から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

レディ・プレイヤー1 【感想!!】

2018-04-28 08:00:00 | 映画


想像を超える映像体験。IMAX3Dにより作品の評価が2割増しになる。体感VRという新たな3D鑑賞の可能性を見出した記念すべき映画であり、「アバター」「ゼロ・グラビティ」と並ぶ衝撃を受ける。圧巻の情報量と疾走するストーリー。現実と仮想の世界を行き来し、スリリングな冒険劇が繰り広げられる。スピルバーグが優れた映像作家であると同時に、オタクの神であることを忘れていた。アニメ、ゲーム、特撮、映画、SF小説、膨大なサブカルコンテンツをシームレスに繋げ、これほど的確に描いてくれるとは。本作はオタク文化の讃歌だ。最高としかいえない。80年代文化との融合にも魅了される。VRという新たな進化に抗うのではなく、現実世界を変えうる力として捉えたメッセージも素晴らしい。興奮と喝采の140分だった。

「オアシス」という仮想世界で、創始者の遺産を賭けたゲームでの争いを描く。

2045年、環境汚染により荒廃した地球が舞台だ。貧富の格差が広がり、現実世界で希望を見出せない人たちは仮想世界の中に入り浸っているという状況だ。「なりたい自分になれる」仮想現実は、現実世界にはない幸福をもたらしてくれる。ゴーグルでVRの世界に入り込む様子は現在と変わらないが、別途スーツを着用することで触覚を感じることができる。今から約30年後、住みにくい環境になるのはご免だが、そのリアリティを目の前にしてVR技術が本作のレベルにどこまで近づくか楽しみになる。

「オアシス」の創始者が亡くなり遺言を残す。創始者が作ったゲームをクリアした者に、「オアシス」の所有権と遺産59兆円を譲るというものだ。個人での参加は勿論のこと、その規模が巨大ゆえ、企業単位での参加者も出てくる。主人公の青年はスラムに住んでおり、「オアシス」での生活にのめり込んでいる。VRのなかには仲間がいるが、その素性を知ることはない。主人公にとっての人間関係は仮想世界にだけ存在している。おそらくは主人公だけでなく、大半の人がそうなのだろう。これは幸福な世界といえるのか。。。

「オアシス」の世界で描かれるのは、3つのステージをクリアするゲームだ。1つ目はレーシングゲームで、様々な障害物が待ち受けるマリオカートのようなもの。これが予告編で観るよりはるかに凄まじかった。劇場のセンターより前方の席をとったのが正解で、視界いっぱいに立体的な世界が広がる。猛スピードで走る様々な車体がせめぎ合い、鉄球などのトラップや、ティラノサウルス、キングコングなどの巨大なモンスターが矢継ぎ早に襲いかかる。それも自分の手が届く目の前でだ。その迫力に思わず体が硬直する。

映画ではなく、アトラクションのようだが、劇中仮想世界を、観客側にも同じように体感させる狙いを強く感じる。主観視点ではなく、あくまで主人公を俯瞰してみる視点であるが、3D映像のクオリティが極めて高いため、自身もその世界に入り込んだ錯覚を覚える。レースシーンだけでなく、3Dを意識したダイナミックなカメラワークが随所に効いている。稀代のエンターテイナーでもあるスピルバーグは魅せ方を熟知しているのだ。今のVR技術ではここまで鮮明に映像を写すことはできないはずで、この劇場でのVR体験を味わうだけでも2300円の価値がある。

3D映像に目を見張る一方で、逆にそれが弊害にもなる。しかし、これはデメリットではない。未来世界の情勢の説明、VR世界のお作法、ゲームクリアに向けた攻略法など、SF情報が盛りだくさんだ。字幕を追いながら内容をハイスピードで租借しなければならない。また、映画を彩るのは膨大なサブカルコンテンツであり、その登場シーンは一瞬だったりする。見逃すまいと目が離せなくなる。3Dで感嘆し、字幕で内容を理解して、映像に目を凝らしてサブカルを発見する。この3つのアクションをこなし、本作を味わいつくすのには1度見だけでは足らない。リピート鑑賞は必至になり、再度見返すことが楽しみになる。

2つ目のステージは、あのキング・オブ・ホラー映画が舞台となる。自分も大好きな映画だ。双子の姉妹の登場シーンで劇場が笑いで沸く。その意外性もさることながら、作品へのオマージュを強く感じる。作品の重要なエッセンスを壊すことなく、ゲームの展開に巧く活かしている。劇中を彩る、幾多のキャラクターもその魅力を外すことなく描かれる。3つ目の最後のステージで待ち受けるのは、巨大権力VSオタク軍団の大スペクタルな合戦だ(鳥肌モノ)。ガンダムの登場もそうだが、個人的にはアイアン・ジャイアントの活躍に胸を打たれた。献身的で諦めない戦いぶりが本家映画の個性と重なる。最後は「T2」で締める遊び心もナイス。

VR内での争奪レースの様子が描かれるが、リアルな人間の感情が常に意識される。主人公はVR内で知り合う女子(本当の性別はわからない)に恋をするのだが、「仮想」であることに満足できず、現実世界で会うことを欲する。VRによってすべてが満たされるのではなく、人間としての本能は現実の世界にしか存在しないということ。ゲームの開発者が謎解きの裏に忍ばせた想いも、生前当時の友情に基づくものだ。かといって本作はVRを否定するものではない。VRがなければ、主人公の夢は果たされなかったし、彼の人生が好転することもなかった。VRはリアルな世界を豊かにするものという視点がポイントだ。あとは使い方次第。

サブカルの多くが80年代のコンテンツであることも楽しい。VRという洗練されたデジタルの世界に、80年代のダサカッコいいカルチャーが生きているのがオツだ。80年代のスピルバーグ作品を牽引した「インディ・ジョーンズ」シリーズに通じるものもあり、シンプルに楽しめる冒険活劇になっている。

スピルバーグがまた1つ傑作を生み出してくれた。これからも、あなたについていきます。
エンディングに流れる「You Make My Dreams」でトドメを刺される。絶品の選曲!

