から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

第89回アカデミー賞で事故が起きた件。(授賞式の感想)

2017-02-27 15:30:19 | 映画


先ほど、第89回アカデミー賞の授賞式が終わった。
で、授賞式のフィナーレである作品賞の発表で「作品を間違える」という大事故が起こった。これはさすがにマズいでしょ。。。

まず、受賞結果をまとめてみる。

作品賞:ムーンライト(うぉーーーーー!!!!!!)
監督賞:デミアン・チャゼル(ラ・ラ・ランド)
主演俳優賞:ケイシー・アフレック(マンチェスター・バイ・ザ・シー)
主演女優賞:エマ・ストーン(ラ・ラ・ランド)
助演男優賞:マハーシャラ・アリ(ムーンライト)
助演女優賞:ヴィオラ・デイヴィス(Fences)
脚本賞:マンチェスター・バイ・ザ・シー
脚色賞:ムーンライト
撮影賞:ラ・ラ・ランド
編集賞:ハクソー・リッジ
美術賞:ラ・ラ・ランド
衣装デザイン賞:ファンタスティック・ビースト
メイキャップ賞:スーサイド・スクワッド
視覚効果賞:ジャングル・ブック
録音賞:ハクソー・リッジ
音響効果賞:メッセージ
作曲賞:ラ・ラ・ランド
主題歌賞:「City of Stars」(ラ・ラ・ランド)
アニメーション映画賞:ズートピア
外国語映画賞:セールスマン
ドキュメンタリー映画賞:O.J.: Made in America


作品賞のプレゼンターであったウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイが「作品賞は『ララランド』!!」と発表し、スタッフ陣、キャスト陣が歓喜のなか壇上に上がり、ラ・ラ・ランドの製作者メンバーが受賞スピーチを終えてから、まさかの「間違えました、作品賞は『ムーンライト』でした」の修正が入った。いったい何が起きているのか???何かのドッキリ!??会場が騒然とするなか、ララランド側の製作者の男性がその間違いを証明するため、発表カードを壇上から公開するパフォーマンスでドッキリでないことがわかった。どうやら、直前の結果であった主演女優賞の発表カード「エマストーン(ラ・ラ・ランド)」」をそのまま、作品賞のプレゼンターであるウォーレン・ベイティに裏のスタッフが渡してしまったようだ。まさかの逆転劇で「ムーンライト」の関係者が壇上に上がり喜びを爆発している中、その後ろで呆然と佇むデミアン・チャゼルを目撃する。おそらくガッカリというより、状況が呑み込めていない様子だった。ラ・ラ・ランド側に配慮なく「これは、夢じゃない、現実なんだ!」と逆転劇に興奮するバリー・ジェンキンスがダサく見えてしまったし、ラ・ラ・ランド、ムーンライト、双方にとって気持ちが悪い事故だったと思われる。事態を飲み込んだのち、デミアン・チャゼルはバリー・ジェンキンスとハグを交わし、祝福していたようだったけれど。。。。あまりに気の毒だ。

授賞式中、トランプをイジリまくっていたけれど、逆に「アカデミーの恥さらしが!」と悪口をツィートされても仕方ないだろうな。実に後味が悪く、笑いごとにもならず、あってはならないことだった。観ているこっちも動揺してしまい、授賞式の興奮に水を差した。

この事故のインパクトが大きすぎて、授賞式の印象がフッ飛んでしまったが、一応、そのほかの感想をまとめてみる。

授賞結果は、「ラ・ラ・ランド」の総ナメと予想していたが、脚本賞が「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に渡り、編集賞と録音賞が「ハクソー・リッジ」に渡り、音響効果賞が「メッセージ」に渡り、衣装デザイン賞が「ファンタスティック・ビースト」に渡るという結果となった。「ラ・ラ・ランド」の最多受賞ではあるものの、6部門の獲得に留まった。「ラ・ラ・ランド」は大好きな映画だけど、他の作品をまだ見ていないなか、栄誉を分け合う結果は他の映画にも注目が当たるきっかけになるので、映画ファンとしては嬉しい。作品賞が「ムーンライト」になったことは、元々、批評家の評価は「ムーンライト」の方が高かったし、まったく不自然ではないんだけれど、結果発表で起きた事故の印象が強くて釈然としない。

その他、授賞式で思ったことは以下のとおり。

・ジミー・キンメルの司会が堂々たるもので素晴らしかった。歴代屈指の司会ぶり。
・ティンバーレイクのオープニングアクト、会場がダンスフロアになって空気が一気に温まった。
・ジミー・キンメル、天敵のマッド・デイモンをイジり最高。中国映画で8000万ドルの赤字って(笑)。
・ジミー・キンメル、トランプいじりも楽しく、あくまで笑いの素材として扱うバランス感覚が絶妙。
・マハシャラ・アリ、授賞スピーチは前哨戦のSAGで出し切ってしまった印象。
・オスカー会員の選考、結構冷静だな。部門の評価を作品の評価とちゃんと分けている。
・パラシュートキャンディ、面白い演出だな。子どもたちが配るよりもサムくならなくて済む。
・ヴィオラ・デイヴィスのスピーチが素晴らしい。エミー、トニー、含めて3業界制覇がスゴい偉業。
・外国語映画賞の「セールスマン」、アスガー・ファルハディ、これで2回目の受賞(大変なこと)。
・観光客へのサプライズ。世界一、ツいている人たち。でもこの時間って何なのだろう。。。。
・短編ドキュメンタリー賞の「ホワイトヘルメット」が非常に気になる。NETFLIXに再加入しよう。。。
・自身に対する悪口ツィートを紹介するコーナー面白し。まさに「今」を感じる演出。
・ジョン・レジェンドによる歌曲パフォーマンス、「ラ・ラ・ランド」の感動が蘇る。
・ジミー・キンメル、天敵、マッドデイモンへの嫌がらせに大爆笑。期待通り。
・主演男優賞、ケイシー・アフレックらしい飾らないスピーチが逆に好感がもてる。
・主演女優賞、エマ・ストーンの受賞スピーチを聞くゴズリングの表情が素敵。
・「ラ・ラ・ランド」のプロデューサー、不幸な事故にも大人の対応。カッコよかった。
・WOWOW放送のゲストコメンテーターの大友啓史、コメントが雄弁で適格。

事故がなければ非常に楽しめた授賞式だった。ジミー・キンメルが「もう(司会を)やらない」は半分ジョークで半分本気かも。間違ったカードを渡すほうも悪いが、その内容をそのまま発表するプレゼンターもどうかと。。。視力や判断力の弱い高齢の方をプレゼンターにキャスティングするのはダメ、という教訓が残ったか。
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ラ・ラ・ランド 【感想!!!】

