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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真凡プレジデント・21《柳沢に10%、綾乃に90%》

2021-03-14 05:44:49 | 小説3

レジデント・21

《柳沢に10%、綾乃に90%》   

 

 

 

 ゴンはひどいんだ!

 

 小さな声だが、吐き捨てるように言った。

 見かけは大人しそうな小学生が「あ、ぺス!」と叫ぶと、上目遣いでわたしに訴える。

 柳沢に押し付けられた子犬を抱いて、三丁目の畑中さんちに来ている。

 ドアホンに用件を伝えると、おずおずと出て来たのがこの小学生。畑中さんちの子なんだろうけど、子供らしからぬ憎しみが籠っている。

「ペスっていうんだね、この子。えと、うちの学校の生徒についてきちゃってね……」

 付いてきたとはいえ、よそ様の飼い犬だ、事情は話さなきゃいけないと切り出した。

 

「事情は分かってるよ、あのニイチャン、ゴンを投げ落として、事故を防いだんだよね」

 

 基本分かっているようなので、話は早いと思った。さっさと子犬を渡して帰ろう。

「ちょ、来てよ、こっちこっち……」

 男の子は隣の家を警戒しながら、隣の家からは陰になる庭に、わたしたちを誘った。

「大きな声じゃ言えないんだけどね、ゴンはペスをイジメるんだ。ほら、あちこちに傷跡があるでしょ、みんなゴンにやられたんだ」

「え、そうなの!?」

 四人とも驚いたんだけど、男の子はみずきとなつきの顔を交互に見ている。

「ペスも分かってるんだ、あのニイチャンがゴンをやっつけてくれたこと。だから、うちの前を通りかかった時、嬉しくって道路に飛び出していったんだ」

「え、ほんと!?」

 なつきは、こういう話には弱い。そういう同調的なリアクションのせいか、男の子は、ますますなつきとみずきにすり寄って、肝心のペスを抱いたわたしをシカトする。

「ゴンが入院してる間に、ペスを知り合いに預けようって出たところだったから」

「そっか、じゃあ、これから、その知り合いに預けに行くんだ」

 はっきり声を掛けたのに、ガキは聞こえないフリをする。

 いいんだけどね、他の女子と一緒にいると九分九厘、わたしは注目されない。いいんだよ、それは、慣れっこだから。でもね、わたしはプレジデントで、当のペスを抱っこしてるんだよ!

 

 あ、居たあ!

 

 道路の方で声がした。振り返ると生け垣の向こうに綾乃と柳沢。

「あ、ニイチャ……と……美、美少女だあ( ゚#Д#゚)!」

 ガキは完全に柳沢に10%、綾乃に90%の関心を奪われ、瞳孔と口を開きっぱなしにしやがった!

 それからは、なつきもみずきもシカトされ、柳沢と綾乃を相手に話が進む。

「そうか、偶然とは言え、俺はペスの敵を討ったというわけか……」

 腕組みしながら感心する柳沢は綾乃と共に、その場の主役になってしまう。なつきとみずきも脇役で、わたしは舞台の書き割り以下に成り下がる。

 その後帰って来たガキの母親が加わり「そんなに懐いているんだったらぜひ預かってもらえないでしょうか?」という話に発展、犬嫌いの柳沢は目の前に壁を塗るようにして拒絶したが、綾乃の親切だか意地悪だか分からないトークによって引き受けざるを得なくなった。

「柳沢君、気持ちの表現がメチャクチャ苦手なんですけど、ペスの事はすっごく嬉しいはずです、責任もってお預かりします(*^▽^*)」

 ドラマの締めくくりみたく笑顔でお辞儀する綾乃。エキストラのわたしたちは、ただただ調子を合わせるのみ。

 ああ、こういう時に前に出なきゃプレジデントの意義はない。

 ま、なったばかりのプレジデント。

 次回、いずれの機会には挽回しよう!

 とりあえず、このニュース、お姉ちゃんには『伝えない自由』を行使することにする。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
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真凡プレジデント・20《走り終えたアンカーのように》

2021-03-13 06:29:42 | 小説3

プレジデント・20

《走り終えたアンカーのように》   

 

 

  柳沢が犬に追いかけられている。

 

 一瞬困っているんだろうかと思ったんだけど、どうも様子が変だ。

 犬に詳しくないんで犬種までは分からない、尻尾が巻いているから日本犬の一種なんだろうけど、千切れんばかりに尻尾を振っているところを見ると、柳沢に敵意があるんじゃなくて、どちらかと言うと懐いている?

 むろん柳沢は嫌がっていて、グラウンドを逃げ回っているんだけど、犬は巧妙に柳沢の進路を塞いでいるように思える。

「お、おい、君たち、こいつを何とかしてくれええええ!」

 もうヘゲヘゲという感じで助けを求める。

「これは見ものだわあ(・∀・)」

 綾乃は意地悪くニヤニヤ、まあ、微笑ましいとも思える状況なので、すぐには動かない。

「やれやれ……」

 やがて、なつきが揉み手しながら柳沢と犬の間に入って、グラウンドを半周するうちに捕まえてしまった。

 家が食べ物屋なので飼うことはできないけど、かなりの動物好きなのだ。

 

「いやあ、助かったあ、ありがとう…………」

 

 両手を膝の上に置いてゼーゼー言ってる柳沢。

 もう全身汗みずくで、喘いでいるんだけど、この男は、こういう時でもカッコいい。箱根駅伝をトップで走り終えたアンカーのように、滴り落ちる汗までが健康美のエフェクトになっている。

「しかし、どうしたんですか?」

 とりあえず事情を聴く、なんというか、こういう状況では事情を聴くのが常識だと思うからね。会長になったからには、そいう心配りも必要だと思うのよ。

「犬の飼い主にお詫びに行こうと思ってさ、ずっと拘留されてたから、まずは、そこからと思って」

 柳沢が投げ落とした犬は、後足と肋骨を骨折して動物病院に入院しているのがSNSに投稿されていて、痛ましくも可愛い姿に、世の犬ファンや愛好家から数千の〔いいね〕を獲得している。

「ところが、その飼い主の家の近くまでいくと、隣の家から、そいつが飛び出して来てさ」

「追いかけられて、ここまで?」

「あ、ああ。俺、基本的には犬が苦手でさあ」

「ああ、この子、あちこちに噛まれた跡があるよ!」

 犬を抱っこしていたなつきが犬を捧げるようにしてみんなに見せた。確かに治りかけてはいるが痛々しい傷跡がうかがえる。

「とにかく、それじゃ不審尋問されかねないでしょ、体育科に行ってシャワー借りれるようにしますから、サッパリしてはいかがですか?」

 ようやく笑いが収まったみずきが提案する。

「あ、そうだな。ロッカーから着替えを取ってくるよ」

「じゃ、それまで犬は預かっています」

「甘えるようで悪いんだけど、三丁目の畑中さんて家なんだ、返しに行ってくれるとありがたい」

「え……あ、分かりました」

 ちょっと怯んだなつきだが、わたしが目配せすると、コクンと頷いた。

「じゃ、さっそくみんなで……あれ、みずき?」

  いつのまにかみずきの姿が消えていた……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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真凡プレジデント・19《なんの仕事するの?》

2021-03-12 06:38:57 | 小説3

プレジデント・19

《なんの仕事するの?》 

 

 

 うちの生徒会執行部には各種委員長のポストが無い。

 体育委員長とか風紀委員長とかのね。

 学級委員会はあるんだけど、昔のように生徒会と結びついた活動では無くなっていて、各委員会で役員を互選で選び独立した活動をしている。

 組織的には各種委員会というのは生徒会の手足みたいなものだから、うちの生徒会は頭だけしかないタコのようなものと言える。

 

 理由はいろいろあるんだけど、その方が、先生たちは仕事がやり易いし、生徒会の選挙のたびに九人も候補者を集めるのも大変。でしょ? 今度の選挙でも藤田先生苦労してもんね。