【90点】

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー 【感想】(ネタバレなし)

2018-04-28 01:15:40 | 映画


MCUが大きな賭けに出た。

「絶句」という感覚を久しぶりに味わう。良い悪いの次元ではない。まだ気持ちの整理ができていないが、この衝動のまま書き残しておこうと思う。

自身の映画鑑賞における2018年最大のイベントとして位置付けていた「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」を先ほど見終わった。来週、子どもと一緒に見に行く予定だったが、どうしても待ちきれず、会社帰りのレイトショーで見てしまった。あまりにも楽しみにしていたため、一番最初に出た予告編以降、一切のビジュアルをシャットアウトして臨んだ。その期待にたがわぬ、いや、それ以上の完成度と言ってよい、MCUの到達点だった。成功を収め続けているマーベルスタジオがいかに優れた製作スタジオであるかを再認識する。

余計なシーンを削ぎ落としていて、ギリギリのスリム化をはかっている。サノス軍団が序盤から一気に攻撃を仕掛け、展開がハイスピードで進んでいく。これほど短く感じた150分の映画はなかった。

観終わって、パンフレットからアベンジャーズ側のメンバーの人数を数えた。合計23人。予想以上の多数だったが、短い時間のなかでもそれぞれの個性や背景が見事に活かされ、きちんと見せ場が用意される。この設計能力には驚かされた。キャラクターの渋滞が起きないように、舞台を複数に分けたのが正解。楽しみであり、懸念事項であった「ガーディアンズ」との合流は、明らかに成功。あまりも違和感がないため、トニー・スタークとスター・ロードが初めて出会うシーンにも過剰に盛り上がることはなかった。「ガーディアンズ」のユーモアがアベンジャーズの世界に加わったことも歓迎すべき功績といえる。

超人集団である「アベンジャーズ」と、どちらかといえば武器頼みな「ガーディアンズ」、アクションの共闘シーンでパワーバランスが狂うと予想していたが、心配は無用だった。全編に渡り、異種なヒーロー同士の連携プレーが、それぞれの強みを発揮しながら鮮やかに繋がっていく。ポイントはサノスだけでなく、「ギニュー特戦隊」よろしくなサノスの部下たちが異常に強いこと。こちらの予想を超える攻撃をアベンジャーズに仕掛け、「さすがにピンチ!」と危機感を募らせれば、アベンジャーズもさらなる進化を見せて応酬する、それで安心すると思えば、サノス側はそれを上回る攻撃を仕掛ける、1対1では勝つことが難しく、そこで連携プレーが生きてくる。空間を縦横無尽に使い、想像を超える仕掛けで魅せるアクションは、もはやルッソ兄弟の特許ともいえ、もうこれ以上のバトルアクションは描くことはできないのではないかと思うほど。

ラスボス、サノスが集めるのは6つのストーンで、それを阻止するのがアベンジャーズだ。極悪非道なヒールとして描かれると思いきや、本作ではサノスに人情を与える。「宇宙の生命体を半分にするのだ!」という動機があまりにも乱暴だが、彼なりの正義があるのは確かで、惑星を駆逐する理由が明らかになる。ガーディアンズ~でも描かれていた、ガモーラとサノスの関係性が本作で大きなカギとなる。そしてその2人の間にも、親子としてのドラマが用意される。エンディングを見送り、本作の主役はアベンジャーズではなくて、サノスだったのでは?と思いを巡らす。

結末はネタバレ厳禁。
ところどころ「なんでそんなことするのか」とツッコミどころも散見されたが、すべてはこの結末につなげるためだったと感じる。

おそらく、2018年、世界興行収入で1位になるのは本作であることは間違いないだろう。この映画の重大さを認識するマーベルスタジオは、とんでもない本気を見せた。あらゆる点でリスクがデカ過ぎると思うが、良いのか悪いのか。。。。さりげなく保険はかけているようだけど。

一番最初に出た予告編とは、一箇所だけ明らかに違う点があった。おそらく完成後も、相当、手直しを繰り返したと想像する。そして、たどり着いたファイナルアンサーがこの結末だ。

見終わって、いろんな人と議論したくなる。今後の展開はいくらでも考えられる。

本作を自分はどう捉えるべきか迷う。ただ、めちゃくちゃ面白かったのは確かだ。続編が今から待ちきれない。

【85点】(仮)





いぬやしき 【感想】

2018-04-25 08:00:00 | 映画


期待していた滑空シーンは「トリップ」レベルには至らない。まだまだ洋画との距離を感じつつも、同ジャンルの日本映画としてはかなり良く出来たVFX映像だ。とても楽しめた。正義の味方のジジイと、悪役のイケメン高校生という構図が面白く、実写化にうってつけの原作漫画だったと思う。獅子神のキャラの描き込みは薄い印象。木梨憲武の配役は意外性があって、しっかり芝居ができることに驚く。キャストがルーティン化している昨今の日本映画は見習ってほしい。新宿エリアでの「乱射」シーンはチート過ぎて、もう少し工夫が欲しかった。

UFO(?)の衝突によって、あらゆる力を備えたロボット人間へと変化した中年男と男子高校生の戦いを描く。

原作未読。どこからどこまでが原作のストーリーなのかわからないが、展開に感情移入できない場面がチラホラあり、ドラマよりもアクション映画として楽しむ。

主人公の中年男「犬屋敷」は、仕事ができないサラリーマンで年下の上司に日々叱られている。家に帰っても、妻と高校生になる2人の子どもに全く相手にされない。職場にも家庭にも居場所がない男だ。年齢以上に老けているのも特徴的で、まさにジジイな外見。

夜、犬屋敷が立ち寄った広場でUFOらしき光の衝突を受け、体内がロボットに変わる。たまたま同じ場所に居合わせた男子高校生「獅子神」も同じ状態になる。どうしてそんなことになったのか、理由には一切触れず、与えれた力にのみ焦点があたる。得られた力は彼らに恩恵しか与えない。よって不思議に思えても原因を探る必要はないのだ。後ろを振り返ることなく前進あるのみ、な構成だ。力に目覚め、どう活かすのか、善と悪で分かれる2人が描かれる。

暴走する前から、力を他者を傷つけることに使う獅子神の背景が描かれなかったのは、映画の尺の問題だったのかもしれない。彼は序盤で早々に「神の力を得た」と自己陶酔に陥る。そしてその力をなりふり構わず使い、罪のない人まで殺す。他者に対する不感症が要因だろう。佐藤健演じる獅子神が非常に格好良いので、悪として安易に設定するよりも、善悪の紙一重を感じさせるキャラとして描いたほうが面白かった。

一方、犬屋敷は人を救うことに力を使う。人を救うことで自身のアイデンティティを取り戻す様子が印象的。善き人間であり、家庭でも善き父親であるはずなのだが、家族からは邪魔者扱いされる。この扱いがかなり一方的で、最後まで家族の絆が感じられないのは気になる。「犬」だけに犬屋敷の無償の愛を描きたかったのかも。クライマックスでの、娘の救出シーンにあまり感情移入できなかった。

とはいえ、お目当てはドラマよりもアクションだ。予告編では派手な空中バトルが流れており、監督の前作「アイアムアヒーロー」の再来なるか、と期待していた。外見は普通の人間で、ときどき機械が皮膚から露出する基本描写は十分見られるものだし、見ていて面白い。しかし、洋画と比べると切り貼りしたような合成感は否めない。空中を猛スピードで飛ぶシーンも、背景と人物の質感が違うため、上塗り感が目立って高揚感が得られない。もはやSF映画で日本映画と洋画を真面目に比べるのは酷と思える。日本映画としてはかなり頑張ったVFXといえるけど。

