から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

バンブルビー 【感想】

2019-03-30 08:00:00 | 映画


トランスフォーマーの顔をした青春ドラマ。
孤独な少女の再始動を「バンブルビー」がアシスト。
冒頭のサイバトロンでの戦いでワクワクし、バンブルビーがB-127として”エース”だった頃の活躍に目を見張る。いつもトランスフォーマーと思いきや、本作の主人公はロボットではなく人間だった。
回を重ねるごとにスケールが肥大化してきたシリーズ。過剰な視覚効果に鬱陶しさを感じていたところだったが、本作で描かれるロボットの数は絞れられ、一体一体のアクションを愛でることが可能になった。一作目で初めて変身シーンを見た時の興奮がよみがえる。空間の使い方など、アクションの演出もかなりの創意工夫なされていて面白い。バンブルビーが声を無くしたと同時に、記憶を無くしたことが大きく作用。幼児性を手に入れたことで主人公の女子と友情を深めることになる。攻撃することを知らない優しきバンブルビーと、我を忘れて戦闘モードに入る”殺意”バンブルビー。もう少し後者の色を強めても面白かったと思う。また、バンブルビーの”可愛い”押しの点や、表情を作りすぎている点は気になるところ。鋼鉄の無表情のなかにも、観客は確かな絆を想像できるものだ。
ヘイリー・スタインフェルドが主人公を好演。クライマックスの伏線回収がめちゃくちゃ鮮やかで、かつての自分を取り戻す主人公の象徴的シーンでもあった。北米で絶賛されたのも納得の脚本。全編に渡り流れる80年代の音楽にもアガる。
【65点】

ROMA ローマ 【劇場鑑賞の感想】

2019-03-28 23:30:00 | 映画


2018年の私的ベストは本作で間違いなかった。
奇跡的な傑作。”100点”では足りなかった。

昨年末、自宅テレビで鑑賞した「ROMA ローマ」を、劇場で観返した。
劇場⇒自宅ではなく、自宅⇒劇場で映画を観る、初めてのパターンだ。

やはり本作は劇場で見るべき映画だった。高精細な画質、ダイナミックな構図、迫力の音響、キャラクターたちの繊細な表情。。。映画を劇場で観るための魅力が詰まっている。キュアロンが描く人間ドラマは体感のレベルであり、それを受け止める体積が増えると、ここまで感動が膨らむのか。2時間を超える長尺かつ、全てのあらすじをインプットしていながらも、ずっと新鮮だった。あっという間に時間が過ぎ去り、鑑賞後、深い余韻に包まれた。

大きなスクリーンに映し出される雑踏の風景、隅から隅まで、生身の人間たちの人生が息づいている。リアリティに圧倒される一方、何気ない日常の風景に突如として現れる幻想的瞬間を掬い取る。生きるということは美しい光景を目の当たりにすることだ。

キュアロンの記憶のドラマとして堪能した自宅鑑賞だったが、今回の劇場鑑賞では、その世界にさらに深く入り込み、主人公クレアの生き様を間近で見守った。クレアが海辺で発した強い罪悪感は、母性とは少し異なるもので、望まずして子どもを身ごもった女性の素直な気持ちだろう。キュアロンの人間に対する真摯な眼差しが透けて見えた。

飛行機は飛んでいき、空を見上げるラストショットに震える。
冒頭からラストまで完璧が過ぎる映画だった。

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Netflix映画の劇場公開について思ったこと。

イオンシネマで公開が始まった2週目、日曜日の夕方に見た。ネットでの座席予約時、予約数「0」だったが、鑑賞時には自分を含めて5人程度の客数。当初、昼間の時間帯もやっていたのだけれど、あまりにも客が入らなかったようで、2週目以降、夕方と夜の2枠しか設けないようにしたみたい。テレビでCMを打っているわけでもなく、観客の認知経路はネットニュースか、劇場のHPくらいか。潤沢な予算をかけるNetflixのプロモーションも、自社の配信サービスで見られるコンテンツを、劇場公開のために割くことは考えにくい。地味に見えるモノクロ映画であり、よほどの映画ファンでないと、観に行かないし、特に地方のシネコンだと見る人も少なそうだ。自分のように配信で見てから、わざわざ劇場で見返す人も稀だろう。つまり、今回のような、配信後の劇場公開では興行的に収益は見込めないということ。北米では、外国語映画としてはヒットのレベルに達したようだが、配信前の限定公開によるもの。Netflixが興行側に歩み寄らないと実現しない。今年のNetflixの目玉は、スコセッシの「アイリッシュマン」。「ROMA ローマ」が大変なハードルを上げてしまったので、過度な期待はしてはならないが、日本の市場で、Netflixと興行会社が”WinWin”の関係で共存し、多くの映画ファンを魅了する日は来るのだろうか。