 でも、頭だけの生徒会って、意欲のある生徒には魅力がないので、逆に候補者が集まりにくいって悩ましさもあったりする。

 今回に限って言えば、急に書記と会計の子が辞退して、代わりになつきと綾乃が入ってくれたのは、その身軽さがあったからとも言える。

 身軽って言うと、お互いを下の名前で呼ぶことにした。

 なつき(橘 なつき)は元からそう呼んでるし、なつきは性格的にも下の名前で呼びやすいネコ的な感じなので、すぐに馴染む。

 あやの(北白川 綾乃)は、ちょっと苦労。なんたって、学校一番の美人で才女、どうしても「北白川さん」になってしまう。それで、彼女は「北白川さん」と呼ばれたら返事をしない作戦に出て、福島さん……おっと、みずきのアイデアと相まって二日で定着させた。

 みずき(福島 みずき)は、全員分の『下の名前バッジ』を作って、生徒会室に居る間は四人とも胸に付けることにした。

 このバッジ、単に下の名前が書いてあるだけじゃなくて、それぞれの似顔絵と役職名が英語で書いてある。日本語の役職名だと硬いイメージなんだけど、英語にすると、ちょっとオシャレ(^▽^)/。

 そのうち、生徒会室を出ても外すのを忘れて、付けたまま廊下を歩いたり職員室に行ったりして、ちょっと好評だったりする。

 あ、そうそう、肝心の生徒会の仕事だよ。

 

「で、生徒会って、なんの仕事するの?」

 

 なつきがアッケラカーンと質問したのは、つまり、そういう背景があったから。

「今でも制度上は各種委員会は生徒会の一部なんだよ。だから時々は各種委員会にも出るし、予算とかは生徒会費から出てるのもあるから季節的には忙しい」

「まずは予算委員会を開かなくちゃ」

「あー、森かけとか桜で総理大臣イジメる委員会!?」

 こういう発想の飛び方は、いかにもなつきで、綾乃もみずきもコロコロと笑っている。

「クラブ予算よ。総額八十万の予算をいかに振り分けるか、なつきの仕事だよ」

「ゲホゲホ、わたしの仕事( ゚Д゚)!?」

「大丈夫よ、みんなも居るし、先生たちがリードしてくれるし」

 綾乃がやさしくなつきの手をとる。ネコ系のなつきは、これだけで穏やかになる。

「ゴロニャ~ン(n*´ω`*n)」

「体育祭が迫ってるから、そっちの方にも出なきゃならないわ」

 みずきが生徒手帳の予定表を繰りながら呟く。

「まあ、例年通りだと、開会の挨拶と各種賞状の作成というところね」

 昔、体育祭は秋に行われていたので文化祭と並んで、前期執行部の締めくくりの仕事になっていて、けっこう忙しかったらしい。六月に行われるようになって、実質生徒会が間に合わなくなって、開会の挨拶と賞状の作成と言う名誉的な仕事が残った。

「これって、なんだか立憲君主国の王様みたいね」

「って、真凡は女王様!?」

「じゃ、なつきはプリンセス!」

「コスプレとかしちゃおっかな~(*^▽^*)」

「いまさら行事の主導権を取るのは無理だけど、もう少し生徒会が前に出るようなことができないかなあ」

 なつきが混ぜっ返すのを、みずきと綾乃が静めてくれる。

「そうだね、少しでも盛り上がれるようななにかをね」

「そりゃ、やっぱコスプレっしょ!」

「まあ、なつきの意見も考慮して、今月中には結論ね」

「会長からは、なにかない?」

 真凡と言わずに役職で振ってくるみずき、やっぱ、心得てる。

「わたしはね、週に一遍くらいのペースでよその学校を調べに行きたいの、研究しなきゃ提言もできないしね」

「調べるとは、どういう風によ?」

「あらかじめポイントを絞って見学を申し入れるの、漫然と出向いてもなにも見えてこないだろうし」

「座布団持参だね、ドーナツ型置いてる学校なんて、そうそうないと思うよ」

「そ、そうね(^_^;)」

 その時、グラウンドの方からキャンキャンと犬の鳴く声が聞こえてきた……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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真凡プレジデント・18《名札と座布団と下の名前と》

2021-03-11 05:55:33 | 小説3

プレジデント・18

《名札と座布団と下の名前と》 

 

 

 presidentの名札が輝かしい。

 

 福島さんが座布団を作ってきてくれて、それに触発された北白川さんが卓上の名札を作ってくれた。

 生徒会室は教室の半分の広さで、ゼミテーブルと四人掛けの応接セットがある。他にも、椅子やらロッカーがそれなりにあるんだけど、ことごとくがどこかのお下がりで統一感が無く、パッと見は物置と大差がない。

 そこに座布団と名札の統一感が際立って清々しい。

「やっぱ、英語っていいよねえ」

 なつきがしみじみと言う。

 

 president 田中真凡  vice president 福島みずき  secretary 北白川綾乃  accountant 橘なつき

 

 白地のプレートに黒字で書かれただけのシンプルなものだけど、中古のゼミテーブルでも特別に見えてくるから不思議だ。

「アハ、回転させたら日本語だ(⌒∇⌒)」

 

 会長 mahiro tanaka  副会長 mizuki fukushima  書記 ayano kitashirakawa  会計 natsuki tachibana

 

「日本語と英語が逆になっててカッコいい」

「真ん中で回転するようになってるから、英語・日本語いずれのオンリーにもなるの」

「北白川さんも福島さんも凄いね!」

 わたしは、素直に感動する。

「おザブも同じドーナツ型だ!」

 これには驚いた。尾てい骨の事は内緒にしてあるし、座布団はドーナツ型であることが分からないように普通のカバーが付けてある。

「共通理解があった方がいいと思って、二人には話しておいたの」

 ムム、なかなか鋭い北白川さんだ。

「びっくりした、てっきり真凡は痔になったのかと……はっきり聞けないしね」

「何年友だちやってんの、わたしが……になんかなるわけないじゃん!」

「あ、いや、だから北白川さんに言われて……」

「あの、苗字で呼ぶのはよさない?」

「「「え?」」」

「他人行儀だし、北白川っていうのは微妙に長いでしょ」

「あ、そうかも」

「じゃ?」

「公でないときは、下の名前……で、どうだろ」

「それいい! わたしがなつき、真凡はまひろ、福島さんはみずき、北白川さんがあやの、決定だね!」

 

「おお、きれいになったなあ!」

 

 入って来るなり感嘆の声を上げたのは藤田先生だ。

「名札と座布団を、北……綾乃とみずきが作ってくれたんです、ツボを押さえた統一感が成功していると思います」

「そうだな、目の付け所がいい。顧問としても考えなくっちゃなあ……あ、新執行部発足のささやかな差し入れだ、みんなで食べてくれ!」

 先生がドンと置いたのは六つは入っているだろうと思われるケーキの箱だ!

「すごい、銀座タチバナのショートケーキじゃないっすか!?」

 たちばなにはピンからキリまであって、ピンが銀座タチバナで、キリがお好み焼きたちばなだというのは、昔からのなつきのギャグだ。

「これは、わたしたちのこと以外でもいいことあったんですね?」

「するどいなあ、北白川は(^_^;)、実は、柳沢が無罪放免になってなあ!」

「「「「え、そうなんですか!」」」」

「鉄道のえらいさん達が、柳沢の行動が無ければ、死傷者が三桁は出る大事故になったって結論付けたんだ。選挙は残念だったが、これで学校も柳沢も名誉回復だ」

「よかったですね、先生!」

「先生も掛けてください、いま、お茶淹れますから」

 わたしが言い出す前に綾乃とみずきは動き出して、なつきが「え、え?」とオロオロ、とりあえずはチームワークのいい執行部ではあるようだ。

「お茶は要らないみたい」

 湯沸かしを下げた綾乃が帰って来た。

 

「やあ、諸君。安くてかさ高いだけの差し入れだけど、ま、乾杯しようぜ!」

 中谷先生がジュースやらお茶のペットボトルを持って現れた。 

「田中、ちょっと」

 田中先生がひそやかに廊下を指した。

「はい?」

 ソロリとドアを閉めると、こそっと紙袋を手渡し。

「辛いんだろ、これ、使ってくれ」

「なんでしょ?」

 

 紙袋を覗いてみると、テレビコマーシャルでも有名な痔の薬が入っておりました(^_^;)。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
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真凡プレジデント・17《最初の決断》

2021-03-10 06:29:10 | 小説3

プレジデント・17

《最初の決断》  

 