2017-02-26 09:00:00 | 映画


今年1番楽しみにしていた映画だったが、その高過ぎる期待値を軽々と越えてきた。
もう感無量だ。

圧巻のオープニングからラストまで、色彩と音楽の洪水にのまれる。至高のミュージカル映画であり、夢追い人への賛歌。エモーショナルなミュージカルとダンスシーンに高揚して涙腺が緩む。目撃するのは映画の力だ。

本作の魅力を上げたらキリがないが、映画は総合芸術という言葉を改めて噛みしめる。撮影、照明、音楽、振付、衣装、美術、脚本、編集、演出、演技、映画を形作るあらゆる要素が、持てる技量の到達点にあるかのよう。本作は奇跡の詰め合わせか。次々と現れる、ホンモノの美しさをフィルムに焼き付けたシーンに何度も魅了される。

「情熱は人の心を動かす」という劇中のセリフは、本作にそっくり当てはまる。その情熱の発信源は監督のデミアン・チャゼルに違いない。本作を生み出してくれたことに感謝。前作の「セッション」といい、本作といい、もうあなたの虜です(笑)。

映画は人生の「選択」というテーマにまで踏み込んでおり、これが全くの想定外だった。ミュージカルの悦楽に溺れるだけでなく、軸としてブレない人間ドラマが本作をもう一段階、上のレベルに引き上げた。

劇中のほぼすべて、主演の2人の物語に集約される。夢追い人を体現した、ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンがスクリーンで輝き続ける。それは「銀幕スター」という久しく使われなくなった表現が似合うほど、強力な引力を持っていた。2人があまりにも素敵であり、見とれてしまう自分がいた。エマ・ストーンってこんなに魅力的だったっけ!?

最高に切なく、最高に幸福なラスト。そこで2人が交わす微笑みが、今思い返しても胸に迫ってくる。

フィルム撮影ならではのムラが見える質感と、エンディングの「メイド・イン・ハリウッド」のクレジットにチャゼル監督の想いが透ける。ハリウッド映画は、今までもこれからも観客に夢を見させてくれるのだ。

【100点】

コメント (2)
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グースバンプス モンスターと秘密の書 【感想】

2017-02-25 09:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
日本では限定公開に終わったファンタジー映画。Rottenでの評価は悪くなかったのでそこそこ期待していたが、劇中想定される以上の動きが見当たらず残念な映画だった。
本の中に閉じ込めていた怪物たちが、町中に氾濫して大騒動が起こすという話。多様なクリーチャーが一堂に介する展開は、ホラー映画の「キャビン」に似ているが、こちらはファミリー映画として非常にライトな仕上がりだ。
雪男や狼男など、CGで作られるクリーチャーの質感がハリウッド仕様にしては粗く、アニメを実写のうえに切り貼りしたような違和感がある。なので、主人公の少年たちに襲いかかっても脅威と感じられず安全安心。クリーチャーたちを先導する人形の「スキッパー」が狡猾で気持ち悪くヒールとして存在感を示すが、彼自身が主人公らを傷つけることはなく、その他大勢のクリーチャーに命令する立場に留まる。町中を荒らすクリーチャーたちの暴れっぷりは、それぞれの個性がほとんど生かされておらず、みんな同じ方向にアクションをとるのでつまらない。物語が起きる発端も結末も、「本」の御業に頼られるが、その本(タイプライター)が奇跡が起こす背景が何も描かれない。一見、収まりの良い結末も消化不良感を残す。主人公の亡くなったお父さんの存在など、伏線になるようなエピソードもあるのにスルーされて勿体ない。久々に見たジャック・ブラック、顔がさらに球体になっていて漫画のようだった。似顔絵がかなり書きやすい。
【55点】
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ナイスガイズ! 【感想】

2017-02-24 09:00:00 | 映画


劇場が爆笑で湧いた。キマりそうでキマらない。キマらなそうでキマる。ズレとハズシを動力にして突っ走る本作は、その悪ノリ加減も含めて好みが分かれそうなコメディ映画だ。自分はド真ん中のツボに入ってしまい、楽し過ぎて堪らなかった。ドタバタアクションの中に、豊かな想像力と緻密な計算あり。70年代の空気が気持ち良いの何の。ラッキーとアンラッキーの表裏に、人生のリアルを感じてしまうのは過大解釈かな。アクションコメディとしては「21ジャンプストリート」以来の傑作。主演2人のケミストリーが絶品。ライアン・ゴズリングの間抜け顔が最高ッス。パッケージ化されたら購入必至。

暴力でコトを解決する示談屋と、酔っ払いのヘタレ私立探偵が、ポルノ女優の変死事件をきっかけにタッグを組み、事件の解決に乗り出すという話。

舞台は1977年のロサンゼルスだ。同時期を描いた過去のアメリカ映画を見るにつけ、憧れに近いイメージをもっていた。その決程打となったのが97年の「ブギーナイツ」であり、その時代の喧騒に強烈に魅かれた。ベトナム戦争の疲弊からどこか気だるい空気が充満していて、煌びやかなディスコ音楽と原色使いのファッションといったサブカルが台頭、映画という娯楽産業の中にはポルノが浸透し全盛期を迎えていた。

本作は「ブギーナイツ」と時代設定がちょうど重なっており、ダーク・ディグラーが活躍した場所と身近であるのを感じた。当時の様々な社会背景をふんだんに盛り込んだ本作は、より70年代の色が濃いように思う。そして、本作で登場するキャラクターが異質なのも特筆すべき点だ。1人は、金さえ払えば自慢の剛力にモノ言わせて事態を収拾する示談屋であり、もう1人はシングルファーザーの男で、金にケチでアルコールに目がない私立探偵だ。2人とも正義とは無縁であり、社会の異端のような位置づけにいる。彼らがタッグを組んだのも、事件解決による報酬目当てである。自らの保身のためにリスクを冒さない正直さが、ヒーローとして安易に描きがちなプロットを崩している。これが面白い。

勇猛な示談屋とヘタレな私立探偵という凸凹コンビだ。2人の掛け合いが絶妙でいちいち笑いが止まらない。序盤のトイレシーンが最初の爆笑地点だ。「そこをイジるんかい!」というツッコミよろしくな描写をかなり長めに追いかける(笑)。実にしょーもないのだが、あのクダらなさが堪らない。示談屋を演じたラッセル・クロウと、探偵を演じたライアン・ゴズリングの鮮やかな勝利だ。とりわけ、ライアン・ゴズリングの巧さが光る。ヘタレで間抜けでどうしようもないのに憎めず魅力的。あの胡散臭い口髭と、70年代ファッションの着こなしもグッド!「ラースとその彼女」「ブルーバレンタイン」「ラブ・アゲイン」「ドライヴ」に続く、彼の代表作がまた1つ誕生した。2017年はゴズリングイヤー、再来の予感。