2人の能力の違いはもう少し説明がほしい。おそらく同じことをやれるが、双方の個性の違いで「攻撃」と「救済」で覚醒スピードに差が出たのかもしれない。それにしても獅子神の万能さは結構ズルい。ネットを通じて、見えないはずの人間を空砲で殺すことができる。新宿エリアでの大型ビジョン越しの殺戮シーンは圧倒されるより呆れてしまった。原作を読んでいる知人曰く、原作の通りとのこと(マジか)。ネット上で悪意を吐き散らすヤカラを一掃するシーンは痛快だ。ネット時代の功罪を感じた。

【65点】

女は二度決断する 【感想】

2018-04-21 08:00:00 | 映画


邦題の意味を噛みしめる。生と死の岐路に立った二度の決断を目撃する。二度目の主人公の決断は、映画を見た人の評価を両極に分けそうだが、その正当性を問う映画ではない。理不尽で残酷な現実と、受け入れることのできない生身の感情の葛藤を描いている。支持できるのではなく理解できるドラマだ。主人公を通して見る絶望は見る者にも痛みを伴わせるほどであり、冒頭から主人公の心情に深く入り込んでしまう。見終わって様々な想いが交錯する。ダイアン・クルーガーの名演が素晴らしい。

爆弾テロにより、夫と子どもを失った妻の戦いを描く。

家族を失った主人公は紛れもない被害者であるものの、私生活は清廉潔白ではない。悲劇の現実から逃避するためクスリに手を出すが、様子からすると初めてではないようだ。夫の意に反し、全身に好んでタトゥーを入れていることからも自立した強い女性のイメージが先行する。そんな彼女が愛する夫と、まだ幼い子どもを同時に失う。想像を絶する悲しみに打ちひしがれ、主人公の世界が変わる衝撃が見る者にも伝わってくる。多用される雨の描写が悲しみに追い打ちをかけるようだ。生きる気力をなくすことは必至。ここで彼女の1度目の決断が描かれる。事件は事故ではなく、意図された暴力であったからだ。

主人公はドイツ人であり、夫はトルコからの移民。爆弾テロを仕掛けた容疑で捕まったのはネオナチだ。民族浄化の悪魔、ヒトラーを崇拝する集団である。本作のポイントは、あらゆる状況証拠から容疑者が犯人であることが断定されていること。しかし「疑わしきは罰せず」(少しでも犯人でない可能性が残れば罪に問わない)により、予想外の判決が出る。移民に寛容な国として知られるドイツだけに、この展開には驚かされた。

殺された夫と古くからの友人である弁護士と共に、法廷で戦う様子が描かれるが、追う被害者側と逃れたい犯人側との緊迫した攻防が続く。この法廷劇だけでもかなりの見応え。犯人側の弁護士によるかく乱作戦が腹立たしく、主人公側の弁護士による正義の弁明が痛快。法律の使い手に過ぎない弁護士は正義にも悪にもなる。裁判の結果は、法律はときに機能しないことを証明する。主人公自身も犯人の顔を覚えており、罪を背負わせることに迷いはない。

そのまま上告して裁判で戦い続けるか、それとも法律に見切りをつけ代わりに復讐をするか。

現実世界では前者の流れになるだろう。しかし、裁判で有罪判決を受けたとしても極刑になる可能性は低い。生きて罪を償わせる、は綺麗ゴトだ。とりわけ本作の犯人たちは人種差別という救いようのない動機である。愛する人たちが戻ってくることはなく、同じ死をもって罪を償わせたいと思うのは当然だろう。本作はそんな思いを主人公の生き様に委ねる。しかし、二度目の決断は予想を外すものだった。

多くの選択肢が残されているなか、なぜ主人公はあの決断をしたのか。衝撃のあとに、様々な憶測が脳内で入り乱れる。主人公本人にしか知り得ない答えだが、1つ言えるのはその決断によって、憎しみの連鎖は絶たれたのかもしれない。

ダイアン・クルーガーが主人公を演じる。本作を見たのは彼女が目的だ。長く英語圏で仕事をしていた彼女が、久々に母国ドイツの映画に出演するとあって注目していた。「ミスター・ノーバディ」の「アンナ」役で彼女のファンになったが、本作では彼女の女優人生を賭けたような魂の演技に引き込まれる。圧倒的な感情移入。二度目の主人公の決断に信憑性を持たせることはかなり難しかったと思う。彼女のファンとして本作を劇場で観られて良かった。

【70点】


スタートレック ディズカバリー 【感想】

2018-04-20 08:00:00 | 海外ドラマ


Netflixにて。全15話を見終わったので感想を残す。

日本ではNetflixが独占配信しているものの、製作は別会社、週単位で1話ずつリリースされた。なので、全話が終了したタイミングでイッキ見した。1話あたりの製作費は800万ドル程度らしく(ざっくり8億円)、やはり日本のドラマとは桁違いだ。潤沢な予算によって映画並みのクオリティの高いSF作品に仕上がっている。自分が見たことのあるSFジャンルのテレビドラマは総じてハズレが多かったが、本作は文句なしに大当たり。映像美によって宇宙の世界に浸るだけでなく、脚本が驚くほどしっかり描かれていて、連続ドラマとしても大いに楽しめた。

「スタートレック」については、クリス・パインが主演する映画版しか知らないけど、本家テレビドラマとはストーリーの繋がりはなく「外伝」的なオリジナルの物語のようだ。なので「スタートレック」を知らずとも問題はなかった。同ジャンルの「スターウォーズ」が宇宙の戦争を描いている一方(そうとも言い切れないが)、「スタートレック」はタイトルのとおり宇宙「探検」の色が濃い。タイトルの「ディズカバリー」は主人公らが乗っている惑星連邦(地球人と同盟惑星)の宇宙船の名であり、敵軍と交戦する艦隊としても機能する。



主人公がアフリカ系の女性というのがユニークだ。「ウォーキングデッド」で「サシャ」を演じたソネクア・マーティン=グリーンだ。彼女が堂々たる存在感で、主人公を魅力的に演じている。主人公の名はマイケル・バーナムといい、バルカン人によって育てられた初の地球人という設定だ。バルカン人並みの知能をもち、武術も堪能、冷静沈着だが、地球人らしい感情も持ち合わす。彼女が別の艦隊に副長として勤務していた頃、彼女の判断ミスが、多くの死傷者を出す惨事を引き起こしてしまう。同時にその事件は別の惑星に住むクリンゴン帝国との戦争をはじめるきっかけとなる。「探検」なスタートレックであるが、本作についてはベースとして、クリンゴン帝国と連邦軍との戦争が描かれる。

本作は大きく2部に分けられそうだ。前半はクリンゴンとの戦争、後半は「平行宇宙」からのディスカバリー号の脱出劇だ。



登場するクリンゴン人の外見はわかりやすい悪役のツラ構え。映画版の悪役も怖い顔をしていて、その残虐性が強調されていたが、本作はクリンゴン人を倒すべき悪として単純に片付けない。人間と変わらぬ知能と感情をもった種族として扱われる。彼らにも戦う大義があって、種族の繁栄のために連邦軍と対立する。クリンゴン人のなかでも家柄による格差や、方向性の違いによる内部分裂があったりして、連邦軍への亡命者が現れるなど、彼らのドラマにもフォーカスする。クリンゴン帝国側で起きた悲劇が、連邦軍側のその後の事件の伏線となっていたから驚かされた。



