想像を超える映像体験。IMAX3Dにより作品の評価が2割増しになる。体感VRという新たな3D鑑賞の可能性を見出した記念すべき映画であり、「アバター」「ゼロ・グラビティ」と並ぶ衝撃を受ける。圧巻の情報量と疾走するストーリー。現実と仮想の世界を行き来し、スリリングな冒険劇が繰り広げられる。スピルバーグが優れた映像作家であると同時に、オタクの神であることを忘れていた。アニメ、ゲーム、特撮、映画、SF小説、膨大なサブカルコンテンツをシームレスに繋げ、これほど的確に描いてくれるとは。本作はオタク文化の讃歌だ。最高としかいえない。80年代文化との融合にも魅了される。VRという新たな進化に抗うのではなく、現実世界を変えうる力として捉えたメッセージも素晴らしい。興奮と喝采の140分だった。
「オアシス」という仮想世界で、創始者の遺産を賭けたゲームでの争いを描く。
2045年、環境汚染により荒廃した地球が舞台だ。貧富の格差が広がり、現実世界で希望を見出せない人たちは仮想世界の中に入り浸っているという状況だ。「なりたい自分になれる」仮想現実は、現実世界にはない幸福をもたらしてくれる。ゴーグルでVRの世界に入り込む様子は現在と変わらないが、別途スーツを着用することで触覚を感じることができる。今から約30年後、住みにくい環境になるのはご免だが、そのリアリティを目の前にしてVR技術が本作のレベルにどこまで近づくか楽しみになる。
「オアシス」の創始者が亡くなり遺言を残す。創始者が作ったゲームをクリアした者に、「オアシス」の所有権と遺産59兆円を譲るというものだ。個人での参加は勿論のこと、その規模が巨大ゆえ、企業単位での参加者も出てくる。主人公の青年はスラムに住んでおり、「オアシス」での生活にのめり込んでいる。VRのなかには仲間がいるが、その素性を知ることはない。主人公にとっての人間関係は仮想世界にだけ存在している。おそらくは主人公だけでなく、大半の人がそうなのだろう。これは幸福な世界といえるのか。。。
「オアシス」の世界で描かれるのは、3つのステージをクリアするゲームだ。1つ目はレーシングゲームで、様々な障害物が待ち受けるマリオカートのようなもの。これが予告編で観るよりはるかに凄まじかった。劇場のセンターより前方の席をとったのが正解で、視界いっぱいに立体的な世界が広がる。猛スピードで走る様々な車体がせめぎ合い、鉄球などのトラップや、ティラノサウルス、キングコングなどの巨大なモンスターが矢継ぎ早に襲いかかる。それも自分の手が届く目の前でだ。その迫力に思わず体が硬直する。
映画ではなく、アトラクションのようだが、劇中仮想世界を、観客側にも同じように体感させる狙いを強く感じる。主観視点ではなく、あくまで主人公を俯瞰してみる視点であるが、3D映像のクオリティが極めて高いため、自身もその世界に入り込んだ錯覚を覚える。レースシーンだけでなく、3Dを意識したダイナミックなカメラワークが随所に効いている。稀代のエンターテイナーでもあるスピルバーグは魅せ方を熟知しているのだ。今のVR技術ではここまで鮮明に映像を写すことはできないはずで、この劇場でのVR体験を味わうだけでも2300円の価値がある。
3D映像に目を見張る一方で、逆にそれが弊害にもなる。しかし、これはデメリットではない。未来世界の情勢の説明、VR世界のお作法、ゲームクリアに向けた攻略法など、SF情報が盛りだくさんだ。字幕を追いながら内容をハイスピードで租借しなければならない。また、映画を彩るのは膨大なサブカルコンテンツであり、その登場シーンは一瞬だったりする。見逃すまいと目が離せなくなる。3Dで感嘆し、字幕で内容を理解して、映像に目を凝らしてサブカルを発見する。この3つのアクションをこなし、本作を味わいつくすのには1度見だけでは足らない。リピート鑑賞は必至になり、再度見返すことが楽しみになる。
2つ目のステージは、あのキング・オブ・ホラー映画が舞台となる。自分も大好きな映画だ。双子の姉妹の登場シーンで劇場が笑いで沸く。その意外性もさることながら、作品へのオマージュを強く感じる。作品の重要なエッセンスを壊すことなく、ゲームの展開に巧く活かしている。劇中を彩る、幾多のキャラクターもその魅力を外すことなく描かれる。3つ目の最後のステージで待ち受けるのは、巨大権力VSオタク軍団の大スペクタルな合戦だ(鳥肌モノ)。ガンダムの登場もそうだが、個人的にはアイアン・ジャイアントの活躍に胸を打たれた。献身的で諦めない戦いぶりが本家映画の個性と重なる。最後は「T2」で締める遊び心もナイス。
VR内での争奪レースの様子が描かれるが、リアルな人間の感情が常に意識される。主人公はVR内で知り合う女子(本当の性別はわからない)に恋をするのだが、「仮想」であることに満足できず、現実世界で会うことを欲する。VRによってすべてが満たされるのではなく、人間としての本能は現実の世界にしか存在しないということ。ゲームの開発者が謎解きの裏に忍ばせた想いも、生前当時の友情に基づくものだ。かといって本作はVRを否定するものではない。VRがなければ、主人公の夢は果たされなかったし、彼の人生が好転することもなかった。VRはリアルな世界を豊かにするものという視点がポイントだ。あとは使い方次第。
サブカルの多くが80年代のコンテンツであることも楽しい。VRという洗練されたデジタルの世界に、80年代のダサカッコいいカルチャーが生きているのがオツだ。80年代のスピルバーグ作品を牽引した「インディ・ジョーンズ」シリーズに通じるものもあり、シンプルに楽しめる冒険活劇になっている。
スピルバーグがまた1つ傑作を生み出してくれた。これからも、あなたについていきます。
エンディングに流れる「You Make My Dreams」でトドメを刺される。絶品の選曲!
【90点】