そんな2人の凸凹コンビの間に割って入るのが、私立探偵の1人娘で13歳になる少女だ。彼女も彼らと常に行動を共にして活躍する。好奇心旺盛で頭がキレる女子であり、2人のオッサンのボケ(行動)に対して、的確にツッコミをいれていく。男2人のバディムービーであると同時に、トリオ漫才のような様相を呈する。ダメな親に対して、デキる子どもという構図はよくパターンだが、彼女にはもう1つの役割がある。主人公が馬鹿を繰り返すだけのコメディではなく、2人の成長ドラマとしての側面も強く感じる。日銭稼ぎの日々の中で「正しくありたい」と願う示談屋と、「幸せになりたい」と願う探偵であり、その手助けをするのが彼女である。本作におけるドラマパートのキーマンといえる。

その1人娘を演じたアンガーリー・ライスは今後要注目だ。おませな女子なのに嫌みがなく、物語のなかで唯一の「良心」として強い存在感を放つ。2人の2大俳優とも堂々と渡り合っており大器を感じる。凄いコが出てきたな~と感心していたらパンフ情報より、早速、次のスパイダーマンやソフィア・コッポラの新作に出演するとのこと。ハリウッドは目をつけるのが早い。

主人公らが事件の真相に手を掛けたとき、事件の巨大な陰謀が明らかになる。その展開自体はさして面白くもないのだが、その事件の顛末をいかに面白く描くかに本作は成功している。クライマックスでのホテルのアクションシーンが秀逸だ。正統派アクションなら、カタルシスを狙って徐々に構成を積み上げていくのに対して、本作は何も積み上げていないしょっぱなから崩しに入る。どう収拾するのか読めないスリルと、矢継ぎ早に繰り出されるマヌケな展開の波状攻撃に笑いが止まらなくなる。一見、無造作なアクションの中にも細かい仕掛けが仕込まれていて素晴らしい。

人間はプールに落ちる人間と、プールの外に落ちる人間の2つに分けることができるのかもしれない。偶然と必然、ラッキーとアンラッキーが折り重なって、ありもしない展開が続いていくのだが、人生ってきっとそんなもんだよな~と勝手に解釈していた。

やや過剰なバイオレンス描写含め、なかなかクセが強い作りだ。アクション映画の常套手段をことごとくハズしていくやり口に対して、ノリノリでついていけたのは主演2人の手腕によるところが大きかったと思う。知人に胸を張って勧められる映画ではないけれど、個人的には大好きな映画だった。

【85点】

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第89回アカデミー賞 直前予想。

2017-02-21 09:00:00 | 映画
いよいよ第87回アカデミー賞の授賞式が1週間後に迫った。当日は代休取得にて会社を休み、朝からガッツリWOWOWの生放送に集中する予定だ。授賞式の司会はジミー・キンメルというアメリカのコメディアンだ。Youtubeでハリウッド俳優の出演TV番組を漁っていると、彼の冠番組である「Jimmy Kimmel Live!」に必ずといってよいほどヒットする。それだけ彼の番組には多くのハリウッド俳優が出演していて、多くの俳優と顔馴染みのようだ。その繋がりで映画俳優を遠慮なくイジれるという点では、過去2回司会を務めたエレン・デジェネレスと同系のキャスティングをいえるだろうか。彼の番組で犬猿の仲(?)として知られるマッド・デイモンとの絡みは、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のノミネートにより実現しそうな気配。

んで、注目する受賞内容の予想をしてみる。
今年は過去最高にサプライズなしの鉄板な結果になりそう。

作品賞予想:ラ・ラ・ランド
監督賞予想:デミアン・チャゼル(ラ・ラ・ランド)
主演俳優賞予想:ケイシー・アフレック(マンチェスター・バイ・ザ・シー)
主演女優賞予想:エマ・ストーン(ラ・ラ・ランド)
助演男優賞予想:マハーシャラ・アリ(ムーンライト)
助演女優賞予想:ヴィオラ・デイヴィス(Fences)
脚本賞予想:ラ・ラ・ランド
脚色賞予想:ムーンライト
撮影賞予想:ラ・ラ・ランド
編集賞予想:ラ・ラ・ランド
美術賞予想:ラ・ラ・ランド
衣装デザイン賞予想:ラ・ラ・ランド
メイキャップ賞予想:スター・トレック BEYOND
視覚効果賞予想:ジャングル・ブック
録音賞予想:ラ・ラ・ランド
音響効果賞予想:ラ・ラ・ランド
作曲賞予想:ラ・ラ・ランド
主題歌賞予想:「City of Stars」(ラ・ラ・ランド)
アニメーション映画賞予想:ズートピア
外国語映画賞予想:ありがとう、トニ・エルドマン
ドキュメンタリー映画賞予想:13th -憲法修正第13条-


最多受賞は下馬評通り「ラ・ラ・ランド」になるのは間違いなく、主演男優賞を除く12部門で受賞すると予想。ノミネート数が過去最多タイとなっていることからも、アカデミー会員の熱烈愛がうかがわれる。最近の傾向である「作品賞」と「監督賞」が分かれる結果も、今年はどちらも「ラ・ラ・ランド」になりそう。また、イザベル・ユベールと接戦になると思われた主演女優賞の行方は、映画俳優組合賞をとったことでエマ・ストーンの受賞が確実なものに。日本で同作を配給するGAGAは、かつてない大規模プロモーションを展開中。今週末公開なので楽しみ。

また、多様性と反トランプの動きから、長編アニメーションは「ズートピア」、ドキュメンタリー映画賞は「13th -憲法修正第13条-」になると予想。どちらも文句なしに素晴らしい映画だけど、結果も見え透いていて面白くない。作品賞候補の「最後の追跡」と合わせて、「13th -憲法修正第13条-」はNetflix配信の作品。「最後の追跡」についてはNetflixは製作に関わっていないようだが、動画配信事業者がオスカーに絡んでくるとは凄い時代になったものだ。

毎年注目している外国語映画賞は、候補の時点で期待していた「お嬢さん」(パク・チャヌク作品)と「Elle」(ポール・バーホーベン作品)が入らなかったので、すっかり興味がなくなった。ドイツ映画の「ありがとう、トニ・エルドマン」はカンヌ映画祭で史上最高得点を叩きだしたにも関わらず、受賞の至らなかった作品とのこと。カンヌとオスカーは仲が良くないのでオスカーでは逆に受賞すると思われる。

作品賞候補の9作品のうち、日本で事前に観られるタイトルは「ラ・ラ・ランド」と「最後の追跡」の2作品のみ。過去最低数じゃないだろうか。オスカー効果を狙っての日本での公開だろうが、オスカーファンとしては授賞式の前に観たいところだ。しかも作品賞候補作の多くが4月以降の公開って。。。。毎度のことだが、日本の配給会社、対応が遅すぎ。
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グリーン・ルーム 【感想】