トリプル・フロンティア 【感想】

2019-03-24 08:00:00 | 映画


J・C・チャンダーの5年ぶりとなる、待望の新作がNetflixで登場。ベンアフ、アイザック、ハナム、パスカルと、ヨダレものの男子キャスティングも相まって、配信を楽しみにしていた。結果、予想外のテーマを孕んだ映画だった。

5人の退役軍人が、麻薬カルテルから大金を強奪するという話。予告編の内容からも、てっきりド派手でスリリングなクライム・アクションを予想していたのだが、否、全く予想しない展開に走って、着地した。

5人はおそらく特殊部隊か何かに所属していた元チームメンバー。各人がかなりの手練れ。負傷しながらも国のために献身してきた退役軍人たちだが、国は彼らに恩恵を与えず、待ち受けていたのは困窮する実生活だ。唯一、現役で南米でカルテルと戦っていた男が、長年あたためていた儲け話を元メンバーに持ちかける。正義を下し、かつ、大金持ちになれるという一石二鳥の計画だ。安全、倫理、成功を冷静にシミュレーションする彼らに”プロ”としての仕事ぶりを見る。しかし、思っていたとおり不測の事態が発生。。。と思いきや、その先にもっと大きな誤算が待ち受ける(「嘘でしょ??」)。その後、作品の色が一気に変わってしまう。

この顛末を冷めた目で見れば、「欲を掻いてはダメ」という安易なメッセージに映るが、中毒に近い欲望に囚われた人間の心理を生々しく描くため、キャラクターたちの選択に感情移入してしまう。目の前に大金の山があり、獲っても獲っても獲りきれない。十分過ぎるのに、止まらない。”この金で何を買おう””死ぬまで一生贅沢暮らし”、夢の未来が手が届くそこにあり、脳内が麻痺する。その代償はあまりにも大きく、終盤にかけて、まさかのサバイバル劇に入っていく。

チャンダーは運命に翻弄される人間を描くのが抜群に巧い。ただ、過去作と比べるとテーマが一辺倒で物足りなさが残る。エンタメ作として、物語上にもっと仕掛けが欲しかった気もする。

それにしても、本作しかり、今年に入ってもネトフリのコンテンツ供給量が大変なことになっており、おかげで時間が足りないのである。。。

【65点】

キャプテン・マーベル 【感想】

2019-03-21 08:00:00 | 映画


マーベルコミック史上最強と聞いていたヒーローがついに全貌を現した。しかも女性ヒロイン。なるほど、ぶっちぎりに強い(笑)。これまでMCUで登場した、どのスーパーヒーローたちと比べても次元が違う戦闘力だ。主人公がその強大な力が解放するクライマックスの気持ち良さったらない。無双無敵ぶりに興醒めすることなく、大いに盛り上がってしまうのは、男性社会で屈せず立ち上がり続けた不屈の魂が、カタルシスをまとって昇華するからだ。そのあたり、同じ軍人上がりのキャプテン・アメリカと重なる部分もあり、新たなアベンジャーズのリーダーとして世代交代を感じさせる。

これまでのMCU単独作はその1本でシリーズ化できるほどの完成度だったが、本作については、来月公開の「エンドゲーム」ありきの”前菜”感が強い。いつものMCUクオリティ、密度にあらずなのはやや残念。物語の構図が序盤からバレバレだし、宇宙を跨いだ壮大な話なのに妙に世界観が狭い。猫好きとしては、普段の猫の姿もCGでイジリ過ぎるのはいかがなものか。

とはいえ、主演のブリー・ラーソンが意外なほどカッコよかったのは嬉しい誤算。上背はないものの、コスチュームの上からも肉体的な仕上がりが見て取れる。どこから見てもスーパーヒーローの面構えだ。いつでも自信家で、見下ろされるクールな眼差しに萌える。ニック・フューリー演じるサミュエル・L・ジャクソンとのコンビネーションも抜群で楽しい。2人のキャラクターが築いた友情も実感できる。

2008年の「アイアンマン」から始まったMCUの1つの節目となる「エンドゲーム」。その終幕に向け、「アベンジャーズ」の起点を描いた面でも意義深い1本だった。ニック・フューリーの隻眼のまさかの理由が可笑しく、これぞDCにはないマーベルの陽性の魅力と思う(DCも好きです)。いつか、時系列ごとにMCU映画を見返したい。