「ワープ」「転送」「ジャンプ」といったスタートレック用語がばんばん出てくる。「ワープ」は動力を使った高速移動のこと、「転送」は座標を特定して物体(多くは人物)を瞬間移動させること、「ジャンプ」は宇宙船を瞬間移動させることだ。「ワープ」ではない「ジャンプ」という概念は初めて聞いたが、本作はこの「ジャンプ」の技術が始めて開発された経緯が描かれる。宇宙に巨大な「クマムシ」がいて、その生物が自由に宇宙を動き回る(?)特性に着目。クマムシと共生する「胞子」(天然の自生物)を使って宇宙空間での瞬間移動が可能になることを突き止める。。。といった何が何だかよくわからない具合だが、その架空の技術根拠の作りこみが徹底しているため展開をそのまま受け入れてしまう。「ジャンプ」のほかにも、宇宙船の操縦や、惑星での探検に至るまで、あらゆる設定情報が緻密かつ膨大に用意されている。それぞれの情報を十分に理解できないが、それによってドラマのテンションが緩むことはない。未知の情報の渦が物語にスケールを与えて、知的好奇心を刺激するからだ。



後半で描かれるのは「平行宇宙」だ。別の時空に別人格のもう一人の自分が存在する世界だ。ディスカバリー号は「ジャンプ」の失敗により平行宇宙に迷いこんでしまう。その平行宇宙を支配していたのが、平和を尊重する惑星連邦ではなく、暴力的で残忍なテラス帝国だ。トラブルが起きれば、拷問か処刑の二択(笑)。ディスカバリー号の船員たちは、別人格のもう1人の自分たちと向き合うことになる。元の宇宙への帰還(脱出)のために「なりすまし」作戦が決行されるが、これがスリリングで目が離せない。パラレルワールドという捉えどころが難しい設定を、よくここまで面白い脚本に仕上げたもの。主人公が序盤で背負った贖罪の思いが展開へと繋がるあたりも巧い。



マイケルと並び、魅力的なキャラクターがケルピアン人のサルーだ。ケルピアン人は被捕食型の種族であり、危険察知能力に長けている。サルーはそのなかでも高い知能をも有し、宇宙船の乗組員として優れた判断能力をもっている。マイケルが事故を起こした当時の部下であり、彼女の失態を目の当たりにしている。ディスカバリー号では副長へと昇進しており、立場が逆転してマイケルの上司となるが、彼女を脅威と捉える一方、有能な乗組員であることも認めている。マイケルとサルーの種族を超えた友情が、本作の大きな見どころであり、2人の絆に胸をつかまされた。



サルーを演じるのは「シェイプ・オブ・ウォター」での名演が記憶に新しいダグ・ジョーンズだ。本作でも全身着ぐるみでの演技を披露しているが、そのハンデをもろともせず、情感豊かにサルーを演じている。今回は雄弁にセリフを発するキャラであり、言葉を発する演技も巧いことがわかった。また、彼が演じるケルピアン人だけでなく、敵対するクリンゴン人もそうだが、目で感情が伝わる特殊メイクも素晴らしい。



全体をとおして、先の読めない展開の連続だった。未来の宇宙という無限の可能性を活かし、ハッタリも強固な設計でリアルに見せる脚本力。SFは最高だ!と何度もつぶやく。様々な種族の乗組員が、1つの操縦室で連携する様に多様性の理想形を感じ取ったりもした。シーズン2の製作は決定しているようで嬉しい。また楽しみなドラマシリーズが1つ増えた。

【75点】

パシフィック・リム アップライジング 【感想】

2018-04-17 08:00:00 | 映画


5年前にパシリム信者となったが、嫌な予感が的中した。信者的には前作のクオリティを維持してくれれば、既視感も許容できた。得たものより失ったものが大きい続編。ロボットへの愛、怪獣への愛、その熱量の違いがよく出ている。高密度な造形描写と巨大ゆえの重量感が減少。本作のバトルシーンは実写ではなくアニメのようで、あんなに俊敏で滑らかに動いちゃダメだ。一見多様化したように見えるロボットも、実は個性が感じられない。前作同様、国ごとの色を出したロボットのほうがベタで面白かった。怪獣出現のきっかけとして、前作の伏線が活かされているのは良かった。中国への忖度はもはや目をつむるしかないが、にしてもツッコミどころが多い。あの女優さん、中国でよっぽど人気があるのか、レジェンダリーと出演契約でもしているのかな。。。。

前作で防衛軍の司令官であったスタッカーの息子が主人公。前作の主人公同様、落ちこぼれだった青年が、怪獣襲来の危機に際し、ロボットのパイロットとして活躍するという話だ。

公開初日、観客席の圧倒的な男性率に吹き出す。会社の同僚でパシリムファンという女子がいたけど、あれはレアケースだったと実感する。男子の夢を圧倒的なクオリティで実写化したデルトロ監督の偉業ともいえる前作だった。そんなデルトロの降板に落胆するも、交代した監督が海外ドラマ「スパルタカス」を手がけた人物ということで関心を盛り返した。ケレン味を巧く描ける監督という印象だったが、その前提の問題で巨大ロボットと怪獣をどこまで描きこめるかという点で見劣りした。

冒頭から登場するロボットは、少女が廃品を集めて作ったDIY型ロボットだ。小型ゆえ、機動性に優れ、状況に応じて変形したりする。「こういうロボットじゃないんだよなー」とやや不満に思いながらも、新たな切り口として一旦飲み込む。その小型ロボットを警察部隊が追いかけるシーンで巨大ロボットがいよいよ登場。対怪獣用のロボットではなく、保安用のロボットのようだが、わざわざあそこまでデカく作る必要はなさそうだ。何かがズレている。

前作で怪獣を撃退してから久しく時間が経過しており、人々の怪獣への脅威が薄れている状況だ。巨大ロボットは安全保障の観点から必要とされているものの、無人操縦という新たな局面を迎えている。科学技術の進化はロボットの操縦室の簡素化にも表れており、パイロットは操縦室で前作よりも軽装備で自由に体を動かし、派手なアクションを繰り出すことができる。これが逆に味気ない。あの機械まみれの窮屈な操縦室だからこそ萌えるのだ。

前作で怪獣が出てくる穴をふさいだので、容易に怪獣は現れない。その代わりに描かれるのはロボット対ロボットの戦いだ。ガンダムファンはこれを楽しめるのだろうか。無機物(ロボット)VS有機物(怪獣)という構図だからこそ、予想できないバトルが描けたのだが、ロボット同士の戦いは手の内が見えてしまってつまらない。倒すべき暴走するロボットの正体も「あんなんで操縦できるのか?」と少々強引だ。但し、そのきっかけは前作の伏線が活かされていて納得。鍵を握るニュートンとハーマンのオタクコンビが本作でも登場してくれたのは喜ばしい。