2017-02-18 10:00:00 | 映画


日本公開を楽しみにしていた1本。「パンクバンドVSネオナチ」というキャッチだけで興味を持ち、どんなキワモノ映画かと思っていたが、中身はおふざけなしのスリラーだった。ライブハウスを舞台に繰り広げられるバトルは、食うか食われるかのサバイバル劇。リアリティを優先した演出が印象的。投下されるバイオレンス描写が痛点を刺激する。監督の前作「ブルー・リベンジ」と作家性が一貫している。

売れないパンクバンドが、田舎のライブ公演に行ったところ、会場のライブハウス内で起きた事件に巻き込まれるという話。

「舞台はネオナチの巣窟だった」という事前情報は、多少、盛っているようで、実際にはナオナチという言葉は一切出てこず、ライブハウス内のちょっとした小道具や、ライブシーンの観客のリアクションで「そう言われれば、この人たちネオナチかも??」と臭わせる程度だ。なので、脚本も「ナオナチ」であることを意識して作られていない。自分はナオナチの生態に興味をもっていて、それが物語上でも機能していると勝手に期待していた。仕方なしだが、この点は肩すかしだった。

「予期せぬ事態に巻き込まれ型」&「箱型バトルアクション」でいえば、昨年末に公開されたばかりの「ドント・ブリ―ズ」と共通項が多いが、あっちはホラーに対して、こっちは完全なスリラーだ。本作で戦い合うキャラクターは、常人が理解できうる動機によって命を賭けた戦いに身を投じる。事件を目撃しただけのパンクバンドは命を狙われ、自身の生き残りのために戦う。一方のネオナチ軍団は彼らが目撃した事件を隠ぺいするために皆殺しに挑む。その後、ネオナチ軍団が事件の隠ぺいにこだわる別の理由が明らかになるが、その展開はよくある話で特に珍しくない。

注目するのは、生と死の境界に立たされた生身の人間の挙動だ。自身が生き残るため、そして友人を殺された怒りに任せ、攻撃する相手に非情な反撃を喰らわす。人間性が吹っ飛ぶ様子がリアルだ。死に対する抗いが強い一方で、死は呆気なく訪れるものでもある。息をしていた人間が、肉片となるスピードの早さよ。その描き方は、パンクバンド側だけではなく、敵対するネオナチ側にも貫かれ、彼ら自身もパンクバンドの命を奪うミッションに対して、自身に降りかかるであろうリスクから恐怖を感じている。殺るか殺られるか、血みどろのバイオレンス描写を多用し緊迫感あるバトルが描かれていく。

リアリティの濃さに面白みがある一方で、密室スリラーとしては仕掛けが少なくて物足りなかった(それが本作の狙いでなかったとしても)。パンクバンドとネオナチの双方ともに、その行動パターンにあまり変化がなく、意外性のある展開が訪れない。過剰な味付けをしないことが本作の魅力である一方で、クライマックスから終点までの過程はさすがにあっさりし過ぎているかも。映画的にもっと盛り上げてくれたほうが自分は好みだ。ワンちゃん(闘犬)の無双ぶりはもう少し工夫してほしいところ。

主人公を演じたのは昨年27歳の若さで亡くなったアントン・イェルチンだ。強くはないがシブといキャラクターを熱演している。ナオナチのボスを演じたのはパトリック・スチュアート。彼の悪役は新鮮だったが、単純なワルではなく頭脳派でクールなキャラだった。彼から放出される底知れない空気が本作をいっそう不気味にさせた。

【65点】

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ハイ・ライズ 【感想】

2017-02-18 09:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
40階建てのタワーマンションで繰り広げられる暴動を描く。舞台となるマンションは変わった外観をしていて、下層に貧民層、上層に富裕層が住み、明確なヒエラルキーが形成されている。しかし、それぞれの階層に住む住人たちはプールやジム、買い物をするスーパーまで共用しており、日常的に接触する状況下にある。優先されるのは上層階の富裕層であるため、その後、予想通り、ある事件をきっかけに下層階住民の暴動が起こり、マンション内のヒエラルキーが崩壊する。上層階住民が下層階住民に駆逐されるのではなく、暴動によって無法地帯となったことで上層階住民が支配力を強めるのがミソ。外界から閉ざされたSF設定ゆえ、物資は枯渇し、奪い合いの争いが始まる。欲望が剥き出しになった住民たちは原始化が進み、暴力とセックスが乱れ飛ぶ、何が何だかわからないカオスな世界に変貌。その様子を万華鏡のように映し出した映像が面白い。が、中盤以降、その退廃の空気を作り出すことに終始し、肝心のストーリーが停滞するのがつまらない。話自体は進行を続けるのだが、煙に巻かれ、展開についていけなくなる。寝不足で見ていたら、まともに見れなかった。主人公を演じるのはトム・ヒドルストン。海ドラ「ナイトマネージャー」に続き、美しい肉体美を披露。本作の世界観にマッチしているが、彼が演じる主人公が、タワーで起きる騒動に対して傍観者を決め込むのが勿体なかった。
【60点】
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マッド・ドライヴ 【感想】

2017-02-18 08:00:00 | 気になる映画


新作DVDレンタルにて。
レコード会社で歌手の発掘・契約・育成をする仕事につく男の狂った日々を描く。舞台は1990年代のイギリス。音楽レコードが最も売れた時代であり、音楽業界は群雄割拠、生き馬の目を抜く世界だった。売れるアーティストを発掘する主人公は、結果は出さねば「クビ」のプレッシャーに追われると共に、己の出世を激しく欲する上昇志向に取り憑かれている。彼のガソリンはドラッグとアルコールであり、狂った精神状態に埋没する日常が続く。他者への思いやりも皆無で同情の余地のない主人公は、自らの利益のためだけに次々と悪事に手を染めていく。そんな主人公の転落劇になるか、それとも成功劇になるのか、その見極めに注視していく展開となるのだが、その結果がどうにも気持ち悪い。コトの顛末がなるべくしてなったという主人公の実力と紐づかず、個人の才能によって支えられる音楽業界において、本作のアプローチに納得しないという自身の考えも邪魔した。せめて主人公にそれでも引き付けられる魅力が欲しかった。主人公演じるニコラス・ホルトは果敢に汚れ役に挑む。巧い。巧いが、拭いきれない人の良さは、どうしようもない個性の問題。いくら崩れても美しい顔立ちだ。「フィルス」で悪徳警官を演じたジェームズ・マカヴォイ並みに弾けてほしかった。
【60点】
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金ドラ「バイプレイヤーズ」が面白い件。(「山田孝之カンヌ」も面白し)