【70点】

TOHOシネマズの鑑賞料金が値上げする件。

2019-03-20 00:00:00 | 映画
先週末、5年ぶりくらいに映画を1,800円で観た。

イオンシネマでの「ROMA ローマ」の鑑賞だ。昨年末に、自宅のテレビでNetflixから鑑賞済みなのだが、映画館で再見することを熱望していたなか、イオンシネマで上映してくれることになったからだ。動画配信映画を劇場で公開することに、手を上げてくれたイオンシネマ、その心意気への感謝を踏まえ、今回は通常料金で見たが、普段は2,000円近い料金で映画を観る気はとてもしない。映画ってそんな敷居が高い娯楽ではないと勝手に考える。

昨日ツイッターで、TOHOシネマズがこれまでの1,800円の通常料金を、100円値上げするというニュースを見知った。今年中の値上げは予想していたけど、夏前(6月1日)に実施するとは、さすがの強気w。自分はTOHOシネマズを滅多に利用することはないので、他人事なのだが、この動きに、他の劇場(興行会社)がどの程度、追従するのかが非常に気になる。ネット上では、「仕方なし」よりも「悲報」あるいは「苦情」として騒ぐ声が目立つが、まぁいつものことか。

まず、TOHOシネマズについて。昨年の日本全体の映画興行収入が2200億、そのうち、TOHOシネマズが約680億なので、市場の3割を占める。これは圧倒的なシェアだ。ちなみに日本で最も稼いでいる映画館は、TOHOシネマズ新宿。映画のタイトルありきで、興行の行方が左右される業界で、抜群の集客力を持つTOHOシネマズの最大の強みは「立地」だ。かつて「TOHOシネマズ」に屋号を統一して以降、都市部を中心に最新設備を備えた大規模なリニューアルを敢行。駅近で新しく、設備も揃うTOHOシネマズに観客が集まり、儲かり、その儲けで新たな劇場をオープン、そこで人がまた集まる・・・。この理想的な好循環のなかで、揺るぎない王者として君臨している。以前に仕事で絡んだことのある配給会社の担当の方々からは、TOHOシネマズへの厚い信頼をよく聞いていた。2015年の「セッション」にように、配給会社が敢えて劇場を絞る選択をする場合も、真っ先に声をかけるのはTOHOシネマズだ。

そんなTOHOシネマズの動きに、日本の興行市場全体が引っ張られるのは確かだ。TOHOシネマズが、2014年の5%から8%への消費税増税に伴い、これまで1,000円だった、割引デーの料金を100円ずつ値上げしたことを受け、他のシネコンも追従し、今では1,100円が当たり前になった。今回は、通常料金の1,800円の値上げに踏み切ったが、他の割引料金ももれなく100円値上げする。その理由を「人件費」「設備維持費」と説明するが、それ以上に大きな理由は、今年10月の「8%」から「10%」に変わる消費税を見込んでのことだろう。2%増える負担を、料金にそのまま転嫁する格好だ。それだけ考えると値上げもやむなしと思える。

TOHOシネマズ側でも値上げの判断に際し、「客離れ」のシミュレーションを重ねたことだろう。結果、事業として継続できる判断を下したと思われるが、自分もその通りと思う。そもそも「客離れ」は既に進んでおり、100円の値上げでその現状が大きく変わるとは思えない。映連が毎年発表している、2018年の入場者数は対前年比3%減の97%。前年も97%なので、2年連続減少している。この「入場者数」で見えない数字は、映画人口(劇場で映画を見る人のユニーク数)だ。7年間にわたり、定点で劇場での鑑賞率を追っている調査を見たことがあるが、鑑賞率は低下の一途を辿ってる。その一方で、1人あたりの鑑賞本数は増えているらしい。つまり、「観る人は観る」「観ない人は観ない」の二極化が進行しているのだ。「ボヘミアン~」など、あれだけのサプライズヒットがあったにも関わらず、入場者数が結果的に減っているのも、これが大きな要因かと。

実際、興行会社の方と仕事で話す機会があった際、新たな新規を取り込むではなく、劇場へのリピーターを増やし、その鑑賞回数を増やす戦略を講じているらしい。興行会社(劇場)が見ているのは、前者の「観る人は観る」のほう。年に2本以上を劇場で映画を観るライトユーザー「以上」の人たちが、100円の増額で、鑑賞をあきらめるとは考えにくい。自分も大ファンである、Netflixなど動画配信サービスと併せて語る人たちも多いみたいだが、それらのサービスが劇場鑑賞の機会に与える影響はまだまだ限定的。(むしろアンチ動画配信サービスの人のほうが多い)

