真凡プレジデント・32
いろんなことが重なった。
その子は、入試が終わって、あそこどうだった? そこはどう? と入試の手ごたえを友だちと話し合った。
その手応えで合格間違いなし! そう思ったら落ちてしまった。
それで、答案の開示を学校に求めたところ採点ミスが一か所あった。ただ、そこを正解にして加点しても、その子は合格圏に入ることは無かった。
それで一度は納得しかけたんだけど、国語の問題で正解と思って書いた答えが間違いにされていた。
「え……うそ?」
おかしいと思って、その子は塾の先生に問題を見てもらったところ「君の答えでも正解だよ」との返事を得た。
学校は教育委員会が制作した問題で、採点も教育委員会の模範解答と採点の方針に従っていて、その点で間違いはない。
「全員の答案を見直してください!」
その子の申し入れがあって、学校は時間をかけて全員の答案を見直しにかかった。
塾の先生は、広く塾の連盟や大学の教授などにも問題の鑑定を依頼して、その子の解答が間違いでない確証を得た。
だけど、一度出てしまった結果を覆すのは時間がかかる。
一年以上たった先月。学校と教育委員会は間違いを認めて謝罪したらしい。
「ひどいよね、これ!」
なつきが机を叩いて会計のプレートがでんぐり返りそうになる。
「お茶淹れるとこだから、あまり興奮しないでね(^0^;)」
「ポテチが出てきちゃう(^_^;)」
書記の綾乃が置きかけた急須を胸の高さまで上げて、みずきがポテチをかき集める。
「この子、うちの学校に入れるべきだよ!」
自分もギリギリの成績で入っているので、なつきは義憤を感じているんだ。
「まあ、それは、この子の気持ち次第だろうね」
「そうね、もう一年もたっちゃってるから、その子も、今の学校に馴染んでるだろうし……もう、お茶淹れていいかなあ?」
「あ、ごめんごめん」
「じゃ、学校訪問の総括を……」
わたしは、議案の話題に舵を切りなおした。
学校にとっては不名誉なことだけども、それは、先生や教育委員会の問題で、生徒会にとっては休憩時間の茶飲み話にすぎないからね。
でも、その後の展開で、とんだ副産物が出てきた。
なんと、合格した生徒の中で、その子の代わりに不合格になってしまう者が出てきてしまったのだ!
もう、一年以上も中町高校の生徒としてやってきているので、今さら「君は不合格なんだ」とは言えずうやむやにしてきたのが、ネット社会の恐ろしさ、外部に漏れてしまった。
そして、その本来なら不合格になっていた生徒が……義憤を感じて机を叩いた橘なつき自身だったのだ。
「わたし……やっぱバカだから」
見る影もなくなつきは落ち込んでしまい、わたしは親友としてもプレジデントとしても放っておけなくなった……。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡(生徒会長) ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 福島 みずき(副会長) 真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
- 橘 なつき(会計) 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 北白川 綾乃(書記) モテカワ美少女の同級生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問