2017-02-17 09:00:00 | 日記


一昔前の金ドラといえばTBSの22時放送枠のドラマだったが、今は何といってもテレビ東京の「ドラマ24」の枠である。企画のユニークさと、手掛ける作家のチャレンジ精神を尊重した作品作りで多くの傑作ドラマを生み出してきた。個人的な歴代ベストは2010年の「モテキ」だ。以降、映画界にも進出した大根仁監督のファンになった。

んで、2017年の1クール目のドラマとしてスタートした「バイプレイヤーズ」が面白いので感想を残しておく。先週でもう5話目が終了したので、ちょうど折り返しに入ったところか。

タイトルの「バイプレイヤーズ」の意味は「脇役たち」だ。昨今の映画やTVドラマ界で「脇役」として活躍している、6人のオッサン俳優たちが、役作りのために一軒の別荘に合宿するという話。俳優らがそれぞれ本人を演じているというのがポイントで、フェイクドキュメンタリーのような作りだ。

6人の出演陣がめちゃくちゃ豪華で目を引く。遠藤憲一、大杉連、田口トモロヲ、寺嶋進、松重豊、光石研、という、いずれも現役バリバリの名脇役俳優ばかり。よくここまで凄いキャスティングが実現できたものだと感動する。

俳優本人が自分自身を演じるというドラマだが、描かれるそれぞれの個性は脚本家によって盛られたもの。彼らがこれまでの積み重ねてきたキャリアはリアルなものとして活かされているのが嬉しい。「俺なんてゴジラに殺されちゃったもん」(大杉連)、「「重版出来」以来(の共演)だね~」(松重豊)など、それぞれのキャリアをいじるシーンもあって、思わずニンマリする。

毎話、6人が一堂に介する合宿での朝食シーンをスタートとして、その後、それぞれがドラマの現場(仕事)に赴く。共演NG、スキャンダル、演技のコダワリ、わがままな監督等、俳優業界ではあるあるなネタ、あるいは都市伝説のようなネタを取り上げてコメディに仕立てる。ドラマ撮影の裏側を覗き見しているような感覚もあって興味深い。脚本自体はその設定の強みを活かしてソコソコ面白い程度であるが、出演陣がもれなく巧いので芝居に引き付けられてしまう。毎話、ゲスト出演する俳優も何気に豪華であることも見逃せない。1話目では、6人と合宿するはずだった役所広司が本人役として出演していた。同郷である光石研との九州弁での会話が新鮮だった。

そしてそしてドラマ本編の他にお楽しみがある。ドラマのエンディングで、本作の撮影を振り返り、6人が酒を飲みながらアフタートークを交わすのだ。その自然な会話シーンに萌える。普段、バラエティに出ていない俳優も多いため、「普段はこんな話し方をするんだ~」などとしみじみ。「五郎さん」こと松重さんは結構しゃべる人だったんだな。引き続きこのままのテンポで進んで欲しいと思う。

ちなみに、「バイプレイヤーズ」の後に放送している「山田孝之のカンヌ映画祭」もかなり面白い。以前に放送されていた「山田孝之の東京都北区赤羽」の兄弟ドラマといったところか。山田孝之が映画人としてハクをつけるため、映画を作ってカンヌで賞をとろうとする様子を追いかける。役者本人が本人を演じるという設定は「バイプレイヤーズ」と変わらないが、「カンヌ~」のほうがよりドキュメンタリー色が濃い。賞を取るための映画作りという、明らかに勘違いな目的に対して真剣に取り組もうとする山田孝之。彼自身は俳優ではなく映画のプロデューサーとして手を上げ、監督に山下敦弘、主演に芦田愛菜をキャスティングする。彼らの映画作りに巻き込まれる形で登場する、映画関係者、カンヌ関係者の演技か素か、わからないリアクションが堪らない。前回、カンヌと最も関係が深い日本人監督、河瀬直美が登場。「賞を取るための映画ってどうなの?」と正論で一蹴し、たじろぐ山田孝之に「あなたなら演技でカンヌをとれるわ。私とやれば。」と迫る。まさかの急展開に今後も目が離せなくなった。



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イーグル・ジャンプ 【感想】

2017-02-17 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。劇場未公開作。
イギリス初のオリンピックスキージャンパーとなったエディ・エドワーズを描く。「参加することに意義がある」というオリンピック精神は、栄光は勝者のみに与えられるのではなく、挑戦する者全てに与えられるというメッセージと受け止められた。そんなことを強く感じさせる本作は、多くの苦難を乗り越えるスポーツ映画の美談とは少し毛色が違う。主人公は小さい頃からオリンピック狂であり、どんな競技でも良いからオリンピックに出たいと願っていた。彼がスキージャンプという競技を選んだのも、自身の現状の力でオリンピックに出場できる唯一の選択肢だったからだ。勝つための出場ではなく参加するための出場は、自己満足のためと言っても良い。あまりカッコよくない動機であるが、1年という短すぎるキャリアでオリンピックの出場を果たすことは大きな挑戦であることに変わりはなく、力づくで夢の実現を手繰り寄せる主人公の姿に引き込まれる。しかも、致死率の高いリスキーな競技であることも当然無視することはできず、「そこまでしてオリンピックに出たいか!」と主人公の情熱に感動すら覚えるようになる。特典映像で本作の製作背景が語られていたが、当時エディ本人は嘲笑の的にも見えたらしい。しかし、本作からは彼の挑戦と努力に対して強いリスペクトを感じた。主人公演じたタロン・エガートンと、彼の師匠を演じたヒュー・ジャックマンがとても好演。クライマックスの「マトリックス」が盛り過ぎたのが傷。エディがオリンピックに出場した当時、「鳥人」と呼ばれ最強のスキージャンパーであったマッチ・ニッカネンの「ベストなパフォーマンスができれば、ビリでも良い」のセリフが印象的だった。
【65点】
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ネイバーズ2 【感想】

2017-02-11 09:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。1作目に続き、2作目の本作も劇場公開スルーとなった。
前作で、隣に越してきた騒がしい男子社交クラブを追い出した夫婦が、今度は女子社交クラブと対決するという話。
前作が思いのほかヒットしたため、続編決定という流れだが、「男子」の次は「女子」という思いつきとも思える設定が、あまり巧く機能しておらず、前作からのパワーダウンは否めない。前作に続き、男子社交クラブのリーダーだった青年役としてザック・エフロンが登場。劇中「勃起したチ●ポ」と形容される研ぎ澄まされた肉体を本作でも披露し、お馬鹿キャラを熱演する。マジックマイクの続編があれば迷わず彼をキャスティングしてほしい。彼の泣きっ面と肉汁オイルの塗りたくりシーンに笑。前作から一転して、彼は孤独を噛みしめる立場となり、まともな仕事にもつけず強い劣等感をもっている。そんな彼が自身の居場所を見つける過程が1つのテーマとして描かれるが、前作のようなドラマは感じられず、ドタバタコメディの一端を担った印象が強い。彼のみならず、本作の主軸となる女子社交クラブと夫婦たちの戦いも軽薄で下品なコメディに終始しており、その見せ方にもあまり芸がない。「男に媚びない」という女子社交クラブのパーティのノリは女子なら共感できるのだろうか。前作の男子と比べると絵のインパクトもヌルめだ(パッケージの「エロエロ」は嘘)。前作の引力であった悶絶するほど可愛い赤ちゃんが、2歳(?)に成長してそのまま再出演。相変わらず可愛かったので、彼女の両親役であるセス・ローゲンたちともっとシーンで絡んでほしかったな。
【60点】
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キネ旬と映画秘宝のベストテンが2016年もニアミスった件。

