アニメ映画史を塗り替える傑作。
どうしたらこんな映画を作れるのだろう。「凄い」という形容詞を超える言葉が見つからないもどかしさ。底なしのイマジネーションに驚愕。クールでクレイジーなアクションに発奮。極彩色で描かれた作画は、もはやアートだ。アニメーターたちの熱量がスクリーンからほとばしり、観る者のアドレナリンを放出させる。超絶映像に圧倒された3D鑑賞の1回目から、今回の2D吹替でのリピート鑑賞。突出した映像表現に留まらず、脚本、演出、音楽といった、映画としての総合力がいかに優れているかを見せ付けられた。異端のヒーロー映画に見えて、実は「スパイダーマン」の真髄を突く。アニメの新たな領域を切り拓いた一作として後世語り継がれると思う。早くも今年のベスト候補だ。
現在日本では、毎年恒例の洋画公開の”ゴールドラッシュ”の真っ只中。昨年末、アメリカ中の映画野朗たちを熱狂させた大本命が満を持して解禁された。
いやはや、日本公開を待たされたフラストレーションを吹き飛ばすほどの衝撃を受けた。異次元の映像体験であり、3Dでの没入体験も、2Dによるドラマ鑑賞も、どちらも異なる魅力があって素晴らしい。
現代のアニメーションで全盛を極める3DCG。滑らかなフレームは実写に近い質感を持たせ、キャラクターを美しく描き出す。アニメ映画の王者として君臨する、ディズニーやピクサーが得意とする”正解”のような技法に思えていたが、まさかこんな方法で真っ向勝負と挑むとは。本作は、超ざっくりいうと「パラパラ漫画」に近い(「~~~(波線)」のスパイダーセンスが可愛い)。パンフ情報によると、コマの数を通常の半分にして製作しているらしい。静止画でつなぎ合わせるコミック(漫画)を読み進める感覚を実現させるためだ。なので、最初に見たときは、慣れ親しむ3DCGの調子で脳内が条件反射するので違和感を持ったが、すぐに順応してしまった。そもそも漫画を読むとき、1コマ1コマの静止画の間に動きを感じ取れるのは、人間が持つ想像力があってこそだ。本作の映像表現は、そんな人間が持つ想像力の作用を利用したものと勝手に捉えた。(コマ数が少なくなった分、1つの絵が鮮明に見えるため、精緻な作業と高度な技術を要したとか)
観客の想像力を味方につける本作は、見たことのないアクション描写を連発する。キャラクターと共に、周りの空間も意思を持ったように一緒にアクションする。だから、大変なことになる。大都市の高層ビルが乱立するロケーションで、構造物の隙間を擦り抜け、空中に羽ばたく。空間を縦横無尽に動き回る「スパイダーマン」の特性が、これでもかと活かされる。特に本作の場合、キャラクターのアクションに重力の制限を持たせないから、自由度が無限に広がる。その広大なキャンパスで、アニメーターたちのイマジネーションが炸裂する。どんなことを考えたら、あんな発想が沸き立ち、あんな作画を描くことができるのか、圧倒され、彼らの才能と情熱を感じ取り、劇中、物語と関係のないところで何度も目頭が熱くなってしまった。
本作の原作は、スパイダーマンの「スピンオフ」的なコミックらしく、大胆なプロットになっている。主人公はアフリカ系の少年でヒップホップカルチャーを纏う。彼の元に、平行宇宙の異次元にいる、6人(or5人)のスパイダーマンが集い、強力して悪者を倒すというもの。「アベンジャーズ」にも似ているが、本作の場合、アニメの強みを生かし、全く異なる作画調のヒーローを横並びで描き、同じ空間で連携させる。しっかりそれぞれの個性を際立たせ、ダイナミックなアクションに寄与させている。何よりも、6人のキャラクターがもれなくカッコよく描かれているのがいい。萌え系アニメの女子も、カートゥーン系の豚ちゃんも、実に痛快で物語を大いに盛り上げてくれる。
独創性の強い本作であるが、これ以上ないほどに「スパイダーマン」映画である。望まずして大きな力を身につけた少年が、多くの葛藤を経てヒーローとして成長する過程。「親愛なる隣人」が背負う宿命は、大切な近しい人に悲劇をもたらす。疎外感を感じながらも、平和の最後の砦として「何度倒されても立ち上がる」。覆面ヒーローだけに、仮面を被れば誰でもスパイダーマンになれる、というポジティブなメッセージに、原作者スタン・リーの愛情を強く感じる。個人的には、シリーズで一番好きだったサム・ライミ版の「スパイダーマン2」を、ついに本作が超えた。
主人公「マイルス」が、スパイダーマンと交わした約束や、大好きだった叔父さん(マハーシャラ・アリの声がイイ!)との絆が、ドラマやアクションの伏線になっている点、「愛している」で始まり「愛している」で終わった、家族愛を描いた場面など、脚本も文句なしの完成度。孤独だったスパイダーマンたちに、仲間がいたことの希望が胸を打つ。
全編が見どころだが、マイルスの”覚醒ダイブ”が屈指の名シーン。
「信じて飛べ」。その刹那、静寂とスローモーションで、夜空に落ちていく主人公を捉える。空中を支配し、ヒーローとして誕生した瞬間に、全身の血脈が逆流するような感覚を覚え震えた。
【95点】