 

 

 女子と言うのは気持ちが傾斜してしまうものなんだ。

 

 嫌いと思うと、相手の全てが許せない。そいつの言動ばかりじゃなくて、歩き方から息の仕方まで気に入らなくなる。

 逆に、好きになってしまうと、そいつがやることなすこと全てが素敵で肯定的なことのように思える。

 

「わたしで良ければやるわよ」

 

 この世の終わりみたいな気持ちで教室に戻ると、北白川さんが「なんかあった?」と聞いてくれ、ドーナツ型座布団(カバーがかかってるから普通の座布団に見える)に注意深く座りながら書記と会計の話をすると、ポンと胸を叩いて引き受けてくれた。

「なになに?」

 その時教室に戻って来たなつきも「橘さんもやってよ!」と、北白川さんに言われ、詳しく聞く前に引き受けてくれた。

「そんな、いっしょにお昼食べるみたいなノリで」

「お昼なら買ってきたよ、中谷先生に呼び出されてたみたいだったから」

 購買のレジ袋をデンと置いてくれるなつき。

「あ、ありがとう!」

 もう遠慮なんかいらない! スキーのジャンプ台みたいに傾斜した善意のスロープを滑り降りる。

 しかし、着地点を間違えた。

 うっかり隣の席に腰かけたものだから、断末魔のニワトリみたいな悲鳴が出てしまった。

 ギョエーーーー!!

 

 決まってしまってから悩んだ。

 

 書記の加藤さんと会計の吉田さんは居なくなったが、副会長の福島みずきさんが居る。

 わが一組とは正反対の校舎の端っこ、六組の人だ。

 同じ校舎でも生活圏は階段に寄って分かれる。二つ階段を隔てた六組とは、ほとんど行き来が無い。

 立候補を決めてから二度ほど顔を合わせたけど、あいさつ程度のやりとりしかない。わたしも彼女も自分のことで精いっぱいということもあるんだろうけど……、中谷先生が「会長が職務権限で欠員補充の者を指名」と言ったし、ありがたいことに北白川さんとなつきが前のめりに引き受けてくれたので飛んでしまっていた。

 福島さんにも相談すべきだった。最低でも声はかけるべきだったろう……。

 グズグズしているうちに放課後になってしまった。

 終礼もそこそこに六組にいこうと思ったが、認証式の時間が迫っている。二人もやる気満々なので、気後れしているうちに階段を下りて校長室に向かった。

「あ、田中さん」

 なんと、福島さんの方から声をかけてきてくれた。

「あ、あの……」

「そちらが書記さんと会計さんね」

「はい、わたしが書記の北白川。こちらが会計の橘さんです」

「どうぞよろしく。先生から聞いた時はビックリして、そいで、急きょ書記と会計を決めなきゃならない田中さんを気の毒に思って……正直、わたしが会長だったら、こんな急には対応できなかった。さすがプレジデントに相応しい人だと思った」

 福島さんの視線は、手に盛った座布団のPRESIDENTの刺繍を向いている。

「そうだ、わたし、こういうの好きだから、みんなの座布団作っていいかな?」

 

 新執行部の最初の決定事項は、おそろいの座布団を作ることになったのだ。

 

 ☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
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真凡プレジデント・16《ドーナツ型の座布団》

2021-03-09 05:37:14 | 小説3

プレジデント・16

《ドーナツ型の座布団》  

 

 

 朝の食卓、わたしの定位置に座布団が置いてある、それもドーナツ型。

 

「え、なんで?」

 両親は揃って出張なので、置いたのは、起き抜けのスッピンでもわたしよりの美人の美姫お姉ちゃんだ。

「そのまま座ったらオケツ痛いから」

「そ、そう、ありがと……おお」

 なるほど尾てい骨が穴に収まって、とても具合がいい。

「ちょこっとだけ政治部にいた時、先輩にもらったの。いやあ、仕舞い込んでたから探しちゃった。ほら、もう一個紙袋にも入ってるから、学校で使いな」

「学校で使うの?」

「学校の生徒机って、尾てい骨骨折すること前提に作られてないから」

「でも、なんかなあ……」

「真凡、今朝座ったのはトイレの便座だけだろ、試しに、そこ座ってみな」

 お姉ちゃんが指差した、いつもならお父さんが座ってるところに腰を下ろす。

「ヒエーーーー!!」

 お尻を抑えて跳び上がってしまった。

「ね、お姉ちゃんの言ったとおりだろう(^▽^)/」

 嬉しそうに言わないでほしい。

 

 学校で使う方は座布団カバーが掛けてあった。

 一見しただけでは普通の座布団で、ドーナツの穴の部分が見えないようになっている。

 

「へーー、会長になると座布団が付くんだあ!」

 なつきが、あどけなく感心してくれる。北白川さんは、知ってか知らでかニッコリ笑うだけ。

 椅子にセットして気づいた、座布団カバーにはPRESIDENTと刺繍がされている。失業中とはいえお姉ちゃんも暇なやつだ。

 今日は放課後に生徒会新役員の認証式がある。

 認証式は二回あって、最初のが、今日行われる校長先生からの。二度目は、後日全校生徒の前で行われる。ま、二度目は一般生徒に生徒会の存在を自覚させるためのセレモニーだ。

 むろん新執行部による生徒会活動は、今日の認証式から始まる。

 

―― 二年一組の田中真凡さん、職員室中谷のところまで来てください、繰り返します…… ――

 

 なつきと食堂に行こうと思った昼休み、中谷先生に呼び出された。

「実は、書記の加藤さんと会計の吉田さんが事情で辞退なの」

「え、選挙やったばかりで?」

 二人は立会演説でも、わたしよりも強い意気込みで立派な演説をしていた。それが、どうして? 

「二人とも急な家庭事情で引っ越すらしいの、今朝早くに電話があって、むろん電話で『はいそうですか』というわけにはいかないから、担任と藤田先生が家まで行ってるんだけどね、もう、引っ越した後で行方も分からないって」

「二人そろってですか?」

「うん、ここだけの話だけど、二人は苗字は違うけど姉妹なの、深い事情は私にも分からない。藤田先生は、もう少し調べてからとおっしゃるんだけど、生徒会を開店休業にしておくわけにもいかないからね」

「それで、わたしに?」

「生徒会規約48条に、任期中に執行部に欠員が生じた場合は、会長が職務権限で欠員補充の者を指名できるとあるの」

「それって……?」

「そこでお願い、放課後までに、あなたの知り合いでやってもらえそうな人、連れてきてくれないかな」

「え、ええ!?」

「声大きい、詰めて話したい……この椅子に座って」

 先生は、ガラガラと空いている椅子を据えた。わたしはチョー真面目にまなじりを上げ一文字に口を結んで椅子に掛けた。

  ウグ……!

 さすがに声を上げることは無かったが、痛さのあまり、みるみる目に涙がうかんできた。

「ごめん、田中あー、負担かけるけど、よろしく頼むわ~」

 痛みに耐えきれず、少しでも早くお尻を浮かせたい一心でコクコク頷くしかないわたしだった……。

 

 ☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
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真凡プレジデント・15《なんで尾てい骨!?》

2021-03-08 05:46:43 | 小説3

プレジデント・15

《  なんで尾てい骨!?》   

 

 

 

 あ、ありがとうございました。

 

 受話器に最敬礼してしまった。

 天気予報の真っ最中で、まもなくNHKのニュースが始まろうという時間。藤田先生が電話してくださった。

――連絡が遅れてすまない。六時ごろには結果が出ていたんだけどね会議が長引いてね、圧倒的多数で真凡が信任されたよ。半年間よろしく頼むね、あした新役員の顔合わせと引継ぎがあるからよろしく。じゃ――

「スカイプなんかでなくてよかったね、ほら、もっかい横になって」

「う、うん。でも、なんで、お尻が痛むんだあ……イテ!」

「これは尾てい骨骨折だね」

「こ、骨折!?」

「しかし、仰向けに転んで、なんでオケツの骨折るんだあ?」

「ちょ、あんまし、しげしげ見ないでよ」

 

 お風呂を上がって、お尻がズキズキ痛み始めた。

 立会演説終わって演壇を踏み外してコケてしまったが、仰向きだ。お尻なんか打ってない。

「それから、どうしたのさ」

「候補者の席に戻ったよ、ウンコラショって」

「ほかに心当たりは?」

「骨折するほど打ったら覚えてるよ……あとは、帰りの電車で座れて……晩御飯で、そこに掛けて……」

「多分、候補者席に戻って、勢いよく座り過ぎたか妙な角度で座って椅子の角に尾てい骨引っかけたんだよ、演説の興奮で、その時は気づかなかっただけでさ」

「え、あの……もう仕舞っていいかな?」

「もちょっと……真凡のお尻って、いい形してたんだねえ」

「んなの感心しなくていいから!」

「これなら、お医者さん行って見られても恥ずかしくないよ(^▽^)/」

「それって、ルックスの方はイマイチってことに聞こえるんですけど(#'∀'#)」

「ヒガミすぎ、わたしの妹なんだからブスなわけないわよ」

「あ、それって、私ほどじゃないけどって、間接的な自慢入ってません?」

「ないない、じゃ、とりあえず……」

 

 ピト

 ヒエ~~~!

