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今日はなにいろ?

最近読んだ本 「虚貌」 雫井脩介

2008-06-30 08:12:21 | 読書感想文
雫井作品は2作目(「犯人に告ぐ」に継いで)

最近文庫本を読んだあと、最後にある「あとがき」やら「解説」もしっかり、すみずみまで読むようにしている(昔は、全然読んだことがなかったが、これ、けっこう面白いと最近気づいた)

この作品の解説(福井さんと言う作家が書いているのだが)を読むと、これが発表された後、絶賛と同時に「それはないだろう」と言う批判もあったらしい。いわゆる賛否両論の作品ということか…。

確かにこのトリックを使ってしまえば、どんな犯罪も成立してしまう。本格的ミステリーを楽しみにしている読者にとっては、とんだ肩透かし、ってことになる。

が、このトリック、実はよく使われる。
ハリウッドの映画とか。アニメにも。ルパンとか名探偵コナンにも出てきそう。
ただ、それらのすべてが華やかな作品や娯楽作品が背景になっている、と言える。

ところがこの「虚貌」、これが地道。全然娯楽じゃない。
登場人物、全てが全て、暗い。
事件を捜査する退職間もない老刑事。彼はガンを患っていて、余命いくばくもない。その燃え尽きそうな体にむち打って、捜査を続ける。それが辛そう。
彼と一緒に捜査する刑事たち、これらも暗かったり、極端に生意気だったりして魅力ない。
うつ病を患っている刑事すらいる(カウンセラーに通っている。これがミソであるのだが)
老刑事の娘、彼女はタレントなのだが、彼女を取り巻く世界、これも暗い。
暗くて重くて、最後もすっきりと言うオチじゃない(登場人物のほとんどが、死ぬし)

だが、最後までぐんぐん読ませる文章力がある。
一つの文学作品として読んだので、私はそのトリック、「それはないだろう」と(少々思ったけどそんなに気にならなかった。
推理小説というより、雫井作品として読むといいのかも知れない。

最近読んだ本 「武器よさらば」

2008-06-27 13:25:43 | 読書感想文
「武器よさらば」ヘミングウェイ
今、話題の新訳シリーズ。
ヘミングウェイは初めて。
こんなにも読みやすい文章を書く作家だとは思わなかった。
文豪って簡単な文章でもわざと回りくどい表現をして、素人を煙にまく…と言うイメージがあったのだ。
ヘミングウェイは新聞記者だったそう。その時「余計な修飾語は使うな、特にオーバーな形容詞を使わないように」と指示されていたらしい。

私の好きな作家たちはみな、上手な修飾語を使い、素敵な形容詞で文を表現し、「たとえば~」という言葉を使って、その時の様子や状態を見事に表現する。
そう言う作家が上手い文章を書く作家だと思っていたのだが、ヘミングウェイは極端に言えば、それらの一切を省いた最小限度の言葉で、表現している。
考えたら、そう言う文章を書く人が本当に文の上手い人、ってことになるのかも知れない。

タイトルからして、バリバリ戦争小説だと思っていた。
もちろん、戦争が舞台。第一次世界大戦下、志願兵としてやって来たアメリカ人の青年が主人公だ。
が、戦争の悲惨さやら逼迫した状況は感じられない。
むしろ、これが戦争?と言う感じすら受ける滑り出し。
飲んで、女と遊んで、お喋りして。そんな毎日。
そこにキャサリンと言う女性が現れる。看護士見習い。主人公の青年は最初、それほど、彼女を真剣に愛しているようには思えない。遊びみたい。
休暇後、戦況は一気に悪化する。
主人公も大けがを負い、入院する。そこにキャサリンがやって来て二人の愛は一気に燃え上がる。
戦争はますます悪化し、二人は逃亡する。スイスでひっそりと逃亡生活を送る二人。つつましいながらも幸せな日々を送るのだが…。
思いも寄らぬ出来事で、さっと幕を下ろす。
最後も余計な修飾語も形容詞もない。
だからこそ、こみ上げる悲しみは大きい。
戦争小説と言うより、恋愛小説だった。

最近読んだ本

2008-06-09 09:47:10 | 読書感想文
今、古典作品を新たに訳し、読みやすくした本が発売されている。
手に取ってみたけど、確かに読みやすそう。
スタンダールの「赤と黒」
昔、昔読んだのだけど、もう1回、この新訳で読み直そうかと思っていたら、今日のネットのニュースで「誤訳博覧会」と批判されていると載っていて、あらら~。
翻訳って、辞書通り訳していけばいいってものじゃなく、やっぱり文学的な表現とか意味合いとか、いろんなものが加味されるんだろう。
難しいものです。

最近読んだ本は、その新訳シリーズ(光文社)の一つ。



「幼年期の終わり」アーサー・C・クラーク著
この作家さん、あの「2001年宇宙の旅」をキューブリック監督と構想した人だそう。
文庫本の帯に「2008年大学読書人大賞」受賞!と書かれていた。
この賞がどんなものなのか、よく分からないのだけど、きっと凄いんだろうなと思って購入。

SF小説は好きで、昔随分読んだけど、最近は久しぶり。
SF映画も好き。でも、どうしても前に観たような…という内容と映像になってしまう。
この小説、1952年に書かれているそうで、そう考えると斬新。

宇宙からやって来た生物が地球人を支配する(友好的)それによって、地球人は画期的に向上する。が、なぜその宇宙人は地球人をコントロールしているのか、彼らの魂胆はまったく見えてこない。
そして、驚きの結末が…。
この小説、何度か映画化を試みているけど、未だに制作に至ってないとか。
オーバーロード(宇宙人)が国連の事務総長を救い出すシーンあたり、映像にしたら凄く面白いシーンだと思ったけど、全部を映画にするのは確かに大変そうだ。
エンディングも哲学的で、娯楽映画には位置してないし。

SF小説は作家の想像力が生み出すもの。
このクラークさんの想像の力、凄い。
「インディペンデンス・ディ」とか「エヴァンゲリオン」にも影響を与えた作品だそう、です。