終盤、いよいよ怪獣が登場。前作にはなかった、ロボット同士による共闘シーンはナイスアイデアだ。しかし、そのバトルシーンが前作並みの熱気を帯びない。前作では一体一体のロボットを愛でるようにその魅力が紹介されていたが、本作では種類がそれぞれ分かれているものの、外装が異なるだけで、思いのほかアクションでその個性が活かされない。一様に俊敏に動き回る様子を見て、「エヴァンゲリオンか」と冷める。あのどっしりとした重量感があってこそ怪獣と対戦できるのだ。「ロケットパンチ!」や「チェインソード!」など、前作で中二男子を熱狂させた仕掛けも出てこない。

前作はデルトロの偏愛があってこそ実現した奇跡だったか。本作をみてアクション演出は巧い監督と思えたけど、パシリムの美学を継承しているようには思えず、パシリムを待っているこちらを高揚させてくれない。ロボットと怪獣が戦えばよい、という映画ではない。

製作するレジェンダリーが中国企業に買収されて以降、目立つ中国仕様は本作でさらに強まった。巨大ロボットの無人化を進める企業は中国の企業であり、中国語が劇中で多用される。そこまではよいが、その企業の女性社長の謎の活躍ぶりは何なのだろう。演じる女優さん自身、本土では実力派として知られているのもかしれないが、本作のような出方は返って彼女のキャリアを傷つけるものになると思う。「グレートウォール」も酷かったし。今のところ、中国資本が入って成功している映画はないし、これからもないような気がしてしまう。中国では前作並みにヒットしているようだけど。

【60点】

女神のみえざる手 【感想】

2018-04-15 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。邦題の付け方にセンスあり。
凄腕女性ロビイストの活躍を描く。「ロビイスト」という仕事の実態を知ったのは「ハウス・オブ・カード」で今やオスカー俳優となったマハーシャラ・アリが演じていたキャラだ。企業や団体のために、政治活動に影響を及ぼす活動家である。表裏に渡り政治家たちを動かすコネクションとスキルを持っている。主人公は「勝利」によってその業界で名を馳せるロビイスト。弁護士事務所同様、ロビイスト事務所があって、企業や団体は大枚をはたいて案件を依頼し、それだけでビッグビジネスになっているから驚きだ。日本ではほとんど馴染みのないロビー活動のお仕事ムービーとして見ても面白い。物語は「銃規制」法案を巡るロビイスト活動が描かれる。この間も銃乱射事件があったばかりでとてもタイムリーな話だ。銃団体はあくまで「銃を銃によって守る」と信じて疑わない。もはや、麻薬問題と並ぶアメリカの病気といえ、「銃と女性を仲良しにしたい!」という銃団体会長の迷言を「馬鹿馬鹿しい」と笑って一蹴する主人公が痛快。主人公が「銃規制却下」側から「銃規制強化」側へと移った当初の理由は、彼女の銃に対する信念よりも、負け知らずで積み上げたキャリアを継続するため、勝率にこだわったからだろう。勝つためなら手段を選ばない主人公の非情さが、こちらの予想を超えて描かれる。利用できるものは何でも利用する彼女のやり方は多くの敵を作り、多くの人を傷つける。その代償と向き合っていくなかで彼女の弱さが初めて露呈する。
銃規制を巡るロビー活動から見えるのは現代アメリカの実像であり、社会派ドラマとして色が強い。政治活動とは権力を保持することなのか。まさかのラストは、銃規制の必要性を自覚しながらも、決断することのできない政治家たちに対して痛烈なメッセージとして響く。同時に本作は特異な女性キャラクターの生き様を描いたドラマともいえる。原題のタイトルは主人公の名前の「ミス・スローン」。バッチリメイクをずっと落とさず、濃いルージューの口紅、いつでもスタイリッシュなスーツを見にまとい、戦闘態勢を崩さない。眠らず、仕事にしか興味をもたない。精神のバランスを保つために錠剤を服用し、金で買った男で夜の暖をとる。誰を相手にしてもひるむことなく明け透けな言葉をよどみなく発する。演じるジェシカ・チャスティンがカッコイイの何の。「姐さん!」と思わず呼びたくなる。彼女のヒロイズムにおぼれることなく、けじめをつけた脚本が良い。最後のカットまでドライだった。
【70点】

ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル 【感想】

2018-04-13 08:00:00 | 映画


前評判に違わぬ面白さ。シンプルに楽しめる久々の娯楽作。ボードゲームであった20年前から、大幅にスケールアップして内容も充実。とめどなく押し寄せる馬鹿馬鹿しいギャグに笑い、大袈裟なアクションについ熱くなってしまう。冒険するのは3人のオッサンとお姉さんであるが、その中身はあくまで高校生たちだ。彼らが現実世界と異なる人格を体験することで新たな生き方を発見し、それぞれの成長へと繋がっていく。意外な青春ドラマの旨みあり。時代をズラさなかったエンディングが良心的で、彼らの再会シーンにグっときてしまった。あと、吹き替えによるローカライズが見事にハマッた稀有な例でもあり、プロの声優でまとめたキャスティングは英断だった。

子どもと一緒に観にいったため、吹き替え版で鑑賞。というか、そのシネコンでは吹き替え版のみの上映だった。ファミリー映画として売り出す戦略だろうが、公開2日目にも関わらず空席が目立っていた。大作といえど、実写映画のヒットは難しい時代になったと感じる。

学校で居残りをさせられていた男女4人の高校生が「ジュマンジ」のテレビゲームをやり始めた途端、その世界に吸い込まれ、現実世界に戻るためにジャングルでのゲームクリアを目指すという話。

ポイントは、4人がゲームの世界に入った途端、現実世界とは正反対のキャラクターに変わってしまうという点だ。ゲームオタクな主人公は筋肉ムキムキのロック様に変わり、アメフト部のスポーツマンは背の低い動物学者に変わり、内気な女子は露出度の高い女子に変わり、インスタ&自撮りが大好きな女子はなぜか太ったオッサンに変わる。ゲームの中の4人のキャラは勇者、従者、武道家、賢者に置き換えられ、典型的なロープレゲームのメンバー構成だ。

姿の変化によるギャップに戸惑うなか、最も落胆するのは太ったオッサンこと、ジャック・ブラックに変わってしまった女子だ。外見をことさら気にする今どきの女子にあって皮肉を仕込んだ匂いがする。一方、喜んだのはロック様こと、ドウェイン・ジョンソンに変わった主人公だ。はち切れんばかりの筋肉と、いかついタトゥーをそのままに「凄いぜ!」と、ドウェイン・ジョンソンが自分の肉体を自分でイジる。日本人の感覚では「セクシー」と少し違うけれど、この人はコメディも上手だからスターなのだ。