2017-02-09 22:00:00 | 映画


映画秘宝に続き、キネマ旬報のベストテン号を入手した。昨年に引き続き、決算特別号と別冊になるようで、苦しい出版事情があるといえ(これで少しでも儲けようという算段!?)、1冊だけでも1600円と高いのに、2冊に分けるのとかマジで勘弁してほしいわ。キネマ旬報の選考委員(シニアな映画評論家)によるベストテンや各個人賞の結果は、既に発表されているが、本誌でのみ明かされる「読者選出」の結果が気になるところであった。

まず、昨年の結果を振り返ると、キネ旬と映画秘宝のベストワンが「マッドマックス 怒りのデスロード」という未曽有の傑作によって、初めて一致するという奇跡が起こった。もう2度とこんな事態は起こるまいと思っていたが、今年も惜しいニアミスが起こった。



【キネマ旬報】(ベストテン)
<日本映画>
①この世界の片隅に、②シン・ゴジラ、③淵に立つ、④ディストラクション・ベイビーズ、⑤永い言い訳、⑥リップヴァンウィンクルの花嫁、⑦湯を沸かすほどの熱い愛、⑧クリーピー 偽りの隣人、⑨オーバー・フェンス、⑩怒り
<外国映画>
①ハドソン川の奇跡、②キャロル、③ブリッジオブスパイ、④トランボ ハリウッドに最も嫌われた男、⑤山河ノスタルジア、⑥サウルの息子、⑦スポットライト、⑧イレブン・ミニッツ、⑨ブルックリン、⑩ルーム

【キネマ旬報】(読者選出)
<日本映画>
①この世界の片隅に、②シン・ゴジラ、③怒り、④君の名は、⑤リップヴァンウィンクルの花嫁、⑥64ロクヨン、⑦湯を沸かすほどの熱い愛、⑧永い言い訳、⑨海よりも深く、⑩淵に立つ
<外国映画>
①ハドソン川の奇跡、②キャロル、③スポットライト、④ルーム、⑤レヴェナント、⑥オデッセイ、⑦ブリッジオブスパイ、⑧スターウォーズ フォースの覚醒、⑨ブルックリン、⑩トランボ

まず、キネ旬で選考委員(シニア評論家)による「ベストテン」と、シニアな読者投票による「読者選出」の結果を比較する。邦画洋画ともにいずれも自身の趣味に近いのは「読者選出」であり、娯楽作品を好む一般的な映画ファンの感覚にも近い(毎年の傾向だけど)。日本映画では「ベストテン」「読者選出」ともに「この世界の片隅に」が1位だった。納得というよりも安堵に近い結果。公開館数が圧倒的に多い「シン・ゴジラ」を抑えての1位は大変な快挙といえる。ライトな映画ファンを含んだ「Filmarks」のベストワンは「君の名は」だったが、単純に見た人が多い映画だった結果であり、「君の名は」信者の大半は「この世界の片隅に」を見ていないと思われる。このあたりは50を過ぎたおじさんばかりの読者とはいえ、キネ旬の読者はかなりのヘビー層であることを再認識させる。また、洋画のベストワンはどちらも「ハドソン川~」であり、キネ旬の読者もイーストウッド信者であったことを忘れていた。イーストウッドの名を覆面にして公開していたら、そこまで評価が高くなる映画ではない。北米でもなく日本ならではの傾向だ。

続いて、映画秘宝の2016年のベストテンの結果。映画秘宝のほうは、邦画と洋画の区別なし。

【映画秘宝】
①シン・ゴジラ、②この世界の片隅に、③デッドプール、④アイアムアヒーロー、⑤クリーピー、⑥キャプテンアメリカシビルウォー、⑦オデッセイ、⑧エクスマキナ、⑨ボーダーライン、⑩ゴーストバスターズ

昨年に続き、自身のベストワンとかなりカブった。「クリーピー」を除いては割と納得感のある結果。映画秘宝のベストワンの予想は「デッドプール」が堅いと思っていたが、まさかの3位。1位は「シン・ゴジラ」で、結果を見れば映画秘宝らしい選出といえる。驚くべきは、キネ旬でダブルで1位となった「この世界の片隅に」が、映画秘宝でも2位になったことだ。一般的な映画ファンと比べてかなり偏った映画愛を持つ映画秘宝の選考委員たちさえも、この映画を支持したということ。改めてスゴい。結果、「シン・ゴジラ」を含めてキネ旬の1位と2位が映画秘宝の順位とニアミスるという事態になった。それだけ良い映画が、2年連続で生み出されたということがいえるかも。

今週、キネ旬の授賞式が行われ、その模様がYoutubeに上がっていた。キネ旬選考委員と読者選出の監督賞受賞と合わせ、3冠を達成した「この世界の片隅に」だが、その授賞式で、すずさんを演じた「のん」が登場するという粋な演出があった。個人的には今年の主演女優賞は間違いなく彼女であったため、彼女のスピーチが聞けて嬉しかった。こんなにメディアで話題になっているのに、事務所の独立問題が尾を引いていて、キー局へのテレビ出演がシャットアウトされている事態が続いている。本当に気の毒だ。それを慮ってか、授賞式では彼女を称賛し彼女を応援する会場の空気を強く感じた。なんだか「この世界の片隅に」をもう1回観に行きたくなってきた。

各映画賞の総ナメ状態のなか、北米での公開がいよいよ決まった。戦争映画ではなく、人生賛歌の映画であることが伝わって欲しいと思う。
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ドクター・ストレンジ 【感想】

2017-02-05 13:00:00 | 映画


圧倒的な勝ち組であるマーベル映画から、また新たなスーパーヒーローが誕生した。操るのは「魔術」という異色ぶり。見終わったあとの興奮から一段落すると、内容について「こーして欲しかった」などと勝手な注文をつけたくなったが、とにもかくにも空間を自在に操った映像体験が素晴らしい。本作は完全にIMAX3D仕様な映画だった。2Dで観ていたらここまでの感動はなかっただろう。映画の進化は止まらないなぁ。

