イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ただのハプニング

2009-10-31 00:25:41 | 夜ドラマ

昨年春の、劇場版公開協賛再放送ラッシュからはまった『相棒』シリーズ、水曜900の本放送を録画視聴で追尾するのは、今月から始まったseason 8が“2季め”になります。

まぁそうは言っても今季は新相棒・神戸役及川光博さんのお披露目シリーズでもあり、長い目で見てのキャラのプレゼンテーションを兼ねてもいるだろうし、面白かったり面白くなかったり、新顔参入ゆえの目新しさを感じたりちょっと違うなぁと思ったりしながらついて行ければいいやと思い、あまり前のめりには観ないようにしていたのですが、28日放送の第3話『ミス・グリーンの秘密』、神戸くん初のプチ活躍篇ということを脇に置いてもどうして、なかなかの好篇でしたよ。

ゲスト草笛光子さんを初めから想定した、これアテ書き脚本かしら。人生の年輪と晩秋を感じさせつつ、どこか妖精のように浮き世離れ感をきらめかせる、花好きお庭好きの老婦人、ミス・グリーンこと二宮“緑(みどり)”さん。SKD出身の、これだけの大御所お姉さまをキャスティングするのですから、主役の次に重い役=犯人役なのは、予告の段階で観客全員周知です。ドラマの眼目は動機と、犯行の仔細、および解明の過程、そして顛末。

何より緑さんが、最初の訪問聴取から、特命コンビにピッと来るものを感じ、シッキムの味を利きわけ宅急便の球根の品種を読み取って庭に咲いた姿をイメージする知的な警部さんには「すべて見破られるならこの人しかいない」と敬服、あとからその上司の指令なのミエミエで偵察に現われた、勘はよさそでどこか隙だらけな部下には「まだまだ芽吹いたばかりの、初々しい新芽さん」とひと目惚れしたのがよくわかって、お話全体の味わいを重苦しさから免れさせてくれましたよね。たとえ主題が殺人でも、人が人をリスペクトし、好意を持つというポジティヴな感情を底流させれば、物語世界はひとつまみ明るくなる。

時制の倒置法で、冒頭でバスケットを提げ杖をついて公園に向かっていたミス・グリーン、妹の命を奪った心ない動画マニアの若者を出会いがしらの激昂もみ合いで殺めてしまったけれど、共犯のもうひとりの青年を、本当は好きこのんで謀殺したかったわけではないはず。人生の晩年、妹の無念をのんで何もせずにいることはできない、でも「できれば止めてほしい、裁いてほしい」思いがどこかにあっての計画であり実行だったはずです。「新芽さん」と呼ばれた神戸くんが、見事にその役を果たしました。

前任の亀山くん(寺脇康文さん)なら熱く、泥臭く体当たりで説得したであろう、爆弾をはさみ周囲を警官隊狙撃隊に包囲されての大詰め、あくまでスマートに理詰めに、でも女性の琴線をしっかり震わせて思いとどまらせた神戸の人間性が、登場通算4話め(前season 7最終話から)にしてやっと際立ちましたね。

神戸くんの「なぜ結婚しなかったのですか?」という、スーパー不躾な質問に、「たぶん、生きるのに忙しかったのね」「私たちの年頃の人間は多かれ少なかれそうだと思うけれど、子供の頃に戦争が終わって、何もかも変わってしまって、親を亡くし食べ物がないからもう必死よ」「働いて、寝て、また働いて、平穏に、平凡に、なんとか暮らしを立てて、人さまに迷惑をかけないようにって生きてきた」…「もちろん、楽しい事も、嬉しいこともいっぱいあったわよとひとり語りに、生々しい暗い体験や恨みがましい苦労話などひとつも織り交ぜずに笑顔で述懐するミス・グリーン。戦後の荒波に耐え身を寄せ合って、ずっと妹さんとの二人暮らし。遺影の妹さんも姉の緑さんとそっくりの、若き日の美貌をとどめた素敵な老婦人でした。ともに甘いロマンスも、胸ときめく出会いもないわけではなかったでしょうに、「姉(妹)をひとり残して幸せに嫁ぐのは心苦しい」と思いとどまって姉妹の孤塁を守ってきたはず。人の痛みを痛みと思わない卑劣な若者たちの、悪質ないたずらが、姉妹にやっと訪れた満ち足りた晩秋を断ち切ってしまった。

そんなことどもを、ワンシーンの三つか四つの台詞で思い致させる、やはりこの役は草笛光子さんに尽きますね。わざと見つけやすいところに隠しておいたともとれる凶器=血痕のついた折れた杖を神戸に発見されたときの、覚悟と諦めを意地に包んだ眼差しの悲しさ美しさは喩えようもありませんでした。

ドラマ話法的にも、イングリッシュガーデンの家に住む老嬢のフェアリーテール的世界から、一転、爆発物処理班を引き連れた機動隊ヘリ出動で公園を取り囲む大捕り物へと場面転換・空気転換する離れ業、賛否あるかもしれないけれど月河は、ダイナミックかつファンタジックでとても痛快に観られましたよ。

足の不自由な老婦人が、腕力ではかなうはずのない屈強な若い男相手に終始優勢を保ち、乏しい体力で一撃一挙に我が身にも同時に始末をつけるためには、刃物より毒物より、実は爆弾がいちばん合理的な近道だったりします。お婆ちゃんとあなどるなかれ、戦争体験世代に爆薬は別世界の存在ではないし、しかもガーデニング用品の大半を通販で揃える緑さんは、パソコン、ネット検索、携帯メールにも精通している。この辺りの人物像も草笛さんが演じたからこそリアルに立った。庭仕事姿や英国風クラシカルファッションが似合うだけではなく、パソコンをひとりで操作する姿もサマになる、この年代の女優さんってちょっとほかにはいないと思います。

ミス・グリーンにあわや吹っ飛ばされかけた共犯の歯科医院ドラ息子役は、『仮面ライダー響鬼』の轟鬼さん川口真五さん。7年前のSeason 1『目撃者』でのボウガン男に続いて、『相棒』ではどうもロクデナシづいています。この人はスポーツ短髪じゃなく中途半端なロン毛にしただけで、ガタイはいいし浅黒いし、さほど演技を根底から変えなくても立派にチンピラに見えますな。

前述の時制倒置法による冒頭、ステッキ姿のミス・グリーンと、グラサンにiPod装着で自転車で公園に向かうドラ息子、続いて追跡するパトカーと捜一トリオ&特命コンビのカットバックで「草笛さんが悪そうなグラサン男に狙われて、警察が阻止しようと追っている?」と真逆の想像を一瞬させた、この作りもなかなかのワザありです。

最後のクレジットを見て驚いたのは、ミス・グリーンに鉄槌下された主犯の動画投稿マニア役笠原秀幸さん。1995年のNHK『大地の子』の陸一心少年時代を演じた子役さんでしたね。録画で再見するとカメラの角度によって当時の繊細な面影がそのまま。今回はどうにも弁解の余地のない不心得野郎役でしたが、大人の俳優としてちゃんと活躍されているのは嬉しい話。

ミス・グリーン妹の転落死現場となった公園を実地検証する右京さん(水谷豊さん)に、ショルダーバッグの扱いを実演説明してくれた市民バードウォッチャー役越村公一さんは、昨年の昼帯『白と黒』で、製薬会社契約詐欺をはたらくニセ弁護士役でした。

今季は前沢保美さんの出番はあるかな。どんな役かな。隅々まで目が離せない『相棒』、気がつけばどんどん前のめりになっているんだなぁ。

コメント
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