ステージごとのミッションは、ゲームのあるあるを盛り込みつつ、それぞれが持っているスキルが活かされていく。アクションの多くはCGに頼っているとはいえ、迫力十分で大スクリーン向けである。しかし何といっても本作の醍醐味は、ドウェイン・ジョンソン、ジャック・ブラック、ケヴィン・ハート、3人のオッサンたちの掛け合いだろう。止まらない会話劇はコメディに寄せていて、外見はオッサン、中身は高校生という役柄を自虐ネタも織り交ぜ、楽しんで演じている。

久々に吹き替え版で見たが、稀にみる成功例といえる。日本向けのセリフと吹替版の音声が映画の色と見事にマッチしている。字幕版ではどう訳されているかわからないが、「ぶっとび」「マブい」など、途中で仲間に加わるワケあり青年との世代ギャップを示すセリフなど、巧くローカライズされている。また、実力のあるプロの声優を配したキャスティングによって、それぞれの個性が一層際立っているようだ。コメディがベースにあるため、字幕ではここまでストレートに笑いが響かなかっただろう。

演者たちのなりきりぶりによって、あくまで「高校生」であるという視点は揺るがない。ジャングルでもう1人の自分を体験したことで、新たな自分を発見する物語でもある。早く現実世界に戻りたいキャラもいれば、現実世界に戻ることをためらうキャラも出てくる。しかし、いずれも「ジュマンジ」を体験したことで現実世界の生活が好転する結末になっている。また、冒頭シーンでの伏線でもあった、5人目のメンバーの帰還には作り手の優しさが感じられ、時代を超えた5人の再会シーンに思わずホロリとする。そのハッピーエンドが気持ちよかった。

【70点】

マザー! 【感想】

2018-04-12 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。面白い。
レクイエム・フォー・ドリーム、ブラック・スワンに続き、狂気のアロノフスキー節。
詩人の夫と、年の離れた若い妻。2人が住む町外れの家に夫のファンだという男が訪問したことで起きる事件を描く。
本作を一言で表現すれば「悪夢」であり、純度の高いホラー映画だ。
冒頭に出てくる女性が焼かれるシーンに魔女狩りを想像するが、まったく違う伏線だったようだ。そもそも事件の正体自体、明らかにされないので様々な解釈ができるが、正体は謎のままというのが正解に思える。
主人公の妻の目線は観客と同じで、彼女の周りで起きる不可解な現象を一緒に体験する。主人公は至ってノーマルな感覚を持ち、回りのキャラクターと接するも、コミュニケーションが途中で折れ、意思疎通が叶わず、周りが勝手に暴走する。その状況に主人公は抗いつつも、流れを変えることがでいない。味方であるはずの夫ですら、主人公の意に背を向け加担する。夢で見たことのあるような状況であり、その暴走は次第のエスカレート、想像を絶する地獄に主人公を突き落とす。すべては1つの家の中で完結し、ステージによって表情を変える空間設計が緻密だ。役者たちは限られた空間で動き回るため、リハーサルに3ヶ月もかけたというのも頷ける。
主演のジェニファー・ローレンスは本作で「攻め」ではなく「受け」に回る。それもフルボッコだ。序盤のミスコミュニケーションに戸惑う繊細な表情から、後半にかけての暴力的なダメージに至るまで、彼女がいかに優れた女優であるかを再認識させる名演ぶり。詩人の夫を演じたハビエル・バルデムのちょいちょいネジの外れた怪演ぶりにも目を見張る。アメリカでの評価がイマイチ伸びず、見る人を選ぶ映画とはいえ、日本での劇場公開が見送られたのは残念だった。
【70点】

僕のワンダフル・ライフ 【感想】

2018-04-11 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
転生を繰り返す犬と飼い主との絆を描く。主人公は一匹の犬で、生まれ変わる時代ごとの「人生」ならぬ「犬生」を全うする。そのときに何を考えているのか、劇中のナレーションで人間の言葉として発する。50年前に生まれた自我を、異なる犬として生まれ変わっても保持する設定だ。「じゃ、その前の自我は存在しないのか?」というツッコミもよぎるが、余計な発想として脳内で消し去る。人間の思いやりに対して、豊かな表情とダイレクトな行動で返してくれる犬でしか成立しない物語だが、動物と人間との絆を描くというテーマにおいては最もわかりやすい対象だと感じた。すべての飼犬が愛情深い飼主と幸せな犬生を送れるわけではなく、飼育放棄される悲しい現状も見逃されていない。そうした状況も、言葉を話す犬として描き、犬の感情を明示したことで極端な感傷に浸ることは避けられる。逆もしかりで、観る側の勝手な想像で過剰な感動に浸ることも避けられる。動物モノは無条件に泣けるので、テーマがボケてしまうことを原作者は配慮したのかもしれない。
原題を訳すと「犬が生きる目的」。本作が示すその答えは人間本位とも受け取れるが、人間に命を委ねる飼犬にとっては最も幸せな答えだと思う。やや力技のラストの再会劇も、その展開を期待していた自分もいてまんまと泣かされてしまう。仮に本作のように「転生」として信じることができたら、次に預かる命についても同じだけの愛情を注げることができるのかもしれない。あと、アメリカの広い敷地が大型犬を自由に放し飼いできる環境でうらやましかった。
【65点】

亜人 【感想】

2018-04-11 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。締まらない日本のアクション映画。「クロちゃん!」(笑)。
死ぬたびに生き返ってしまう新人類「亜人」と一般人たちの戦いを描く。亜人は特異な体質をもったマイノリティであって、人間に利用される不遇な設定はアメコミのXメンと共通点が多い。原作を知らない自分でも理解できる設定であるが、初心者への説明不足が随所に目立つ。主人公が早々に戦闘能力が高くなる点や、痛覚があるのかないのか。「不死身」の体質以外に出てくる「黒い幽霊」の存在は理解できなかった。亜人を守る守護分身みたいなものだが、本人の意に関係のないところで発生し、勝手に守ってくれる。と思いきや、本人がコントロールしているようなシーンも出てくる。何かよくわからないけど都合の良いツールとして活躍してくれる。また、綾野剛演じる「佐藤」のセリフ回しなど、漫画のセリフをそのまま持ち出しているせいか、キャラクターの言葉が幼稚に聞こえて冷める。昨年公開の「ジョジョ~」の実写化も同様の脚本だったが、現実世界と完全に離れたファンタジーの社会で展開されていたから成立したものの、本作については現実社会の地続きとして描いているので違和感たっぷり。大臣や製薬会社の社長といったお偉いさんキャラはみんな思考力の低い人たちばかりだし。スピーディな肉体アクションとVFXを用いた特殊効果の融合は、日本映画としてはかなりハイレベル。佐藤健と綾野剛のマッチョな裸体も見どころで、思わず筋トレをしたくなる。
【60点】

ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男 【感想】

2018-04-06 07:00:00 | 映画


まずはゲイリー・オールドマンの驚愕のなりきりぶり。「ダーケストアワー」に立たされたチャーチルというリーダーの姿をリアルタイムで目撃しているかのよう。独特の声色、イントネーション、肥満ゆえの息遣いの粗さ、それぞれが演技を超えた再現に近い仕上がり。彼の全身に施されている特殊メイクは嘘とリアルの境がわからず、辻さんの卓越した技術と芸術性が見てとれる。映画は昨年公開の「ダンケルク」とセットで見ると、史実をより深く理解できる。毒をもって毒を制す、ヒトラーが恐れたというチャーチルのキャラクターに説得力がある。

新しくできた東京ミッドタウン日比谷のなかにあるTOHOシネマズで鑑賞。前の座席の人とまったく頭が被らない設計に感動するも、新しい座席だからか固さが自分には合わず、途中でお尻が痛くなってしまった。その日の自分の体調に問題があったのかも。

映画は、第二次世界大戦中、英国首相であったチャーチルがナチスに対して下した決断を描く。

ヨーロッパにおける第二次世界大戦の不幸は、ナチスが戦争に強かったことだ。ヒトラー率いるナチス軍の士気は高く、彼らの戦略は次々とハマり、西へ西へと侵攻の勢いは増すばかりだった。連合軍が劣勢を強いられる危機的状況下で、英国の新しい首相としてチャーチルが選出される。彼は元海軍大臣であるが、過去の戦争時に散々失策を繰り返している。高圧的で酒飲み、周りの人望も薄い。彼が選出されたのは野党の風当たりを最も受けないという消去法によるもので、ベストな選択ではなかったようだ。

その後、チャーチルの人物像に迫っていくが、「偉大」といった言葉が出てくる気配はない。首相に選任されるなり「よっしゃ、夢がかなった!」と家族みんなで喜び、深刻な国政を憂える様子もない。英国を導く使命感よりも、権力を持つことの喜びに浸っているようにも見える。就任して早々に、対ナチスの戦略に判断を下すシーンが訪れるが「徹底抗戦!」の一辺倒だ。それも戦況を理解し熟慮しているようでもなく、実際に周りから何度も見解を改められる。こんな男で大丈夫なのか?

本作のハイライトは、「ダンケルク」でも描かれたドイツ軍に追い詰められた英仏軍30万人の脱出作戦だ。「ダンケルク」で腑に落ちなかった、ドイツ軍が攻めてこない理由の1つが本作で説明される。ダンケルクの近くに別の要塞があって、そこで別の4000人の英国軍がナチスの注意を引いていたのだ。チャーチルが下した作戦であるが、これは完全な身代わり作戦。「4000と30万?30万を優先するに決まってるだろ」と決断に迷いはなく、4000人側の司令部には「救出しませんので」と死の宣告をする。

チャーチルの苦悩や葛藤といった内面に触れることはさほどなく、非情ともいえる彼の采配ぶりが描かれる。同じ閣僚内からは、ナチスとの和平交渉を進める意見が強いが、彼は徹底抗戦を頑なに曲げない。しかし、ナチスの侵略が止まらなかった「ダーケスト・アワー(最も暗い時代)」において、4000人の犠牲がなければダンケルクの脱出作戦は成功しなかっただろうし、ヒトラーに対しては交渉ではなく抗戦が正解だっただろう。チャーチルの決断の正しさは歴史が示すとおりだ。

但し、自分はそれでもチャーチルという人物に対してあまり魅力を感じなかった。ラストの決断に至るきっかけは、閣僚内からの圧力によるものだし、電車内での市民との対話も国王の助言を聞いてのことだ(「英国王のスピーチ」の主人公だったジョージ6世)。その後のヒトラーの撤退に関しても、彼の決断が直接的な影響を与えたとは言い難い。チャーチルの資質から「世界を救った」という筋書きが見えてこない。もう少し映画的な脚色があっても良かったのではないか。史実を知る以上の感動を得られなかったのは少し残念。

ほぼ全編、チャーチルが出ずっぱりである。演じたゲイリー・オールドマンのワンマンショーのようだ。画変わりのしないシーンにやや飽きてきがちになるが、ゲイリー・オールドマンの強烈なパフォーマンスにより集中力が持続する。辻さんによるメイクはチャーチルに変装させるのではなく、ゲイリー・オールドマンにチャーチルを演じさせるためのものだ。その目はしっかりゲイリー・オールドマンであり、その個性を残していたのが印象的だった。

【65点】


ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 【感想】

2018-04-04 23:38:52 | 映画


ジャーナリズムの正義が権力の不正を打ち負かし、歴史を変えた。驚くべき事実を骨太なドラマで魅せるが、本作の魅力はそれだけに留まらない。元専業主婦であった女性社主の成長とリーダーシップの真価、そして彼女に配下にいた「新聞屋」という職人たちの情熱をダイナミックに活写する。スピルバーグの演出が当時の躍動を蘇らせる。フェミニズムに寄せた味付けもタイムリーで効果的だ。これぞ名匠の仕事。輪転機が回る振動に、カタルシスを感じてシビれた。メリル・ストリープやトム・ハンクスの2大スターの名演もさることながら、海外ドラマで活躍する実力派俳優たちの共演もドラマファンとしては嬉しかった。

アメリカの汚点として今も語り継がれるベトナム戦争。長期に渡るベトナムでの破壊行為と、出征によって多くの国民を傷つけたことは、過去の映画でもよく知るところだ。本作で描かれるのは後者の視点で、するべきではなかった戦争を政府が続けた理由を記した極秘文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を巡る実話の映画化だ。

おそらく今よりも新聞というメディアが大きな影響力をもっていた時代。まだ地方紙だった「ワシントン・ポスト」は、他紙との熾烈な競争に晒されていて、いかに優位なスクープをものにするか、そのスクープのためにいかに有能な記者を確保するか躍起になっていた。そんななか「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在が、競合の「ニューヨーク・タイムス」によってスクープされる。

文書の流出はベトナム戦争に従軍していた政府の内通者によるもの。冒頭のシークエンスでほんの少し流れる、ベトナム戦争での銃撃戦が凄まじい。暗闇のなか、銃弾の閃光が飛び交うジャングルでの一幕に恐怖する。内通者はその地獄の様相を目に焼き付けていたに違いない。戦況は悪化しているようで、現地ではアメリカの負け戦を確信しているようだ。でもアメリカ政府の高官たちは戦争の終結を拒む。「アメリカは負けない」という幻想に呆れる。

極秘文書はベトナム戦争の真実を後世に残すために作成されたという。多くの犠牲を払いつつも押し進めるベトナム戦争の最中、政府にとっては不都合な真実といえる。その重大な真実を記した文書を内通者は外部に持ち出し新聞社に流す。ベトナム戦争の終結を報道の力に託したといっていい。しかし、そうなると表立って政府に目をつけられるのはその新聞社である。文書は違法に持ち出されたもの。新聞社が提訴され、有罪判決が下れば、新聞社は存続できないかもしれない。