交通事故での大怪我により両手の機能を失った外科医の男が、魔術と出会い、正義に目覚め、世界を救う戦いに身を投じるという話。

まず、冒頭のシークエンスで掴まされる。主人公の師匠になる「至高の魔術師」がめちゅくちゃカッコいい。細身な外見だが、強力な魔術と俊敏な武術によって幾人もの魔術師たちを手玉に取る。演じるティルダ・スウィントンは原作と違う人種のようだが、中性的な彼女の雰囲気もあって全く違和感はなかった。彼女が扱う武器は「エルドリッチ・ライト」と言われるもので、異次元のエネルギーを引き出すことで作られるパワーであり、光のように可視化される。ドラゴンボールや幽遊白書の世代である自分には堪らないプロットだった。

主人公は凄腕の神経外科医だが、名声を好み、傲慢さが鼻につく性格。そんな彼が外科医にとって命ともいえる、両手を交通事故によって神経もろともズタズタに壊される。どんな治療方法を試しても直らない重症であり、人づてに聞いた話を頼りにワラをも掴む思いでネパールに向かう。。。。アイアンマンやハルクなどにも共通するように、自身の特殊な職業や生き様ゆえに皮肉ともいえる悲劇が起こり、結果、世界を救うヒーローへと変貌する形は本作にも共通するところだ。ヒーローとしての働きぶりは派手で明るく見えるが、背景としては暗い過去を抱えている、この表裏がマーベル映画(あるいは原作)の魅力の1つだ。

主人公が辿りついたネパールで出会うのが魔術だ。医療という現実世界で生きてきた主人公が、その超自然的な存在を受け入れざる得なくなる「トリップ」に圧倒される。それは自身の肉体から離れて、精神世界を旅するというものであり、サイケで幻想的な異次元の空間を、目まぐるしい変化をつけて映像化してみせる。これを3Dで見ると、今まで味わったことのない感覚に落ちる。もしかするとドラッグを体内に注入すると、こんな風景が見えるのかなと想像したりした。

その後、厳しい修業の末、魔術を体得し、世界の存亡をかけて闇の魔術師らと戦うことになるのだが、このバトルシーンでも視覚効果が大量に投下される。ニューヨークの高層ビル街を何重にも折り曲げ、重力の所在がわからなくなる舞台を作り出す。3Dで得られる奥行き感がそこに加わり、高所恐怖症な自分は吸い込まれそうになった。何が何だかわからなくなるほど「ここまでやるか」という徹底した作り込みであり、体感的に凄いの一言だった。どうしたらあんな空間設計を考えつくのだろう。

とにかく映像が面白い。その一方で、主人公が魔術を体得し、強力なヒーローとして変化する過程はもう少し丁寧に描いて欲しかったところだ。修業の大きなステップであった「山頂置き去り」は何で成功したのか、主人公の強い味方となる「マント」はなぜ彼を選んだのか(「気まぐれ」だけ?)など、事態の結果だけが描かれていてよくわからなかった。本作で描かれる魔術は外部から得るものではなく、自身の潜在能力を引き出すことで得られるものと説明していたのだから、「なるべくしてなった」というプロセスが欲しい。この点がしっかりしていれば「アイアンマン1」と並ぶ傑作になったと思う。

主人公演じるのはカンバーバッチ。「シャーロック」からのファンであるが、彼がアメコミ映画の主人公を演じる日が来るとは思わなかった。知的でクセのある個性の表現は、彼が得意とするところであり、マーベル映画ならではユーモアもお手のモノで、鮮やかにマーベルユニバースの仲間入りを果たした。ヒロイン役のレイチェル・マクアダムスは相変わらず可愛かった。シリアスパートをしっかり演じられるのは勿論のこと、コメディパートも巧く演じられるのが彼女の魅力だ。主人公の幽体離脱と向き合うリアクションがキュート。本作の敵役はマッツ・ミケルセン。疑いのない実力派俳優なのに、ハリウッド大作には何でも出ちゃう雑食系な人だが本作では彼のキャリアに傷がつかなくて良かった。またいつかレフン映画に戻って欲しい。

最後のラスボス戦は、もっとスッキリした終わり方にしてほしかったが、これも本作の独自色といえるかも。エンディングにはお決まりの、今後の繋がりを予告するシークエンスあり。そういえば、オープニングの「マーベル」のロゴ映像のなかに、初めて「アベンジャーズ」の面々と「ガーディアンズ」の面々が並んで映されていた。アベンジャーズに、本作の「ドクター・ストレンジ」が加わり、そして「ガーディアンズ」の一行も加わる。どんだけ広がるんだマーベルユニバース。大丈夫かな~と期待と少量の不安に胸が膨らむ。

【70点】
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マグニフィセント・セブン 【感想】

2017-02-03 09:00:00 | 映画


血湧き肉踊る西部劇。アナログな武器による決戦シーンが熱い。早打ちのシーンでは、自分も拳銃をクルクル回したくなった。ドラマパートが削がれており、良くも悪くもアクションに振り切っている印象。豪華俳優陣による「今」の西部劇と見れば及第点。夕日をバックに荒野を乗馬で駆ける、西部劇のお約束のシルエットが美しい。久々のデンゼル・ワシントンとイーサン・ホークの共演が感慨深い。

極悪非道なギャングによって乗っ取られた町を、7人の勇者が救うという話。

まず冒頭から登場するヘイリー・ベネットがジャニファー・ローレンスと酷似していて驚く。というか、ジャニファー・ローレンスだと思って見ていて、エンドクレジットで彼女じゃないことを知る。彼女の旦那役はマット・ボマーだったが、扱いが雑でかわいそ過ぎて思わず吹き出してしまった(それだけかい!)。

描かれるのは勧善懲悪の世界。正義の味方が勝ち、悪党が負ける展開は「荒野の七人」のリメイクという前情報で既に折り込み済みだ。エンタメ映画として、痛快なアクション劇にどう仕立てるかに比重を置いた作り。物語の引き金となるギャングの親玉は「ワル」の前提から始まっていて、終始、観る者の憎悪を膨らませる。親玉を演じたピーター・サースガードが相変わらず巧い。正義の見方の7人は、集結する課程は描かれるものの、それぞれの動機にはほとんど踏み込まず、早々に悪者をやっつける要員に配置される。

デンゼル・ワシントン演じるリーダーを除いてだが、登場キャラの背景やドラマが省かれているのは一長一短といえそうだ。アクションに集中させるため、無駄な贅肉をそぎ落としたと感じる一方で、町を救う7人が私欲を捨て正義に目覚める課程は、もう少し丁寧に描いて欲しかったところだ。文字通り、7人は命をかけた戦いに身を投じるわけなので、「正義の味方」という設定上のレールに乗せられるだけでは物足りない。

