六文錢の部屋へようこそ!

心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

《ゴシニミール》とモルバラン

2010-04-02 14:00:29 | 写真とおしゃべり
    

 モルバランが相変わらず駆けてきた。
 「今日はどこへ行ってきたの」
 と、メルリッチェルが訊ねた。
 「街の中へ行ってきた」
 と、モルバラン。
 「へ~、珍しいわね。それで何を見たの」

    
 
 「《ゴシニミール》」
 「なに、その《ゴシニミール》って」
 「ほらこれさ」
 といって、モルバランは数枚の写真を見せた。
 「え~と、え~と、確かに街の写真だけど・・・」
 メルリッチェルはその共通点を探した。
 「そういえば、みんな窓越しみたいな写真ね」
 「だから、《越しに見る》といったろう」
 「うそ、少しアクセントをつけて《ゴシニミール》っていったじゃない」
 「どちらでも一緒だ。春だから格好つけてみた」

      
 
 「春は関係ないわよ。で、窓越しだとどう違うの」
 と、メルリッチェル。
 「いつもの景色と違って見える」
 「そういえばそうね」
 「でもこれは特別なことではない」
 と、モルバラン。
 「どうして」
 「誰もが何かを見るとき、○○越しに見ているからさ」
 「○○越しの○○って」
 「そう、この写真のように実際の枠の時もあるし、目に見えない気持ちの時もあるし、 考え方の時もある」

    
 
 「それが○○越してこと」
 「そうさ、だから同じものを見てもみんなが同じように見ている訳じゃない」
 「それはそうね。それがひどくなると、ある人には見えて、あるひとには見えないこともありそうね」
 と、メルリッチェルが問題の枠をぐっと広げた。
 そして、いたずらっぽくいった。
 「ちょうどあなたが私を見るようにね」
 「そんなことない。ちゃんと見てる」
 と、少し慌ててモルバランがいった。
 「アラ、ちゃんとかしら。本人がそう思っててもやはり《ゴシニミール》でしょ」

    
 
 モルバランは一本とられた表情で立ち上がって駆けだした。
 「今度はどこへ行くの」
 「いろいろな《ゴシニミール》を探してみる」
 そんなモルバランの後ろ姿をメルリッチェルは春の陽射し「越しに」見送っていた。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする