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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

「美しい国・日本」と教育基本法

2006-09-29 04:43:37 | 社会評論


  もう一度考えてみましょう!

  これは、ネットで知り合った若い人へのコメントです。
 
 彼は、日本というこの郷土を愛し、その文化や伝統を愛するが故に、「愛国心」を養成する教育基本法の改正があってもよいのではないかと考えているらしいのです。
 誤解をされるといけないので、予め断っておきますが、 彼は決していわゆる右翼ではありません。むしろ日本の軍国主義化には反対なのです。ここにこそ問題があるように思います。この風土や文化や伝統を愛する、いわば 愛郷心が、愛「国」心へと絡め取られて行く過程です。

 戦前の多くの日本人もそうだたのではないでしょうか。 「愛郷」というカテゴリーが「愛国」へと収斂し、気が付いたら侵略戦争のまっただ中にいたのです。

 以下は、そうした歴史的経験を、若い世代に何とか伝えたいと思って書いたものです。

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●教育勅語 

朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世世厥ノ美ヲ濟セルハ此レ我カ國體ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ學ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓發シ徳器ヲ成就シ進テ公益ヲ廣メ世務ヲ開キ常ニ國憲ヲ重シ國法ニ遵ヒ一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ是ノ如キハ獨リ朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス又以テ爾祖先ノ遺風ヲ顯彰スルニ足ラン斯ノ道ハ實ニ我カ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ子孫臣民ノ倶ニ遵守スヘキ所之ヲ古今ニ通シテ謬ラス之ヲ中外ニ施シテ悖ラス朕爾臣民ト倶ニ拳々服膺シテ咸其徳ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ

   明治二十三年十月三十日    御名御璽

●現代口語訳

 私の思い起こすことには、我が皇室の祖先たちが国を御始めになったのは遙か遠き昔のことで、そこに御築きになった徳は深く厚きものでした。我が臣民は忠と孝の道をもって万民が心を一つにし、世々にわたってその美をなしていきましたが、これこそ我が国体の誉れであり、教育の根本もまたその中にあります。
 あなた方臣民よ、父母に孝行し、兄弟仲良くし、夫婦は調和よく協力しあい、友人は互いに信じ合い、慎み深く行動し、皆に博愛の手を広げ、学問を学び手に職を付け、知能を啓発し徳と才能を磨き上げ、世のため人のため進んで尽くし、いつも憲法を重んじ法律に従い、もし非常事態となったなら、公のため勇敢に仕え、このようにして天下に比類なき皇国の繁栄に尽くしていくべきです。これらは、ただあなた方が我が忠実で良き臣民であるというだけのことではなく、あなた方の祖先の遺(のこ)した良き伝統を反映していくものでもあります。
  このような道は実に、我が皇室の祖先の御遺(のこ)しになった教訓であり、子孫臣民の共に守らねばならないもので、昔も今も変わらず、国内だけでなく外国においても間違いなき道です。私はあなた方臣民と共にこれらを心に銘記し守っていきますし、皆一致してその徳の道を歩んでいくことを希(こいねが)っています。


   明治二十三年十月三十日    御名御璽

 
 言うまでもなくこれは戦前の教育基本法に相当する「教育勅語」です。これに敢えて、*****さんのお書きになった前のご発言を対置します。

>>愛国心教育というのは国のために命を捨てろとか
御上を愛せという育なのでしょうか。
>>それとも歴史が築き上げてきた日本固有の伝統や文化を守り
若者に教えてい教育なのでしょうか。
>>日本の子供たちに伝統や文化や日本の精神を教えこは
いとなのでしょうか。


 この教育勅語と*****さんのご発言とはそんなに変わりませんね。教育勅語にも、「国のために命を捨てろとか御上を愛せ」とは書かれてはいません。
 また、*****さんの主張される「歴史が築き上げてきた日本固有の伝統や文化を守り」なさいはとても強調して書かれていますね。 
  要するに、*****さんがこれまでおっしゃってきたことの集大成のようなものですよね。

 しかしです、しかしこれが実際には、「国のために命を捨てろとか御上を愛せ」として機能したのです。

だから危ないのです。  
 
 *****さんが、軍国主義を指向しているといいたいのではありません。むしろそれを避けようとしていらっしゃることは十分理解しています。
 それだらこそ、*****さんのお持ちになっている愛郷心はそれとしても、あるいはまた、*****さんなりの愛国心をお持ちになることは認めるとしても、それを法制化し、あまねく他者に強要することは避けるべきではないかと思うのです。

 法制化されたものは解釈次第で、一人歩きします。
 上の勅語でも、「家族愛」の強調が、天皇を中心とした家族意識へと拡張され、国民は天皇の赤子と位置づけられました。こうなれば「親に孝」ですから、ましてやその親が「現人神」であるとしたら、国民たるものそれに抗うことは出来ない仕組みになってしまったのです。

 そしてまた、「国内だけでなく外国においても間違いなき道です。」とされることにより、海外への進出、そこでの日本語や神社参拝の強制、創氏改名の強要が当然視されました。

 ちなみに、朝鮮半島や中国での日本の植民地支配についての反感がとても根強く、今なお警戒心が強いのはそのせいです。
 ヨーロッパなどの植民地支配は、経済や軍事、政治の面ではその支配を貫徹しましたが、被支配民族の文化や伝統を根底から破壊した例は少ないようです。そのせいもあって、かつての宗主国と被支配国が独立後も仲良くしているところが結構あります。

*****さん これはレトリックの問題ではありません。
 いったん法制化され、実効支配の場を与えられると、それらは物質的な効力を与えられるのです。

 以上の考察から、私は、*****さんのお持ちになる愛郷心や、あるいは愛国心は、
教育基本法の改正にはむしろそぐわない
と思います。
*****さんや私が愛する「美しい日本」が、「醜い日本」にならないためにも、ここは踏ん張るべき時だと思うのです。
コメント
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