真凡プレジデント・29
二の丸高校の凄いところは設備だけじゃなかった。
民放のアナウンサーのようにイカシた生徒会長は、各種生徒会の会議が行われる部屋を案内してくれる。
ハードというか施設は単純に目に飛び込んでくるので「ウワーー」とか「スゴイ!」とかダイレクトに感動できるんだけど、組織の運営や風通しの良さなどは部屋を見ただけでは分からない。
「こんな具合です」
なんと、会長がスマホを操作すると、モニターやら電子黒板に会議の様子が出てくる。それも二分程度に編集されていて、とても分かりやすい。
「え、もう卒業式のことやってるんですか?」
化学実験室を会議場にしているのは三年生の学年会議だ。
理由は三年生の教室から一番近い特別教室で、集まりやすいから。それに、会議に寄って部屋を固定しておくと――今日の会議はどこだっけ?――ということが起こらない。
「間際になって決めるといい結論が出ません。三年生は秋以降は忙しいですからね、むろん決定はもっと後なんですけど、今は、いろんな学校の卒業式を見て研究というところです」
「やっぱ、薬品とか使って?」
なつきがスカタンを言う。
「ハハ、映像が薬品と言えないこともないかなあ、とにかく、いろんなのを見てもらって化学変化させるというか、雰囲気づくりですね。映像は二三分で、あとは十分ほどフリートーキングです。繰り返しているうちになんとはなしの空気ができます。昼休み放課後に関わらず、会議はニ十分以内を目標にやってます」
「よっぽど議長さんとかが、しっかりしているんですね」
「う~ん、普通の生徒だと思いますよ。事前の問題整理と資料作りがしっかりしていれば、案外スムースにいくもんです。くたびれそうになったらトピックというか、関係ない話を投げ込むんです」
「関係ない話?」
「たとえば、化学教室の椅子にはなんで背もたれがないか……とか」
言われて、化学教室の椅子を見渡す。
当たり前すぎて疑問にも思わなかったけど、言われてみればそうだ。
「なんでだろう……あ、そうだ。背もたれのない椅子だったら、寝かせて集めれば小テーブルになりますよね。文化祭の時なんかに重宝する!」
なつきのスカタンも、会長はにこやかに受け止める。
「それ、いいかもしれませんね! 椅子は椅子って固定観念でないところがいいですよ、メモっておこう……」
「正解ですか?」
「ハハ、正解は、実験に失敗して火が出たり爆発が起こっても、すぐに逃げられるように背もたれが無いんです」
「え、そなの?」
好奇心旺盛ななつきは、さっそく試してみる。
「なるほど、コンマ何秒か速くなるかも!」
生徒会長は、飽きさせないことがコンセプトのようだ。
「今日は、こんな話題を投げかけてみたんです」
そう言ったのは、その日の昼休みにクラブ部長会議が行われた社会科教室だ。
「これです」
「「あ!?」」
なんとモニターにはわたしの写真が……どういうシャッターチャンスなんだろう、フイと振り返ったところで顔が見えない。
「そちらの学校は伝統的な制服だし、その、こんなにステキな会長さんだから、ちょっとネタに使わせてもらいました。事後承認みたいで申し訳ないです(^_^;)」
「で、どんなクイズにしたんですか!?」
「いや、ただ、視察に来られるってことだけを伝えただけです。毎日、同じ制服と顔だけですから、みんな喜ぶんですよ」
むつかしく言うと肖像権とかの問題なのかもしれないけど、ほとんど後姿。ま、いっか。
「それで、何人かの生徒が一目お目にかかりたいって、階段降りたところで待ってるんですけど、よろしいですか?」
「え、えーーーー」
プロポーションとかは、お姉ちゃんといっしょだから……でも、ルックスは振り返っただけで変質者もトーンダウンしてしまうくらいのご面相なんだ。気が引ける、顔が赤くなってくる~!
「決めてかかるのは良くないよ」
なつきにズンズン押されて、指定の階段下へ……。
二の丸の皆さんの反応は……次回に(;^_^)。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡(生徒会長) ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 福島 みずき(副会長) 真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
- 橘 なつき(会計) 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 北白川 綾乃(書記) モテカワ美少女の同級生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問