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真凡プレジデント・22《武士の情け》

2021-03-15 05:48:41 | 小説3

レジデント・22

《武士の情け》   

 

 

 アハハハ……アハ……ハ。

 

 この愛想笑いは、なつきが誤魔化そうとしている証拠だ。

 誤魔化しきれずに空気が漏れるようになっているのはかなりヤバイ。

「数学、何点だった?」

 それでも教室の前でははばかられるので、階段を下り始めて、密やかに、でも、きっぱりと聞いてやる。

「えと……三十五点」

「ハーーー」

 ため息はつくが、感想とかは言わなで、そのまま食堂に向かう。

 そして、いつものようにランチを食べてから、何事もなかったかのように雛壇に向かう。

 雛壇と言うのは、校舎とグラウンドの境目で、五段ほどの雛壇になっている。中庭ほどじゃないけど、数少ない校内憩いの場所だ。横に長いので、人に聞かれない話をするにはうってつけ。

「で、欠点はいくつだったのよ?」

「あ、えと……えと……」

「指で数えなきゃならないほどとったの!?」

「あ、あわわわ……た、たしか、五つ……でも、ニ十点台は一個だけで、あとは三十点台だから」

 指折った手をワイパーにして弁解する。

 

 さっきの数学で中間テストは全部返って来たので、なつきには報告の義務がある。

 

 答案が返却される度に聞いてやっては気づまりだろうし、一喜一憂しても全体の成績が分からないでは意味がないので、点数やら結果は、最後の答案が返ってくるまでは聞かないことが不文律になっている。ま、武士の情けよ。

「で、でもさ。三十点台ばっかだから、期末で挽回できるよ、うん、きっと!」

「そう言って、三教科落として仮進級になったのは、ついこないだだったんじゃなかったしら~」

「そ、そのジト目怖いからあ(;゚Д゚)」

「落第させたら、オバサンに合わせる顔ないからさあ、善処してよねえ!」

「う、うん、分かった! 生徒会役員にもなったしね、生徒会加算なんてあったりするんでしょ? 三十九点でアウトになりそうなときは切り上げて四十点にしてもらえるって、風の便りに聞いたよ(^#^)」

「んなもん、あるかああああ!」

「えーーー無いのおおおお!?」

 

 わたしが思っているようなことは、担任も思っているので、放課後なつきは呼び出され、待ってやる……なんてことはしないで、サッサと下校。

 

 公園に差し掛かると、柳沢が慣れない手つきでペスを散歩させているのを見かける。

 武士の情け、見えなかったことにして駅に向かう。

 電車の中では、懸案になっている体育祭の事が浮かんでくる。

 まだ先の事だけども、体育祭のプログラムは一昨年からの懸案になってる。棒倒し、騎馬戦とかが危険で廃止の方向、先生をオモチャにしての着せ替えリレーもグロハラで廃止の声だし、リレーは人気がない。

 生徒会ができることは、そんなにはないけど考えてみる。わたしはバカじゃないけど、放置しておいて名案が浮かぶほどでもない。

 考えながら改札を出ると、見てはいけないものを見てしまう。

 姉貴がまたジャージ姿でほっつき歩いているのだった……こいつに武士の情けは要らない。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

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