もう1つ、今年公開される映画タイトルが追い風になる。業界内の大方の予想は「2019年最強説」。大ヒットレベルではなく、超ヒットタイトルの関連作、あるいは続編が公開を控える。「ポケモン~」の満を持しての実写化など、どう考えても映画興行市場が盛り上がる要素しかない。映画ファンのみならず、普段、映画を見ない人たちも十分劇場に取り込めるだろう。逆にいうと、これだけの新作タイトルが揃っているにも関わらず、2019年の興行成績が振るわなければ、本当に日本の市場は終わりだ。

映画は1,000円程度で見てこその娯楽だと思う。日本の映画料金が同一かつ、所得水準から見ても高額であることは周知の事実だ。これは劇場を運営する興行会社だけの問題ではなく、コンテンツを供給する配給会社も関わってくる話。プロモーションにお金をかけ、公開時期も世界一遅らせる日本流の配給は、染み付いてしまった悪習と思える。

ムビチケとか、毎月1日の映画の日、など、割引で鑑賞する手段はあるけれど、自分はどちらもほとんど活用していない。月に5~6本のペースで劇場鑑賞するが、自分の場合、平均単価は1000円くらいと思う。自宅の近所には「MOVIX」と「ユナイテッドシネマ」があり、会員になるとかなりおトクに見られるからだ。(いつも大変お世話になっています・・・)

「MOVIX」 ⇒いつでも1,200円で見られるチケットが鑑賞する度にメールで配布される
「ユナイテッドシネマ」 ⇒毎週金曜日は1,000円(なので金曜日はレイトショーという習慣)

どちらもポイントが付き、MOVIXは6本見ると1本が無料になり(1本あたり1,030円くらい)、ユナイテッドシネマはネット予約で5本を見ると1本が無料になる(1本あたり830円くらい)。鑑賞料金がそもそも安いのでポイントを使うまでもなく、現在10本分くらい無料で見られるポイントが溜まっている。MOVIXは小規模映画を多く公開してくれるので、都内に出なくてもほぼ完結してしまう。

そんな両者が、もし、TOHOシネマズの料金体系に倣った場合、自分は間違いなく、見る本数を半分以上に減らすだろう。現行の会員料金から100円の増額であれば賛同。

学生時代、旅行で立ち寄ったボリビアのラパス。日本では公開が半年先のハリウッド映画を、大きな劇場にも関わらず日本円で400円程度で見られた。当然、ボリビアと日本では物価水準が異なるけど、それを踏まえても、映画料金は明らかに安かった。その手軽さに感動し、1週間の滞在で3回も観に行った思い出がある。

各国が日本よりも低価格が実現できていて、日本ができていないのは、必ずどこかに日本の配給、または、興行の仕組みに問題点があるからと思う。100円値上がることが問題ではなく、そもそも現在の料金体系に問題があると、改めて考えた。

スパイダーマン:スパイダーバース 【感想!!】

2019-03-16 02:26:12 | 映画


アニメ映画史を塗り替える傑作。
どうしたらこんな映画を作れるのだろう。「凄い」という形容詞を超える言葉が見つからないもどかしさ。底なしのイマジネーションに驚愕。クールでクレイジーなアクションに発奮。極彩色で描かれた作画は、もはやアートだ。アニメーターたちの熱量がスクリーンからほとばしり、観る者のアドレナリンを放出させる。超絶映像に圧倒された3D鑑賞の1回目から、今回の2D吹替でのリピート鑑賞。突出した映像表現に留まらず、脚本、演出、音楽といった、映画としての総合力がいかに優れているかを見せ付けられた。異端のヒーロー映画に見えて、実は「スパイダーマン」の真髄を突く。アニメの新たな領域を切り拓いた一作として後世語り継がれると思う。早くも今年のベスト候補だ。

現在日本では、毎年恒例の洋画公開の”ゴールドラッシュ”の真っ只中。昨年末、アメリカ中の映画野朗たちを熱狂させた大本命が満を持して解禁された。

いやはや、日本公開を待たされたフラストレーションを吹き飛ばすほどの衝撃を受けた。異次元の映像体験であり、3Dでの没入体験も、2Dによるドラマ鑑賞も、どちらも異なる魅力があって素晴らしい。

現代のアニメーションで全盛を極める3DCG。滑らかなフレームは実写に近い質感を持たせ、キャラクターを美しく描き出す。アニメ映画の王者として君臨する、ディズニーやピクサーが得意とする”正解”のような技法に思えていたが、まさかこんな方法で真っ向勝負と挑むとは。本作は、超ざっくりいうと「パラパラ漫画」に近い(「~~~(波線)」のスパイダーセンスが可愛い)。パンフ情報によると、コマの数を通常の半分にして製作しているらしい。静止画でつなぎ合わせるコミック(漫画)を読み進める感覚を実現させるためだ。なので、最初に見たときは、慣れ親しむ3DCGの調子で脳内が条件反射するので違和感を持ったが、すぐに順応してしまった。そもそも漫画を読むとき、1コマ1コマの静止画の間に動きを感じ取れるのは、人間が持つ想像力があってこそだ。本作の映像表現は、そんな人間が持つ想像力の作用を利用したものと勝手に捉えた。(コマ数が少なくなった分、1つの絵が鮮明に見えるため、精緻な作業と高度な技術を要したとか)

観客の想像力を味方につける本作は、見たことのないアクション描写を連発する。キャラクターと共に、周りの空間も意思を持ったように一緒にアクションする。だから、大変なことになる。大都市の高層ビルが乱立するロケーションで、構造物の隙間を擦り抜け、空中に羽ばたく。空間を縦横無尽に動き回る「スパイダーマン」の特性が、これでもかと活かされる。特に本作の場合、キャラクターのアクションに重力の制限を持たせないから、自由度が無限に広がる。その広大なキャンパスで、アニメーターたちのイマジネーションが炸裂する。どんなことを考えたら、あんな発想が沸き立ち、あんな作画を描くことができるのか、圧倒され、彼らの才能と情熱を感じ取り、劇中、物語と関係のないところで何度も目頭が熱くなってしまった。

本作の原作は、スパイダーマンの「スピンオフ」的なコミックらしく、大胆なプロットになっている。主人公はアフリカ系の少年でヒップホップカルチャーを纏う。彼の元に、平行宇宙の異次元にいる、6人(or5人)のスパイダーマンが集い、強力して悪者を倒すというもの。「アベンジャーズ」にも似ているが、本作の場合、アニメの強みを生かし、全く異なる作画調のヒーローを横並びで描き、同じ空間で連携させる。しっかりそれぞれの個性を際立たせ、ダイナミックなアクションに寄与させている。何よりも、6人のキャラクターがもれなくカッコよく描かれているのがいい。萌え系アニメの女子も、カートゥーン系の豚ちゃんも、実に痛快で物語を大いに盛り上げてくれる。

独創性の強い本作であるが、これ以上ないほどに「スパイダーマン」映画である。望まずして大きな力を身につけた少年が、多くの葛藤を経てヒーローとして成長する過程。「親愛なる隣人」が背負う宿命は、大切な近しい人に悲劇をもたらす。疎外感を感じながらも、平和の最後の砦として「何度倒されても立ち上がる」。覆面ヒーローだけに、仮面を被れば誰でもスパイダーマンになれる、というポジティブなメッセージに、原作者スタン・リーの愛情を強く感じる。個人的には、シリーズで一番好きだったサム・ライミ版の「スパイダーマン2」を、ついに本作が超えた。

主人公「マイルス」が、スパイダーマンと交わした約束や、大好きだった叔父さん(マハーシャラ・アリの声がイイ!)との絆が、ドラマやアクションの伏線になっている点、「愛している」で始まり「愛している」で終わった、家族愛を描いた場面など、脚本も文句なしの完成度。孤独だったスパイダーマンたちに、仲間がいたことの希望が胸を打つ。

全編が見どころだが、マイルスの”覚醒ダイブ”が屈指の名シーン。
「信じて飛べ」。その刹那、静寂とスローモーションで、夜空に落ちていく主人公を捉える。空中を支配し、ヒーローとして誕生した瞬間に、全身の血脈が逆流するような感覚を覚え震えた。

【95点】

グリーンブック 【感想】

2019-03-13 00:50:45 | 映画


愛すべき快作。
良作ドラマの王道をいくが、誰にでも無条件に薦められる、こんな映画はなかなか得難い。
軽妙なユーモアで笑わせつつも、時代の罪を重く受け止め、立ち向かう2人の勇敢さを誠実に捉える。ハズしと抑えの力加減が絶妙で、「笑かそう」「泣かそう」のあざとさも、嫌味もないから、ずっと感情移入する。気づけば笑みがこぼれ、気づけば涙ぐんでいる。最後まで笑いと涙に包まれ幸福な気持ちになる。