ジャーナリズムVS権力を描いた映画であるが、その結果は歴史が示すとおり、ジャーナリズムが勝利する。この事実はもちろん凄いことなのだが、それ以上に惹かれるのは「ワシントン・ポスト」が「ニューヨーク・タイムス」の二の舞を承知のうえで、掲載に吹き切った背景のドラマだ。

発行人として「ワシントン・ポスト」の全責任を負う女性社主「キャサリン・グラハム」と、現場の責任者である編集主幹「ベン・ブラッドリー」、この2人が本作の中心人物だ。先代、および、夫の逝去によって望まずして会社のトップとなったキャサリンは元専業主婦。男社会の新聞業界において懸命に責務を果たそうとするも慣れない仕事に苦労し、周りの取り巻きからは「あなたは引っ込んでてください」といわれる状態。

スクープを手にしたベンは、ジャーナリストの使命として、また、販売部数を伸ばす絶好の機会として、極秘文書の掲載へ突き進む。一方のキャサリンは全従業員の生活を預かる会社のトップとして難しい決断を迫られる。興味深いのは、当時のメディアが政府の権力者たちとズブズブの親密関係にあったことだ。必ずしも癒着という関係性ではなく、ある意味、同じ公的な役割を持つもの同士「持ちつ持たれつ」協調関係に近い。キャサリンも、ベトナム戦争で指揮をとる国防長官と古くからの友人関係にあり、文書の掲載はその友人を直接糾弾することになる。一筋縄ではいかない問題が横たわり、キャサリンを苦しめる。

「報道は国民のためにある」。この最も尊く最も難しい原理に従い、キャサリンは掲載のゴーを出す。利権に固執する周りの男たちの反対を押し切り突破する過程で、キャサリンの成長が色濃く描かれる。当時としては珍しかったであろう女性のトップによる決断と、それがもたらした影響は大変画期的な出来事だったと想像する。女性による偉大な功績として語り継がれるべき事件であり、本作からもそのメッセージが伝わる。ニューヨーク・タイムスと一緒に争った裁判のあと、裁判所を出るキャサリンを迎える群衆は女性ばかりだったのが印象的で、これからの女性の時代を示唆するようだった。ついこの間、アカデミー賞でも目立った多様性という現代の潮流にも合致する。

また、当時の「新聞屋」たちのプライドと情熱に溢れた仕事ぶりにも敬意が払われている。記者は取材に奔走し、小銭片手に電話をかけ、ネタは足で運ばれ、記事に起こされ、校了され、ドロドロのインクと固い活版で紙面に刷られ、完成した新聞は手作業で紐でまとめられ、トラックでデリバリーされる。この一連の描写を颯爽と映し出す。アナログだった時代だからこそ存在した新聞屋の躍動は、キャサリンの決断と相まって大きなカタルシスを醸成する。輪転機によって社屋が振動する演出が秀逸だ。

キャサリンを演じたメリル・ストリープは、弱さから強さへと成長を遂げる女性を静かな迫力を湛えて演じる。本作でオスカー最多ノミネート更新も文句なし。ベンを演じたトム・ハンクスの安定感もさすがだ。この2人とマイケル・スタールバーグ以外はあまり映画では見慣れないキャスティングだが、みな自身の個性を目立たせることなくリアルな演技で貢献する。スクープをとってきたベテラン記者を演じたボブ・オデンカーク、内通者を演じたマシュー・リス、ベンの妻を演じたサラ・ポールソン、ワシントン紙の弁護士を演じたジェシー・プレモンスなど、海外ドラマで活躍する実力派の面々が好演をみせ、めちゃくちゃテンションがあがる。一昨年のブリッジ・オブ・スパイでマーク・ライランスを起用したように、スピルバーグの役者を見る目は本作でも確かだった。

オスカー作品賞に候補入りしたとはいえ、この完成度は期待以上だった。高齢ベテラン監督作品に対する忖度賛辞は本当に嫌いだが、スピルバーグ作品に関しては別だ。とりわけ人間ドラマを中心に据えた社会派ドラマにはハズレはなく、退屈になりがちなテーマも圧巻の演出力で見る者を劇中世界に引き込む。本作ではスピルバーグらしい子どもを使った演出も冴え、ベンの娘がレモネードを売るシーンや、キャサリンとベンがキャサリンの家で対話するシーンで、孫娘がボールを返してもらおうともじもじするシーンなど、緊張感のなかにもほっこりさせる余裕を挟む。パッケージ化されたらもう1回見直したい傑作映画だった。

【80点】

タイタン 【感想】

2018-04-04 07:00:00 | 映画


NETFLIXにて。
今から30年後の地球が舞台。環境破壊、人口爆発により地球に住めなくなる未来。惑星への移住計画を描くが、本作のユニークなのは惑星を住める環境にするのではなく、移住する人間を惑星で暮らせる体質に改造させるという逆転の発想だ。なるほど、その手があったかと唸ったが、その後のストーリーは予想していた以上の展開は用意されない。改造される人間の変化を丁寧に描くことも重要だが、実験開始の背景にあったはずの「死」を覚悟した家族の決断を描いても良かったのでは。改造された主人公の暴走は閉ざされた研究内に絞られ、そのアクションすらカメラに収められず勿体ない。製作予算の問題もあるだろうが、いくらでも横に広げられる余地はあったと思われる。改造されることを承知済みの家族が、いざ主人公が改造されると抵抗するのもよくわからなくて、さっさと惑星に行けばよいのにとイライラする。オレンジ・イズ・ニュー・ブラックの「パイパー」ことテイラー・シリングが主人公の奥さんを熱演しており、変貌する夫への愛情は強く感じた。
【55点】

パターソン 【感想】

2018-04-03 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。昨年見逃していた映画のラスト。
「毎日が新しい日」という言葉を胸に刻む。
市バスの運転手をしている男の1週間を描いた話。「パターソン」は舞台となる町の名前と主人公の名前だ。同じ時間に出勤して、同じルートの道を運行して、同じ時間に帰り、同じ時間に犬の散歩をして1日を終える。一見、かわりばえのないルーティンな日常だが、同じ日は一度もない。同居するパートナーとの愛おしい時間、他愛のない職場仲間との会話、バスの乗客たちから聞こえる会話、車窓から見える様々な人間模様、帰り道や散歩道での思わぬ出会い。浮上する様々な人生の機微を主人公の視点が静かに掬い取る。幸福な時間の流れに身を任せ、劇中の世界に浸る。自分にもう少し詩的感覚があれば、もっと本作の髄まで味わえたに違いない。主演のアダム・ドライバーが醸し出す空気感が秀逸で、のそのそした歩き方からして詩的。パートナーとの間にいるブルドッグの配置も見事で、心地よいユーモアを付加する。「犯人はお前だったか!」のシーンで爆笑。なんて可愛いの。毎日という時間と景色が変わってみえてくる、忘れがたい映画だった。
【75点】