 

「ちょ、なにしたのよ!?」

「湿布、お医者さんに診てもらうまでのとりあえず」

「やっぱ、やっぱお医者さん?」

 尾てい骨の骨折って、お医者さんでも見られるのはヤダ!

「そうだよ、よく見えるようにお尻を突き出して~」

「ヤダヤダヤダ!」

 わたしは、逃げながら身づくろいした。

 お尻の痛みなんて、家族でも言えないんだけど、風呂上がりのへっぴり腰を見られては仕方がなかった。

「ハハハ、ウソウソ、尾てい骨とか肋骨はギブスの当てようもないからね、自然治癒を待つしかないよ。それに、触診だけど、ヒビが入ってるだけみたいだし。ま、しばらく気を付けることね」

「も、もう……」

 

 リビングのテレビはいつのまにか天気予報も終わって、ニュースもローカルニュースになっていた。

 

―― ……列車往来危険罪並びに動物愛護法違反の嫌疑で身柄を拘束されていた男子高校生の行動は、列車事故を防ぐには止むを得ない行動であったと弁護される一方、見ず知らずの人の飼い犬を線路上に投げ落とすなど、サイコパス的な行動であったという見方も根強く、動物愛護の見地からも許されることではないと…… ――

 柳沢の扱いは、学校の職員会議だけではなく、マスコミや警察でも困っている様子だ。

 寝床に入る時は気を付けたので、お尻が痛むことは無かった。

 しかし、選挙に当選した……してしまったという重みがジワジワと胸にせき上げ、夜明け近くまで眠れなかった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
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真凡プレジデント・14《ひっくりかえった!》

2021-03-07 06:25:03 | 小説3

プレジデント・14

《ひっくりかえった!》   

 

 朝から学校はひっくりかえっていた。

 なんたって生徒が逮捕されてしまったんだ。

 列車往来危険罪並びに動物愛護法違反という禍々しい罪状での緊急逮捕。

 それも、学校一番のイケメン・秀才・天才の誉れも高き柳沢琢磨!

 模擬とはいえ司法試験を高校生で合格、それも、現役弁護士であり元国務大臣であった○○氏に大差をつけて!

 そして、なによりも、今期生徒会選挙、当選間違いなしの会長候補!

 彼がいなければ大列車事故が起こっていた!

 居合わせたテッチャンたちは彼のとった行動を口々に弁護したが、その他大勢の目撃者は橋の上から犬を投げ落としたことを非難していた。犬の飼い主などは、まるで虐殺者を見るように非難した。

「い、犬殺し! 人殺し! 国民の敵! 人類の敵!」

「とにかく、署まで同行してもらおうか」

 間を取った警察官に諭すように、柳沢はつぶやいた。

「ここは緊急逮捕が相当です、とりあえずの任意同行ではテッチャン以外は納得しませんよ」

「そ、そうか(#'∀'#)!」

 容疑者の方から逮捕を促されるという事態に直面し、お巡りさんは頭のてっぺんから声を張り上げて逮捕した。

 

「ちょっと前例がない……(;゚Д゚)」

 

 廊下で出くわした藤田先生はオタオタしながら緊急職員会議が行われる視聴覚教室へ向かった。

 かつて、候補者が緊急入院して立会演説に出られなかったことがあった。その時は、本人の演説は割愛して投票だけが行われたらしい。しかし、今度は隠れも無き列車往来危険罪並びに動物愛護法違反違反なのだ。

 立候補は無効だ! いや、起訴されるまでは何とも言えない! いや、辞退させよう!

 臨時職員会議は授業開始時間になっても結論が出なかった。

「ちょっと電話してみる」

 こめかみに青筋を浮き出させた北白川さんが決然と席を立って廊下に出た。

「どこに電話するんだろう……?」

 なつきが首をひねる。

 柳沢は拘留中だから電話連絡なんかつかないはずなのに。

「連絡ついたわ」

 一言言うと、彼女は視聴覚教室に向かった。心配で階下の視聴覚教室に向かうと、防音扉を小さく開けて藤田先生が顔を出して北白川さんと話している。

 数秒経って、藤田先生の顔がホッとしたように見えた。北白川さんは、わたしたちに微笑むと廊下の突き当りから外に出てしまった。

 北白川さんが、どう連絡を付けたのか、柳沢は立候補を取り下げたということだった。

 

 そして選挙は、わたしへの信任投票になった。

 

「ええと……わたしは、生徒手帳の最初に書かれている徳目、自主・独立・敬愛……みなさんはご存知ですか? ご存じないですよね。わたしも演説の原稿を書くために生徒手帳を開くまでは知りませんでした。知らないことを、とくに恥ずかしいとも思いませんでした。それほど、本校の見学理念は現実から乖離しています。わたしたちの言葉で言えばイミフ! あ、意味不明って意味です、先生方。イミフの心を持って、知ったかぶりや慣例に流されず、わたしたちの学校生活を見つめ直すことから始めていきたいと思います……とにかくですね……」

 もっと具体的な内容もあったはずなんだけど、柳沢が立候補したために、わたしは演説原稿の掘り下げを怠ってしまった。

 だから、なんとも抽象的な語り掛けのように、持ち時間の三分が過ぎて行った。

 途中からは何を喋ったか、もう、シッチャカメッチャカ!

 

 一礼して演壇の舞台を下りる。

 一応の拍手、意識がどうにかなったわたしには、割れんばかりの拍手にも、おざなりの終わってよかった拍手なのかも分からない。

 手のひらが汗でびっちょり、何年かぶりで下着が肌に貼りつく不快感を感じる。

 わずか数分で一か月分くらいの汗をかいたわたしは、このまま溶けてしまうんじゃないかと思った。

  瞬間、天地がひっくり返った。

 ノワーー!

 ドッシン!

 ゲフッ!!

 わたしは、階段の最後の一段を踏み外してカエルのようにひっくり返ってしまった。

 瞬間、全生徒の笑い声。それだけが、立会演説会唯一の確かさだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
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真凡プレジデント・13《キャイン!》

2021-03-06 05:30:49 | 小説3

プレジデント・13

《キャイン!》   

 

 

 新学年最初の中間考査はユルユルと過ぎていく。

 わたしもなつきもユルユルの志し。

 間違っても学年十番以内とか評定平均を八以上にするんだ! というような高望みはしていない。

 平均六十点くらい、成績表に3が付けばいいと思っている。なつきは2でもヘーキヘーキと笑っている。

 テストが終わると、いよいよ立会演説会になる。

 例の似顔絵ポスターでとどめを刺されたわたしは100%あきらめの境地、六十点志望のわたしは、書き終えた答案を見直しもせず、まあ平均点がとれればいいやと教室の窓から見える青空のようにサバサバしている。

 北白川さんは怖いほどの引き締まった顔で時間いっぱいシャーペン持つ手を動かしている。

 