人種差別という擦られたテーマを扱うが、本作を特別なものにしているのは、異なる世界で生きてきた2人が、友情を育む過程をポジティブに描いていることだ。それは、一方通行ではなく、互いを受け入れ、互いに影響を与える関係性だ。

1960年代、「ルール」として人種差別が社会的に認められていたアメリカの南部地方。黒人のピアニストに敬意はあっても、立ち位置に一線を引く様子が生々しい。公衆の面前で謂れ無き暴力に晒されることも珍しくない。そんな茨の道を、自身の尊厳を盾に突破しようとする男と、運転手として同行する用心棒の男、オッサン2人の旅路だ。イタリア系で実は被差別者あるはずの用心棒の、黒人に対する秘めた差別意識など、人物描写が何かと誠実だ。本音をぶつけあう2人の姿に嘘が見えない。互いを知り、時に魅せられ、新たな価値観を受け入れ、好転する2人の人生に共感し、強く感動してしまう。

ファレリー監督のこれまでの映画は、下品なコメディ映画に見えるものが多いが、毎回、何かしらのハンデを背負ったキャラクターが出てくる。日本でいえば、「イジっちゃいけない」人たちを、大いに笑いのネタにする。不謹慎ではなく、そうした社会的弱者の人たちに対しても、変わらぬ愛情があることの裏返しと思う。他人と違う個性は、その人の魅力である。かなり毛色の違う本作であるが、様々な境遇の人たちを笑いのなかで生かすことのできる作家性が良く出ている。多様性を共存させることの意識もそうで、クライマックスの「セッション」がまさに象徴的。同じアフリカ系であるものの、全く異なる文化を持った、ピアニストと現地の演奏家たちが、一夜の限りのセッションを繰り広げる。音楽の高揚感も相まって、本当に楽しくて美しい光景だった。両者の距離が遠いほど、交わり合わさると、豊かな産物が現れる。

本作は今年のオスカー作品賞を受賞。個人的には「ローマ」に受賞してほしかったが、映画の顔である俳優が主役の本作にあって、作品賞の栄誉は当然と思えた(「ローマ」は監督の才能が主役)。

何といっても、主演2人の名演が、本作最大の引力だ。”アラゴルン”として自身の永遠のヒーローであるヴィゴ・モーテンセンは、本作でまた新たな役柄に挑戦。「イースタン・プロミス」「はじまりへの旅」など傑作映画で異なる強烈個性を体現してきた人。5か国語を操り、文化人でもある彼が、本作で全く真逆の「ガサツ人間」に変貌する。テクニックだけでなく、用心棒トニーの「揺らぎ」を繊細に演じていた。そして、本作でカリスマ的存在感を放っていた、マハーシャラ・アリだ。気品、教養、金持ち、孤独、コンプレックス、性的マイノリティなど、複雑なキャラクターを1人の人間の佇まいのなかに集約させる。洒落た衣装を見事に着こなす様が、またカッコいい。彼がスクリーンに映し出されるたびに、グッと引き寄せられた。そんな2人が、掛け合い、助け合い、友情を築く時間がとても愛おしかった。

【80点】





運び屋 【感想】

2019-03-09 01:34:32 | 映画


顔はしわくちゃ、齢を重ねてなお、スクリーンに映える俳優クリント・イーストウッド。血のりで染められた顔面に色気すら感じる。永年の俳優人生で培われた余裕と風格に魅せられる。

一方、映画の中身はというと、セリフを使って人物背景を丁寧に説明する野暮ったさと、映画化するほどではない実話を面白く脚色できなかった脚本が足を引っ張る。事故的珍作であった前作ほどではないが、ギュッと縮めれば、半分の時間で済んだ話。それを倍に伸ばした部分は、「運び屋」としての仕事のルーティン描写に割けられる。わざわざ「1回目」「2回目」とカウントする理由もわからない。金に困った老人が、移動しただけで、車から大金が沸くというマジックにのめり込み、甘い蜜を吸う姿ばかりを追いかける。老人が辿ってきた人生や、家族との向き合い方など、いくらでも深堀できそうだが、意外なほど触れられない。どこか軽薄で、家族も嘘っぽい。

主人公は、無事故無違反であり、よぼよぼのお爺ちゃん、かつ尊敬される退役軍人。警察の目を逸らす盲点であり、麻薬カルテルの運び屋として活躍した事実に説得力がある。DEAが運び屋を必死に捜査するが、「そりゃ、わからないよね」と、主人公に接近するシーンがクライマックスまでない。カルテルに重宝される仕事ぶりにあって、かなり仲良く付き合っている。本作を見るまで「スリラー映画」と構えていたが、全く違った。スリルがない分、ドラマ映画としての見ごたえに期待するが、それも変化のない仕事風景と、羽振りの良い生活に終始し、「愚かさ」を描くにしても長すぎる。

ブラッドリー・クーパーら、豪華俳優陣が演じる様々な脇役が出てくるのに、物語のなかで機能していないことも大きい。主人公が脇役に、または、脇役が主人公に、影響を及ぼす様子が見えなくて勿体ない。浮上する「贖罪」というテーマに、辛うじて、イーストウッドの作家性を垣間見たくらいか。

俳優としてのクリント・イーストウッドの健在ぶりを再確認した映画だが、それ以外は凡作な仕上がり。前作同様、忖度によって、観客が補完し、感動するパターンでは、映画がイーストウッドを崇拝する固定ファンだけのものになる(それが悪いということではないけど)。本作に出演していたブラッドリー・クーパー、去年、監督で成功を収めただけにイーストウッドの後継としてこれから注目を浴びそうだ。

【60点】

来年のキネ旬のベストテンでは、1位か2位と予想www

ネトフリ映画「ROMA/ローマ」の劇場公開が決まった件。

2019-03-06 23:52:53 | 映画


今夜、驚きのネットニュースが入ってきた。

Netflix映画である「ROMA/ローマ」が、全国のイオンシネマで公開されることが決まったという。素晴らしいニュースだ。

明々後日の3月9日(土)の公開で、かなり急な話。憶測だが、サプライズを狙ったというより、直前までNetflix側とイオンシネマ側で交渉が続けられたものと想像する。まだ情報は少なく、3月9日、一日だけの公開なのか、一週間なり、しばらくの期間公開するのか、わからない状態だ。

先週、発表された第91回アカデミー賞では、監督賞、撮影賞、外国語映画賞の3冠を受賞。
作品賞は受賞できなかったものの、個人的には「ROMA/ローマ」が作品賞に値すると思えた(「グリーンブック」も素晴らしいけど)。劇場公開しても、配信と「同時リリース」をモットーとするNetflixは、劇場を運営する興行会社とうまく共存することが難しい現状がある。なので、劇場鑑賞を好む日本の映画ファンには、アンチ「Netflix」派が多いように思う。先進国の中で最も、外国映画の公開時期が遅い日本にあって、ボーダーレスに映画や海外ドラマを同時リリースしてくれるNetflixに感謝している自分にとっては、劇場公開されないことは、それほど大きな問題ではなかった。何よりも、北米の映画興行が頭打ちになるなか、「当たる」映画しか製作されなくなったハリウッドにおいて、本作のような作家性の強い映画が作られにくくなったこと、その救世主としてNetflixが存在していることにもっと注目するべきだと思う。「リスクを負って興行に乗せない映画を対等に扱うべきではない」という意見も理解する一方で、それ以上に大きな恩恵を、Netflixは、映画界、そして映画ファンに与えている(あくまで結果論だけど)。
「劇場公開されないリスクよりも、映画が生み出されないリスクのほうが大きい」、本作にベネチアの栄誉を与えたデル・トロの言葉が、そのまま正解である。

そもそも、Netflixの映像コンテンツを自宅の大きめのテレビでしか見ていないので、あまり不自由さを感じていないというのも正直なところ。その延長で昨年末に「ROMA/ローマ」を見たわけだが、Netflix映画に対する概念が覆されてしまった。「キュアロンの映画とはいえ、モノクロで地味、所詮はヒューマンドラマ」という意識で臨んだが、とんでもなかったのだ。日常の小さな風景に留まらず、屋外でのダイナミックな風景が、計算されつくした構図のもと、次々と目に飛び込んでくる。多くの人々が映る雑踏のシーンでも、画面の隅々にまで、生きた人間の人生が活写されている。「いったい、どうしたらこんな画が撮れるのか」と感嘆するほどのマジカルなショットも収められており、Netflixの映画を映画館で見たかった、と初めて思った。実際に、本作の撮影では高精細な65ミリフィルムカメラが使われるなど、大スクリーンで鑑賞させることを前提にして製作されている。

そんなわけで、「ROMA/ローマ」の劇場公開を熱望していた。アカデミー賞では「作品賞」くらいのインパクトを残さないと、日本の興行会社との連携は難しいと思っていたが、イオンシネマが見事、念願を実現してくれた。当然、既存の配給会社との付き合いもあるなか、配給を通さない動画配信会社と「直取」することは簡単な決断ではなかったと思う。
一言、感謝です。1日だけの公開だと厳しいが、何とか見に行きたいと思う。


