イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

お捨てヶ淵

2009-08-02 17:23:23 | 昼ドラマ

『夏の秘密』7月最終週、第945話まで進みました。2425話でひとまず自殺として終息していたみのりの死の謎再燃。

しかも、一年後の下町を再び訪れた紀保(山田麻衣子さん)に「あんたも気に病んでいるんじゃないかと思ってね」と電話で水を向けた加賀医師(五代高之さん)が、紀保が診療所を訪ねた途端、貸し金業雉牟田(四方堂亘さん)の手先にドサクサで刺され、「みのりには口止め料として、まとまったカネが入ることになっていた、カネを渡す役だった俺が言うんだから間違いない、自殺なんかするわけはない、みのりは何者かが…」とまで言ったところで意識不明に。

そもそも“みのり=自殺”の根拠は、自筆の遺書があったということだけで状況には不審な点が多すぎ、『相棒』の右京さんなら、気になってしょうがない“細かいこと”が山積しすぎて、顔面プルプル震え死ぬんじゃないかってぐらいだったのですが、物語上はそこはひとまず突き詰めず、自棄になりかけた伊織(瀬川亮さん)と、後ろ髪を引かれる思いながらもどうにかもとの自分の世界に戻って行こうとする紀保とがどれだけ距離を詰められるか、あるいはその過程で明らかになった伊織父と紀保母との不幸な恋、及びその件以来精神に異常をきたした伊織母・みずえ(岡まゆみさん)の存在で受けた紀保の衝撃など、主役ふたりの純粋ながらも痛ましい感情の衝突交流に集中するように語られていました。

“一年後”に時制が移ったここへ来て、再びみのり事件にフォーカスが。しかもまるっきりのまたぞろ蒸し返しというわけではなく、①:みのりは伊織の妹で、伊織同様紀保母に対し、父・伊久馬を不倫心中に巻き込んだ仇として恨みを抱いていて、その娘である紀保のことを雑誌切り抜きなどで調べ、紀保婚約者たる龍一を狙って出張先ホテルで待ち伏せ、薬物を使い関係を持った(らしい)②:みのりが伊織の妹であることは、現時点で龍一しか知らない…という条件が加わってのフォーカスです。

“そもそも”の話をすれば、みのりの死が殺害事件であると断定されたのも、龍一がただひとりの容疑者として逮捕訴追されたのも、アリバイがないことと浮舟の蔦子(姿晴香さん)の雨中を走り去る男の目撃情報を除けば、現場のみのりの部屋から発見された腕時計だけがほとんど唯一の証拠で、それも状況証拠。たったこれだけの材料で、札つきでもない真っ当な社会的信用ある弁護士を逮捕起訴よくできたもので、リアル世界なら世紀の冤罪事件です。

それでもこのドラマ、1話のツカみが“結婚式最中の新郎逮捕でヒロイン悲劇のどん底”であるならば、多少根拠が薄弱でも万難を排して龍一に手錠をかけ、花嫁紀保を疾走させてしまうし、“拘置所のガラス越しに確かめる信頼の絆”を強調せんとすれば、どう考えても無理があるのに龍一を勾留させ続ける。龍一が自由になり、紀保が伊織に対し芽生えた思いとの板挟みになる状況が必要であれば、唐突でも後出しでも遮二無二遺書が存在したことにして自殺に落ちつける。自殺と結論が出たことで伊織の心に吹く嵐と、気遣う紀保との接近をフィーチャーする段では、「自殺にしてはヘン、こんな所もこんな点も」という疑問や割り切れなさはスマートにマスキングして、キスシーンや月の海辺での抱擁に美しくスポットを当てる。

「いまはこういう趣旨の、こういうストーリーをやっていますからね」という眼目に、きわめて忠実にシンクロし通している。“美しきご都合主義”…と言って語弊があれば、“方円の器に随う水のような”ストーリーテリングと呼んでさしあげたい。安直と呼ばば呼べ、「そんなことどうでもいいのに、いつまでこだわってんだよ」というぐらい、とかく1ネタ1モチーフ何週も費やして引っ張り粘着が続くドラマの多い帯枠において、『夏の秘密』の話法、叙述法の流麗さ澱みなさは褒めてあげていいと思います。