「ガンガンやらなくったって、北白川さんなら楽勝っしょ?」

 なつきがため息まじりに聞くと、彼女は、こう答えた。

「ケアレスミスということもあるし、記述問題などは最後まで文章を練りなおすの」

 北白川さんは正解かどうかである以前に美しい答案でなければならないようだ。

 こんな北白川さんとお近づきになれたのは、彼女が柳沢を毛嫌いしているからだ。

 毛嫌いの理由はよく分からないけど、柳沢が生徒会長に立候補したのが、とても許せない感じ。まるで、民主党員がトランプが大統領選挙に出ることが許せないみたいな。

 今までは、クラスのお姫様的な存在だったので、男子はともかく、女子も容易には近づきがたかった。

 でも、柳沢が共通の敵認定されてしまうと、距離が一気に縮まった。

 接してみると、どこか天然の所があるけど、意外とフランクだ。なつきも、どこか動物的感覚で仲間認定しているし、せっかく友だちになれたんだ、大事にしたい。たぶん、彼女も、そう思っているから。

 だから、この芽生えかけた友情のためにも、選挙を諦めていることは気取られてはいけないのだ。

 

 ところが、意外な出来事でわたしの当選の確率が跳ね上がってしまった。

 

 それは、明日が立会演説会というテストの最終日に起こった。

 ほら、なつきの部屋で試験勉強していたら、なつきの弟、健二が学校で怪我をしたってオバサンが言ってきたじゃない。

 なつきと二人で学校に行って、交代で健二を背負って一休みした橋、橋と言っても、川じゃなくてJRを跨いでいる、テッチャンたちには有名な撮影スポット。

 

 そこで、こんな事件があった……。

 

 緩くカーブした線路の先で自動車が立ち往生していた。

 ちょっと先の踏切から進入したようなのだけど、運転していたのは八十を超えるお爺ちゃん。

 パニックになったのか線路の上を五十メートルほど進んで停まってしまった。

 橋の上には数人のテッチャン。もとよりシャッターチャンスを狙っているので、ダイヤは頭の中に入っている。

「もうすぐ下りの急行が通るぞ!」

 橋の向こうは緩やかなカーブになっていて、列車の運転手からは立ち往生の車は見えない。

 テッチャンたちは、橋の上から声を限りにカーブの向こうまで迫って来た電車に向かって叫ぶが聞こえるはずもない。

「こんな時は、運行司令に連絡だ!」

 なまじ詳しいものだから、テッチャンたちはJRの運行司令に電話して停止させようとする。

 橋下では、すぐそこまで迫った列車の接近にレールがカタンコトンと音を響かせている。

 

 そこに柳沢は居合わせた。

 

 柳沢は二秒ほど見渡すと、ちょうど犬の散歩に居合わせた女の人からリードを奪って、犬を抱き上げたかと思うと、とんでもない行為に及んだ。

 なんと、犬を橋の下に投げ落としたのだ!

 キャーーー! 

 キャイン!

 犬と女の人の悲鳴が響いた!

 投げ落とされた犬は、足を痛めながらも走り去る、犬の身ではあるが橋上の暴漢から逃げたい一心でカーブの向こうへ!

 突然現れた犬に驚いた列車の運転手は警笛と急ブレーキを掛け、十数秒後に自動車の手前数十センチのところでやっと停止した。

 大惨事は避けられたが、駆けつけた警察によって柳沢は逮捕されてしまった。

 列車往来危険罪並びに動物愛護法違反の緊急逮捕であった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

 

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真凡プレジデント・12《似顔絵付きになった》

2021-03-05 06:00:31 | 小説3

プレジデント・12

  《似顔絵付きになった》     

 

 

 選挙ポスターに、とんでもないものを付け加えることになった。

 

 もし最初から決まっていたら立候補なんかしなかった!

 だって、ポスターに顔写真付けるんだよ!

 んなの嫌に決まってるじゃん!

 

「どうも、選挙が盛り上がらない。選挙ポスターの前を、みんな素通りしてる!」

 

 不満を漏らしたのは中谷先生だ。

 先生自身生徒会選挙なんて興味なかったんだけど、ポスターを描いたのは先生なんだ。

 デザインの学校を出ているらしく、ポップな書体や垢ぬけた構成は、先生自身気に入っていて、みんなに見られることにワクワクしていた。

 それが、ポスターの前を通る生徒は、ちっとも見ない。

 そりゃそうだよね、少々出来が良くてもお役所のポスターなんて見向きもされないよね。

 一般の生徒にとって、生徒会なんて役所と同じくらい縁が薄いんだ。候補者にとっては一世一代の大事業だけども、一般生徒には小学校から何度も経験した、たぶん年に二回はあるルーチンワーク。

 

「じゃ、似顔絵か写真付けよう!」

 

 中谷先生は漫研の顧問でもあるので、部員を総動員して(と言っても三人しかいない)似顔絵を描かせることにした。

 漫研の子たちは、わりにキチンとしていて、事前にアポを取って候補者の都合のいい時間・場所を確保してくれる。

 静かなところがいい。

 注文を付けると、応接室になった。なつきと北白川さんが付き添ってくれている。

「……こんなのでどうでしょ?」

 仕上げたラフスケッチを見せてくれる。

「こ、これは……」

「「どれどれ……」」二人の付き添いも首を突っ込んでくる。

「めっちゃかわいい~~~!」

 なつきが無邪気に反応する。

 確かに可愛い。なんちゅうか……『俺の妹がこんない可愛いわけがない』の新垣あやせみたいだ。

「はい、真面目な清楚系でまとめてみました!」

 漫研は自信たっぷりの笑顔だ……たしかによく描けてはいるんだけど、これは選挙ポスターと言うよりは、漫研さんの作品だ。わたしに似ているところと言えば制服とヘアスタイルだけ。これじゃ実物を見たら「詐欺!」と言われかねない。

「そっか、じゃ描きなおします」

 漫研は嫌な顔一つせずにペンタブをリセットした。

「はい、描けました」

「「「おおおおおお」」」

 わたしも付き添いも歓声を上げた、確かによく似ている。

 似てはいるんだけど、これって、モブというかNPCと言うかその他大勢と言うか……特徴が無い。

 目は黒ゴマかというくらいの、ただの楕円で、鼻も、ただの〇。口は鼻の〇を横倒しにして伸ばした感じで、あいまいにボンヤリと開いている。

「もうちょっと笑顔にしたら?」

 なつきが提案してくれる。

「笑顔ですか……こんな感じ?」

「「「ああ…………⤵」」」

 笑顔にしたとたん、らしくなくなる。

 わたしって、笑顔の似合わない女なんだ、お姉ちゃんとちがってね。

 漫研さんは、その後も懲りずに五枚も描いてくれた……ますます遠くなる。漫研さんも、これ以上は描きようがないという感じに眉毛がヘタレる。さっきのあやせにしとけばよかったけど、今さら言えない。

「じゃ、こうしない?」

 

 北白川さんが涼し気に提案する。

 

 実物の写真込みで六枚前部を載せるというアイデアだ。

 なつきも北白川さんも決まり!という顔をしている。

「でも……写真は……」

 漫研さんが異を唱える。

「こうしません? 当選なさったら写真付きで、改めて掲示させてください」

「終わってから?」

「はい、どれが一番現物のイメージに近いか投票してもらいます」

 気は進まないが、柳沢琢磨が対立候補なのだ、わたしの当選は、まずあり得ない。だから簡単に「はい、いいですよ」と返事をした。

 じっさい、あとで仕上がった候補者たちの似顔絵や写真を見ていると、みんなラノベの表紙を飾れるくらいにカッコいい。

 柳沢琢磨は似顔絵と写真の二本立て。

 なんでも「わたしの力では先輩の魅力は表現しきれません! どうか写真と二本立てで出させてください」ということになったかららしい。

 わたしのは、タッチの違う六枚の名刺大のイラスト。他の候補者のポスターと並ぶと、柳沢琢磨が主役で、他の候補者が主な登場人物。わたしのは、その他大勢のモブキャラ紹介(^_^;)

 どうも、わたしの負けは選挙本番を前に確定してしまいそうだ……

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
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  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
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  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
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真凡プレジデント・11《自主・独立・敬愛の今を問う》

2021-03-04 07:14:41 | 小説3

プレジデント・11

《自主・独立・敬愛の今を問う》      

 

 

 生徒手帳には学校の三本柱として、自主・独立・敬愛、三つの徳目が記されている。

 立会演説の草稿が書けないわたしは、生徒手帳の〔生徒心得〕から始めることにした。

 

 学校の本館正面には、ぶっとい三本の柱が貫いているんだけど、それが、この三つの徳目を表しているらしい。

 ナルホドと思う反面、徳目を考えた初代の校長だか誰かだかが、今のわたしみたく悩んだ末に考えたというかこじつけたことなんだろうと思う。

 だって、自主・独立という割には、校則はスカート丈からリボンの結び方まで事細かに規定している。そして、規定している割には守られていない。

 授業の始まりには「起立・礼・着席」を委員長が発声すると書かれているが、ほとんど実行はされていない。

 アルバイトは学校に願い出て許可を得る……守っている生徒はいない。

 みだりに繁華街に立ち入ることや深夜徘徊は禁止されていて、やむを得ない場合は保護者の同伴を義務付けるとか、もう笑ってしまう。他にもいろいろあるけど、廊下は右側を静かに歩けとかね。もうやってられません。

 七十年前の開校以来一度も見直されたことがないまま、毎年生徒手帳に書かれてしまっているんだ。

 

 一瞬、途方に暮れたけど、思い直した。

 

 そうだ、このまま立会演説でぶつけてみよう!

