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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

モルバランとメルリッチェル 最後の物語

2010-04-04 02:51:44 | インポート
    

《まえおき》
 二月の終わり頃、ふとしたことで自信喪失のような自己嫌悪のような気分に襲われ、一週間ほど何も書けず、その後も、仕事上の文書や何かへの応答としてはともかく、積極的に「私は」で始まる文章が書けなくなりました。
 そこで考え出したのが「モルバランとメルリッチェル」という架空の人物を登場させてのメルヘン風のお話でした。しかし、いつまでもこの二人のお世話になっているわけにはゆきません。そろそろ自力で表現できるようにしたいと思います。
 そんなわけで、この二人のお話は今回が最終回です。
 
 もとよりこの二人は、電脳空間に私が仮に置いたアバターのようなものですが、その二人にずいぶん助けられました。
 モルバランとメルリッチェルに感謝します。
 そしてこの二人が、今後とも、どこかの仮想空間で元気に過ごすことを祈りたいと思います。


    
    

 モルバランがいつものように駆けてきた。
 「アラ、どうしたの、なんか複雑な表情をしているわね」
 と、メルリッチェルが訊ねた。
 「そうかもしれない。事実、複雑な心境なのだ」
 「何かあったの」
 「何にもないといえば何にもない。ま、もとへ戻るということだ」
 「なによそれ、さっぱりわからないわ」
 「つまり、もう俺の出番はなくなったってこと」
 モルバランはメルリッチェルをしっかりと見据えていった。
 「もうここへは駆けてこないの」
 と、メルリッチェル。
 「そういうことだ。でも、ここへは来ないが駆けることはやめない」
 「じゃ、どこへ駆けてゆくの」
 「これからも俺を必要とする人や場所へ」
 そういうと、モルバランは駆け始めた。
 「待って、私も一緒に行くわ」
 とメルリッチェルもあとを追った。
 
 一陣の風に散り始めた桜が舞った。

   写真はいずれも名古屋市東区にて 四月三日
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