イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

こうすれば落ちない

2009-08-28 17:43:02 | 夜ドラマ

『夏の秘密』65話にして最終話。

全体としてはよくまとまっていたし大きな破綻もなかったと思いますが、ここで複数回書いたように、ヒロインカップルが必死に解明せんとする“謎”が、すべてドラマ開始以前の時制の、どうにでもマスキングorミスリード叙述し得る回想部分に終始していたこと、しかも謎のうちヒロインと相手役が結ばれる心理的障害となる部分が、ほぼすべて“親同士の被害加害因縁”に尽きていたことで10円“安”となってしまった。

これだけは何度繰り返し強調しても、斯くも考え抜かれ丁寧に構成された作品に対してならば、失礼にはならないはずです。

今作、全65話を書き切った脚本の金谷祐子さんは、07年の同枠『金色の翼』公式インタヴューで、「3ヶ月放送の昼帯ドラマだと、話数が多く長いので、とかく“母子2代の物語”のようにしたくなりがちだけれど、あえて“ひと夏の物語”にしたいと思った」と語っておられます。今作は現在時制だけで“事件の夏”“再帰と解明の夏”“その後の夏”と都合3夏にわたりましたが、それは氷山の一角で、“すでに終わっている、親世代の青春時代”を取り込むことで、結局まんまと“親子2代の物語”にしてしまった。

しかもその、謎の核心たる親世代部分の物語については、ほとんど紀保(山田麻衣子さん)父=羽村高広社長(篠田三郎さん)の過去語り一本かぶり。足りない部分は、精神が壊れていたはずの伊織(瀬川亮さん)母みずえ(岡まゆみさん)がいきなり正気に戻って、筋道・時系列整った回想を繰り広げて補完してしまいました。

これは、3ヶ月1565話をもたせる方法論として、敢えて言いますが、狡猾と思います。

 改めて、長尺多話数連続ドラマにおける“謎引っ張り”手法の難しさを感じずにはおられません。伊織(瀬川亮さん)・みのりが恋人同士ではなく生別兄妹だったこと、みのり死の直前、加賀医師(五代高之さん)の居合わせたときかかってきた電話の相手先女性名が“さとみ”(=羽村高広社長の婿入り前の旧姓・里見)であること、この2大引っ張り謎が、今作あまりにあっさり見当がつき過ぎだったため、「実はこうだったんだ」との解明段階で「うあああーっ、それがあったか!」というサプライズ、カタルシスが少な過ぎた。

これが1時間枠1話完結の『相棒』や『9係』『おみやさん』ぐらいの叙述テンポ、解決スパンで提示された謎だったら、「えーっ、どういうことだろう?」「チョット待って、これこれの線もありじゃない?」→(CM挟んで)「うっわー、やっぱりそれだったか!」と、視聴者的にも謎提示→あれこれ推理→虚をつかれる解明の意外さ、とリズムがちょうどよくなるんですけどね。

1時間枠の中盤部分をギリもたせられる程度の単純な謎を、複数話、複数週引っ張ったために、ストーリー全体が間延びし緊張感を欠いてしまった。

生まれ育ちの違い以外は法的にも倫理的にも、外から課される禁忌はない紀保と伊織の相愛において、“あの人と結ばれてはならない”“好きになってはいけない”と拘束する要因は、“自分の親が相手の親を殺し(殺され)、精神を破壊し(され)、産まれた子を育てられなくし(され)た”という心理的罪悪感、自己規制のみ。2人とも早い段階で自分が相手を愛し大切に思っていることを相互に自覚して、ドラマ叙述表現上もわかりまくり、それでも一線を自主的に封印していただけなので、05年『危険な関係』に始まる背徳3部作のような“憎しみと敵対もしくは打算の衣の下、深く押し隠した思慕”といったアンビヴァレントな胸迫る緊張感も薄かった。

いま少し、“謎・真相究明のために同士を結んだが、真相が明らかになればなるほど、2人の距離が離れざるを得なくなって行く”構図が、複数週にわたってきっちり立っていたら、締まった恋物語になっていたのではないでしょうか。

……しかし、これらの残念な点を差し引いてもなおお釣りの来る魅力も数々ある帯ドラマではありました。何より、ヒロイン紀保役に、アラサー美人さん系から山田麻衣子さんを発掘起用したことはクリーン中のクリーンヒットだったと思います。昔“根暗”“根アカ”という言葉がありましたが、山田さんは“根アカ”と言うより“根華(はな)”なんですね。どんなに落ち込んだ場面、悩みに浸された場面でも“根に華”がある。劇中、「この状況なら、もうチョット見せる表情のバリエーションはないものか?」とじれったく思ったことも一度二度ではないにもかかわらず、「心のうちをわかりやすく顔に出すというのは慎みがない、そう育てられたセレブお姫さまなんだな、微笑ましい」と思わせてしまう力がありました。

何だかんだ言っても、思えば、“自分が現在直面している謎、疑問点、打開せねばならない局面”に真剣に立ち向かい、掘り下げれば掘り下げるほど“自分の出生以前に親たちがやらかしてしまった不始末、不首尾、罪科”に突き当たるというのは人生の普遍かもしれない。紀保も山田麻衣子さんもよくやった、よく戦った。

最終話、脇の諸君諸姉の後日もよく拾ってくれたと思います。個人的に何より感動ものだったのは、蔦子さん(姿晴香さん)との出生の秘密を胸に秘めたまま、いつか来る実母とその夫(=加賀医師?)との日々のために?介護福祉士の資格取得に励む護(谷田歩さん)。

この下町から、堅気でやり直す決心した護が、酒好きにふさわしい居酒屋でも、鱶鰭スープの中華飯店でもなく介護士。コレ、『任侠ヘルパー』とのコラボと見ずして何と深読みしようぞ。タイヨウに就職して、背格好容貌そっくりの二本橋(宇梶剛士さん)に「あなたも研修ですか」→(つかつかと耳元で)「…雉牟田興業から?」とささやかれる姿が目に浮かぶじゃないですか。“隼”會の“鷹”山(松平健さん)の傘下に、“雉”牟田(四方堂亘さん)がいてもおかしくない。護は雉牟田に借金のある身です。

「ちっ違げーよ!オレはおふくろ…いや姉さんが店閉めたとき役に立てればと思って…」…顔を見合せる彦一りこ五郎三樹矢、ソッポ向く六車、「いやね、皆さん力を合わせてね、現場を知ってください、お願いしますよ」と所長(大杉漣さん)…という図が速攻思い浮かびます。

雉牟田興業と言えば、加賀医師のおかげで「オレ死にたくねーよぉ」から一命を取りとめたらしい、GLAYTERU似の犬山(井澤正人さん)も、元親分の雉牟田に背中蹴っ飛ばされてフキ(小橋めぐみさん)&雄介(橋爪遼さん)の町内会披露宴に角樽届けに来てましたな。『任ヘル』7話で初美(西田尚美さん)に気持ちありそげだった同級生滝本(小市慢太郎さん)の酒屋で働いてたりして。あちらは千葉だったからちょっと無理あるか。

コメント (2)
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