 いまの生徒会を守りながら、守るというのは規定の行事はきちんとこなしながら調べてみるということ。

 調べるとは、近隣の高校を訪ねて調査することだ。アポを取って、自分の足で出向いて、見て聞いて話を聞いて。そして自分の肌で感じてみること。

 これなら、わたしの狙いであるコミニケ-ションスキルの獲得や自己表現……つまり、もっとうまくやっていける人間にもなれるだろうし、生徒会のためにもなる。うん、何を提案するってものでもないんだけど、アグレッシブな印象が、我ながらいいと思う。

 『自主・独立・敬愛の今を問う』

 うん、なかなかエキセントリックな表題も付いた。

 

 一気呵成に原稿用紙三枚にまとめ上げると藤田先生に提出しに行った。

 

「ごくろうさま、藤田先生にはわたしから渡しておくわ。ザッと見たけど問題ないと思う」

 またも藤田先生は不在で、中谷先生に渡して暫定的了解を得た。

 さあ、明日からは二年になって初めての中間考査だ。

「あ、早かったじゃん!」

 校門のところで待っているなつきが嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねている。

「もう、先に帰って勉強してろって言ったでしょ!」

「やっぱ、いっしょにやらなきゃ調子でないじゃん」

 ペロって舌を出す。

 こういうところは、中学では悪だった片鱗も無くって可愛いんだけど。こいつは分かっててやっている節がある。

「じゃ、いくぞ!」

「あ、ちょ、待って」

「もー、なによ!?」

「北白川さんがね……あ、来た来た!」

 食堂の方からジュースのパックを持った北白川さんが美しく駆けてくる。

「ちょうどよかった、冷たいの飲みながら帰ろ、はい、田中さん!」

「え、わたしにも?」

「橘さんがニコニコ立ってたから声かけて、そしたら田中さん待ってるって、そいでいっしょにね、ウフ」

 アニメキャラのように肩をすくめる。なにをやっても絵になる人だ。

「そいじゃ、ありがたく」

 ジュースをもらって歩き出す。文具屋のガラス戸に三人の姿が映る。

 ガラス戸に映るボンヤリとした姿でも北白川さんは美しく、なつきはキャピキャピ可愛い。

 わたしは……考えないことにして、ちょっと肌寒い五月の空の下を駅に向かった。

 

 こないだの事が気にかかる。

 柳沢琢磨が教室にやってきて、北白川さんの席を聞いたかと思うと、手紙を預けていったでしょ。

 そこへ北白川さんが戻ってきて、目を三角にしたかと思うと柳沢をひっ捕まえて行ってしまって、預かった手紙が見当たらず、ひとり焦っていた。

 みんなの噂話と手紙の事でアセアセになっていたら、北白川さんが戻ってきて、わたしが生徒会長に立候補してることをクラス中にお披露目してしまった。

 むろん「がんばってね!」という応援なんだけど、それも柳沢と関係がありそうで、ますます興味が湧いてくる。

 それにね、今まで、こんな風に北白川さんと喋ったことも無かったし、この接近ぶりが気になってるんだけど、そんなこと正面から聞くわけのもいかないし。

 飲み終わった紙パックを持て余すころには駅に着いてしまった。

「エイ!」

 北白川さんが紙パックを投げると、きれいに改札前のゴミ箱に収まる。

 なつきは無邪気にマネして失敗。

 わたしは、それを拾って自分のといっしょにゴミ箱に捨てる。

 ほんとは、わたしも投げてみようかって衝動が湧いたんだけどね。北白川さんのアクションて、そういう人を踏み込ませるような「カムウィズミー」的なオーラがある。

「あ、ごめん。調子に乗って、ちょっと行儀悪かったわね」

 拳で頭をコツンとして『テヘペロ』の北白川さん。

 くそ、なにをしても主役の貫録。

 思うと、顔が赤くなるのを自覚して「ううん、そんなこと(〃´∪`〃)」と壁を塗るようにして手を振る。

 なつきが「アハハハ」と笑って、わたしも北白川さんも笑ってしまう。

 横を通ったオバサンの二人連れが、好ましい女子高生だわ的に暖かく視線を向けていった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
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真凡プレジデント・10《立会演説の原稿を考える》

2021-03-03 06:50:32 | 小説3

プレジデント・10

《立会演説の原稿を考える》       

 

 

 

 選挙はテスト明けにあるんだけども、立会演説の原稿は明日が締め切り。

 

 なにを喋ってもいいと思うんだけど、学校は選挙リテラシーとか言う。

 要は事前検閲だ。

 ヘイトとかセクハラとかポリコレとかがうるさいご時世。実際に目を通すのは藤田先生ということもあって、素直に従う。

 

 う~~~~~~~~ん 難しいもんだ。

 

 きっかけは、藤田先生が候補者が集まらず悩んでいるのを目撃して、辞書で引いたら生徒会長というのはプレジデントというカッコいい名称なんだと感激したという、子どもみたいな動機。

 けども、この動機の底には意識しなかった動機がある……と、思う。

 お姉ちゃんみたく才色兼備でもないわたしは、卒業後いっちょまえに生きていくためにはアドバンテージを稼いでおかなくちゃならない。

 単に大学の推薦に有利になるということだけじゃなく(わたしは進学とも就職とも決めてはいない)、世間に出て人交わりしていくにおいて、会って五分もすると「今の子、どんな顔してたっけ?」とか「名前は田中……なんだったけ?」とか、ついさっき見た夢のように印象が薄くなっていくのをなんとかしたい。

 最近の野党は生徒会のようだと言われるように、お気楽なもんだ。揚げ足とりの攻撃ばかりしてりゃいいんだから。でも、わたしは、そこまで恥知らずにはなれない。というか、たいていの意見には「それもそうですねえ」と頷いて、思考停止に陥ってしまう。頷いてしまえば「じゃ、次の人」とか「他に意見は?」とか言われて楽なんだ。そして、次の人とか他の意見とか沈黙とかになって、五秒で、わたしのことなんか忘れられて、忘れられることが楽なんだ。

 そうだよ、思考停止。

 思考停止はいけません! 思考停止をやめましょう!

 わたくし、田中真凡は思考停止と戦うために生徒会長に立候補いたしました!

 う~~~~~~~~~ん

 イケてるようだけど、後が続かない。

 ああ、早く書かなきゃ間に合わない。試験が終わったら、あっという間に立会演説! スケジュールは決まってるんだぞ!