視聴しててイライラしないドラマとでも言いましょうか。“イライラしない”なんて、作品としてはえらく低いハードルのように思えますが、どっこい、連続ものにおいて、人物にであれストーリーにであれ、気持ちを乗せて観るためには何としても必要な条件なのです。

残り1ヶ月4週、これからは“拡げつつ畳み、走りつつゴールに向かう”局面になってきますが、自殺であれ他殺であれ死んだみのりは、単純に伊織の妹なだけではなく、みずえが伊久馬以外の男との間にもうけた不義の子かもしれませんね。それも羽村社長(篠田三郎さん)との子な可能性も。伊織が見舞いにきたときは「あなたに妹ができたのよ、今度はきっと女の子よ」と過去を思い出してか微笑んでいたのに、紀保の訪問(みずえは紀保と、紀保母=紀佐とをたびたび混じって認識する)後、赤ん坊に見立ててお腹に入れていたラグビーボールを殴打し昂奮して自傷するなど、“この子を身ごもったことを恨み嫌悪する”ような行動も見せました。

みのりが加賀の言うように「顔を別人に作り変えることに執着していた」のも、伊織と同じ父ではなく、母の不倫相手の面影をうつす自分の容姿を恥じ嫌っていたからと考えれば符合します。

だいぶ前ここで、みのりは“ジェンダーの問題”を抱えていたのでは?と暴論考察したことがありますが、“子を身ごもる”ということをめぐる、あまりにもいびつな行動が、なんとなくそっち方向への連想につながってしまったのです。女に生まれた以上母になりたい、お腹をいためて産んだ我が子を抱きたいという平凡な願いも、みずからが不倫の子や妾腹の子で戸籍が複雑、あるいは親たちがそのためにごたついた等のトラウマを持って成人した場合、どうしても歪みがち。“ジェンダー問題?”に似た匂いは、みのりが自分の出生を呪っていたがゆえに発したものだったかも。

みのりが加賀の診療所から薬物を横流ししてまでつかんだ金で、真っ先に直した顔のパーツが“泣きボクロ除去”…というところで、みのりの実の父親は泣きボクロ持ちの可能性が高いですが、この先、紀保が羽村社長の若い頃の写真を見て…なんてことになったりして。

さて、NHK『つばさ』の、腹違い叔母さん紀菜子さん(斉藤由貴さん)も、夫(山下真司さん)に切望されながら子供をもうけることを躊躇していたのですが、つばさ(多部未華子さん)知秋(冨浦智嗣さん)姉弟の訪問をきっかけに夫婦の行き違いも解消して、どうやらめでたく子作りの秋になりそう。川下り船頭さんのトミー、自宅での私服はやっぱりラガーシャツで、『スクール・ウォーズ』意識しまくりでしたな。「船頭は足だ!」「県観光局上層部の皆さまも大変心配しておられる!」とかもやってほしかった(他局無理)。

『夏の秘密』が透明度の高い水だとしたら、『つばさ』はごてっと粘度の高い、ぐっちゃぐちゃ煮込んだ豚汁みたいなドラマですな。方円のウツワどころか、いちいちガチャガチャ引っかかったりウズまいたり、乱切りの具がノドにつかえたりしてイライラさせまくりなんだけど、朝からこんだけ“爽やかさ”と対極だと、逆に月河みたいなヘソ曲がりはおもしろくてしょうがない。次週予告では、Jリーガー生命を事実上断たれた翔太(小柳友さん)が鷲津組構成員(@『任侠ヘルパー』)みたいになってたなあ。

欲を言えば、千代お祖母ちゃん(吉行和子さん)が、華やかだけどこすっからい同級生の城之内会長(冨士眞奈美さん)にどうつばさ復帰を承諾させたのかもっと見たかったですね。冨士さんスタジオパークにゲストインしないかな。

コメント
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