2018年ベスト映画トップ10 【洋画編】

アリータ: バトル・エンジェル 【感想】

2019-03-04 23:00:00 | 映画


全く期待していなかっただけに、ビックリ。

世界観のディテール、スケールの大きさ、アクションの密度、魅力的なキャラクター。原作は未読なのだが、日本の漫画がこれほどの完成度で実写化されたら、さぞかし幸福だろう。「この程度で終わりか」と思いきや「お替わり」がやってくる驚きが最後まで継続。やっぱ、ハリウッドは凄い。Rotten~の批評家のスコアが低い反面、観客のスコアが高い現象は「ボヘミアン~」と同じで、本作もかなりのアタリ作だ。

最大の勝因は、主人公のアリータを魅力的に描くことに成功したことだ。公開前から物議を醸した、サイボーグなヒロインのビジュアル。予告編を見たとき、生身の俳優たちと共演する状況にあって、異様に大きな目が違和感たっぷりだった。ところが、実際に映画が始まり、彼女の感情表情の豊かさに触れると、「馴染み」を通り越し、あっという間に魅了される。天真爛漫で、心優しく、正義感が強い。健康的でありながら、どこか妖しい色気あり。恋のロマンスを知り、暴走気味になる乙女心がさらに可愛い。難なく感情移入し、戦いに身を投じる彼女を応援せざるを得なくなる。モーションキャプチャーの精度と、裏側でアリータを演じるローサ・サラザールの熱演の賜物。クリストフ・ヴァルツのピュアな父性も、ヒロインの魅力を引き立てる。

「柔よく剛を制す」、弱そうなキャラクターが強そうなキャラクターを倒していく様子は日本製バトル漫画の系譜であり、読者はその姿に興奮し、カタルシスを得る。本作もまさにそうだ。アリータがめちゃくちゃ強いw。危機的な場面で、秘めた戦闘能力が覚醒。小さな体が、絵に描いたような凶悪ヅラの巨体サイボーグたちを次々となぎ倒していく。とりわけ「全員が敵」となるデスマッチシーンは場外乱闘にまで及び、圧巻。一方で、安心安全な無双キャラで終わるでなく、しっかり危機的見せ場も用意される。文字通りの「腕一本」での逆襲劇が凄まじい迫力を帯びる。

監督がロバート・ロドリゲスに変わったことで、本作と意外な相性の良さをみせる。B級映画で鳴らした手腕が、グロで痛快なアクションシーンで発揮される。キャメロンが撮っていたら、また違う色合いの映画になっていたと思うが、漫画を漫画っぽく撮る実写映画としてはロドリゲスの起用は大正解だった。悲しみを乗り越え、涙を断ち切るシーンも漫画っぽくて素敵だったし。

続編製作が決まっている本作。ラスボスの存在が明らかになっただけで、実は何もわかっていない。ヒロインが戦う相手が本当に「悪」なのかも謎だけに、ややモヤモヤが残るが、その答えは次作への期待感と共に待ちたい。

【75点】

ビール・ストリートの恋人たち 【感想】

2019-03-02 00:15:18 | 映画


監督は人間を美しく撮る人だ。画面のセンター、真正面のアップで、その人の眼差しと表情を捉える。本作で映し出されるのは恋をする人の表情だ。静かな胸の高鳴り、体温の上昇、こぼれ落ちる吐息がスクリーンを通じて観る者に届くようだ。
1970年代を舞台にした若いアフリカ系カップルの純愛ドラマ。2人は幼なじみで運命の人。邦題の複数形人称のとおり、当時の街角には同じような多くの恋人たちがいたわけで、彼らも特別な存在ではなかったはず。ところが、思わぬ悲劇が降りかかる。愛することの美しさに、社会の醜さが刃を突きつける。
そこで、差別や偏見を声高にして戦う”社会派”に流れないのが本作の魅力だ。あくまで2人の愛の障害として描かれ、それらと向き合う姿が描かれる。理不尽な悪意が立ち込める当時でも、実在した良心も見逃されない。同じマイノリティであったであろう、メキシコ人、ユダヤ人を演じたディエゴ・ルナとデイヴ・フランコがさりげなくイイ仕事。
「ムーンライト」と同じく、差し出される全てのシーンに詩情があって、柔らかな光に照らされる肉体描写と、美しい音楽の旋律に魅了される。監督バリー・ジェンキンスの作家性を確信し、次は、アフリカ系以外のキャラクターを映してほしいと思う。彼が日本人を撮ったら、どんな風に映るのだろうと妄想が膨らむ。
【70点】