 そう、スケジュール。

 学校は、スケジュールで動いている。

 開校以来の年間スケジュールとマニュアルがデーンとあって、それに従ってこなしていけば立派に任期をこなせる。先生たちを見ていても思うんだけど、無事にスケジュールをこなすことが、人間というか組織の目的なんだよね。今の執行部も、スケジュールをこなす以外には何もやってなかったよね。

 新入生歓迎会 美化運動(ポスター描いたり、制服姿で学校周辺のゴミ拾いしたり) 文化祭 体育祭の取り組み 募金活動(赤い羽根とか青い羽根とか) 近隣の高校との交流(互いに訪問して話を聞いたり喋ったり的な) 予算案を作る 決算報告する 

 どれも、まあこんなもんだって前例がある。前例に沿ってスケジュールをこなしていけば無事に任期はこなせる。

 要は、会議とか集会とかできちんと喋れさえすればいいわけだし、わたしは、そういうコミニケーション能力を付けることが狙い……的な。

 でも、なんだかなあ……他人様に「これなんです!」と訴えかけるには本音過ぎるというか、散漫というか、弱いよねえ。

 

 散漫なままには書けない。

 

 やっぱ、世のため人のため学校のためということを打ち出さなければだめだろう。

 柳沢はどんなこと書いてるんだろう……思ってみても、対立候補、藤田先生が見せてくれるはずもない。

「なんか用?」

 晩御飯食べていたら、いつの間にかお姉ちゃんの視線。

 辞めたとはいえ、東大出の女子アナ。演説の草稿なんてお茶の子さいさい……という気持ちがある。

 いかんいかん、自分で考えなきゃ。

「ひょっとして立会演説……とか?」

「ウ……」

「図星だな、立候補したはいいけど、大勢の前でなんか喋ったことないもんね、真凡は」

「あ、当たったからっていい気にならないでよね。わたしは自分で考えるんだから」

「さすが姉妹、真凡も美姫の気持ち読めない? 放送局辞めてからなに考えてんだか、親でも分からないからね」

 お父さんのご飯をつぎながらお母さん。

「まあ、人生いろいろあるさ」

 軽く受け流すお父さん、心情は分かるんだけど、両親ともお姉ちゃんには無力だ。

 

「狙い目はトラッドだよ」

 

 お姉ちゃんは言い方がうまい。

 ズバッと言うけど、肝心の中身は短くて難しい言葉を使う。難しくとも短い言葉だから聞き直す。この場合お母さん。

「トラッドってなに?」

「伝統よ、革新とか革命とかじゃ、今の世の中人は付いてこないよ。学校のトラッド、それを今の学校に合うように変えることを提案する」

「抽象的ね……?」

 これもお姉ちゃんの手だ。二つくらいのキーワードを言って、ポンと結論を持ってくる。いわば、ホップ・ステップ・ジャンプ。

「たとえばさ、部活。学校は入学の時から勧めてるでしょ? でも、いろいろ条件は厳しい……そこいらへんをね。それから、案外、生徒みんなが良い学習環境を持ってない」

「学習環境?」

「うん、みんなが自分の部屋持ってるわけじゃないし、家庭事情とか、いろいろね。ま、あとは自分で考えな。ごちそうさま」

  やっぱ、東大出の女子アナは伊達じゃない。

 

 部活と学習環境というキーワードがインプットされてしまったよ

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
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真凡プレジデント・9《ちょっと子ども時代に返った》

2021-03-02 05:57:16 | 小説3

プレジデント・9

《ちょっと子ども時代に返った》       

 

 

 勉強しなさい!

 

 もう三回目だ。

 今日も、お好み焼きたちばなの二階で勉強会。

 お好み焼きたちばなと言っても、ここはなつきの家。第3回と4回で書いたからご存じだとは思うんだけど念のため。

 なつきはバカじゃないんだけど、今のように気が散って身が入らないことが欠点。

 本人も分かっているから、こうして定期考査前にはわたしを呼んで勉強会になる。

 

 日ごろから集中力のないなつきが、今日は半分の力も発揮できていない。

 

 それは、例の柳沢琢磨が我がクラスのモテカワ美少女北白川綾乃を訪ねてきたからだ。

 学校一番の……ひょっとして日本一秀才サイコパスな柳沢と美少女が、なにやら険悪。険悪と言うことは、険悪に至るまでには、なんらかの関係があったはずで、そのあたりがクラスの試験どころではない関心を呼び起こしたのだ。

 で、そのミーハー最先端にいるのがなつきだ。

 わたしのお昼を買いに行って二人の衝突ぶりを目にしていないので、余計に興味はマックスになっている。

 だから、現場に居合わせたわたしに聞きたくて仕方がない。

「なつきって週刊文秋の記者とかになったら成功するかもよ」

「え、そっかな(#^.^#)!?」

 嫌味が通じない。ま、好奇心があるというのは悪いことじゃないんだけどね。『好奇心は活力の源』って、まともな頃のお姉ちゃんも言っていた。でも、テスト前の好奇心はなつきには毒だ。

 まだ解けていない練習問題をコツコツと指差して注意喚起。

「ありおりはべりいまそがり……ゴキブリのお呪いだよ( ノД`)シクシク…」

「こういうのは暗記するしか手が無いの『右大将に いまそがり ける藤原の常行と申すいまそがりて、(伊勢物語・七七段)』、百回も言えば覚えるよ」

「でもさ、北白川さんが真凡の応援してくれるってスゴイじゃん!」

「え、あ、うん……」

 そのへんの経緯はなつきには言っていない。なつきの妄想をこれ以上膨らませることもないしね。

 それに、ほんの一時とは言え、立候補を取り下げようとしたことは言わない方がいいと思う。

 

 やっと練習問題が終わったころに、おばさんが一階のお店から上がって来た。

 

「勉強中ごめんなさい、なつき、ちょっと……」

「なに?」

 おばさんは、なつきを廊下まで呼び出して、なにやら頼んでいる。

――え、健二が怪我!?――

 なつきの声が響いて、お店を空けられないおばさんに成り代わって小学校に行くことになった。

 なんでも、野球の練習をしていて足をぐねってしまったようで一人では歩けないらしい。

 

 久しぶりの小学校。

 

 なつきの家からだとJRを跨ぐ橋を渡る。昔は、ここで行き交うJRの電車をボンヤリ見ていたりしたものだ。

 JRは橋の下でカーブしていくので撮り鉄たちのビューポイントにもなっている。

 行きしなは健二のことが心配なので、トットと渡ったが、帰り道は、交代で背負っても重いので、健二を下ろして一休み。

「健二の……X$#〇△!?%◇X☆彡$!!!」

 上り列車の通過に合わせてなつきが叫ぶ。通過の轟音で聞こえやしないが、さすがに姉弟、表情で分かっている。

「健二の短足運動音痴の出べそのコンコンチキの天然バカヤローって言っただろ!?」

「ハハ、それだけじゃないよ……X$#〇△!?%◇X☆彡$!!!」

 続きてきた下り列車の轟音に合わせて、もう一声。

 なんだか楽しくなってきて参加する。

「「「%$#〇△!?%◇X☆彡$!!!X$#〇△!?%◇X☆彡$!!!」」」

 ちょっと子ども時代に帰ったひと時。

 なつきと健二が夕日を浴びてケラケラ笑う。これがドラマなら、この瞬間の主役は、この姉弟だと思うよ。

 勉強はともかく、なつきは、いいお姉ちゃんだ。わたしも、弟か妹がいたらいいなって思う。

 おっと、こんなことしてる場合じゃない、早く戻って勉強の続きしなくっちゃ!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
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真凡プレジデント・8《北白川綾乃》

2021-03-01 05:50:39 | 小説3

プレジデント・8

《北白川綾乃》       

 

 

 文章を書くのは難しい……たとえ立候補辞退届であっても。

 

 さっきから二回も書いては消している。

 清書する前にスマホで文案を練っている真っ最中。

 お姉ちゃんには悪いけど、柳沢琢磨とじゃ勝負にならない。わたしは立候補を取り下げることにしたのだ。

 四時間目が自習だったので、自習課題をやっつけてからずっと考えているので、そのまま昼休みに突入してしまった。

 自習時間の席は自由なので、食堂にダッシュできる廊下側の一番後ろの席にいるんだけど、これじゃ意味がない。

 なつきが「じゃ、パンとか買ってくるね!」と言ったのに任せている。

 

 すると……視線を感じた。

 

 顔を上げると……至近距離に柳沢琢磨が立っているではないか!

「ちょっといいかな」

 わたしのことを偵察に来たんじゃないかと、心臓が飛び出しそうになる……が、そうではなかった。

「北白川さんの席はどこかな?」

「え、あ、はい……」

 北白川さんは一人しかいない。北白川綾乃……クラス一番のモテカワ美少女。美少女なのにフランクな子で友達も多い。

 わたしにも気さくに声をかけてくれるけど、自他ともに認める陰薄少女のわたしは委縮してしまって、まともに目を見て話したこともない。サイコパスとの噂もあるくらいの秀才と校内有数のモテカワ美少女! 二人は、そういう関係だったのか!?