7人が団結力を育むような場面で、他愛なく交わされるジョークがさっぱり面白くないなど、いまいち感情移入できない部分がいくつかある。しかし、クライマックスで描かれる、悪党軍団との一騎打ちのシーンは、西部劇を越えた戦争映画のようであり、想像を越える迫力だった。おそらく「荒野の七人」の当時では、テクニックや物量の部分で描けなかったアクションシーンが本作では映像化できているように思う。銃撃戦だけでなく、弓矢、斧などによるアクションも面白い。ガトリングガンのクダリは完全なファンタジーだが、これくらいの演出であれば許容範囲だ。

監督はアントワン・フークア。彼の最高傑作であり、本作主演のデンゼル・ワシントンを主演オスカーに導いた映画は「トレーニングデイ」だ。それ以来となる、デンゼルとイーサン・ホークとの共演は時の流れを感じさせるものだった。当時、まだピチピチの男子だったイーサン・ホークはすっかり枯れ(良い意味で)、デンゼル・ワシントンは60を越えたとは思えぬ若々しさをキープ(そうでもないか)。16歳も年齢が離れていた2人は、いつしか同世代に見えるベテラン俳優になっていた。

デンゼル・ワシントンに次ぐ主役級キャラとして登場するのはクリス・プラットだ。演じるプレイボーイ風なガンマンは、ガーディアンズ~のピーター・クイルによく似ている。前は端役に近い脇役ばかりだったのに、本当に出世したな~としみじみする。韓国スターのイビョン・ホンも、アジア代表としてがんばってくれた。

【65点】
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ザ・コンサルタント 【感想】

2017-02-01 09:00:00 | 映画


2017年初の私的ヒット。全く期待していなかったものの、非常に好きなタイプの映画。多くの伏線回収によりパズルのピースがもハマっていく気持ち良さあり。クレバーかつ厳ついアクションは、最近だと「ジョン・ウィック」とタイマンを張れそうだ。そして何といっても、主人公のキャラが立ちまくっていて面白い。主人公演じるベン・アフレックの久々のハマり役。ベンアフ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか(笑)。続編ではなくシリーズ化を強く希望。

表の顔は田舎で小さな事務所を構える会計士、裏の顔は犯罪社会で名を轟かす闇の会計士という2つの顔を持つ男が、巨大組織の陰謀に巻き込まれるという話。監督は「ウォーリアー」のギャヴィン・オコナー。「ウォーリアー」に通じるテーマが潜んでおり、ツッコミどころはあるけれど、思わずグッときてしまった。こういうのにホント弱いな~。

物語は、主人公の少年期の記憶から始まる。高度な自閉症により、人とまともにコミュニケーションがとれなかった子ども時代だった。しかし、天才的な頭脳をもっていて、絵柄のないパズルを猛スピードで完成させてしまう。自閉症の人が飛び抜けた能力を持つという話は、ダスティン・ホフマンの「レインマン」を思い出させる。自閉症の人によく見られる能力なのだろうか。その後、主人公の少年時代から現在に場面が移り変わり、自閉症だった少年はオジさんになっていて会計士の仕事をしている。

彼の会計事務所に相談に来た老夫婦とのやりとりを見ていると、一見、過去の自閉症は完治したように見えるが、やや落ち着きのない手の動きからは、自制によって症状をコントロールしていることがわかる。自閉症である彼には他人を拒む様子はなく、むしろ他人との接触を望んでいるように思える。老夫婦に対するアドバイスも、不愛想ながらとても親身であり、彼らの農場にもプライベートで遊びに行っている。この捉えどころのない個性に次第に魅かれていく。

事件の発端となるのが、「表」の仕事として彼が請け負った大企業の不正会計の原因究明だ。電子化されていない15年分の複雑で膨大な資料を読み込む作業から始まるのだが、彼が超人的な能力を発揮する。少年時代からのルーティンである、両手に「フッフッ」と息を吹きかける仕草から始まり(これが可愛い)、一気に大量の数字を平らげ、部屋中に暗算した数字を書き詰めていく。この怒涛のシーンが編集の美技も手伝って痛快だ。

その仕事で知り合った女子とランチをするシーンが出てくる。のぼっとした熊さん体型に、たすき掛けのショルダーバック。マイ弁当と、大きめの水筒をもって食事する姿は、まるで大きな子どものようだ。女子との会話に慣れていないせいか、一生懸命、話を繋げようとする。その後の展開で、彼のトンデモない戦闘能力が明らかになるが、激しい肉弾戦を制したあとでさえ、救出された老夫婦にニコっと笑って手を振るシーンが堪らない。アナ・ケンドリックス演じる女子とのプラトニックなロマンスも微笑ましい。頭は異常にキレるが、見た目はドン臭く、人とのコミュニケーションに一生懸命。そしてめちゃくちゃ強い。眼差しはどこか憂いを含んでいて常にクール。まさかの「ベンアフ萌え」な映画だった。

主人公の個性にすっかり魅了されたが、本作のメインディッシュはおそらくアクションだろう。正体のわからないヒットマンが主人公とその周りの人たちに襲いかかる。非力なインテリ会計士と思いきや、あっという間に返り討ちにしてしまう。1人で何人もの悪党をなぎ倒すアクションは最近よく見るパターンだが、インドネシアの武術(シラット?)を取り入れた格戦アクションと、俊敏には見えない重量感のある体型とのギャップがアクションを際立たせる。

主人公の活躍と同時並行で描かれるのは、主人公の正体と、その個性が形成された背景を探るミステリーだ。なぜ自閉症を自制できるのか、そもそも自閉症になった背景に何があったのか、裏社会の顔をどのようにして隠しているのか、そこで得た利益の目的は何か、類まれなる戦闘能力はいかにして身につけたのか。。。等々。他にも、彼をサポートする正体不明の助手、大人になって一切登場しなくなった弟の存在、トレーラーに置かれた高級絵画の数々、大きく凹んだ水筒など、多くの伏線が張られているが、エンディングまでにすっきり回収されるのが快感だ。少し残念なのはそれらの説明(回想)シーンが長尺過ぎるため、物語のテンポを淀ませたことだ。もう少しパーツを削っても良かったかもしれない。

クライマックスの展開は予測できた。しかし、その意外性よりもキャラクターのドラマがしっかり感じられたことが大きい。主人公の敵役として登場する、 ジョン・バーンサルの巧さもあって、「そんなコトわかってたろ!?」というツッコミも鳴りを潜め、普通に感動してしまった。

結末は、続編が作れる切り上げ方で終わる。今後、いかようにでも面白い物語が作れそうだ。元相方(?)のマット・デイモンが「ジェイソン・ボーン」シリーズで活躍したように、ベン・アフレックも遅咲きながら、本作の「クリスチャン・ウルフ」によってその存在感を示して欲しい。体型を絞ってはダメで、今のままのぽってり体型を維持してほしい。

【75点】

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