 一瞬で妄想が広がって――そこの席です――が言えるのに数秒かかった。

「えと、真ん中の後ろ……です」

「ありがとう、悪いね」

 そう言うと、わたしの後ろを周って北白川さんの席に向かう柳沢。

 横目で観察していると、懐から封筒を取り出して机の中に入れようとしている。

「あの、お手紙でしたら預かりましょうか?」

「あ、そうだね……じゃ、お願いできるかな」

 思いもかけず声をかけてしまった。

 大事な手紙なんだろうという気持ちと、声をかけてみたいという衝動からだ。

 意外に繊細そうな手から封筒が手渡されようとして声が掛かった。

 

「なにしに来てるのよ!」

 

 入口の所で、北白川さんが柳眉を逆立てて立っていた。

 こんな北白川さんを見たのは初めてだ、いままでいろんな人がキレるのを見てきたけど、普段の温厚さとのギャップもあって、わたし自身身の縮む思いがした。

「ちょっと、こっち来て!」

 180はあろうかという柳沢琢磨が150そこそこの北白川さんに引かれて行くのは、なんだかシュールでさえある。

「なんだなんだ」「なになに」という声が上がるが、二人の後を付けて確認しようという者は居ない。

 むろんわたしも二人が去ったドアの向こうを窺うだけだ。廊下に出た者たちの反応で、どうやら屋上に通じる階段に向かった様子。

「あ、あれ?」

 たった今まで手にしていた封筒が無い。

 大事な手紙なんだろう、わたしは、自分の席の周りをアタフタと捜す。

「や、やばいなあ」

 でも、みんなの目があるし、スマホを見てるふりして視野の端っこで教室のあちこちに気を配る。

 主に女子たちがヒソヒソと二人の、主に北白川さんの噂をしている。

 美人…… 実はね…… やっぱり…… ……だと思った それでもね…… とにかく…… あの時……

 会話の断片が耳に入って来る。こういう噂話は苦手だ、それより手紙を、人から預かったものを無くすのは気持ちが悪い……でも、みんなの噂話が……

 ひとりアタフタしてしまう。

 すると目の前にきれいな脚が立ちはだかった……顔を上げると手に封筒を持った北白川さん。

 なんだ、北白川さんが持って行ったんだ。

 ホッと安心すると、北白川さんがガバっと跪いてきた。

「田中さん、あなた生徒会長に立候補してるんでしょ!? 絶対当選してね! 応援してる、あんな琢磨なんかに絶対負けないでね!」

 周囲がざわめいた。

 半分は、いつにない北白川さんの様子に。もう半分は、わたしが立候補していることに。生徒会選挙のポスターなんて、たいていの子は見てないもんね。

 これは、立候補を取り下げるどころの話ではなくなってきた!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
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真凡プレジデント・7《姉妹でお料理》

2021-02-28 06:26:52 | 小説3

プレジデント・7

姉妹でお料理》       

 

 

 柳沢琢磨……サイコパスとの噂が高い。

 

 SNSでフォローしていた大臣経験もある有名弁護士に食いついたのが去年の夏。

 この有名弁護士をネット上の論戦で打ち負かしてしまったのだ。

 わたしには難しくて、よく分からないけど、憲法の有り方とか原発問題とか外国人参政権とか……他にもむつかしい問題でぶつかり合っていたらしい。

「柳沢君は、まだまだ若い、なんたって高校生だしね。現場にいる弁護士が非常に頑張っていることやらが感覚的に分かってないんだね。まあ、分かれという方が無茶なんだけどね、しかし前途有望な青年だ、司法試験に受かったら、また論戦しよう」

 週刊文秋が企画した論戦を新幹線の時間が迫っているとして打ち切り、弁護士は、さも残念そうに握手の手を差し出した。

「分かりました、では、同じ司法試験を受けて決着をつけましょう」

「それはいい(^▽^)! では、何年先になるか分からないが、柳沢君が司法試験を受けるまで健康に注意するよ」

 これで有名弁護士は幕を引いたつもりであった。

 

 しかし、この司法試験勝負は、わずか二か月で実現してしまった。

 

 週刊文秋は民放各社に企画を持ち込み、模擬司法試験勝負を実現してしまったのだ。

 放送局は、過去の司法試験を作成した学者や裁判官経験者を動員して、琢磨が提案した模擬司法試験を企画した。

 

 そうして三月にワイドショーのコーナーで特別企画が組まれ、SNSで公言した有名弁護士は受けて立たざるを得なくなった。

 

 結果、琢磨は勝利した。

 中学生の将棋名人が出現したことと合わせて世間の評判になったのは記憶にも新しい。

「いやあ、まいったまいった(*^▽^*)」

 有名弁護士は鷹揚な笑みで拓馬と握手したが、誰の目にも琢磨の余裕の勝利であることは明らかだった。有名弁護士は急きょ世界一周の船旅に出発し、ホトボリの冷めるまで日本から姿を消すことになった。

 その柳沢琢磨が生徒会長に立候補したのだ、わたしに勝ち目があるはずがない。

 

 そんなことを思いながらだったから、その日は、なつきとの試験勉強にも力が入らず、ため息一つつき、とろとろと家の玄関を開けた。

「見たよ、柳沢琢磨が立候補したんだって?」

 なんだか待ち伏せていたみたいにお姉ちゃん。

「うん、待ち伏せ。こんな面白い話、すぐに聞かなきゃでしょ」

 

 引きこもっていても、こういうところは以前のままだ。

 

「そもそも、どうして立候補しようと思ったわけ?」

 そのまま晩ご飯の手伝いをさせられながら、お姉ちゃんが聞いてくる。

「分かんないわよ本人に聞かなきゃ」

「だから聞いてんのよ、ほら、ハンバーグの生地はしっかりこねる」

「え、あ、うん……てか、わたし?」

「そうよ、強敵現るだから、対策うたないといけないでしょ」

 姉は、立候補辞退なんて毛ほども考えてはいないようだ。

「わたしって……」

 言葉を選んでしまう。お姉ちゃんの劣化コピー……というところからは話せない。

「わたしって……特徴ないでしょ。良くも悪くも目立つ子じゃないし、人間関係とかも……メンドイ方だしさ。いっぱつ生徒会とかに出てさ、しっかりとさ……その……慣れておきたかったのよ世の中とかにさ。進学にしろ就職にしろさ、あるでしょ。サークルとかゼミとか懇親会とか、将来は町内会とか地域とのかかわりとか、仕事始めたら、もう仕事そのものが人間関係じゃん。お姉ちゃんの結婚式とか……いろんな人生のイベントでさ……うまくやっていけるようにって思ったわけなのさ」

 とりあえず、当たり障りのない答えをしておく。

「そうじゃなくて、ちゃんと空気抜く!」

「え?」

「抜いとかないと、爆発する」

「あ、えと……」

「……ハンバーグ」

「あ、ああ」

「う~ん、だね、真凡自身の結婚とか家庭生活とかのほうが……先かも」

「え?」

「早いぞお、年とるのって」

 自分の結婚とか家庭とかは微塵も考えていなかったので電車が急停車したみたいになった。

 ペシペシ ペシペシ(わたしの音)

 ビシバシ ビシバシ(お姉ちゃんの音)

「よし、それくらいでいいから。小判型の形にして。要領は、こんな風ね」

 一時期料理番組も担当していたので、意外に料理には詳しい姉なのですよ。わたしは、自分の話にも形をつけなければと思う。

 藤田先生の困った顔が浮かんだが「なにそれ」と返されそうなので、締めくくりに相応しい方を話した。

「辞書で調べたらさ、生徒会長ってpresidentって言うんだよプレジデント! 大統領と同じなんだよ、なってみたいと思わない?」

「アハハハ」

 盛大に笑われる。そりゃ東大出の才媛だ、生徒会長がプレジデントだなんて先刻ご承知。

 でも、姉妹の会話って可愛く締めくくっておくのがデフォルトなんだと思う。

 

 それに、プレジデントという呼び方は本当に気に入ってるんだからね。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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